Bitcoin自体が悪なのか–関係者が語ったMt.Goxの輪郭

仮想通貨「Bitcoin」を巡る騒動は大きくなるばかりだ。東京・渋谷のBitcoin取引仲介会社Mt.Gox(マウントゴックス)は2月28日、東京地方裁判所に民事再生法の適用を申請して受理されたと発表した。

同社の発表やそもそもBitcoinとは何かといった話題はすでに各所で報道されている。本家TechCrunchの記事でもMt.Goxの発表に関する詳細を読むことが可能だ。Bitcoinの解説については、日本デジタルマネー協会フェローでビジネスコンサルタントの大石哲之氏のブログが詳しい。では今回の騒動の中心にあるMt.Goxは一体どのような会社なのだろうか。

カルプレス氏への評価と批判

渋谷から青山方面の間にある喫煙スペース。そこでMt.Gox代表取締役のカルプレス・マルク・マリ・ロベート氏はよく目撃されたという。年中半袖半ズボン姿で、親しくなった人々と日本のポップカルチャーについて語りつつタバコを吸っていたという。

2012年頃から同社と関わりを持っていた業界関係者は、カルプレス氏やMt.Goxについて次のように振り返った。

当時のMt.Goxは渋谷にオフィスを移転したばかり。「オフィスに行くたびに社員が増えているようなスピード感」(関係者)で成長していた同社は当時、カード決済によるBitcoinの交換を実現しようとしていたという。これならば、ユーザーは現金よりもより手軽にBitcoinを得ることができ、取引額は増えることになる。しかし、そのリスクの高さから決済会社からは見向きもされない状況だったという。

2012年と言えば、今ほどBitcoinが知られていない時期。だが同社はヨーロッパや米国の顧客を中心に取引を展開。すでにカルプレス氏は周囲に「世界で一番のBitcoin取扱額だ」と語っていたという。当時はシェアオフィスの一部を間借りしていた同社も、最終的にオフィスビルのワンフロアを借りるまでに拡大していたという。

取材を通して、ビジネスマンとしてのカルプレス氏を評価する声を聞いた。同社とのビジネスを検討していたという関係者は、「金融庁にヒアリングをし、『bitcoinが現行法で違法には当たらない』という言質を得たドキュメントをはじめとして、積極的に情報を開示していた」として、健全な運営アピールしていた同氏の姿を振り返る。しかし、同氏やMt.Goxに対して「以前から不信感を持っている」という声が多かったのは事実だ。

同社は2013年5月に、提携する米国の決済金融機関の口座など、合計500万ドルの資金を差し押さえられることになる。これを契機にドルでの払い戻しに数カ月かかるようになっていった。大石氏は、「それこそ本当にUSドルを持っているのかどうかも分からない状況だった」と振り返る。この頃には個人ブログなどに、「同社のオペレーションに問題がある」という意見が掲載されるようになった。そして今回同社が発表した同社への不正アクセスやビットコインの流出、その後の経営破綻へと繋がる。

この一連の騒動について、前述の関係者の1人は「さまざまな噂があるが、実際はビジネススキルのないハッカーがチャンスを掴もうとして失敗しただけではないか」と語る。

カフェ構想、流出した真偽不明の音声ファイル

実はカルプレス氏は、2013年8月に「株式会社Bitcoin.Cafe」という会社を設立している。同社は、Mt.Goxが入居する東京・渋谷のビルの1階にBtcoinユーザーの情報交換もできるカフェを立ち上げる予定だった。求人サイトでは、現在もその求人情報を閲覧できる。今回の経営破綻を受けてカフェがどうなるのだろうか? 筆者が3月3日の夕方にBitcoin.Cafeに電話するも、誰も電話に出ることはなかった。破綻直前でのカフェ構想に首をかしげる関係者もいた。

また取材に応じた関係者らは一様に「Mt.Goxはこれまでにも問題を抱えていた」と語った。同社は2011年6月にもハッキングの被害に遭っており、当時からソフトウェアの問題を指摘されていた。しかしその対応が現在まで実施されていなかったというのだ。

さらに同社の説明する今回の不正アクセスだが、大石氏によると海外の掲示板では本当に不正アクセス、サイバー攻撃を受けてしまったという話から、それ以外にもっとずさんな経営体制で問題が生じた。それを実際にあった問題を言い訳にしているという話まで流れているとのことで、発表を鵜呑みにできないとするユーザーも多いようだ。

また、経営破綻にあわせるような時期に、「カルプレス氏とみずほ銀行とのミーティング」と称される音声ファイルがインターネット上に流出した。内容はみずほ銀行がMt.Goxの口座の利用を停止するというものだ。カルプレス氏と面識のある人物からは「この声は間違いなく同氏のものだ」という回答も得たが、現時点では真偽は定かではない。しかし、このようなファイルが流出するほど、同社を取り巻く環境が混乱を極めているのは事実だろう。

Bitcoin自体が悪なのか

ではここまでの話で「Bitcoinは危険なもの」と判断すべきなのだろうか? 取材した関係者は一様に「Mt.Goxの話と、Bitcoin全体の話を混同すべきではない」と語る。

Mt.Goxの経営破綻後、498ドルまで下落したBitcoinの価格はその後上昇している。この事実を背景に、関係者の1人は「マネーロンダリングに利用される危険性などはあるが、Bitcoin自体は一定の信用を得ている。システム上、法律上の落としどころはあるはず」と、将来的な期待を語った。冒頭で紹介した本家TechCrunchの記事でも次世代のBitcoinスタートアップについて紹介しているが、国内でも新たにBitcoin関連事業に取り組む準備をしているスタートアップがあるという。新しい仮想通貨は今後その可能性を生かすことができるのだろうか。


投稿者:

TechCrunch Japan

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