Facebookの決済ライセンス取得で危ぶまれる銀行の存在意義

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【編集部注】執筆者のChristoffer O. Hernæsは、チャレンジャーバンクかつノルウェイ初のオンライン専門銀行であるSkandiabankenのチーフデジタルオフィサー。

Facebookはアイルランドで電子マネーと決済サービスのライセンスを取得したことを、昨年12月頭にようやく明らかにした。しばらく前にFacebookが送金ライセンスを申請したという報道がなされた頃から、同社がヨーロッパで決済市場に新規参入するかもしれないとは噂されていた。さらにPayPalの前社長David MarcusをFacebook Messengerのトップとして迎えたことから、Facebookが決済市場参入の野望を抱いていることは明らかになりつつあった。Mark Zuckerbergが昨年1月に「私たちは決済サービスを提供している会社全てと提携していくつもりです」と話していた通りだ。

アメリカでは既にFacebook Paymentsが提供されており、ヨーロッパでも同サービスを展開するという戦略がまず頭に浮かんでくる。そしてFacebookがMessengerプラットフォームのスティッキネスを高めるためにシンプルなP2P決済サービスを提供することで満足するのか、はたまた5000億ドルを超える世界の送金市場を狙っていくのか、というのはこれから明らかになってくるだろう。

決済を他のサービスと組み合わせて考えると、Facebookが決済サービスを提供し始めることで、従来の銀行は現在の地位が危ぶまれることになるかもしれない。

改正後の決済サービス指令(PSD2)のもと、ヨーロッパの各銀行は金融系のサードパーティに対して決済APIを提供しなければならなくなる。さらにユーザーはサードパーティに1)支払指図と2)口座情報の抽出を委任できるようになる。

Facebookはコンシューマー市場における最も強力なデジタルエコシステムを誇る企業として、リテールバンクを省くことができるポジションにいる。

Facebookは既にFacebook Marketplaceのローンチでクラシファイド広告市場を変革しており、PSD2がヨーロッパ各地で法制化されれば、Facebook自体が支払指図サービス事業者(PISP:Payment Initiation Service Provider)として決済処理を行い、APIを通じて口座情報を直接Facebookのプラットフォーム上に引っ張ってこれるようになる可能性がある。そうすれば、Facebookは支払い関する情報を取得するため、消費者に対して銀行情報にアクセスする許可を求めるられるようになり、一旦アクセスが許可されれば、Facebookはセキュアに消費者の口座へアクセスし、代金を回収できるようになる。

FacebookがPISPになることで、コスト削減以外にも複雑な支払プロセスが省略され、繰り返しサービスを利用する顧客に対しては“ワンクリック”支払のオプションも準備されるだろう。さらにPSD2のもと、顧客の銀行口座から代金を直接回収できるようになれば、支払にかかる時間が短縮されるほか、従来の業界構造も大きく変わってくることになる。

さらにFacebookは、口座情報サービス提供者(AISP:Account Information Service Provider)にもなれる。PSD2では複数の口座にまたがった情報をAISPが取りまとめられるようになっているので、AISPは消費行動の分析サービスを提供したり、複数の銀行の口座情報をひとつにまとめ、ひとつひとつの口座に紐づいた旧来のモバイル・オンラインバンキングソリューションを代替したりできるようになる。

またチャットボットが銀行サービスに大きな変化をもたらすことになるのは既に周知の事実だ。というのも、銀行サービスの大部分は、「次の給料日までに使える金額はいくら?」や「まだ払ってない請求書の支払処理行って」といったシンプルなメッセージを利用して自動化することができるのだ。Facebook Messengerで全てセキュアに行うことができれば、銀行のアプリにわざわざログインする必要はなくなる。

一方、決済ライセンスを持った企業として、Facebookがソーシャルレンディングプラットフォームを運営するためには、一部地域で決済リスクに関する規制対応を行わなければいけない。ヨーロッパ中で300以上の企業が類似サービスを提供しているソーシャルレンディング業界の競争は厳しいが、Facebookは膨大なユーザーベースやユーザーデータ、リスク・信用査定のための口座情報を武器にすることができる。

Facebookはコンシューマー市場における最も強力なデジタルエコシステムを誇る企業として、リテールバンクを省くことができるポジションに既にいる。同社が現在の地位を維持するためには、日々変化する消費者行動に沿って進化していかなければならない。この点に関し、これまでのところFacebookは素晴らしい実績を残している。またFacebookが持つデジタルエコシステムとしての大きな力は、全てのユーザーの個人情報を管理しているという事実に支えられており、上手く行けばFacebookを利用することで電話番号やメールアドレス、口座番号さえ不要になるかもしれない。

その結果、将来的には今私たちが知っている銀行のサービスはコモディティ化し、送金やECのほか日常的な銀行業務含む顧客とのやりとりは全てFacebook PaymentsやFacebook Messengerを通して行われるようになるかもしれない。PWCが行った調査によれば、銀行員の68%が今後顧客との結びつきをコントロールできなくなるのではないかと心配している。Facebookがきちんと規制に対応すれば、その心配は間違いなく現実のものとなるだろう。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

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TechCrunch Japan

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