CO2排出量も抑えた自律走行ポッドとEVによる貨物輸送サービスのスウェーデンEinrideが米国進出

スウェーデンの運送テクノロジー企業Einride(アインライド)が米国での事業展開を開始すると発表した。同社は正式に、GE Appliances (GEアプライアンス)、ブリヂストン、Oatly(オートリー)などのパートナーと協力して、同社の輸送ソリューション(自律「ポッド」、電気トラック「Saga」オペレーティングシステムなど)のテストを開始する。

Einrideはまた、米国の道路事情と規制に対応した同社ポッドの米国版を導入することも発表した。さらには、造船所からのコンテナ輸送など、広範な運搬ニーズに対応するよう設計されたモジュール車両である平台型ポッドの導入も発表した。

Einrideは欧州で最大の電気トラック保有台数を誇る運送会社だ。運転席がなく、安全管理者用のスペースもない同社の自律走行ポッドも電気自動車だ。Kodiak Robotics(コディアクロボティクス)TuSimple(ツーシンプル)Waymo(ウェイモ)など、自律輸送分野の他の大手企業は、必ずしも電気自動車のみによるアプローチを追求していない。

「世界のCO2排出量の7~8%は陸上重量貨物輸送によるものです」とEinrideのCEO兼創業者のRobert Falck(ロバート・フラック)氏はいう。「Einrideを起業したのは、陸上貨物輸送の最適化と自律化をディーゼル車ベースで進めることで、却ってCO2排出量が増えるのではないかと心配したからです。ディーゼル車のほうがずっと安価に最適化と自律化を実現できますから」。

Einrideは、GEアプライアンスとの提携により、7台の自律走行電気トラックを配備し、ケンタッキー州ルーイビルにあるGEAの約3平方kmのキャンパス、およびテネシー州、ジョージア州にあるその他のロケーションを走行させる予定だ。これにより、GEAは今後5年以内にCO2排出量を870トン削減する予定だ。EinrideはGEAとの提携を今後数年で急速に拡大して電気トラックの配備台数を増やしていくという。

ブリヂストンとの提携はどちらかというと技術寄りの提携で、持続可能モビリティソリューションを共同開発し、クラス8の電気自律運転車両の実現を目指す。

「ブリヂストンとの協力により、Einrideは、ブリヂストンのスマートセンシングタイヤから安全性と効率性に関する新たなデータを収集できるようになります。ブリヂストン側も同社の先進のモビリティテクノロジーをEinrideに搭載されているオンボード車両プラットフォームに組み込むことができます」とEinrideの広報担当者はいう。「当社はブリヂストンとのサブスクリプション契約の下で、同社の米国輸送物流ネットワーク向けに、接続された電気トラックとデジタルサービスを提供することで、2025年までにブリヂストンの陸上輸送ニーズの大半を電化することを目指しています」。

オーツミルク企業であるOatly(オートリー)は、すでに欧州でEinrideと提携しており、その提携関係を米国にも拡大しようとしている。Einrideは米国への進出について詳細を明らかにしていないが、フラック氏によると、2020年からオートリーの欧州の輸送のデジタル化と電化を進めたのと同じような形で事業展開していくつもりだという。Einrideは欧州で、オートリーに電気トラックとSagaプラットフォームを提供することで、電化を迅速に推進し、特定経路におけるCO2排出量を87%削減したという。米国でも同様にしてオートリーの電化を進めていくことになるだろう。

Einrideの米国進出と同時に、Sagaプラットフォームのアップデートも実施される。Saga(ノルウェー語で「すべてを知っている」という意味)は、Einrideの電気トラックおよびポッド全体で稼働するIoTシステムだ。同社はこのシステムによって経路を最適化し、大規模電気トラック集団を稼働している。Einrideは、Sagaを、重量輸送産業に変革をもたらし、企業の保有車両の電化を推進する普遍的なオペレーティングシステムしたいと考えている。

「現在のトラック輸送産業は極度に分断化されていおり、連係が進んでいません」とフラック氏はいう。「電動化を進めるのは簡単ではありません。電動化の範囲とか実際の導入度といったことが目的ではないのです。当社のSagaプラットフォームとオペレーティングシステムを使えば、既存のテクノロジーを利用して、競争の激しいビジネスケースにおける米国の陸上貨物輸送システムの最大40%を電動化できます。どちらかというと、ハードウェアを改善するというよりも、新しい考え方を導入するといったほうが近いと思います」。

Einrideのポッドは安全管理責任者が同乗しないため、レベル4の自律性の達成方法について新しい考え方を取り入れている(米国自動車技術者協会によると、レベル4とは、車両が、特定の条件の下で人間の介入なしに運転のあらゆる側面を処理できることを意味する)。

Einrideの全システムは、安全管理ドライバーが存在しないため、異なる方法で構築する必要がある、とフラック氏はいう。他の運送会社は前の座席に人間のオペレーターを同乗させて距離を稼いでいるが、Einrideはフラック氏が「よちよち歩き式アプローチ」と呼ぶ方式を採用している。この方式では、ハイハイ、ゆっくり歩きという具合に車両に運転を教えていき、徐々に機能を高めていく。

「当社は従来のレベル4から開始し、自律運転とリモート運転機能を組み合わせてアプリケーションの使い勝手を向上させました。その結果、柔軟性、および自律運転、人間のアジリティ、意思決定の利点の両方を獲得できました」とフラック氏はいう。

Einrideは2019年から欧州で公道での自動運転システムの試験走行を開始しているが、米国での試験開始日はまだ決まっていない。

「車両に安全管理ドライバーを同乗させず、ドライバーの席もないため、規制を通過するには異なるアプローチを取る必要があります」とフラック氏はいう。「規制は国や州によって異なりますが、基本的には、アプリケーション自体の安全性が保証されているかどうかという問題です。当社も創業以来、ドライバーを同乗させずにすべてのアプリケーションで安全性を確認できるようにするというアプローチを取ってきました」。

リモートトラックドライバー、すなわち「ポッドオペレーター」は、Einrideのポッドを監視し、状況によっては運転を引き受ける。フラック氏によると、Einrideではレベル5の自律性(基本的に自動運転車のほうが人より運転能力も思考能力も優れているとするレベル)を信用しておらず、アジリティと意思決定能力を高められるように、いつでも人間がシステムに介入できるようにすることを目指しているという。

「マシンはまだ人のために働いています」とフラック氏はいう。「業界はレベル5の自律性を備えたAIを15年以上追求してきましたが、まだそのレベルには程遠い状態です。運送業界においては、自律運転の利点が活かされる場面も数多くありますが、人が介入することによる利点もあります。例えば別のゲートに戻ったり、周辺のドライバーとやり取りしたい場合などです。人間の意思決定を介入させられるのは大きな利点であり、ビジネスへの影響も最小限で済みます」。

Einrideは、トラック業界での経験があり、トラック運転免許を持っている最初のポッドオペレーターを採用した。詳細は、2021年後半のイベントで明らかにするという。

Einrideは米国に進出するだけでなく、ニューヨークに正式に米国本社を設立する予定で、一部の経営幹部がニューヨークを本拠に活動することになる。また、オースティン、サンフランシスコ、東南アジアにも支社を設置する予定だ。米国での工場建設予定は今のところはない。

画像クレジット:Einride

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(文:Rebecca Bellan、翻訳:Dragonfly)

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TechCrunch Japan

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