Googleとリーバイスのコラボで生まれたデニムジャケットの第二弾

2015年のことだが、GoogleのATAPチームは、Google I/Oで新タイプのウェアラブル技術を披露した。機能性ファブリックと導電性の糸を使用して、ユーザーが衣服とやり取りできるようにするというもの。最終的にはポケットに入れたスマホを操作できる。同社は、その後2017年に、リーバイスと共同でジャケットを発売したが、値段は350ドル(約3万7800円)と高価で、ヒット商品になることはなかった。そして今、そのJacquard(ジャカード)が帰ってきた。2、3週間前には、Saint Laurent(サン・ローラン)が、Jacquardをサポートしたバックパックを発売した。しかし値段は1000ドル(約10万8000円)とかなりの贅沢品だ。今回、Googleとリーバイスが最新のコラボレーションとして発表したのは、Jacqurdをサポートするリーバイスのトラッカージャケットだ。

このジャケットには、今のところ2種類のスタイルが用意されている。1つはクラシックトラッカー、もう1つはシェルパトラッカーだ。それぞれ男性用と女性用がある。値段はクラシックトラッカーが198ドル(約2万1400円)、シェルパトラッカーが248ドル(2万6800円)となっている。米国に加えて、オーストラリア、フランス、ドイツ、イタリア、日本、英国でも発売予定だ。

考え方はシンプルで最初に発売されたものと変わってない。ジャケットの袖口に仕込まれたドングルが、ジャケットの導電性糸に接続されている。ユーザーが、袖の部分をスワイプしたり、タップしたり、手で覆うようにしたりすることでコマンドをスマホに送る。iOSとAndroidの両方に用意されたJacquardアプリを使って、さまざまなジェスチャーに対して機能を割り振ることができる。コマンドには、現在の位置情報を保存、Googleアシスタントを起動してヘッドフォンにつなぐ、音楽再生を次の曲にスキップ、カメラをコントロールして自撮り、あるいはその日に出先で飲んだコーヒーの杯数など、単純なカウンター機能といったものがある。もしBose製のノイズキャンセリングヘッドフォンを持っていれば、このアプリを使ってノイズキャンセリング機能をジェスチャーでオン、オフすることも可能だ。現状で、合計19種類の機能が使える。またこのドングル自体には、通知用のバイブレーション機能が内蔵されている。

ただ、むしろ最も重要なのは、今回の(再)発売に際して、Jacquardが以前よりもモジュール化された技術として登場したことの方だろう。Googleと、そのパートナーとなった企業は、今後数カ月から数年の間にJacquardの仕組みを利用して、もっといろいろな製品を出してくることも考えられる。

「リーバイスと組んで最初の製品を2017年の末に発売して以来、1つの製品として実現した技術を抜き出し、他のさまざまなブランドとも協力しながら、別の製品にも応用できるような、真の技術プラットフォームを創出するにはどうすればいいか、ということを考え続け、真剣に取り組んできました」と、GoogleのJacquardの責任者、Ivan Poupyrev氏は語った。彼に言わせれば、Jacquardのようなプロジェクトの基本的な考え方は、その技術をバックパック、ジャケット、靴など、私たちが日常的に使っているものに応用して、より便利なものにすることだという。彼によれば、これまでのところ、私たちが毎日使っているようなものに対して、このような技術が応用されたことは、ほとんどなかった。彼はリーバイスのような企業と協力して、「人々がすでに持っていて、毎日使っているようなものを通して、デジタルライフへの新たな接点が得られるようにしたい」と考えている。

Jacquard 2.0にとって、もう1つ重要なのは、服から服へと、ドングルを使い回すことが可能だということ。オリジナルのジャケットの場合、ドングルはその特定のタイプのジャケットでしか機能しない。しかしこれからは、ドングルだけを持ち出して、他の衣料品にセットして利用することも可能となる。ドングル自体も、かなり小型、かつ強力なものとなった。さらに、複数の製品をサポートするために必要なメモリ容量も増えた。それでいて、私自身がテストした範囲では、たまに使うだけなら、待機時間がかなり長くてもバッテリーは数日間も持続した。

またPoupyrev氏は、チームがコスト削減に注力していることにも明らかにした。「消費者にとってより魅力的な価格帯の製品に、この技術を導入するため」だという。ソフトウェアにも多くの変更が加えられている。その変更は、デバイス上で動くソフトウェアだけでなく、より重要なクラウド上のソフトウェアにも及んでいる。それによって、Jacquardが装着された製品ごとに、自動的に設定を変更したり、今後チームが新たに開発した機能を、容易にデバイスにインストールしたりできるようになる。これからは、このジャケットのソフトウェアを最後にアップデートしたのはいつだっけ、というようなことが話題になるかもしれない。

彼が望んでいるのは、時間が経つにつれて、Googleがこれに絡んでいたということを、人々がむしろ忘れてしまうこと。技術は裏方のものとなってもらいたいと考えているのだ。一方のリーバイスは、この技術によって、新しい市場に手を伸ばすことができることに期待を膨らませている。2017バージョンは、リーバイスのコミュータートラッカージャケットのみだった。今後同社は、他のさまざまなスタイルの製品にも拡げていくつもりだ。

「私たちの服を着て通勤する人のニーズを満たすことを強く意識して、この技術を応用した製品を開発してきました。都会のサイクリストに焦点を合わせたリーバイスのコレクションです」と、同社のグローバルプロダクトイノベーション担当副社長であるポール・ディリンジャー(Paul Dillinger)氏は、最初のJacquard製品に対する会社の取り組みについて、私の質問に答えていた。しかし彼によれば、サイクリストのコミュニティ以外からも、多くの関心が寄せられたという。最初の製品に組み込まれた機能は、自転車通勤という特定のニーズを強く意識したものであって、それ以外の人のライフスタイルには、それほど関係ないものが多かったにもかかわらずだ。最初のジャケットは、やはり、かなり高価なものだった。「このテクノロジーによって、もっと多くのことが可能となり、もっと使いやすいものになって欲しい、という欲求がありました」と、彼は言う。そして、その結果誕生したのが、今回新たに発表されたジャケットというわけだ。

またディリンジャー氏は、今回の変更によって、リーバイスと消費者との関係も変わってくるとも述べている。というのも、購入された後の製品のテクノロジー部分をアップグレードできるようになったからだ。「これは、まったく新しい体験です」と、彼は説明する。「ファッションというものに対する、まったく異なるアプローチなのです。通常のファッションの世界では、他の会社は、半年後にはまた別のものを消費者に売り込もうとします。リーバイスは、長く着続けることのできる、流行に左右されない価値を創造していることにプライドを持っています。さらに、すでに消費者のクローゼットに入っている衣服の価値を、実際に高めることまでできるようになったのです」。

今回の発売前に、シェルパジャケットを着て1週間ほど過ごしてみた。もちろん、仕様通りの機能を発揮してくれた。スマホとジャケットのペアリングには1分もかからず、両者の接続は、ずっと安定していた。ジェスチャの認識は、まったく良好で、期待を上回るものだった。装備する機能の範囲では、うまく動作する。そして開発チームが、その機能の範囲をむやみに拡げなかったことは高く評価できる。

とはいえ、Jacquardが実際に自分に合った製品かどうかは、各自のライフスタイルによって異なるだろう。理想的なユーザーは、外を出歩くことが多く、いつもヘッドフォンを着けているような人だろう。やはり音楽のコントロールが、メインの機能だからだ。ただし、Jacquardの価値を引き出すために、わざわざヘッドフォンを着けなければならない、というわけでもない。私自身、公共の場でヘッドフォンを使うことはめったにない。しかし、駐車した場所を簡単に記録したりできるのは重宝した。ヘッドフォンを着けている場合には、ジャケットの袖の操作によって、ヘッドフォンに直接触るよりも簡単に、次の曲に飛ばしたりできることも確認した。使用頻度は、人によってかなり違うものになるかもしれない。こうした製品を利用することで、スマホを取り出す頻度が減るのはありがたい。そのうえで言えば、この時点で、これを使う必要がどれほどあるのか、もう少し具体的には、Jacquardでできることで、普通のヘッドフォンでは直接コントロールできないことがあるのか、疑問に思わざるを得ないのも確かだ。Googleは、Jacquardを単なるギミック以上のものにしたいと考えているのは間違いない。しかし今の段階では、それ以外の何者でもない。

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(翻訳:Fumihiko Shibata)

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TechCrunch Japan

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