Dropbox For Businessから強力なエンタープライズ向けAPIリリースへ―Boxとの競争激化

Dropboxにはコンシューマー向けサービスのイメージが強く、またh本格的なエンタープライズ向けセキュリティー機能を欠くために企業向けのDropbox For Businessの普及が遅れていた。しかしTechCrunchが入手した情報によれば、Dropboxはエンタープライズ向けの強力なツールとなるDropbox For Business APIをリリースするという。これによってこの市場の状況は一変する可能性がある。

明日(米国時間12/3)、正式発表予定(ただしこのリークの影響で時間が前後する可能性あり)のDropbox For Business APIを用いると、エンタープライズ・ユーザーはDropboxにサードパーティーのセキュリティーやコンプライアンス・ツールを接続することができる。また独自のDropbox For Business (DfB)向けアプリを開発することも可能となる。Dropboxは Microsoft、Dell、IBMを始め多くのエンタープライズ向けツールのベンダーと提携し、ローンチの時点でDfB APIはそれらのベンダーの主要なプロダクトをサポートするという。

われわれの問い合わせに対してDropboxからの回答はまだない。

Dropboxはエンタープライズ向けに必要とされる機能をすべて自製するのは時間がかかりすぎると判断したようだ。特に、Boxは何年も前から広汎なエンプライズ向け機能を備えたプラットフォームを構築している。Dropboxは1年前にエンプライズ向けサービスとしてDropbox For Businessをリリースしたが、これまえはサードパーティーとの連携がなかった。今回のAPIでDropbox For Businessのユーザーはセキュリティーを始め、これまで欠けていた機能をすばやく補えることになった。フル機能のエンタープライズ向けクラウドサービスに乗り換えずにすむわけだ。大企業ユーザーのDropbox利用形態を一変させる賢明な動きといえるだろう。

なぜDropbox For BusinessにAPIが必要だったのか?

コンシューマー向けDropboxには、写真の同期から高度なファイル検索まで連携アプリがすでに10万種類もある。これらTDropboxの3億人のユーザーを大いに助けている。

しかしエンタープライズ向けサービスで必要とされる機能はコンシューマー向けとは大きく異る。そこでDropboxは企業向けに別個のサービスとしてDropbox For Business(DfB)を4月に一般公開した。 これにはIT部門が監査ログを共有し、誰が何を閲覧したかを正確にチェックし、一部のファイルにアクセス制限をかけたり、社員が辞めたりデバイスが盗難に遭ったりした場合、リモートでファイルを削除するなどの機能が含まれている。

DfBはSalesforce、Slack、Asana、Trello、Yahooそして最近ではMicrosoft Officeとも提携して、これらのエンタープライズ・サービスからDropboxのファイルに容易にアクセスできるようにしている。

しかし本格的なエンタープライズ・ツールとなるためには、こうした提携はまだまだ序の口に過ぎない。必要な機能は数多く、Dropboxがすべてを内製しようとすれば何年もかかる。そこでAPIを公開し、サードパーティーの力を借りることで大幅な時間短縮を図ったわけだ。

DfB APIの機能

Dropbox For Business APIはDfBと多数のサードパーティーのエンタープライズ・ツールを接続する。

  • データ漏えい防止 – 個人が特定可能な情報、給与情報のエクスポートを禁じる
  • データ・マイグレーション – ビッグデータのバックアップ、統合を助ける
  • 知的所有権管理 – 業界標準や当局の規則に基づいてデータを暗号化して管理する
  • 個人認証 – DfBへの社員のアクセスについてログインと認証管理を行う
  • 法務管理 – 後日の法的紛争の際に必要となるデータを証拠能力のある形で安全に保存する
  • セキュリティー情報及びイベント管理(Security Information And Event Management =SIEM)– 社員のアクティビティ監査ログ

DfBユーザーはまたAPIを利用してスクラッチで独自のアプリを開発することもできる。

われわれが入手した情報によると、Dropbox For Business APIはローンチ時点でMicrosoft Azure AD、Dell Data Protection、IBM WebSphere Cast Iron、Okta, Domo、Splunk、Meldium、nCrypted Cloud、Mover.io、SkySync、Ping Identity、CloudLock、Centrify、Sookasa、CirroSecureの各サービスをサポートするという。Dropboxは今後APIを拡充し、パートナーも拡大していくことになるだろう。

Dropbox For Businessの料金は、現行の一人あたり月15ドルから変更はない見込みだ。これはBoxのビジネス・ユーザー向け料金同額だ。

孤立した SAASは存在し得ない

今回のAPIのローンチで、DropboxはBoxの手強いライバルとなりそうだ。しかしBoxのCEO、Aaron Levieは私の取材に対して、「われわれがプラットフォームと言うときは単にエンタープライズ向けセキュリティーだけでなく、きわめて広汎な機能を意味している」と語り、エンタープライズの業務フローのサポートも重要な要素だと例を挙げた。Dropboxはこの面でもBoxに追いつく努力をしなければならないだろう。

しかしエンタープライズ向けクラウド・プラットフォームはまだスタートしたばかりの市場だ。ITのコンシューマー化、私用デバイスの業務利用、ボトムアップの分散モデルなどはエンタープライズITの形態を根本的に変えつつある。Levieは「社内でセキュリティーを完結させるというモデルは過去のものだ」と述べた。どんな大企業でもゼロからすべての機能を自製することは不可能だ。成功したければ企業はサードパーティーのツールの適切な利用法を学ばねばならない。

Levieは「この数年のうちにエンタープライズ・プラットフォームのエコシステムが劇的に発達するだろう。大企業もサービスのベンダーも、このテクノロジーの進歩に対応してマインドセット自体を変えていかねばならない」と語った。

Dropboxが1年ほど前からやっきになってビジネス・ユーザーへの対応を図ってきたのも当然といえる。エンタープライズITの環境の激変はその波にうまく乗れたものに対して巨額の売上を約束するものだからだ。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+


投稿者:

TechCrunch Japan

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