Fintech21社がピッチ、FIBC2016大賞は機械学習トレード、スマートコントラクトも入賞

2016年2月25日、東京都内で「金融イノベーションビジネスカンファレンス FIBC2016」が開催された。ピッチコンテスト「FinPitch」を中心とするイベントで、今年は5回目の開催となる。海外からの6社を含む21社がそれぞれ7分のショートプレゼンテーション(ピッチ)を行い、入賞者を表彰した。司会進行もピッチもキーノートもパネルディスカッションも、すべて英語だ。

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大賞は「Capitalico」、機械学習でトレードアイデアを手軽にアルゴリズム化

大賞を受賞したAlpaca社のCapitalicoはデイトレードのプラットフォームだ(関連記事)。今回のピッチでは、プログラムを組まずにアルゴリズムトレードを実施できるサービスを紹介した。

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投資の「勝ちパターン」をチャート上で指示すると機械学習によりアルゴリズムを作成してくれる。

投資したい金融商品の過去の価格チャートを使い、自分の「勝ちパターン」を「トレードアイデア」として指示する。それを機械学習によりルゴリズム化し、24時間/週7日のアルゴリズムトレードを実行できる。プログラムが組めないトレーダーが、自分のトレードアイデアを手軽にアルゴリズム化できる。モバイルアプリからトレードアイデアを指示することも可能だ。

利用料月額99ドルを収入とする。Alpacaのメンバーは8名で、ビッグデータの専門家を集めたスタートアップだ。画像認識のディープラーニングのプラットフォームから、デイトレードのプラットフォームへとピボットし、今回発表のサービスに至った。

ビットコインも銀行口座も使えるVISAデビットカードを発行するSHIFT

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ビットコイン(Coinbase)も銀行口座もポイント類もアプリから統一して管理し、1枚のVISAデビットカードを使って決済できる。

米Shift Financial, Inc.(SHIFT)の「Shift Payments」は、オーディエンス賞と三菱地所FinoLAB賞のダブル受賞となった。同社が紹介した「Shift Payments」は、ビットコインからも銀行口座からも引き落とせるVISAデビットカードをスマホアプリで統合管理するサービスだ。

同社は米国で最初にビットコイン建てVISAデビットカードを発行した企業とのことだ。このカードを使うと、例えばビットコイン残高から米ドルで支払うことができる。VISAカードを受け付ける店舗であれば、ビットコイン利用の可否にかかわらず決済可能となる。ユーザーは1枚のVISAデビットカードを支払いに使っているが、その背後にビットコイン、銀行口座、ポイントカードなど複数の決済手段が統合されているイメージだ。

デモでは、同社のスマホアプリ上で、ビットコイン(Coinbase)、銀行口座(Wells Fargo)、スターバックスのギフトカードを統合して扱える様子を見せた。また、日本の奈良で創業300年を迎える「中川政七商店」のECサイト(現時点ではビットコインを受け付けていない)から、VISAデビットカードを使いビットコインを利用して買い物をし、アプリ上のビットコイン残高が即座に反映される様子を見せた。

SHIFT社はY Combinatorの支援を受けるスタートアップの一社だ。日本でのパートナーも募集中とのことだ。

Ethereum事業化のConsenSysは複雑なスワップ取引をスマートコントラクトに

審査員特別賞を受賞したのは、ブロックチェーン技術の米Consensus Systems(ConsenSys)と、セキュリティの韓国Everspinの2社である。

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価格変動に対して担保を自動調整するスマートコントラクトのデモを見せた。

米Consensus Systems(ConsenSys)社はブロックチェーン技術Ethereumの事業化を推進する目的を持つ企業だ。ピッチでは、従来のスワップ取引が抱えていた問題を解決するためにブロックチェーン技術Ethereumを活用するデモを見せた。複雑な「スワップ取引」を処理するスマートコントラクトをEthereum上に構築した。ここでスマートコントラクトとは、合意した契約内容を記述したプログラムをブロックチェーン上に記録して改ざんできないようにし、かつ自動執行するようにしたものだ。日本国内ではまだ情報が乏しい分野であること、デモ内容が非常に複雑なことから、この発表に限ってやや詳しく説明したい。

デモの前提だが、スワップ取引は「将来の一連のお金の流れ」を交換する。長期にわたる複数回の取引の契約になるため、将来の元本が変動し、しかもオフバランス(簿外)取引かつレバレッジ取引という複雑なリスクを抱えることになる。

同社が今回のデモで解決を試みたスワップ取引の課題は、次の3つだ。(1)取引の契約内容が不透明(過去、訴訟に至った事例もある)。(2)取引相手から将来お金を受け取れなくなるカウンターパーティーリスクがあり、適切な担保の金額を設定する必要がある。(3) 決済が遅い。

これらの問題に対処するため、「誰でも参照でき、内容を改ざんできず、停止しない」という特性を持つブロックチェーンとスマートコントラクト(ブロックチェーン上のプログラム)を活用した。KYC/AML(顧客管理/マネーロンダリング対策)に対応したID管理システム「uPort」をブロックチェーン上に構築、カウンターパーティー(取引相手)の情報を問い合わせることができる。また取引履歴に基づくレピュテーション(評価)に基づき、スマートコントラクトにより担保の金額を自動的に調整する。デモでは、時間とともに資産価格が変化し、それに伴ってお互いに必要な担保の量が変化する様子をグラフに表示して見せた。

デモで見せたスワップ取引では、スワップデリバティブ契約書式の国際規格である「ISDA(International Swaps and Derivatives Association))ファイル」「CSA(Credit Support Annex)ファイル」を扱う。Ethereumのブロックチェーンにサイズが大きなドキュメントを格納しようとすると大きな費用が発生するので、これらのファイルはP2Pの分散ファイルストレージプロトコルIPFS(InterPlanetary File System)上に保存し、EthereumのブロックチェーンにはファイルのURL(ファイルのハッシュ値)だけを格納する。これらのドキュメントのデジタル署名には、ConsenSys社のプロダクトの一つEtherSign(eSign)を用いる。契約する双方の担保と署名が揃った時点で即座に契約が成立し、タイムスタンプを付加してブロックチェーンに保管する。複式簿記に加えてブロックチェーン上の取引履歴から成るTriple Entry Accounting(三式簿記)を記録に残す形となる。「レピュテーションが5%低下した場合、必要な担保の量を5%増やす」といった契約上の特記条項もスマートコントラクトに織り込み、自動執行する。

このデモでの課題解決の要点は次のようになる。(1) スマートコントラクトにより契約内容を明文化かつテスト可能とした。(2)IDと紐付くレピュテーションの参照と担保量の自動調整によりカウンターパーティーリスクを最小化した。(3)決済速度を上げるには流動性が必要となるが、担保の必要量をリアルタイムに自動調節することにより担保に積んだ資金を流動的に使えるようにし、この問題を解決した。

なお、同社はMicrosoftとパートナーシップを組んでいる。MicrosoftがAzure上で提供するBaaS(Blockchain as a Service、関連資料)ではEthereumが動いており、同社はブロックチェーン技術で協力する。また今回は同社の日本での窓口となるスマートコントラクトジャパン(SCJ)もピッチや展示に協力した。

10分でセキュリティモジュールを入れ替えるEversafe

審査員特別賞を受賞したもう1社は韓国Everspinである。同社が紹介したのは、「ダイナミックなセキュリティソリューション」であるEversafeだ。同社は「既存のセキュリティソリューションは静的だ。アプリケーション中にセキュリティ機能がハードコードされているので、ハッカーはすぐ分析できる。この問題を解決するため開発した」と話す。同社のソリューションでは、モバイルアプリ内にセキュリティモジュールのスペースが設けてあり、その内容は10分ごとに変わる。販売形態は、テイラード(オンプレミス)とクラウドサービスの2形態がある。現在、日本でのビジネスパートナーを募集中である。

イヤホンジャックに挿すキーでユーザー認証、PlugAir Secure

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PlugAir Secureの外観。

Beatrobo, Inc.は、ソニー銀行イノベーション賞を受賞した。
「PlugAir Secure」は、スマートフォンなどのイヤホンジャックに差し込むデバイスだ。サービスの認証にこのPlugAirデバイスを使うことで、IDとパスワードの管理の手間をなくすことができる。背景には、多くのユーザーがIDとパスワードの使い回しをしている実態があり、その課題を解決しようとする。「説明を読んで設定する必要はなく、ペアリングも不要。3歳児でも使える」と利便性を強調する。

友達クラウドファンディングのI’m In(アイムイン)

SMILABLEの「I’m In(アイムイン)」はiSiD特別賞を受賞した。例えば友人一同で「出産祝い」を贈りたい、といった用途にカジュアルに利用できるマイクロファンディングのサービスだ。国境を越えて「お見舞い金」を集めるなど、活用法は広い。

ビジネスモデルは、クラウドファンディングからの手数料収入だ。将来は、タイアップ広告、アイデアモール、ECサイトに設置する「I’m Inボタン」などの展開を考えている。

ブロックチェーン活用、途上国向け金融サービス、不動産分野などが競う

惜しくも入賞を逃したピッチを紹介しておこう。

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カレンシーポートが持ち込んだバラックセット。M2Mとブロックチェーンの組み合わせ。

ブロックチェーン技術を紹介した企業は、先のConsensus Systemsに加えて、次の2社がいた。テックビューロの「mijin」はエンタープライズシステムへの応用を進めているプライベートブロックチェーン技術だ(関連記事)。ピッチのハイライトは世界中に散らばったノード間で取引を実行する様子を可視化したアニメーションだった。カレンシーポートの「Deals4」は、「ビジネスアプリ向け価値移転API」だ。M2M分野でも活用可能なことを示すため、ピッチの壇上で電子工作4日とプログラミング1日で作ったバラックセットを持ち込み異彩を放っていた。

途上国向け金融サービスを発表した会社が2社あった。

ドレミングアジアの「Payming」は、銀行口座を持てない途上国の人々向けのサービスだ。給与システムと連携、給与により与信して取引でき、給与の支払いと同時に引き落としを実施する。

日本植物燃料が、アフリカ大陸南東部に位置するモザンビーク共和国に設立した現地法人であるADM社(Agro-Negocio para o Desenvolviment de Mozambique, Lda.)は、途上国向け情報・金融プラットフォーム構築(Finance and Information Platform for Everyone)を紹介した(関連資料)。オフグリッド発電(太陽電池パネルなど)、携帯電話ネットワークとスマートデバイス(タブレットなど)、NFCを活用した「銀行」を構築、へき地の村の人々が利用できる預貯金、送金、貸し付けなど金融サービスを提供する。

不動産関連のピッチは3件だ。ロードスターキャピタルの「OwnersBook」は、不動産を対象とするクラウドファンディング。不動産を組み入れた資産ポートフォリオを手軽に構築できる。WhatzMoneyの「WhatzMoney住宅ローン」は、スマートフォンアプリで最適な住宅ローンを探せるサービスだ。MFSの「モゲチェック」は、住宅ローン借り換えで節約できる金額を試算してくれるスマートフォンアプリだ。

エクスチェンジコーポレーションの「Paidy」は携帯電話と紐付いたポストペイ(後払い)サービスだ。Kyash社のサービス「Kyash」は、クレジットカードによる支払いのリアルタイム通知や、P2P(個人間)送金の機能を持つモバイルサービス。英Skwile Ltd.の「FundlinQ」は中小企業を対象とした与信と資金調達のサービス。クラウドキャストの「Staple」はスマートフォンで経費精算をするサービス。Finatextの「Invesgate『かるFX』」はゲーム感覚でFXの取引を楽しむサービス。財産ネットの「兜予報」は、ニュースの株価へのインパクトを専門家が評価するサービス(株価へのインパクトに限定した「NewsPicks」とでもいおうか)。韓国KTB Solutionの「SmartSIGN」は、タッチパネル上で筆圧や勢いなどの情報も取り込んで「サイン」できるソリューション。マネーツリーの「MT LINK」は、個人資産管理のマネーツリーと金融機関などが連携するためのツールだ。

以上が計21件のピッチの概要である。

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。