CommercetoolsがeコマースAPIのInsightから約160億円を調達

世界の小売業のeコマースは今年25兆ドル(約2700兆円)規模になると見込まれている。

大企業が自社のeコマースサイトを構築する際に役立つツールを展開するCommercetools(コマースツール)が、10月21日に大きな資金調達ラウンドを迎えた。同社は大企業向けにeコマースのためのAPIを提供するドイツのスタートアップで、Insight Partnersがリードするグロースラウンドで1億4500万ドル(約160億円)を調達した。情報筋によるとバリュエーションは約3億ドル(約330億円)とのことだ。

今回の資金調達は、ドイツの小売および観光サービスの巨人であるREWEがCommercetoolsをスピンアウトしたことに伴うものだ。REWEは2015年にCommercetoolsを買収した(買収金額は未公表)。

買収された後にCommercetoolsがたどった道は、非テクノロジー企業に買収されたテクノロジースタートアップにとって珍しくないものだった。「REWEはeコマーステックを社内に持ち込む戦略の一環としてCommercetoolsを買収したが、Commercetoolsは外部のクライアントから受注を続けており毎年約110%成長していた」とCEO兼共同創業者のDirk Hoerig(ダーク・ホリグ)氏はインタビューで述べた。

クライアントとして、Audi、Bang&Olufsen(バング&オルフセン)、Carhartt(カーハート)、ヤマハ、その他小売製品とサービスの有名企業(米国の主要な通信会社やメディアブランドを含む)を抱える。外部の資金を注入し独立したスタートアップとして事業をスピンアウトして、その成長をさらに加速させるという決定が最終的に下された。REWEは今後も主要な株主であり続ける。

ホリグ氏によると、買収前のCommercetoolsの調達額は約3000万ドル(約33億円)にすぎなかった。

eコマース業界は過去数年で成長はしたものの、経済の先行き不透明感が広がる中、近年の勢いは落ちている。個々の小売ブランドは消費者と直接関係を構築する方法を模索している。Amazonなどサードパーティのマーケットプレイスがオンラインマーケットを支配するようになったが、それには頼らない方法を探しているのだ。

eコマースを始めるのに必要なツールを非テクノロジー企業に提供する会社にとっては追い風だ。そうしたツールは、すでにあるフロントエンドシステムに接続する「ヘッドレス」ツールとして提供される。

偶然にも同じくInsightから公開前に出資を受けたShopifyは中小企業にeコマースのAPIを提供し、今では約80万人の顧客を持つに至る。対照的にCommercetoolsは「売上高が年間約1億ドル(約108億円)を超える大企業に重点を置いている」とホリグ氏は説明した。

Commercetoolsは中小企業に手を拡げる気はないようだ。「Shopifyと競合するつもりはない」とホリグ氏は言う。eコマースのもう1つの重要な要素である物流に進出する戦略もない。

同社が競争の激しい分野でビジネスをしていないというわけではない。ホリグ氏は、SAP、Oracle、IBMなどは典型的な競争相手であり、大企業の既存ベンダーであることが多いと指摘した。クラウドでAmazon(アマゾン)と激しく競争しているMicrosoft(マイクロソフト)は企業向けのeコマースビジネスを拡大している。Commercetoolsの競合ツールを使っている企業が「よりモダンな」アプローチが必要だと判断する時が、Commercetoolsのようなツールに替える時だ。

全体として、eコマースツールの広大な市場は非常に細分化されている。「SAPですら2%のシェアだ」とホリグ氏は述べた。

Commercetoolsは幅広いサービスを提供している。ウェブショップやモバイルサイトの基盤を強化するAPIから始まり、IoTサービス(ホリグ氏いわく「機械から購入する機械」)、さまざまな機能を支援するチャットボット、マーケットプレイスを運営するためのアーキテクチャ、ソーシャルコマースサービス(例えば、Instagramを介した販売の強化)、拡張現実(AR)まで。Commercetoolsは現在、Adobe、Frontastic、Bloomreach、Magnoliaと統合されている。

Commercetoolsは、調達した資金で北米だけでなく世界の他の地域でも事業を拡大し、B2B2B、つまり企業が他の事業に販売するためのツールも開発する予定だ。Alibaba(アリババ)のような企業が非常に強い分野だ(Amazonも事業を拡大している)。第三者が運営するマーケットプレイスを補完したり完全に代替する目的で企業が自社のサイトを構築したりする際に使えるツールを、Commercetoolsが提供するというのが構想だ。

Commercetools自身が競争優位を勝ち取れそうな他の領域として見込むのは、オンラインツーオフライン(インターネットなどのオンラインから店舗などのオフラインへ消費者を呼び込む施策)技術の開発だ。

InsightのRichard Wells(リチャード・ウェルズ)氏とMatt Gatto(マット・ガット)氏の両者が今回のラウンドを機に取締役会に加わった。

ウェルズ氏は声明で「我々には小売ソフトウェアのリーダーに投資してきた確かな実績がある。Commercetoolsに投資し、同社の国境を超える拡大を支援する機会を得ることができてうれしく思う。Commercetoolsはエンタープライズコマースソフトウェアの分野で次に来る波の象徴であり、eコマースセクターで強力なイノベーションと成長を実現する可能性を秘めている」と述べた。

画像クレジット:Ruslan Grumble /Shutterstock

[原文へ]

(翻訳:Mizoguchi)

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。