DeNA守安氏「認識が甘かった」——WELQに端を発したキュレーションメディアの大騒動

DeNA代表取締役社長兼CEOの守安功氏

DeNA代表取締役社長兼CEOの守安功氏

 

ディー・エヌ・エー(DeNA)は12月1日、ペロリが運営する女性向けキュレーションメディア「MERY」を除く、キュレーションメディアプラットフォーム「DeNA Palette」9媒体の全ての記事を非公開にすることを明らかにした。

先日から情報の不正確さや制作体制について各所で問題視されていた、医療・ヘルスケア情報のキュレーションメディア「WELQ(ウェルク)」を含め、MERY以外すべての運営が一次ストップするかたちとなる。その経緯は以下の記事にまとめた。

信頼性なき医療メディア「WELQ」に揺れるDeNA、MERYを除く全キュレーションメディアを非公開に

この一連の騒動に対してDeNAはどう考えているのか? 代表取締役社長兼CEOの守安功氏に話を聞いた。

「あとから監修」は認識が甘かった

–今回の一連の騒動について、どうお考えですか?

守安氏: WELQに端を発した一連の騒動に関しまして、多くの方々にご迷惑をお掛けしたことを深くお詫び申し上げたいと思っています。

私自身、今回の騒動の問題点は2つあると考えています。1つめが医療・ヘルスケア情報の取り扱いに関して認識が甘かった点です。数カ月前から(WELQについて)医療関係者の監修がない状態で記事が公開されている事実を把握していました。当時、「後で監修をつければいいのではないか」と思っていたのですが、この認識が甘かったと思っています。医療・ヘルスケアというセンシティブな情報を取り扱うメディアとして、あるべき姿ではなかったな、と。監修をつけるプロセスは進めていましたが、もっと早い段階で取り入れるべきだったと思います。

2つめはWELQに限らず、私たちが運営するその他のキュレーションメディアも含まれることなのですが、記事の作り方に問題があったと思っています。BuzzFeed( Japan)が公開した記事を見まして、マニュアルや指示の内容、例示の仕方など記事を作る一連のプロセスがクリーンであったか、モラル的に問題がなかったかと考えると、決してそうではない。記事の作り方に問題があると感じました。

現場にも確認したところ、組織的に独立した形でやっているMERYを除き、私たちが運営している9つのキュレーションメディアは似たような体制で記事を作っていることが判明しました。最初、アップされている記事で問題があるものを順次非公開にしていくという方法も考えたのですが、それではWELQの医療記事と同じように判断が遅れてしまうと思ったので、MERY以外に関してはいったん記事を非公開にすることを決めました。現在公開されている記事の中には問題がないものも含まれていると思うので、その記事に関しては社内の管理委員会で内容を精査した上で、問題がなければ再度アップしていこうと考えています。

MERYに関しては組織が違うこともあり、運営ポリシー、記事の作り方も我々とは異なります。代表の中川(ペロリ代表取締役の中川綾太郎氏)にも問題がないことを確認しており、基本的には非公開措置はとらず、現状の運営方法でやっていってもらえればと思っています。

–最近の決算発表などを見ていると、ゲーム事業の次の柱にとしてキュレーションメディア事業を据えていましたが、事業を見直す必要性が出てきました。

当然、事業には大きな影響が出ると思っています。ただ、どれくらいの影響が出るかは分かっていないので、まずは今回の問題に誠意を持って対応した後で見直すつもりです。

–WELQに関しては、サイト終了前に広告販売を停止していたのですが、その他の媒体に関しても広告販売は停止するのでしょうか。

これから広告販売を停止していきます。これに関してはクライアント・代理店にご迷惑をお掛けしてしまったなと思っています。

–MERYはサービスを継続するということですが、今回の騒動の影響は出ているのでしょうか。

細かく把握はしていないのですが、今後は影響が出る可能性は高いと思っています。

–東京都福祉保健局から呼び出しがあったとITmediaが報じています。

DeNA広報:呼び出しといいますか、「WELQの内容に関してヒアリングしたい」という連絡があって、今後お会いする予定です。

グロースに注力する現場、どこまで把握していたか

–以前から「Medエッジ(メドエッジ)」というヘルスケアメディア(現在はWELQにリダイレクトされているため、実質的にはWELQの前身のメディア)を運営して言いました。どういった経緯でDeNA Paletteで医療やヘルスケア領域に参入することになったのでしょうか。

守安氏:もともとは「ヘルスケア」というジャンルで、医療よりも少しライトテーマで立ち上げたメディアです。サイトを運営していく中で、グロースを意識し始めた結果、医療情報が少しずつ入ってきて、今の形になりました。その変遷は認識していたのですが、(直近のような体制になるまで)止めることができなかった。

–「止めることができなかった」ということですが、どの程度DeNA Paletteの運営実態を把握していましたか。

DAU(デイリーアクティブユーザー)やMAU(月間アクティブユーザー)、売上といった数字の把握はしていました。あとは「SEOを重視していく」という方針は(自身が)出していたので、SEOを軸にしてメディアをグロースさせていく運営手法も知っていました。

ただ、どうやって記事を作っているのか、どういったオペレーションで回しているのか…現場に近い部分は「クラウドソーシングサービスを使っている」こと程度で、細かい部分までは把握していませんでした。

–WELQの記事の一部は薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)に抵触しているとの指摘もあります。それでも監修は後付けでも問題ないという認識だったんでしょうか?

薬機法がどうかは知らなかったのですが、「医療情報を取り扱っているけれどもエビデンスがない」という状況は認識していました。「あとの対応でもいい」と思ったのはすごく甘かったですね。

–この騒動によって、子会社のDeNAライフサイエンスが手がける遺伝子検査サービス「MYCODE」など、グループのヘルスケア事業のブランド毀損にもなり得ます。現時点での影響や今後の対策などを教えて下さい。

ヘルスケア事業自体は、非常にセンシティブな領域でもあるので、立ち上げ時から社内に倫理委員会を設けるなど高い倫理観を持って運営していました。ただし、WELQに関しては違う意識で運営することになってしまった。そこは私たちの責任です。

事業自体は切り分けられているので、WELQが(ヘルスケア事業の運営に)直接的に関わってはいません。ですが、医療関係者からは「DeNAどうなってるんだ?」という声はいくつも頂いているので、そこは真摯に受け止め、信頼回復に努めていきたいと思っています。

–DeNAがキュレーションメディア事業に参入したのが約2年前。当時から守安氏の「肝入りの事業だった」と聞いています。

そうですね、ヘルスケア事業は南場(取締役会長の南場智子氏)が見ているので別ですが、それ以外のほとんどの事業を私が見ていますので、どの事業も肝入りです。ただ、その中でも注力したい分野だったことは間違いありません。

–しかし一方では、iemo、MERYの買収にあたってDeNAの法務部門から反発があったとも聞いています。

金額的に2社で50億円。規模的にはアメリカのゲーム会社(ngmoco)に次ぐものだったので、重要な事業になるだろうと思っていました。

反発……というよりは「著作権的に黒か白か分かりづらい」という話がありました。法律的には大丈夫という認識のもとで買収を行ったのですが、曖昧な部分もあった。そこは運営していく中でクリーンにしていこうと考えていました。

–その買収やDeNA Paletteの構想を発表して、健全なメディアが生まれると思いきや、実情は結構違っていました。この原因についてどう分析していますか。

「モラルを守って適切に運用する」という認識が私を筆頭に足りていなかった。そこに尽きると思います。

著作権無視のバイラルメディアが関与

–DeNA Palette構想でできた内製メディアには事業を統括するDeNA執行役員、キュレーション企画統括部長でiemo代表取締役CEOの村田マリ氏と親交のある元WebTechAsiaの人材が大きく関与していると伺っています。同社はかつてBUZZNEWSというバイラルメディアを運営しており、盗用問題に端を発した炎上騒動があったのですが、その経緯は把握していましたか。

はい、把握していました。立ち上げ期に関わっていて、メディアが一通り立ち上がった今年の頭に退職しています。

–上場企業のメディア運営において、著作権まわりでトラブルを起こした人材を登用する狙いとは。

メディアを立ち上げるノウハウを持っていたので、彼らを登用することにしました。そこは上場企業として問題ないという判断を下しました。

–過度とも言えるSEOによるグロース施策を実行していた人物として、キュレーション企画統括部の部長の名前が具体的に挙がっています。

それぞれのメディアには担当者がいて、グロースハック部とメディア部がどう絡み合っていたのかは分からないのですが、私を含め「SEOを重視しよう」という方針で運営していました。村田が責任者でいて、配下の部長が数名いる中の二人だったという認識です。

–事業のキーマンの採用は現場の采配によるところが大きかったということでしょうか。

メディア全体の方針やモラル的な問題に関しては私に責任があると思っていますが、現場の判断に関しては村田の判断が大きいです。

–ただ、社内外からSEOの手腕に関して「ちょっと強引じゃないか」という声も挙がっていたと伺っています。

報道を見るとそういう面もあったのかなと思いますが、社内の中では把握していませんでした。

— 今回の記事非公開という決断で組織体制の変更はありますか。

(今日の)朝決めたことですので、今後の体制に関してはまだ考えてないです。

DeNA Palette、再開のめどは

— ヘルスケア事業は南場氏が担当しているとのことでしたが、今どういったコミュニケーションを取っていますか。

(南場氏は)毎日会社に来ていますし、週1回経営会議もやっているので、普通に常勤役員としてコミュニケーションしています。

–今回の騒動について何か話し合いがあったのでしょうか。

いくつかありましたが、多くの方々に迷惑をお掛けし、これまで積み上げてきた信頼を全て失ってしまったと思っているので、まずは失った信頼を取り戻していくという話を今はしています。

— ネット上では本事業について「南場さんが舵をとるべき」という意見も見かけました。

外部で色々と言われていることがあるのですが、現時点で何か体制を変える、といったことは考えてないです。

— 今後、健全化のスキームを考えるとコストが1記事あたり10倍以上の単位で変わってくると思っています。すでに医療従事者などに1記事1万円以上でWELQの記事の監修を依頼しているというもあります。今後のコンテンツ制作コストに関して同お考えでしょうか。

今回の問題では、SEOを主体に考えすぎていたと思っているので、まずはユーザーに喜ばれるコンテンツ作りをやっていきます。それにあたって、方針や手法は変えていかなければいけない。その過程で発生するコストはやっていかなければ分からない部分もあるので、何とも言えません。

–WELQも問題さえクリアになれば再開するのでしょうか。

そうですね、ユーザーにとって役立つサイトになれたら再開したいと思っています。信頼できる医療情報を求めている人たちは多くいるので、コンセプト自体が間違っているとは思っていません。ただ、記事の作り方や監修が問題でした。それをちゃんとやったときにビジネスとして成り立つかどうかは別の話。ユーザーにとって役に立つ記事が出せて、ビジネスとして成り立つのであればやっていきたいと思っています。

–SEOによって「検索結果を汚した」という声もあります。インターネット事業を手がける会社の一個人として、どうお考えでしょうか。

DeNAは1999年からインターネット事業を手がけています。、私自身もインターネットがすごく好きですし、インターネットサービスを多くの人たちに必要と思ってもらいたいので、そう言われてしまうのはつらいし、変えていきたい。

ただSEOそのものが悪いと思っておらず、ユーザーにとって役立つコンテンツを作り、その記事の検索順位を上げていければ、社会的にも良いことだと思っています。ただ、今回はテクニックに頼りすぎてしまっていたのではないかと思います。

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。