DARPAがチップテクノロジーの再発明(の開始)に向けて7500万ドルを拠出

国防総省の研究部門であるDARPAは、その”Electronics Resurgence Initiative”(ERI:電子技術再興構想)に関連するイベントを開催している。ERIとは産業界に芽吹いている、強力だが実証されていない新しいアイデアに資金を与えることで、既存のチップテクノロジーを大きく飛躍させようという計画だ。このさき何年かをかけて、15億ドルが提供される予定だが、このうち約7500万ドルが今日、いくつかの新しいパートナーたちに対して割り当てられた。

ERIは昨年比較的広範囲にむけて発表され、それ以降全国の大学や研究所からの提案が募集されて、その結果いくつかの提案が資金提供の対象として選ばれた。

パートナーと参加者のリストはかなり長い:MIT、スタンフォード、プリンストン、イェール、カリフォルニア大学各校、IBM、インテル、クアルコム、国立研究所などがラインに並んでいる。強打者ばかりだ。基本的に各機関は、以下の6つのサブプログラムのうちの1つに関連付けられている。それぞれのサブプログラムには(当然ながら)略称が与えられている。

  • Software-defined Hardware(SDH:ソフトウェアで定義されたハードウェア):コンピューティングはしばしば汎用プロセッサの上で行われる、しかし専用のハードウェアなら仕事を迅速に完了させることが可能だ。問題は、こうした「特定用途向け集積回路」すなわちASICの開発は、高価で時間がかかることだ。SDHは「処理されているデータに基づいて、リアルタイムに再構成できるハードウェアとソフトウェア」を作ろうとするものだ。
  • Domain-specific System on Chip(DSSoC:ドメイン固有システムオンチップ):これはSDHとも関係しているが、カスタムチップ(例えば画像認識チップやメッセージ複合チップなど)と汎用チップの間の正しいバランスを見出そうとするものだ。DSSoCは、開発者たちがASIC、CPU、そしてGPUなどの部品を簡単に混ぜ合わせ組み合わせることができる「単一プログラマブルフレームワーク」の開発を目指している。
  • Intelligent Design of Electronic Assets(IDEA:インテリジェントな電子資産設計):上記に関連する話題だが、そうしたチップの、実際の物理配線レイアウトを作成することは、信じられないほど複雑で特殊なプロセスだ。IDEAは、チップ設計を行うのに必要な時間を1年から1日に短縮することを狙っている。「DoDハードウェアシステムの、24時間設計サイクル時代を先導させる」ことが目標だ。人間の必要性が無くなるのが理想だが、間違いなく専門家がそのデザイン結果を吟味することになる。
  • Posh Open Source Hardware(POSH:Poshオープンソースハードウェア):この再帰的頭字語が参照しているプログラムは、今回の他のプログラム全体が追求しているような特殊なSoCが、オープンライセンスの下で実現できるようにすることを目指す(posh には「高級な」といった意味がある)。ライセンスは、可能な限り最高のシステムを構築しようとする際に、重大な障害になる可能性がある ―― たとえばあるチップが用いる固有のシステムは、他のチップが使う固有のシステムと同時に使うことができないかもしれないといったことだ ―― このため再利用と容易な配布を可能にするために、そうした制約のない基本セットの作成とテストを目指している。
  • 3-Dimensional Monolithic System-on-a-chip(3DSoC:3次元モノリシックシステムオンチップ):プロセッサとチップを主記憶と実行システムに接続した標準モデルは、深刻なボトルネックにつながる可能性がある。そこで3DSoCは、すべてをスタック(つまり3D)に結合し、ロジック、メモリ、入出力(I/O)要素を統合して、消費電力を抑えながら計算時間を50分の1以下に短縮することを目指している。この50分の1という数字は、かなり野心的なものなのではないかと個人的には思う。
  • Foundations Required for Novel Compute(FRANC:新しい計算方式に必要とされる基礎):プロセッサと短期記憶、そして長期記憶を備えた「標準モデル」はフォン・ノイマンアーキテクチャとして知られている。コンピューティング技術の創始者の1人に因んでつけられた名前で、現在のほぼ全てのコンピューティングがそのアーキテクチャの下で行われている。しかしDARPAはこれを脱し「データの移動を不要もしくは最小にするデータ処理を実現する、新しい素材と統合方式」を用いて「新しいコンピューティングトポロジー」を作り出すべき時だと感じている。現段階ではむしろSFレベルの話だ。しかし、フォン・ノイマンを振り切る努力をしなければ、永遠に私たちはその支配下に置かれることになる。

これらは、お分かりのように、どれも非常に意欲的なアイデアだが、DARPAはすぐに役立つものを作るために、各研究者と契約しようとしていると考えてはならない。国防総省は基礎科学の巨大な支援者だ。私が読んだ論文の一体何本が、空軍、DARPA、あるいは他の準軍事機関が資金を提供したものだったのかを数え上げることは不可能だ。よってそれは、重要な分野での米国のイノベーションを促進しようとするものであり、その結果たまたま軍事的に重要な意味を持つようになる場合もある、と考えるようにしたい。

DARPAの担当者は、ここに挙げたテーマの下に、様々なプロジェクトに資金を提供するべく、7500万ドルが割り当てられていると説明したものの、その詳細は現時点では参加者だけしか知ることができない。それは会計年度2018年だけのための資金であり、さまざまなプロジェクトの価値と要件に応じて、おそらく追加されていくことだろう。それらはERI全体で15億ドルという、より大きな予算から出資される。

ERIサミットが現在開催中である。参加者とDARPAの担当者が情報を共有し、文書を精査しながら期待値を設定している。このサミットは、作業が少々進展する来年にも、間違いなく行われることになるだろう。

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(翻訳:sako)

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TechCrunch Japan

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