BMW vs Tesla:イノベーターのジレンマのリアル版

編集部注: 本稿のライター、Peter YaredはSaphoのファウンダー・CTOで、元CBS InteractiveのCTO/CIO。

Jill Leporeは、自身のNew Yorkerの記事で破壊的イノベーションに疑問を呈し、シリコンバレーで波紋を呼んだ。彼女は、既存の大企業が生き残り、小さな進歩を繰り返すことによって破壊的テクノロジーを呑み込んでいくと推測する。幸い、われわれには生きている実験台がある。BMWの新電気自動車 i3は、伝統的メーカーがTeslaを前に、イノベーションのジレンマに直面する現在進行形のケーススタディーだ。

Elon Muskは、未来の量産電気自動車の標準をこう定義した ― 価格は4万ドル前後、航行距離は200マイルで、BMW 3シリーズに対抗する。この大胆なゴールを達成するべく、Teslaは「ギガ工場」を作ってバッテリーを高効率低コストで生産し、その夢を現実にする計画に投資している。投資家は、Teslaがその規模を達成した時には市場を支配することに賭けている。まだ年間3万5000台しか生産していないにもかかわらず、時価総額は280億ドルに上る。Muskが、近日発売の大衆車 Model 3を、BMW 3シリーズと直接比較しているのは興味深い。現在BMWは新しいi3を、米国市場に限定的に投入しているだけだ。

BMW対Teslaの戦いからは、多くの有益な教訓を得ることができる。自動車は目に見える製品であり、販売戦術も非常に透明だからだ。

ブランド

車名に “3″ が入っているものの、i3 は明らかにBMWの3シリーズではない。車長は60cmも短かく、むしろBMW 1シリーズの仲間に入れるべきだ。i3の80~100マイルという航行距離は、Nissan LeafやChevrolet Volt等と同等であり、Tesla Model Sのようなテクノロジーの奇蹟とは比較にならない。

その制約にもかかわらず、i3は明らかに共感を呼び、レビューでの評価も高く、先月TrueCarで急騰した価格からも、米国内での高い初期需要がうかがえる。BMWは3シリーズのブランドを効果的に(誤)使用しており、テクノロジーの進歩に合わせて、車体を伸ばしたり航行距離を延ばすなどの機能追加が可能だ。

教訓:伝統的メーカーは、誤った製品名を付けることによってブランドを活用できる。新興企業が直接特定のモデルを比較対象にしている時はなおさら。

Tesla Model 3 (Estimated) BMW i3 BMW 320
Passengers 5 5 5
Range ~200 miles on electric 80-100 miles on electric, 185 miles with gas range extender(Total hack!) 380-576 miles on gas
Base Price ~$40,000 $41,350 $32,750
0-60 N/A 7.2 seconds 7.1 seconds
Dimensions ~182” long x ~71” wide (Matching BMW 3 series) 157” long x 70” wide (Not even close to a 3 series!) 182” long x 71” wide
Availability 2017 2014 2014

テクノロジー

BMWは、完全電動車のプラットフォーム構築に莫大なリソースを注ぎ込んでおり、消費者にいた早く価値を提供するためには、過去のテクノロジーを融合することも厭わない。対照的に、Mercedesは、提携の道を選び、近く発売する電気自動車の駆動部およびバッテリー技術をTeslaから購入している。BMW、Mercedes共に、自動パーキングや高速道路で車線を守り車間距離を一定に保つクルーズコントロール等、高度な車両技術においてはTeslaをはるかに凌いでいる。

バッテリー技術の進化を待つことなく、中価格帯で200マイルを走る電気自動車を作るために、BMWはオプションとして「レンジエクステンダー」を販売している。これはバッテリー動力の5%を維持できる2気筒のオートバイ用エンジンで、航行距離を80マイル延長する。レンジエクステンダーは、バッテリーを充電するものであり駆動はしないので、i3はハイブリッド車ではないが、レンジエクステンダーは常に給油可能なため、動力を失うことがない。これは実に巧妙なしくみだが、よく考えられており競争力がある。BMWの技術者は、このアイデアを思いついた時、ほくそ笑んだに違いない。

このi3によって、BMWは、都市ドライバーや平均的通勤者といった、時折遠出にも使うが、充電ステーションのことを考えたくない人々に、「十分良くできた」高級電気自動車を提供した。

教訓:伝統的メーカーは、新技術を自社の旧技術と混ぜこぜにして、新たなライバルを蹴落とそうとすることが多い。

生産台数

Teslaは、最初の製品を2006年に発売し、2014年には3万5000台のModel Sセダンを売ろうとしている。2014年後半で約1万7500台だ。BMWは2014年にi3を発売し、今年前半に6000台のi3を主にヨーロッパ市場で売った。現在3~6ヵ月待ちの状態だ。需要の急騰を受け、BMWは生産量を年間2万台に引き上げ、現在1日に100台、年間3万台以上のペースで製造している。伝統的メーカーが出荷初年度に、高級電気自動車分野でTeslaを抜きつつあるという事実は、Teslaの優れた製品と何年もの市場におけるリードを踏まえると、驚くべきことだ。

教訓:伝統的企業が技術を融合させると、大量生産が可能になる。

販売

Teslaが旧態依然のディーラー網モデルを破壊しようとしているのに対し、BMWはその広大なディーラー網を活用して世界中の消費者につながっている。また消費者は、TrueCarBeepi等のサービスを使って、新車や下取りの価格を、ディーラーと交渉せずに済ませることもできる。BMWは、多額の報奨金によって、消費者に購入を促すこともできる。自動車メーカーとディーラーたちは、Teslaと戦うために、法規制で足止めをさせ市場参入を制限しようとしている。

教訓:イノベーターは、伝統的企業の巨大で動きの鈍い販売チャネルを過少評価すべきでない。

市場参入

Teslaは、ハイエンド車で市場に参入する必要があった。長い航行距離を可能にするバッテリーを使用しつつ、気まぐれな投資家のために利益を確保するためだ。大衆向けの中価格帯車が可能になる何年も前のことだった。BMWの体力は、中間市場に参入し、翌年i8スーパーカーで米国の超ハイエンドに進むことを可能にした。BMWにとって、特徴ある都市向けのi3は、事実上BMWのイノベーションとグリーンな未来の動く広告塔であり、優位に立つために原価割れで売ることさえ可能だ。

Teslaのハイエンドファースト戦略には、Tesla Sがかなり大型で都市環境に向かないというリスクもある ― BMW 7シリーズより幅が広く、長さはほぼ同じ。大型の高級4ドアセダンは、35歳以上のアッパーミドルクラスの男性が典型的購入者であり、その層は、残念ながら最も流行に敏感な人々ではないことを認めざるを得ない。BMWは、徹底的に市場を研究し、i3の先進的デザインとより小型な都市向けサイズ、そして実証済みの若者層にアピールするブランドによって、流行に敏感な若い都市型人間をターゲットにした。

教訓:伝統的メーカーは、しばしば様々な市場セグメントを持ち、スケールメリットを生かして、新興企業の計画を出し抜く。

本当に破壊されているのは誰か?

大きな疑問は、電気自動車が破壊しようとしているのは、果たしてどの業界なのかである。当初、伝統的自動車メーカーは、電気自動車の挑戦に対抗できないと思われた。彼らはハイブリッド車を広く採用し、今やそこそこ競争力のある電気自動車を販売し、水素燃料電池の実験も続けている。広い視点で見ると、ExxonMobilとChevronの方が、BMWとChevroletよりも、電気自動車に破壊されているのかもしれない。

Elon Muskは起業家のヒーローであり、乗用車、宇宙飛行、および電力業界を同時に破壊しようとしている。これらの業界にいる伝統的企業のいくつかは、ある時点で目を覚まし、積極的に対応する必要があるかもしれない。Muskにとって幸運なことに、United Launch Allianceは、BMWがTeslaに対するほどには、SpaceXに対して敏速ではない。

情報開示:筆者は、Tesla Model Xの待ち行列の6250番目にいる。

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(翻訳:Nob Takahashi / facebook


投稿者:

TechCrunch Japan

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