Dropboxは企業のIT/CIOたちが持つネガティブイメージ”Dropbox問題”の払拭に躍起

ユーザ数が3億を超えたDropboxは、文句なく人気サイトだが、しかしBYODやITの消費者化(とくに調達の安易化)の浸透に伴い同社は、社員が個人的に使っているサービスを会社に持ち込んだときに生じかねない問題を象徴する存在になってしまった。今では、“Dropbox問題”という言葉が、企業世界で流行しているほどだ。Dropboxのプロダクト担当兼企業担当兼モバイル担当の部長Ilya Fushmanによると、今同社は、このネガティブな企業イメージの払拭に努力している。

昨日(米国時間6/5)同社は、ステルス状態だったメッセージングのスタートアップDroptalkを買収した。この小さな会社は、まだChromeのプラグインぐらいしかプロダクトはないが、Dropboxがこれから企業向けプロダクトを作っていくためには、メッセージングの機能が欠かせないのだ。

昨年同社はMailboxを買収しているから、両者を合わせると、急に同社の、企業指向という構図が見えてくる。現にFushmanは、今Mailboxを、とても広く使われているメールサーバMicrosoft Exchange対応にする作業を進めている、と言った。同時にまた、このプログラムのデスクトップおよびAndroidバージョンの開発と、Dropboxとの統合の深化にも取り組んでいる。

4月に同社は、Dropbox for Businessの強化バージョンをリリースし、ITやCIOの人たちに、彼らが必要とするバックエンドに対する細かいコントロールを与えた。この企業向けプロダクトでは、バケツが個人用と会社用の二本立てになる。そしてユーザにとっての‘見かけ’を、どちらか一つ、または両方、に設定できる。

4月の拡張リリースにより、オーディットトレイル(監査のためのログ)が導入され、問題が生じたときには、ドキュメントのそれまでの共有状況が仔細に分かるようになった。社員が別の会社に移籍したときには、必要な(主に個人用)コンテンツを新たな会社のDropboxに転送し、その社員の自社アカウントを消去できる。

さらに今後の計画としては、Fushmanによれば、データの共有と保持をもっと細かい粒度で指定できるようにしたい。また4月のDropbox for Businessで紹介されたProject Harmonyにより、企業の社員たちが使うアプリにデベロッパがDropboxを埋め込めるようになる。そうなるとたとえば、Officeの文書でコラボレーションした結果を、リアルタイムでDropboxに保存できる。ぼくの勘では、Droptalkの買収は、Dropboxの共有を前提とするこのようなコラボレーション機能のためではないだろうか。

こういった一連の取り組みの目的はもちろん、Dropboxが本格的なビジネスツールである、と企業顧客に思ってもらうことだが、まだ疑念は払拭されない。451 ResearchのアナリストAlan Pelz-Sharpeが4月に行われたAIIMのカンファレンスで、顧客から“Dropbox問題”の解決策を頻繁に聞かれる、と語っていた。社員個人が勝手にDropboxのようなソフトウェアを調達できるような状況は、企業にとってまったく新しい世界であり、どの企業も対応に苦慮している、と彼は述べた。

Pelz-Sharpeによれば、新しい世界への移行が困難なのは、Dropboxなどのサービスが伝統的なITとは無縁なところにあり、ITのあの字も知らないような人びとに愛されているからだ。“Dropboxがここまで急速に伸びたのも、ITフレンドリの道を最初から捨て、ユーザフレンドリの道を選んだからだ。彼らは伝統的なIT世界を無視している”、と彼は言う。個人とITの両ニーズ間のバランスを見つけるのは、大企業よりも中小企業の方が容易だろう、ともいう。Boxのような新しい企業も、またIBM、Oracle、Citrixなども、今ではそれができる立場にいる、とPelz-Sharpeは語る。

“中小企業市場は市場規模が大きい(数が多い)し、また大企業のように複雑なシステム統合要件やコンプライアンス要件などを抱えていないことが多いから、管理もセキュリティの確立もFortune 1000の連中より楽である”、だから、ユーザとITの両方をハッピーにしたいというDropboxの願いも、中小企業の方が実現しやすい、とPelz-Sharpeは語る。

Constellation Researchの協同ファウンダR Ray Wangも、4月の本誌記事で、Dropboxが企業に顔を向けるのは良い方向性だけど、現状ではまだ、大企業の顧客に十分アピールするものがない、と言っている。

BYODの時代におけるITサービスという、新しい機会を商機に育てようと虎視眈々とねらっているのは、Box、Google、Microsoft、Egnyte、Citrix, Oracle, IBMなどなど、Dropboxにとって強敵ばかりだ。でもFushmanに言わせると、Dropboxにも強みがある。CIOがツールを探そうとしたとき、Dropboxはすでに社員たち一人々々が使っているツールなのだ。だから、それを会社として公式に採用するのが、断然簡単である。しかもよく見れば、企業が必要とする機能も、揃っているではないか。

企業のDropboxに対する悪いイメージを払拭するためには、企業向け機能の充実とともに、積極的な営業マーケティング活動が重要、とFushmanは言う。“CIOたちに実際に会って話を聞くと、みんな、‘Dropboxに対する不安感はない’と言ってくれる。‘社員たちが好きなものを、社員たちに与えるのは当然だ’とも言う。要はしかし、企業がBYOD的サービスとしてDropboxを採用しようとしたとき、企業ニーズから見て欠けている機能が、そこに一つでもあってはならない。

その点が、今のDropboxでは十分ではないかもしれない。しかし同社は今、個人の仕事データと企業データの完全分離や、企業ユーザからのバックエンドコントロールの高度化、など企業ニーズへの対応に注力しており、それによってCIOたちが安心し、“Dropbox問題”が過去の死語となることを、期待しているのだ。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))


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TechCrunch Japan

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