Facebookがジェスチャーでアバターに感情を持たせる「VR絵文字」を発明

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握った拳を振ると、仮想現実世界にいるアバターが「怒った」表情を見せる。映画「ホームアローン」の主人公のように、手を顔にあてれば「ショック」の表情だ。高々と手をあげればバーチャル世界のあなたが「喜んだ」表情を見せてくれる。

これはFacebookが開発する「VR絵文字」の例であり、Facebookが考える仮想現実世界での感情表現のあり方なのだ。アバターの頭の上に黄色の絵文字が表示されるわけではない。アバターの目、眉毛、口などが動き、現実世界さながらの表情をつくり出すのだ。

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FacebookのソーシャルVR部門を率いるMichael Boothが絵文字による感情表現について話してくれた。「私たちはテキストメッセージで感情表現をしたい場合、絵文字を使います」。テキストメッセージでは声のトーンや体の動きは伝わらない。だからこそ、テキストがもつ本当の意味を表すために絵文字が誕生した。これが無ければ、例えば「うそー」と書かれたメッセージを受け取った場合、それが「興奮」を表すのか、または「疑念」を表すのかを知ることは難しいのだ。

Boothが目指すのは、本当の顔を見ることができないソーシャルVRならではの感情表現の曖昧さを減らすことだ。その結果、単なる「いいね」以上に細かな感情を表現できる360 News Feedの「Reactions」よりも、さらに優れた方法を発明することに成功したのだ。

「アバターに感情を持たせるために、その引き金となるボディーランゲージを作るというアイデアです」と彼は語る。それこそが、Boothが言うところの「VR絵文字」なのだ。「私たちは無表情の存在にはなり得ません。(仮想現実にも)目があり、口がある。感情がなければ、なんの情緒も生まれないのです」。仮想現実世界で友人にショッキングな出来事を伝えるとき、無表情ではまったく臨場感が伝わらない。私たちは顔から情報を得ることに慣れ親しんでいるのだ。

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例えば、現実世界で何かについて長い説明を行うとき、相手の困惑した表情を見れば自分の話している内容が伝わっていないことが分かる。そのため、難しい言い方を避けたり、話の背景を説明したり、違う言い方でもう一度説明したりするべきだと分かるのだ。

VR絵文字がなかったとすれば、理解できてないことを伝えるために相手の話をさえぎるか、自分の言いたいことが伝わるか分からないまま手を振り回すか、話が終わるのを待つしかない。VR絵文字を使えば、そういう場合には手のひらを上に向けて肩をすくめるポーズをすれば、アバターが眉をしかめ、口をゆがませて困惑した表情を見せてくれるのだ。ただし、BoothはVR絵文字を使うためのジェスチャーは変更される可能性があると注意している。

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Mark Zuckerbergは、人間の脳がどのようにソーシャルVRを処理するのかを説明した

VR絵文字は目の動きや顔の表情のトラッキングを必要としない。VRヘッドセットにトラッキング機能を持たせるためには、追加のハードウェアが必要となってしまう。FOVEなど一部のスタートアップのなかにはアイトラッキングが可能なヘッドセットを開発する企業もあり、VRチャットアプリのAltspaceなどはアバターの目の動きをユーザーの目の動きと合わせている。しかし、アイトラッキング機能はOculus Rift、Gear VR、Google DaydreamとGoogle Cardboard、HTC Vive、Playstation VRヘッドセットには搭載されていない。

FacebookのソーシャルVRにおいて、実際の人間と同じようなアバターを生み出すうえでの4つのゴールをBoothが教えてくれた。

  1. “アバターで再現された自分の外見に満足できる”
  2. “一目見るだけで友人が自分だと気付いてくれる”
  3. “気味が悪かったり、不快にさせるような見た目ではない”
  4. “Facebookは17億人ユーザーそれぞれに似せたアバターを創り出すことができる”

Facebookはアバターをユーザーに似せる方法をまだ模索中だ。一つの選択肢は、ユーザー自身がアバターで再現する自分の顔を描くことができるイラストレーション・ツールだ。もう一つの選択肢として、Occipital Structureセンサーなどを使ってユーザーの頭部をモデリングする方法がある。SNSにアップロードされているユーザーの写真からVR用の顔を再現することも可能だろう。

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どのような方法が採用されたとしても、信頼するに足る働きをしてくれることだろう。さもなければ、上の1番と4番のルールに反したグロテスクな見た目のアバターが生まれるかもしれない。

ライブVR

幸いにも、Boothはアバターにとても精通する人物だ。彼はValveでゲーム製作に10年間携わり、同じくゲーム会社のBlizzardでも2年間勤務している。彼は自身のVRゲームスタジオを立ち上げる予定だったが、FacebookがBoothの元を訪れ、ソーシャルVR「Toybox」のデモを彼に見せつけた。彼はそのデモに「本当に圧倒されてしまった」と話している。BoothはFacebookのチームに参加することになり、本日プロトタイプが公開された名称未定のソーシャルVR「Toybox」の責任者に昨年12月から就任している。

リアルな存在感だけでは十分ではなく、VRに意味を持たせなければならない。仮想現実世界で「やること」が無ければいけないのだ。BoothとMark ZuckerbergはVR絵文字の発表に加えて、アバターとなった友人と一緒にVR上の目的地を訪れるというデモンストレーションを見せた。デモの中で彼らは、トランプを楽しんだり、テレビを見たり、ちゃんばらごっこをして遊ぶ姿を観衆に披露した。なにかクールなものを見つければVRでセルフィーを撮ることだってできるし、手首にあるボタンを押すことで、撮ったそばからFacebookでその写真をシェアすることもできる。VRでFacebook Messengerのビデオ通話を受け取れば、バーチャル世界の自分と現実世界の通話相手が会話することになる。

だが、これらの機能はまだ序の口だ。Facebookが計画しているのは、ユーザーをVR世界のビデオカメラマンにすることだ。Facebookは「バーチャルなカメラを持って動き回ることができる」機能を開発中だとBoothが話してくれた。これにより、VRヘッドセットを持っていない友人でもユーザーのFacebookにアップされたその映像を見てVRの楽しみを知ることができるのだ。「ユーザーは自分の友人のためにVR世界の2Dカメラマンになることができるのです」とBoothは語る。「ビデオをストリーミングすれば、スーパースターの一員です」。

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FacebookのソーシャルVRの進化過程。初期段階のアバターからブロック型のアバター、丸みを帯びるようになったアバター、そして感情をもった生き物へ。

Facebook Liveストリーミングを現実世界からデジタルな世界にまで広げるというコンセプトによって、ビデオにフォーカスするFacebookはソーシャルVRを同社の中心的製品と考えるようになった。OculusとFacebookはそれぞれが固有のものとして始まったプロダクトではあるが、その境界線が薄くなってきているのだ。

Facebookが思わず夢中になるようなVR体験を大規模に実現できれば、その後は「マネタイズの方法を考えることになるでしょう。VR世界での広告はとても面白い存在になることは明らかです」とBoothは話す。

ただ、現時点でのソーシャルVRは世界をつなげ、どこにいても友人とのつながりを感じさせるというFacebookのミッションを達成するための次世代の方法でしかない。ごく基本的なプロフィールから写真付きのプロフィール、そしてニュースフィードの自動再生ビデオへと進化したように、テキストチャットからマルチメディアで機能するMessengerアプリへと進化してきたように、ウェブからモバイルへ、そして今ではVRへと進化したようにFacebookはこれからも進化し続ける。それを実現するテクノロジーが何であれ、Facebookはその第一原理である「People First」に忠実であり続けるのだ。そうBoothは語っている。

[原文]

(翻訳: 木村 拓哉 /Website /Facebook /Twitter

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TechCrunch Japan

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