BloombergターミナルのライバルAtom Financeがフリーミアムモデルの刷新に向け約14億円を調達

ウォール街で勝ちたいならYahoo Financeでは物足りないが、かといってBloomberg(ブルームバーグ)ターミナルを導入すると年間なんと2万4000ドル(約260万円)もかかる。そこでAtom Financeが、プロの投資家が行うリサーチを身近にする無料のツールを開発した。Robinhoodが株の取引コストをゼロにしたとすれば、Atom Financeはどの株を買うべきか判断するコストをゼロにする。

Atomは12月12日、財務モデリング、ポートフォリオトラッキング、ニュース分析、ベンチマーキング、ディスカッションツールへアクセスできるモバイルアプリを立ち上げた。かつてSaaSで起きたのと同様のコンシューマーライゼーション(組織ではなく個人をエンドユーザーとしてプロダクトを設計すること)だ。「投資調査ツールは、消費者の経済面の生活を豊かにするには欠かせないものであり、他の分野で起こっているのと同じようなイノベーションのスピードとアクセスのしやすさがあって然るべきだ」とCEOのEric Shoykhet(エリック・ショイケト)氏は言う。

Atom Financeは 12月12日の会見でTechCrunchに対し、General CatalystがリードするシリーズAで1060万ドル(約12億円)を調達したことを明らかにした。非公表だった190万ドル(約2億1000万円)のシードに続くラウンドになる。調達した資金でより専門的な調査ツールをプレミアム機能として立ち上げ、早期の収益化を目指す。

Atom Financeは6月の先行立ち上げ以来、すでに10万人のユーザーと4億ドル(約440億円)の資産を抱える。「Atomは、金融ニュースメディアとレポートの利用方法を根本的に変える」。Twenty Minute VCポッドキャストの創設者であり、Atomの投資家であるHarry Stebbings(ハリー・ステビングズ)氏は語った。

個人投資家は大企業と比べて不利な立場にある。大企業には人工知能、高価な調査レポート、市場に張り付いたトレーダーなどの資源がある。だが、個人が長期的な視点で、財務的な柔軟性を持つことの重要性が高まっていることは明らかだ。学生ローンの金額は増え、オートメーションが雇用を脅かす時代だからだ。

「我々の使命は二階建てだ」とショイケト氏は述べた。「あらゆるデバイスから簡単にアクセスできる直観的なプラットフォームで投資調査ツールを合理化すること、その上でかつてウォール街の専門家しか利用できなかった企業向けレベルの投資ツールをもっと身近にすることだ」

トレーディングフロアの知見を一般に

ショイケト氏は、Blackstone and Governors Laneの投資家として、アマチュアとプロ向けの調査プラットフォームの違いを目の当たりにした。だが、ある分野で最高と思われるソフトウェアでさえ、消費者向けモバイルアプリに期待される使いやすさを欠いていた。Atom Financeによると「例えば、ブルームバーグは1982年以来、コアプロダクトに大きな変更を加えていない」という。

Atom Financeチーム

ショイケト氏は1年前、その空白を埋めるべくブルックリンでAtom Financeを創業した。同社がウェブiOSAndroidアプリとして提供する5つのプロダクトは、決して複雑だと思わせない投資意思決定支援ツールに仕上がっている。

  • Sandbox:事前に変数が入力された、コンセンサス予測による即席財務モデリングツール。変数は自動更新され、モデルも自動で再計算される
  • Portfolio:リンクした投資口座に関わる各種統計、リアルタイムの損益計算書、投資間の分散をモニターする
  • X-Ray:ニュース、SECファイリング、議事録、各種分析を一覧できる金融検索エンジン
  • Compare:企業とセクター平均を比べるベンチマークテーブル
  • Collaboration:ディスカッションボードとグループチャットで他の投資家と知見を共有する

「Sandboxの機能により、ユーザーはスプレッドシートにデータをエクスポートすることなく、プラットフォーム内で簡単な財務モデルを直接作成できる」とショイケト氏は言う。「この機能によってユーザーの時間が節約される。新しい情報を入手しても、ユーザーがモデルへの入力を手動で更新する必要がなくなる」。

ショイケト氏は「既存のソリューション(Yahoo Finance、Google Finance)は初歩的すぎて詳細な分析ができないか、または個人投資家には価格が高すぎる(Bloomberg、CapIQ、Factset)」と述べ、Atom Financeをその中間に位置付ける。

Atomは、現在の無料モデルと今後の有料モデルの両方で、AIを駆使する金融リサーチプラットフォームであるSentieoに勝つことを目指す。Sentieoは1年前に1900万ドル(約21億円)を調達した。利用料金は月々500〜1000ドル(約5万5000円〜11万円)。BamSECやWallMineなどの安いツールは、多くの場合、アーニングスコール(投資家向けの電話による決算説明会)の議事録やSECファイリングを取り込む機能に限られている。Robinhoodには独自のアプリ内ツールがあるため、Atom Financeの競争相手か買収者になる可能性がある。

ショイケト氏は、Atom FinanceがBloombergのような定評あるツールとの厳しい競争に直面することを認めた。「既存のソリューションは、当社がターゲットとする市場、特にプロの投資家の間で大きなブランド力がある。ユーザーの信頼を得るために、当社は圧倒的なユーザー体験を提供し続けなければならない」と同氏は説明した。ユーザーの機密データを守るため、完璧なプライバシー、セキュリティ、正確性も不可欠だ。

General Catalyst、Greenoaks、Global Founders Capital、Untitled Investments、Day One Venturesや多数のエンジェルからこれまでに調達した1250万ドル(約14億円)により、Atomはフリーミアムモデルを刷新する。 Robinhoodは、無料ユーザーを、お金を借りて取引できるサブスクリプション層に変換することで大きな成功を収めた。同様に無料モデルにすることで、SoFi、Silver Lake、Blackstone、Citiから集まったAtomの8人のチームは、プレミアム層を形成するための堅固な基盤を構築できた。

フィンテックには、時にドライで冷酷な資本主義を感じることがある。だがショイケト氏は、新しい世代に富を創造する方法を提供することがAtom Financeの存在理由だと主張する。「この分野には長い間、真のイノベーションが存在しなかった。 これほど大切な分野で考えられないことだ。使いやすいツールを身近にし、消費者を教育することが重要だ。それが投資に関わる生活を豊かにすることになる」

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(翻訳:Mizoguchi)

投稿者:

TechCrunch Japan

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