Googleがローンチした「Duo」は、マルチOS対応だけが特徴のつまらないビデオ通話アプリ

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SNSで失敗したGoogleは、iOSとAndroidをつなぐビデオ通話アプリで起死回生できるだろうか。米国時間の8月15日にローンチされたDuoは、電話番号経由で1対1のビデオ通話を可能にするアプリだ。

問題はアプリをダウンロードする必要があるうえに、最新のテクノロジーは何もついて来ない点だ。Google Chat、Hangouts、Spaces、今後登場予定のメッセージング製品「Allo」などのサービスや、Android用SMSアプリとも連携できない。どうやらGoogleは、乱立する自社製コミュニケーションアプリに、さらにもう1つの「タコつぼ」を追加しようとしているようだ。

Google I/Oで5月に発表されたDuoは、8月15日付でグローバルでAndroid and iOS 9向けに78か国語対応で提供開始する。Duoの市場投入時期が、FacebookメッセンジャーやAppleのiMessage/FaceTimeのような強力かつ気の利いた統合性のある製品に遅れを取ったことを考慮すれば、売り込みは難航するだろう。

Duoのデモ動画(英語)はこちらから視聴できる。

Duoが何かと訊かれたなら「Apple製品だけでなくAndroidでも動作する『実用本位なFaceTimeの競合製品』」と答えるのが妥当だろう。Androidを使っている友人とビデオ通話がしたいユーザーを囲い込むしか成功への道はなさそうに見える。

しかしDuoはどうにも間が抜けている。グループ通話どころか、動画エフェクトや文字チャットもできない。Duoを使っていない知人とビデオ通話したければ、SMS経由でアプリのダウンロードリンクを送信し、招待しなければならない。ユーザー数ゼロからのローンチで、しかもこの頼りなさでは、ユーザーは友人・知人が既に使っていそうな競合製品に向いてしまうだろう。これはFacebookメッセンジャーやSkypeのビデオ通話機能の持つ「ユビキタスさ」に対して、大きく不利ではないだろうか。

Googleのコンシューマー・コミュニケーション・プロダクト・マネージメントVPであるNick Foxは「私たちは、アプリはユースケースをうまく解決できれば成功する、というロジックに則っています」と筆者に語った。しかしこの発言は、製品というものは「未解決のことを解決するところに意義がある」という事実を無視してはいないか。

Foxは、GoogleとしてDuoの開発においては3つのことにフォーカスしたと説明する。1つ目は「私たちの目指す北極星は、とてつもなくシンプルな形にする」ということ。2つ目は、スピードと信頼性だ。DuoはGoogleのWebRTCビデオフレームワーク上に構築されており、HDと2Gに対応することでこれに応えた。そして3つ目は「人間的要素。Googleがこのトピックに触れることは滅多にないですが、通話の向こう側にいる相手が、真の意味でエクスペリエンスの源となるようにしたかったのです」。

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少なくともその点では、Duoは成功しているといえるだろう。アプリを開くと、Googleアカウントの入力を求められることなく、こちらを向いたカメラがオンになる。画面下部には最近の通話とよく使う連絡先が一覧表示されており、別のタブに移動すれば、Duoの使用有無に関わらず、すべての連絡先を見ることができる。通話を開始すると全画面表示に切り替わり、相手がコールを受け損ねた場合には通知が送信される。ざっとこのような感じだ。Hangoutのような気の利いた機能は期待してはいけないが、動画の品質はしっかりとしている。

Duoのもたらした唯一の技術革新は「Knock-Knock(ノック・ノック)」と呼ばれる機能で、着信中の通話を受けて自分のカメラをオンにする前に、発信者の顔を見ることができる。

Foxは、発信者が見えない通話を受けるという行為は、実は「かなり唐突な」ものになりがちだと語る。確かに受信側には、発信側が自宅でくつろいでいるのか、職場で仕事モードなのか、それとも出先なのか見当もつかない。Knock-Knock機能があれば「受信側は先に相手を見て、どういう心の状態かを知ることができます。私自身もDuo越しに子どもに変な顔をしてみせたりするんですよ。プレビューのあと、笑いながら通話を始められますからね」と話す。

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これだけ出遅れたGoogleがDuoでユーザーを惹きつけるには、急勾配の上り坂を闘い進むことになるだろう。ビデオ通話は文字チャットのように用途が無限にある訳ではなく、むしろ多くの場合チャットの延長上に位置している。Duoを独自アプリとして孤立させ、Googleの他のコミュニケーションアプリやウェブサイトと連携できなくしたのは不可解な選択だ。それではユーザーがダウンロードしたとしても、使うのを忘れてしまう可能性だってある。

Duoに活路があるとすれば、2Gのような貧弱なネットワーク環境でも最適に動作できる開発途上国かもしれない。Duoは通信電波が弱くなると動画品質を落とすか音声通話に切り替えるほか、通話を保持したまま携帯通信網とWi-Fi接続間をシームレスに行き来できる。

開発途上国では、ごく最近になってビデオ通話に十分な電話・ネットワーク回線が普及しつつある。そうした国々で一番人気のチャットアプリはFacebookのWhatsAppだが、ビデオ通話は準備中のためまだ利用できない。そのためデータ回線経由のビデオ通話専用アプリであれば、WhatsAppがSMSに取って代わったのと同じ流れで成功できる可能性はなくはない。

Googleはコンシューマー向けのDuoとAllo(加えてGoogle Chat、Android SMS、およびSpaces)、通信事業者向けのRCSメッセージングサービス、そして企業向けのHangoutを提供しているが、コミュニケーションツールのラインナップという点では相変わらずのカオスだ。ひょっとするとWhatsAppを買収しそこねて、Facebookがグローバル市場で優勢になってしまった先の失敗が尾を引いているのしれない。

GoogleにとってのDuoをめぐる状況は、Hangout関連のテクノロジーがはるか先 — ほぼ5年進んでいることを考えれば、恥ずべきものだろう。今頃になってモバイルビデオチャットに本気を出すとは、どうにも理解しがたい。

Googleは、他のあまり使われていないアプリが荷物にならないようにDuoを隔離し、その他のチャット分野では敗北を認め、一連のコンシューマー向けコミュニケーションサービスをなかったことにしようとしているのかもしれない。あるいは、DuoはGoogleのアプリ諸島に新たな小島を追加するという過ちを繰り返しているかのいずれかだ。情報データの融合にかけては卓越した技術力を発揮するGoogleではあるが、人対人のコミュニティ創出となると相変わらず不器用なようだ。

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(翻訳:Ayako Teranishi)

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TechCrunch Japan

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