EUの新型コロナワクチン「デジタルパス」が稼働、ドイツなど7カ国が先行導入

欧州連合(EU)の新型コロナウイルスのワクチン接種あるいは検査結果を域内で証明する汎EU「デジタルパス」を支えるシステムの運用が6月1日に始まった。いくつかのEU加盟国がゲートウェイにつながり、7月1日の完全始動までさらに多くの加盟国が加わることが予想されている。

EUの新型コロナデジタル証明は、EU市民の新型コロナステータス(ワクチンを接種したかどうか、最近の新型コロナ検査が陰性だったかどうか、あるいは新型コロナからの回復の証明)を確実に認証しようというもので、EU市民が域内で国境を越えるとき、その旅を安全なものにするのが狙いだ。

デジタルパスは、改ざんを防ぐのに公開鍵暗号方式を使って認証されたQRコードとデジタル署名に頼っている。デバイスへのアクセスを持たない人が使える紙ベースの認証もある。

テクニカルテストを終え、準備の整った加盟国は任意で認証の発行や検証を開始できる、と欧州委員会は6月1日に述べ、現時点で7カ国(ブルガリア、チェコ、デンマーク、ドイツ、ギリシャ、クロアチア、ポーランド)が開始する意向だ。

他の国は、すべての機能が国内全域で展開されてからEUデジタル新型コロナ認証を立ち上げることにしている、と欧州委員会は付け加えた。加盟国のシステムアクティベート状況はこちらのウェブページで確認できる。

欧州委員会によると、5月10日以来、EUの22カ国がゲートウェイのテストを成功させ、関連する規則が適用される7月1日までに最大のアップデートを行いたい考えだ。

しかしすべてをうまく接続させるのにさらに時間が必要な加盟国のために、認証発行に6週間の「段階的導入期間」が認められている。つまり、最も遅い実行は夏が終わるころになるかもしれないことを意味する(6月までに域内全域で実装するというEU議員らの初期の目標は常に野心的だったようだ)。

欧州委員会は、認証の署名キーは各国のサーバーに保存されると指摘し、新型コロナデジタル認証の検証プロセスではパーソナルデータが「交換されたり保持されたり」することはないと話す。こうしたキーはゲートウェイ経由で各国の承認アプリあるいはEU全域で使われるシステムによってアクセスできる。

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欧州委員会はまた、EU加盟国による展開をサポートすべく、証明の発行、ストレージ、検証のためのレファレンスソフトウェアとアプリも開発し、GitHubで公開した。同委員会によると、これまでに加盟国12カ国がこのコードを利用した。

EU各国の当局が新型コロナデジタル認証の個人への発行を担当する。市民が認証を取得するには、新型コロナ検査センターや地元の健康衛生当局、あるいは国家eHealthポータル経由など、さまざまなルートがある。

ゲートウェイの立ち上げに関する声明の中で、EUの健康・食品安全担当委員Stella Kyriakides(ステラ・キリヤキデス)氏は実行に取り掛かり、完了するよう加盟国に促した。

「EUデジタル新型コロナ認証は、市民のための効果的なeHealthソリューションに加わった価値です」と同氏は述べた。「システムが休暇シーズン前までに機能するよう、今後数週間で全加盟国が認証の発行、保存、検証を行う自国のシステムの準備を完了させることが重要です。EU市民は再び旅行することを楽しみにしており、安全に旅行したいと考えています。EU認証の取得はそれに向けた重要なステップです」。

新型コロナデジタル認証の立ち上げについては、欧州委員会委員長のUrsula von der Leyen(ウルズラ・フォン・デア・ライエン)氏もコメントし、おそらくパンデミックが2022年夏までに終息すると仮定し、システムは1年間のみ活用されると述べた。

「EU認証は、我々の価値を示すデジタルツールの最たる例です」と2021デジタル会議でのスピーチで同氏は話した。「EUはプライバシーを尊重します。パーソナルデータは交換または保持されません。EUは包括的です。ワクチンを接種していない人は検査や回復のデジタル証明を取得できます。スマートフォンを持っていない人は紙の証明を入手できます。証明でもって我々はパンデミックの中にあっても人々が自由に行き来できるようにしたいと考えています。だからこそこのシステムは1年間のみの活用となっています。欧州はこの分野で先頭に立っており、グローバルレベルで基準を設定できます」。

スピーチの中で同氏はまた、別のデジタル提案についても予告した。別の案とは、信頼できるオンラインIDを欧州の人々に提供するというもので、このIDは厳密に必要なもの以上のデータを提供させられることなく域内の政府や企業とやり取りするのに使えるというものだ。

「欧州の人々に新しいデジタルIDを提供したいと考えています。信頼を保証し、オンライン上でユーザーを守るIDです。案をまさに提示しようとしているところです」と同氏は述べた。「誰もが自分のIDをオンラインで管理し、欧州中の政府や企業とやり取りすることができるようになります。手近な目的のために必要以上に多くのデータを開示することを強制されるべきではありません。オンラインでホテルの部屋を予約するのに、私がどこから来て、誰が私の友達なのかを誰も知る必要はありません。案では大手オンラインプラットフォームのモデルの代替となるものを提案しています。我々は人間中心のデジタルトランジションを信じています」。

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カテゴリー:パブリック / ダイバーシティ
タグ:EU新型コロナウイルスワクチンプライバシー個人情報

画像クレジット:Sebastian Gollnow / Getty Images

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(文:Natasha Lomas、翻訳:Nariko Mizoguchi

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TechCrunch Japan

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