DidiによるUber China買収で先行きが不安な「アンチUber同盟」

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メディアやテック業界にいる人の多くが、中国現地法人をライバルであるDidi Chuxingに売却するというUberの決断が失敗であったと捉えている。Uber Chinaを1番のライバル企業に売却するというのが、メンツを保つための行為であり、逆境に打ち勝って中国での成功を試みていたアメリカ企業にとって避けられない結末だったと考えるのは簡単だ。

しかし、取引の詳細についてもっと詳しく見てみると、今回の事業売却が、両社どちらにとっても上手く出来た話のように見えてくる。

まず、今回の話が急にまとまったものだと思わないでほしい。売却の噂は、両社が否定する中、1ヶ月に渡って広まっていた。さらに、交渉内容に詳しい情報筋によれば、この話はUberとDidiの間に既に2度も行われていたが、上手くいってなかった。つまり、今回の話が3度目の正直だったのだ。さらにもっと大切なことに、事業売却はUberがメンツを保とうとしているというよりも、両社がアライアンスを組もうとしていることを意味する。

同様に、Didiが親切心から買収をしようとしているとも思わないでほしい。Didiは、Uberが中国で数十億ドル規模の投資をし続け、弱っていくのを傍観することもできたのだ。Appleを投資家に含むラウンドで73億ドルもの膨大な資金を調達し、Didiはその資金調達力を見せつけたが、中国やその他の地域でのUberの脅威を取り除くために、彼らから何かを奪おうとしていたのだ。つまり、今回の話には、Uberの戦略的な撤退以外の双方にとっての利点がある。

それでは交渉はどのように進むのだろうか?

まず、もちろんUberは、同社のCEOいわく毎年10億ドルものコストがかかっているという中国事業と引き換えに、中国のライドシェアリング業界において支配的な立場にあり、評価額が350億ドルにおよぶDidiの(恐らく)20%近い株式を取得することになる。なお、350億ドルという評価額は、2015年の合併後にDidiが誕生したときから比べると、約11倍の額だ。

しかし、もっと大きな成長余地がそこにはある。

今年の夏のはじめに、Didiで国際戦略部門のシニアディレクターを務めるLi Zijianは、同社が中国のタクシー市場で1.1%しかシェアをとれていないとの推計を発表した中国の新たな規制により、UberやDidiのサービスは11月から合法化されることから、今回のUber Chinaとの統合と合わせるとDidiのビジネスが何倍にも成長することが見込まれる。さらにUberも同社の最大の単一株主として、その利益を享受することになる。

Didiの株式を保有することで、Uberはバランスシートから現金を食い荒らしていた中国事業を取り除くことができ、待望のIPOに向けて前進することができる。さらに、Didiは自社のIPOの計画に関するニュースをこれまで否定していたものの、膨大な成長可能性を持つDidiの株主となることが、今後大きな利益に繋がる可能性が高い。

中には、Uberがこのような潜在的な財務利益を求めていたなら、単純にもっと早い段階でDidiへ投資することで時間とお金を節約できていたのではないかと主張する人もいる。しかし、もっと早い段階でDidiへ投資するためには、まず合併前のDidi KuaidiとDidi Dacheどちらへ投資するのか選ばなければならなかった。また、もっと重要な点として、Uberとの競争が無くともDidi Chuxingは今日の姿にまで成長することができたと考えるのは賢明ではない。

一例として、Uberは2014年末にPeople’s Uberを発表し、中国におけるP2Pサービスの先駆者となった。それ以前には、Uberが行ったスケールのP2Pサービスは存在しなかったのだ。Didiはその当時まだ準備段階にあったためその波に乗り遅れてしまい、People’s Uberの発表から6ヶ月程経った後に自社のライドシェアリングサービスを発表した。Didiは、当初ライセンスを持ったタクシーのみを利用しており、この例から、Uberとの競争が明らかにDidiのビジネスを形作り、その成長を支えていたと分かる。

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Didi同盟に広がる不透明感

統合の本当にネガティブな影響は、アメリカのLyft、インドのOla、東南アジアのGrabからなるDidi同盟におよぶことになりそうだ。

これら4つの企業は、「アンチUber同盟」と呼ばれる同盟を昨年組み、ユーザーが旅行時に各企業のサービスを利用できるようにしたり、ノウハウを共有したりと、事業におけるシナジー効果を狙っていた。それと同時に、Didiは他3社に対して投資を行っており、Lyftへは1億ドルを出資し、昨年行われたOlaの5億ドルのラウンドと、1年前に行われたGrabの直近となる3億500万ドルのラウンドでは、それぞれ金額非公開のマイノリティ出資を行っていたのだ。

宣伝効果を狙ったものと見られることが多いが、この連合によって、Didiの同盟企業は結束力を高め、Didiからのサポートを受けることができ、さらには投資家を安心させることができたと考えられている。気まぐれに数10億ドル規模の資金調達ができるほどの力を持っているとされるUberのように、グローバルで活躍する大手企業と戦う上で、これらの要素は重要になってくる。

しかし、今回のUberとDidiの統合を受け、同盟関係は良くとも不安定、悪ければ混乱状態にあるように見える。

Didiが天敵であるUberと統合し、株式の相当量を渡してしまっただけではなく、Uberのグローバルビジネスに対しても、Bloombergが10億ドルにのぼると発表している詳細不明の投資を行ったのだ。Uberにとっては、これまでの調達資金額を考慮するとわずかな額でしかないが、Bloombergの数字が正しいとすると、これはDidiが同盟企業に対して出資した額の何倍にもなる。

それだけにとどまらず、Uber CEOのTravis KalanickがDidiの取締役に就任し、さらにはDidi CEOのCheng WeiもUberの取締役となったのだ。

私自身を含む多くの人が、同盟自体やDidiの同盟企業への出資を、海外進出に向けた買収の第一歩として見ており、当時の状況にもマッチしていた。しかし、Uberとの統合により、全てが論争に投げ込まれることとなる。つまり、東南アジアを例にすると、今やUberと同盟を組むことになったDidiは、Grabをどのようにサポートしていくのだろうか。両社を戦わせ合って、買った方と同盟を組むのかもしれない。

これはもちろん仮説だが、昨日までは考えることも出来ない話だった。

Didi同盟企業の反応

Grabはこのニュースを楽観的に捉えており、CEOのAnthony Tanは取引が確定する前から肯定的な態度を示していた。Tanは、TechCrunchが入手した社内向けのメモに、Uberの撤退は各地域のローカル企業でもUberを打ち負かすことができるという証拠だと述べていた。

「一度負けを味わったUberを、私たちがもう一度負かせよう」とTanは社員に向けて語った。

まさしくケンカの売り言葉のようだが、Uberを撤退に追いやった中国の状況と、東南アジアの状況は異なるため、単純比較はできない。ほぼ間違いなく、補助金合戦は中国に比べずっと穏やかなものになるであろうし、Uberは東南アジアへの進出を本格化しはじめたばかりだ。

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Tanは、公の場では社員たちを元気づけていたが、影では今回の出来事の成り行きにがっかりしていたことだろう。

一方Lyftは、UberとDidiの取引について、もっと落ち着いた様子のコメントを発表した。

「今後数週間の間に、Didiとのパートナーシップに関する評価を行っていきます。私たちは、中国の規制面から、Didiに大きなアドバンテージがあるといつも思っていました。」とLyftの広報担当者はWall Street Journalに語った

インドのOlaは、統合に関する公のコメントを求める度重なる依頼に応じなかった。

状況がハッキリして、今回の統合が世界のライドシェアリング経済にどのような影響をもたらすのか分かるまで様子を見ていきたいと思うが、現時点では、多くの人が考えるよりもUberは断然有利な立場にあるようだ。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

投稿者:

TechCrunch Japan

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