Facebookが通常のTVをスマートTVに変身させるチャットデバイスPortal TVを発表

米国時間9月18日、Facebookはリビングのテレビに接続して大画面でビデオチャットを楽しめるPortal TVを含め新しいPortalシリーズを発表 した。各種サービスからコンテンツをストリーミングすることもできる。価格は149ドル(約1万6200円)だ。カメラ内蔵のデバイスをテレビの上に置くことにプライバシー上の抵抗があるかもしれないが、Portal TVのカメラはワンタッチで物理的にフタができる。

AppleやGoogleなどライバルのプロダクトがテレビのスマート化が主目的なのに対して、Portal TVは大画面テレビで家族がビデオチャットを楽しめる点がユニークだ。ソーシャルネットワークをリビングに持ち込む足がかりとした点でPortal TVは新しいジャンルを切り開いた。ハード、OSともFacebook自身が開発・販売する。

Facebook Portal Lineup
Portal TVはこれまでの画面付きPortalデバイスに比べてはるかに小型化された。自動ズーム機能を備えたAIカメラ、 Alexa接続の音声アシスタントを内蔵し、Messengerのビデオチャットの他にWhatsAppの暗号化ビデオ通話が可能だ。またSpotifyの音楽に加えてAmazonプライムビデオを利用できるようになった。この149ドルのデバイスはHDMI端子を備えたテレビならほとんどすべてに接続できる。

全流通経路での販売に先立ち、今日からPortal.facebook.comでセールが始まっている。米国やカナダではAmazonとBest Buyで販売される。また英国やオーストラリア、ニュージーランド、スペイン、イタリア、フランスで発売が予定されているが、スマート音声アシスタントは当面、英語のみに対応する。Portalシリーズについては、Portal、Portal Miniが10月15日から、Portal TVは11月5日からそれぞれ出荷される。

Portal Mini Black

ただしPortalシリーズ製品は有力ビデオサービスのNetflixやHBOをサポートしていない。担当バイスプレジデントのボズことAndrew Bozworth氏(アンドリュー・ボスワース)氏は「この製品はRokuやFire TVなどに対抗するものではない。ライバルは我々のよう大規模な大規模なソーシャルネットワークを欠いている。Facebookはコミュニケーションのハブという本来の強みを生かし、新しいビデオチャット体験を提供する」と意図を説明した。

「プライバシーが心配」を克服

Portalシリーズは1年前にスタートし、おおむね好意的な評価を受けたものの「プライバシーについてFacebookは十分配慮していない」という記事tal!』と呼びかけるとそも多かった。一般消費者も同様に感じたかどうかは疑問だが、ボズ氏は「Portalはセールスもその後のエンゲージメント好調だ」と私に語った。ただし正確な数字は発表されていない。

もちろんPortalシリーズ製品のカメラにはワンタッチでレンズを覆うことができるスライド式カバーが設けられている。

Portal TV Closeup

しかしその後、FacebookだけでなくApple、Google、Amazonも音声の認識精度を改善するためにユーザーに無断で音声データを収集していたことが判明し、プライバシーの侵害だと強く非難されるという事件が起きた。ボズ氏によれば「ユーザーからの『ヘイ、ポータル』という音声を認識すると、それ以降の音声はFacebookに送信されて専門家の検証を受ける可能性がある。しかし我々は検証をオプトアウトでできるようにした」という。

しかしPortalが「覗き見されるような気味悪さ」を本当に払拭したいと考えているなら、人間による音声データの検証をデフォルトにしているのはなぜなのか?ボズ氏はアクセシビリティの観点からこの点について説明した。「広い地域をカバーしているため多くのユーザーには地域の訛りがある。また軽度の言語障害を持つユーザーもいる。こうした場合音声認識の精度が低下する」とのこと。彼は、音声データを効率よく収集するには、この設定をデフォルトにしておくしかないというが、プライバシーを重視することによってPortalデバイスのセールスが向上するかもしれないとうメリットも考えるべきではないか。

Portal Privacy Set Up Notice Screen

しかし「監視社会の尖兵」といった批判を受けてもFacebookがPortalデバイスに注力するのには理由がある。Facebookは生命線ともいうべきモバイルアプリがAppleとGoogleのストアを通じてしか配布できないという致命的な弱みがあった。「スマートフォンを押さえているプレイヤーには巨大な影響力がある。われわれはいわばそうしたデベロッパー、メーカーの好意にすがって生存してきたわけだ」とボズは書いている。Portalは(いかに監視能力をそしられようと)、Facebookが独自に開発・販売するコミュニケーションデバイスだという点で戦略的重要性があるわけだ。

新しいPortalシリーズをテストした

Facebookに対するイメージはさておき、各種Portalは便利で楽しいデバイスだ。ハードウェアの開発・販売が未経験の会社が1年前にスタートさせたプロダクトとは思えないほど、洗練された作り込みとなっている。デザインもエレガントで多くの家庭のリビングにもキッチンにもなじむだろう。

Portal Mini Portal TV

新しいPortal、Portal Miniはほぼ現行製品と同様だが左右に張り出していたスピーカー内蔵のベゼルが消え、スマートになった。Portal SpecsPortal TVはまったく新しいデバイスで、画面がないため省スペース。記事トップの紹介ビデオを見てもらえばわかるが、Portal TVにはテレビ台の上に置くための脚が付属している。この脚は90度開いてテレビを挟み込むクリップにもなる。接続に必要なのはHDMIケーブルだけだ。カメラは1250万画素、画角120度でマイクは8台のアレイとなっている。また部屋の向こうの端に向かって「ヘイ、ポータル!」と大声を張り上げずにすむようベーシックな動作を命令できるリモコンが同梱される。

Portal TVはスピーカーも内蔵している。接続しているテレビの画面がオンの場合はもちろんオフの場合も使えるほか、別系統からの音声入力にも対応する。HDMI CECでの接続も可能なので、Portal TVを外部から遠隔操作することもできる。

プライバシーシャッターと呼ばれるカメラのフタは、スライド式でワンタッチでレンズが覆い隠せる。すべてのセンサーが無効になっている場合に赤く点灯させるスイッチもある。こうした予防措置を信頼するなら、Portalシリーズは最もコストパフォーマンスに優れた大画面ビデオ通話デバイスだ。

Portal TV and Remote

Portal TVのAIスマートカメラは顔を認識できるだけでなく人体に関するデータベースを持つため、ユーザーがどんな動作をしても追従可能だ。今回新しくカバーされたWhatsAppを使う場合、ライブフィルターも利用できる。ビデオで紹介しているが、ユーザーは自分の顔をライオンにたりヒゲを生やしたり自由に変えることができるだけでなく、小さな子供が部屋中を走りまわるような状況にも対応する。

Portalは「ストリーミングのデバイスではない」というものの、Spotify、Pandora、Amazon Primeビデオをサポートする。今後、スマートホームデバイスとしてRingドアベルがカバートされる予定だ。

Portal Mini Alexa

Portal TVから別のPortal TVへのMessengerビデオチャットではWatch Together(一緒に見る)機能が利用できるようになる。これはPinP(ピクチャー・イン・ピクチャー)で画面の一部にチャット窓が開き、Facebook Watchビデオを通話先と共同視聴できる。PinP窓で相手のリアクションがわかるわけだ。ただし今のところPrimeビデオなど他のコンテンツでは利用できない。

PortalTV CoWatching

ボズは私に「ボーリングやったことあるだろう?ボーリング大好きなんだけど、考えてみると変なスポーツだよね。あれは一人でやっても全然おもしろくない。みんなで集まってビール飲んでワイワイやる口実なんじゃないかな?Portal TVの共同視聴やARゲーム機能もそれだと思っている。これは口実で、要するにみんなで集まって騒ぐのが楽しいんだ」と説明した。

おそらく、これがPortalの真の戦略的目的なのだろう。Facebookは我々のさまざまな情報を収集するために時間を費やしてきた。他者の製品はもう少し変わっていたり、興味深かったりするかもしれないが、FacebookとPortalの組み合わせに勝るものはないだろう。くだらないビデオや平凡なゲームでも大きな画面で家族や友達と一緒に体験すれば意味のあるものになる。ボーリングと同じでみんな集まって騒げば楽しい。Portal TVはFacebookがユーザーのリビングに確固たる地位を築く有力な一歩になるかもしれない。

原文へ

(翻訳:滑川海彦@Facebook

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。