Essentialの崩壊後、後継者OSOMはプライバシーを重視した新端末を計画する

2020年のEssential(エッセンシャル)の崩壊は、これほど高い注目を集めた家電スタートアップの敗退としては近年稀に見るものだった。2017年、泣く子も黙る人物が壮大な野心と3億3000万ドル(約377億7700万円)を投じて立ち上げたEssentialは、業界の問題やそれにまつわる失望、創業者Andy Rubin(アンディ・ルービン)氏に対する疑惑などが重なり業務停止に追いやられた。

最終的にはCarl Pei(カール・ペイ)氏が自身の新会社のために同ブランドを購入。ペイ氏は同社名を「Nothing(ナッシング)」と名づけているが「『Essential』は、同社が『Nothing』になる以前に社内で候補としていた名前の1つでした。そのために商標権を取得したのです。Essentialで何かをする予定はありません」と同氏は2022年初めに話している。

より精神的な後継者に近い存在がOSOMという形で登場した。元Essentialの社員らが設立した同社は、ここ数カ月の間にわずかに報道がなされたもののほとんど公になることはなかった。しかし米国時間12月21日、カリフォルニア州クパチーノに拠点を置く同社は、多くの人が予想していたことを正式に発表した。OSOM(「awesome」と同音)は携帯電話を開発しているのだ。

同社が開発中のOV1デバイスを見ると、少なくとも外観的にはEssential PH1を世に送り出したのと同じチームが手がけた作品であることがよくわかる。しかし同製品はモジュール関連の機能ではなく、中核として「プライバシー」を念頭に置いて設計されている。つまりユーザーがデータのプライバシーを確実にコントロールできるように設計されているのである。

MWC 2022を目前にして、それ以外の詳細はまだ明らかになっていない。そこで私は、2021年中旬に共同設立者でありCEOのJason Keats(ジェイソン・キーツ)氏にOSOMとその携帯電話の詳細について聞いてみることにした。

TC:発表は約2カ月後ですね?

JK:そうですね、詳細をお伝えするのは2カ月先になります。MWCで発表を行い、2022年の夏に出荷する予定です。今できるのは、私たちが携帯電話を作っているということの発表だけです。みなさんにはとても期待していただいており、2022年はファンのみなさんに何かをお届けしたいと思っていたので、辛うじて間に合うことができました。

TC:御社はまだ謎めいた存在であるため、どういった人のことをファンと考えたら良いのでしょうか。

JK:驚いたことに、Essentialのファンは初期の頃からとても支援してくださっており、将来に向けて今私たちが作っているものに対しても大きな期待を寄せてくれています。それから今後、根強いAndroidファンのみなさんも多く獲得することができると思います。現在、Pixel以外ではフラッグシップ的なAndroidフォンが存在しません。そこを改善し、またプライバシーを重視したソフトウェアをすでに開発していますし、さらなる改良を続けています。

TC:既存のチームの中で、Essentialから移ってきた人は何人いますか?

JK:EssentialでPH1を作ったときは総勢30人くらいだったと思います。そのチームから15人ほどが参加しています。デザイン、エンジニア、プロダクトデザイン、ソフトウェアエンジニアリングなど、本当にコアなメンバーが揃っています。

TC:チーム全体の規模はどうですか?

JK:約30人です……3分の2以上がエンジニアです。

TC:事実上、ゼロになってしまった会社をどのように再建したのですか?

JK:Essentialで起こったすべての欠陥や出来事の中で、私が(ルービン氏を)永遠に称賛することができるのは彼のリクルート能力です。彼は信じられないような才能を持った人材を採用してきました。彼から会社が潰れると聞いたとき、私は次の行き先を模索しました。Google(グーグル)やApple(アップル)では働きたくないし、Amazon(アマゾン)に行きたいわけでもありません。ここには密接に協力し、一緒に苦難の道を歩んできたすばらしいチームがあります……。

私たちは(Essentialの)最大の問題が、おそらく焦点の欠如であることに気づきました。私たちは目的を持つ必要があると考えました。何のために解決しようとしているのか。特に2020年の時点では、プライバシーに関する一貫した取り組みが行われていないことに気づいたのです。

TC:世間はこれ以上新しい携帯電話ブランドを必要としているでしょうか。

JK:はい、確実に必要だと思います。プライバシーの保護に重点を置いているものが必要であり、それには大きな理由があります。仮に当社がプライバシー保護のためのソフトウェアを開発しているソフトウェア会社だったら、Play Storeで公開して、人々にインストールしてもらえば良いことです。しかし、携帯電話に入れたアプリだけでは、システムに組み込まれていないため簡単に無視したり、オフにしたりすることができます。デバイスに組み込まれていないからです。それが我々のやるべき仕事です。当社はOEMメーカーであり、Qualcomm(クアルコム)のTrustZoneにアクセスでき、そのシステムソフトウェアにアクセスできるため、ユーザーが使用を選択できる真のプライバシー重視のソフトウェアを構築することができます。どちらにしても、ユーザーに選択肢を与えることが重要なのです。

TC:プライバシーを主なセールスポイントとするこの携帯電話に飛びついてもらうというのは、難しいことだとは思いませんか?

JK:米国においては、AppleユーザーではなくAndroidユーザーをターゲットとしています。その場合、Androidユーザーにはブランドロイヤリティがあまりなく、ユーザーはいろいろと試してみたいと考えています。プライバシーに関してはすでに複数のパートナーと提携し、プライバシーのために彼らのソフトウェアやハードウェアを使用している人についての高度な統計データを共有してもらっていますが、そこから見えた数字は驚くべきものでした。プライバシーへの大きな需要があり、人々がプライバシーのためにお金を費やしていることがわかったのです。

TC:現実的にはどのくらいの台数を想定していますか?(米国、カナダ、そしてヨーロッパ全体に)幅広く見据えているようですが、Essentialの数字は予想されていたものとは違っていたようですね。

JK:おもしろいことに、Essentialが開始した時の初年度の目標は10万台でした。結果、初年度のエンドユーザーへの販売台数は30万台弱でした。最大の問題は、(ルービンが)多額の資金を調達していたため200万台の出荷が期待されていたということです。10万台を想定してスタートし、30万台売れたとしたらそれは大成功と言えるでしょう。要はどのような指標を使うかということなのです。OSOMの場合、初年度に20万台売れたら大喜びでしょう。私たちはこれから長い間ここにいる予定ですから。

TC:(Essentialでは)外部からの期待が大きすぎたために物事が崩れてしまったのでしょうか?

JK:何が悪かったのか話し始めれば本が一冊できてしまうほどです。些細なこともたくさんありました。

TC:ひと言でまとめると?

JK:トップが下した多くの決断は、我々が成功するためには直感に反するものでした。

TC:御社の資本金については560万ドル(約6億4000万円)を調達したことが報告されています。これまでの資金調達はどのようなものでしたか。

JK:2000万ドル(約22億9000万円)を確保しました。そのうちのいくらかは投資家によるもので、一部はチャネルパートナーからの予約注文でした。初年度にサポートできるだけの最大数に近い注文数をすでに受けています。投資家の大部分は私と共同設立者のWolfgang(ウォルフギャング)から来るものが多く、外部のVCはすべて主にカナダの企業でした。

TC:最初のシード資金に加えて、シリーズAはありましたか?

JK:現在、シリーズAの真っ最中です。

TC:Playground(プレイグラウンド)は関わっていますか?

JK:いえ、彼らとはじっくりと話をしました。ブルース、マット、ピーターといった同社のチームとは今でもとても良い友人です。今でもアイデアの相談相手として頼っています。

TC:会社が正式に設立されたのはいつですか?

定款は2020年4月20日に提出されました。

TC:社名を「Awesome(すごい)」という単語と同音にした理由は?また名前と文字とどちらを先に思いついたのですか?

JK:(ルービン氏)からEssentialが潰れると聞いた20分後には「よし、自分のことは自分でやろう」と決意していました。私は分かりやす過ぎるものが好きではありません。家中に配線やプラグなどあれこれあって気が狂いそうになりますよね。それで別の製品のアイデアを思いついたのですが、これはいずれ作るかもしれませんし、作らないかもしれません。携帯電話とは何の関係もない、ただクレイジーなアイデアです。でもそのアイデアは目に見えないし、頭にも残っていない。スタートレックで未来のテクノロジーの話をするときに、人々や一般の消費者が本当にイメージするものは何かというと、何かがエーテルの中から答えてくれるという感覚だと思うんです。壁から20cm離れたところの机の上の置いてある、長さ3メートルのケーブルがついた物ではありません。アイデアはエーテルから出てくる「Out of Sight Out of Mind(目に見えず気づかない)」というものでした。ああ、OSOMか。じゃあ「Awesome」と呼ぼうと思い、香港のホテルから登録しました。

TC:そのような初期のアイデアを今応用しているものはありますか?プライバシーは当然その1つでしょうか。

JK:当社のソフトウェアを構築する方法として、まったくその通りの考えを応用しています。目に見えず、気づかないというのが我々の発想ですから、安全を確保したいときには、自分のデバイスが安全を確保してくれているということをただ信じればいいのです。

TC:現在は米国の会社なのでしょうか?

JK:はい。当社はデラウェア州のCコーポレーションです。他のハイテク企業と同じように、おそらくすべてがまったく同じ住所で登録されています。

TC:カナダ政府に対してインセンティブについて話をしているようですが……今後もクパチーノに本社を置き続けるつもりですか?

JK:今のところは宙に浮いた状態です。米国法人であるOSOM Productsは存続し続けますが、いずれ本社はカナダに移すかもしれません。

TC:EssentialとOSOMの共通点は何ですか?哲学、または美的感覚など。

JK:美的感覚は100%共通しています。同じデザイナーDave Evans(デイヴ・エヴァンス)と私がインダストリアルデザインを担当していて、PH1の後継機とは考えていませんでしたが、最初のプロトタイプを見たら「明らかに同じチームがデザインしたものだね」と気づきました。素材の面でも外観の面でも、同じスタッフが引き継いでいます。ソフトウェアチーム、特にAndroidとセキュリティアップデートに関しては、Essentialの超高速アップデートを担当したチームがここOSOMにいます。

TC:広告については、世に溢れる800社の携帯電話メーカーとの差別化をどのように図る計画ですか。

JK:とても楽しみにしているのでまだ何も教えたくありません。でも、こうとだけ言っておきましょう。当社の幅広いチームに同キャンペーンのアイデアやドラフトを見せると、当初からEssentialにいた人たちはみんな「なんでこれを今までやらなかったんだろうと」と言います。差別化のためには、マーケティングに費用をかけなければなりません。調達した資金の大部分がマーケティングに使われています。

TC:スペック面では何を期待したら良いですか?

JK:ハード面でもソフト面でも、フラッグシップモデルといえるでしょう。

TC:最初のハードとして価格を抑えるのは難しいですか?

JK:そんなことはありません。私がEssentialから引き継いだチームは、サプライチェーンに関しては世界でも最高レベルです。パートナーも驚くほど協力的で、驚くようなレートを手に入れることができました。「AppleやGoogleと同じ価格で提供して欲しい」という内容のミーティングを何度か行ったことがあります。

TC:では他のフラッグシップモデルと似たような価格となっているのですね。

JK:1000ドル(約11万円)を大きく下回ることになるでしょう。

画像クレジット:OSOM

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(文:Brian Heater、翻訳:Dragonfly)

投稿者:

TechCrunch Japan

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