Facebookのエンタープライズ向けSNS「Workplace」が正式リリース

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Facebook at Workという仮の名がつけられたクローズド・ベータ版の公開から20カ月がたった今日、(先週の記事で予測した通り)Facebookがエンタープライズ向けソーシャルネットワーキング・サービスのWorkplaceをついに正式リリースした。

Workplaceに与えられたのは新しい名前だけではない。Workplaceは新しいタイプの料金モデルをもつ。月間アクティブユーザー数をベースにしたFacebookスタイルの料金設定だ。また、無料で提供される試作品段階だったにも関わらず、1000社以上の顧客を獲得したWorkplaceには大きな野心も込められている(1年前の顧客数は100社だった)。

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デスクトップ版とモバイル版のアプリが提供され、ニュースフィードやFacebookグループなどの機能も備えたWorkplaceを利用することで、社員同士はもちろん、社外の人々ともつながることが可能だ。Chatと呼ばれるダイレクトメッセ―ジ機能、ライブ配信機能、リアクションボタン、翻訳機能、ビデオ・音声通話機能を備えたWorkplaceが正式にローンチしたことで、これから誰でもこのサービスを利用できるようになった。「誰でも」という言葉こそ、この文のなかで最も重要な言葉だ。

Workplaceの狙いは、大衆を取り込むこと、そして他社が提供している同様のサービスとの違いをつくることである。企業向けメッセージング・ソフトウェアの典型的なユーザー、つまり「知識労働者」と呼ばれるようなホワイトカラーやデスクワーカー以外の人々を取り込もうとしているのだ。

これまでの典型的なユーザー層に加えて、Workplaceは店頭の販売員、機械のメンテナンス担当者、外回りの営業員なども取り込もうとしている。プライベートではFacebookを利用してはいるが、これまで企業内のデジタルなコミュニケーションに参加する機会のなかった人々だ。

「Facebook流のエンタープライズ向けソフトウェアをつくりたい」

Workplaceが誕生するはるか以前から、マーケットには数多くの企業向けソフトウェアが存在し、顧客の心をつかんで素晴らしい実績を残してきた。企業向けのコミュニケーション・ツールという分野では、SlackYammer、SalesforceのChatterHipchatJiveなどが主な競合サービスとなるだろう。

上記のサービスほど有名ではないものの、デスクワーカー以外の人々に特化したメッセージング・アプリもすでに多く存在する。Zinc(以前はCotapと呼ばれていた)、Beekeeperなどがその例だ。

なぜこのタイミングなのだろうか?その点について、WorkplaceのディレクターであるJulien Codorniouは「WorkplaceはFacebookとはまったく別に開発する必要がありました。さらに、SaaSのベンダーとなるためにはテストを重ね、さまざまな認可を得なければなりませんでした」と、Workplaceの開発拠点であるロンドンで行われたインタビューのなかで語っている。製品開発は現在も進行中だ。WorkplaceがUS/EU Privacy Shiledに加入したのはつい先週のことだと彼は言う。

Workplaceが従来のSaaSユーザーとは違った種類の企業をターゲットとしていることも理由の1つだ。「とても保守的な業界や政府機関などでも利用されることを確かめたいと考えていました」と彼は語る。「考えうるすべての地理的条件や業種でのテストを行いました。もっとも保守的な業種に関しては特にです。それにより今では、彼らから利用されるための準備は整ったと感じています。」

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Workplaceは史上初のサービスというわけではないが、その独自の特徴でユーザーを惹きつけようとしている。

その一つが料金モデルだ。エンタープライズ向けソフトウェアを展開する企業は、何種類かある標準的な料金モデルを採用している例がほとんどだ。その標準的な料金モデルには、ソフトウェアを利用する社員の数で利用料金が決まるモデル、ソフトウェアで利用できる機能数を基にした料金モデル、そして基本的なサービスや製品は無料で提供し、さらに高度な機能や特別な機能については料金を課金するというフリーミアム・モデルなどがある。

Facebookはこれらの従来モデルをすべて窓から放り投げ、彼ら自身のやり方で料金モデルを構築した。

すべてのユーザーに同じ機能を提供する一方で、アクティブ・ユーザー数によって料金が変わる仕組みだ。ここでいうアクティブ・ユーザーとは、少なくとも月に1度はWorkplaceを利用しているユーザーのことだ。アクティブ・ユーザーが1000人以下の企業では、ユーザー1人につき3ドルの料金が発生する。同じように、1001人以上かつ1万人以下の場合では2ドル、それ以上は1ドルとなる。

(比較のため、Slackの料金モデルを例に挙げよう。Slackのスタンダード・プランではアクティブ・ユーザー1人につき月額8ドルの料金が発生し、上位プランのSlack Plusでは15ドルとなる。年間契約すると料金は安くなる。大企業向けのエンタープライズ・プランの詳細はまだ明らかになっていない)

低価格で、かつ月間ユーザー数に基づいた料金モデルを採用した理由はいくつかある。なによりもまず、この料金モデルを採用することで料金の透明性を高めることができた。

しかし理由はそれだけではなく、この料金モデルを採用することでサービスの信頼性を高めることにもつながる。料金は実際に使った分だけしかかからない。また、Facebookでの広告と同じように、魅力のあるサービスを提供してはじめてFacebookに収益がもたらされる仕組みなのだ。

「Facebook流のエンタープライズ向けソフトウェアをつくりたかったのです」とCodorniouは語る。

この料金モデルに関するもう一つの興味深い特徴は、公開されている数字が限定されていることだ。Facebookが現時点での総アクティブ・ユーザー数を公開することはないだろう。しかし、同社がより規模の大きな企業や組織体に狙いを定めていることは明らかだ。

初期段階からWorkplaceのユーザーとなった企業として、3万6000人の従業員を抱えるTelenor、10万人のRoyal Bank of Scotlandなどがある。そして今日、Danone(従業員10万人)、Starbucks(23万8000人)、そしてBooking.com(1万3000人)などの企業がユーザーに加わったことを新たに発表した。

これらの企業に加え、Royal National Institute for the Blind、Oxfam、Goverment Technology Agency of Singaporeなどの組織や政府機関などもWorkplaceのユーザーだ。

Workplaceは有料のサービスだ。しかし、このサービスから大量の収益を得ることが彼らの目標ではないようだ。少なくとも初めのうちは。Codorniouによれば、Workplaceの目標はサービスの普及率を高めることであるという。

「InstagramやMessengerのようにWorkplaceを成長させていきます」と彼は言う。「マネタイズについて考える前に、まず最初の1年は成長させることを考えていきたいと思います。成長ついて考えるだけで頭がいっぱいなのです」。

Facebookと同じ要領で使えるというWorkplaceの特徴によって、他のサービスからユーザーを完全に乗り換えさせるとまではいかなくとも、試しに使ってみようという気にさせることはできるかもしれない。

Facebookというメインサービスの月間アクティブ・ユーザー数が17億人を超えた今、企業で働く人々の大半がFacebookをすでに使っているか、またはFacebookを知っていると言うだろう。

これが意味するのは、大半のユーザーがWorkplaceの見た目や使い方にすぐに慣れることができるということだ。それがクローズド・ベータ版で高いエンゲージメント率を達成した要因でもある。クローズド・ベータには1000社もの企業が参加し、すでに10万ものユーザー・グループが存在しているのだ。

「Workdayとのサービス統合よりも、使い勝手を向上させることの方がより重要」

過去にFacebook at Workを取り上げた記事でも述べたように、Workplaceはすでに浸透しているFacebookのデザインと同じような見た目をもっている。

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Workplaceにもニュースフィードがある。同僚や、頻繁にやりとりする他社の従業員を誘ってFacebookグループをつくることもできる。「Chat」と呼ばれるMessengerと同じようなメッセージング機能も備わっている。

ライブ配信や、グループでビデオ・音声通話をすることもできる。リアクションボタンを使ってさまざまな感情を表現することもできるし、自動でポストを翻訳してくれる機能もある。

それに加え、すでに他社のサービスを利用している大企業を取り込むための策として、正式リリース時点ですでに数社のサービスとの統合が完了している。ログイン機能や本人認証機能のOkta, OneLogin、Pingや、ストレージのBox、インテグレーターのDeloitteやSada Systemsなどの企業だ。

しかし、Workplaceで利用できる統合サービスの数は決して多いとは言えない。何百ものアプリがショートカットキーやコマンドで利用できるSlack流のやり方とは大きく異なっている。

Codorniouによれば、これは意図して狙ったものだという。

「サービスの使いやすさや、受け入れられやすい料金体系について顧客と話しあってきました」と彼は話す。「従業員が10万人いるなかで、その多くがコンピュータやデスクを持っていないというDanoneのCEOとの会話で分かったのは、WorkdayやQuipと統合されているということではなく、使い勝手の良さやエンゲージメントの方がより重要だということです」。

(この事について、興味深い補足情報:今のところ、他社がWorkplaceの販売会社として契約を結んだり、Workpalceとサービスの統合をする際、Facebookはそれらの企業に対し、事前にWorkplaceに登録して実際にサービスを使うことを求めているとCordorniouが教えてくれた。「使ってもない商品を売ることができるとは思いません」と彼は言う)

私が思うに、Slack流のサードパーティとの統合や、Messengerにも搭載されたチャットボットなどの要素が、今後すぐにWorkplaceにも取り入れられる可能性は高い。それは来年の春に開催されるFacebook F8コンフェレンスで明らかとなるだろう。

ひとまず今言えるのは、Workplaceがマーケットに与えた影響はとても大きいということだ。十数億の人々によるデジタル・コミュニケーションのデファクトスタンダードとなったのがFacebookである。そして今、彼らはエンタープライズの世界でも同じことを成し遂げようとしているのだ。

[原文]

(翻訳: 木村 拓哉 /Website /Facebook /Twitter

投稿者:

TechCrunch Japan

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