bitFlyerがObjective-C共同開発者Tom Love氏を顧問に、ブロックチェーン向け言語開発に取り組む

bitFlyerは、プログラミング言語Objective-Cの共同開発者であるTom Love氏を顧問として迎え入れた。同氏の協力により開発体制の強化と技術レベルの向上を図る。またブロックチェーン向けのクエリ言語やスマートコントラクト向け言語の開発に取り組む。bitFlyerは仮想通貨取引所を運営するとともに独自プライベートブロックチェーン技術miyabiを開発するテクノロジー企業でもある。

Tom Love氏

Tom Love氏はBrad J. Cox氏と共にObjective-Cを提供するStepstone社を1983年に設立(のち1995年にNeXTに売却)。その後General Electric、ITT、IBM、Morgan Stanleyで経験を積んだ。bitFlyer代表取締役の加納裕三氏は「プログラミング言語の設計者の知見を持っている人は大勢はいない。言語の設計をお願いしたいと考えている」と話す。

同社が作ろうとしているブロックチェーン向けクエリ言語やスマートコントラクト向け言語とはいったい何か? 加納氏は「ブロックチェーンには標準的なクエリ言語(問い合わせ言語)がまだない。クエリ(問い合わせ)のための統一的な手法がないのは不便だ」と指摘する。「RDBMS(リレーショナルデータベース管理システム)のクエリ言語SQLは過去30年使われている。複数の製品で共通に使えるSQL言語があったことはRDBMSの普及に大きく貢献した」。そこでSQLをイメージしつつ、ブロックチェーン向けの問い合わせ言語を作っていく。

ISO(国際標準化団体)ではブロックチェーンのインタオペラビリティ(相互運用性)に関する議論が始まっている。「時間はかかるだろうが、そこでクエリ言語の仕様が決まるといいと考えている」と加納氏は語る。クエリ言語の標準仕様が決まり、複数のブロックチェーン技術で共通に使えるようになれば、ブロックチェーン技術の普及に貢献するはずだ。

「Hyperledger Fabricでも、miyabiでも、他の製品でも、共通に使えるクエリ言語があれば、ブロックチェーンの相互運用性が高まる。例えば犯罪収益移転防止のためKYC(本人確認)のさい世界中の複数のブロックチェーンの情報を参照したい場合、共通に使えるクエリ言語があればシステムを作りやすくなる」と加納氏は説明する。

クエリ言語とは別に、スマートコントラクト(ここではブロックチェーンの管理下で実行するプログラムという意味でこの用語を使う)を記述するプログラミング言語にも取り組む。「ブロックチェーン分野の開発で頻繁に発生する処理がある。それをライブラリにするか、あるいは言語仕様に取り込めば、開発がしやすくなる」と加納氏は話す。

スマートコントラクト用のプログラミング言語としては、EthereumのSolidity言語がよく知られている。プライベートブロックチェーン技術では、Hyperledger FabricはGo言語やJava言語を使って開発できる。miyabiではC#言語で開発する場合が多い。この分野でより使いやすい言語を作り出そうという試みである。

課題が多い分野でもある。Ethereumのスマートコントラクトは、過去にハッキングによるThe DAOの資金流出事件やParityウォレット凍結事件を引き起こした。そこでEthereum Foundationではバグや脆弱性を未然に防ぐためプログラムを厳密に検査する形式検証手法に取り組んでいる。また米Blockstream社は、スマートコントラクト用言語Simplicityをオープンソースソフトウェアとして公開した。Simplicityはバグの可能性を極力排除した言語仕様を持つが、一方で「人間のプログラマには向いていない」との意見もある。このようにスマートコントラクト向けのプログラミング言語は議論が多い。この分野にbitFlyerが参入することで、新たな技術的知見が生まれる可能性もある。

今回bitFlyerの顧問に就任したTom Love氏は、1980年代前半にBrad J. Cox氏と共にプログラミング言語Objective-Cを開発したことで知られる。Tom Love氏は最近はブロックチェーン技術に関心を持っているという。bitFlyerの発表文にTom Love氏は次のコメントを寄せている。「今、仮想通貨とブロックチェーン技術の世界は刺激的な時期ですが、これはまだ始まったばかりです。今後数ヶ月から数年の間にこの分野ではさらなる破壊と創造が起きることでしょう。特に向こう1年は今後のマイルストーンとなる年であり、bitFlyerで働けることを楽しみにしています」。

Objective-Cは1980年代前半と最も初期に登場したオブジェクト指向言語のひとつ。C言語にSmalltalk言語のオブジェクト指向プログラミング機能を取り入れた言語仕様を持つ。Steve Jobs氏率いるNeXT(設立時はNeXT Computer、後NeXT Softwareに社名変更)はObjective-C言語を開発環境として採用。1996年にApple ComputerがNeXTを買収した後には、Objective-CはMacOS X(現在の表記はmacOS)やiOSの開発言語として使われた実績を持つ。

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TechCrunch Japan

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