HyperSciencesは超音速ドリル技術で宇宙飛行の「大逆転」を目指す

Eron Muskがトンネルを掘りながら、地球の遙か上空を飛びたいと考えているのは偶然ではない。HyperSciencesに聞けば、宇宙へ行く最良の方法は、ドリル技術を逆にして先端を上に向けることだと話してくれる。それは、一般にロケットだと思われている大きな筒の上に小さなペイロードが載っかったやつを推進するための、巨大で高価な燃料タンクの「段」を取り去ることを意味する。

今月、同社は準軌道飛行を成功させ、その冒険の旅を大きく前進させた。これは、NASAの助成金で行われた研究の第一段階を締めくくるものであり、概念実証のための打ち上げを2回成功させ、同社のラム加速と化学燃焼のワンツーパンチを見せつけた。

HyperSciencesは、ニューメキシコ州トゥルース・オア・コンシクエンシーズから1時間という人里離れた商業用宇宙港スペースポート・アメリカの打ち上げ場で、いくつもの高高度試験を行い、アイデアの実現に取り組んでいる。同社は1.5フィート(約45センチ)から9フィート(約274センチ)を超えるものまで「さまざまな発射体」を打ち上げた。HyperSciencesは、テキサス大学の航空宇宙研究グループとパートナーシップを組み、市販の電子部品を使ってシステムを製作している。

「私たちは600Gから1000G(つまり地球の重力の600倍から1000倍)でペイロードを打ち上げることを目標にしていましたが、それが達成できました」とHyperSciencesの上級顧問Raymond Kaminskiは話す。「ペイロードが感じる衝撃は、市販の電子製品(携帯電話など)を床に落としたときと同じ程度のものです」。Kaminskiは、エンジニアとして国際宇宙ステーションの仕事に就いていたNASAを離れ、しばらくスタートアップの世界へ転向していたが、その後、HyperSciencesで航空宇宙の世界に戻ってきた。

1.5フィートのシステムを打ち上げれば、NASAの目的を満たすには十分だったが、彼らは誰が見ても驚く長さ9フィート、直径18インチ(約46センチ)の発射体も試している。「私たちは9フィートのやつを打ち上げます。もう誰も否定できないでしょう」とKaminskiは言っていた。

面白いことにすべての始まりは、HyperSciencesの創設者でCEOのMark Russellが、深い深い穴をいくつもあけた後のことだった。Russellは、Jeff Bezosの宇宙事業Blue Originでカプセル開発の指揮を執っていたが、家業の採掘事業に加わるためにBlue Originを去った。彼はBlue Originの10人目の社員だった。Russellには、採掘と掘削の経験があった。そこから、岩を砕き穴を掘るために化学薬品を詰め込む筒を長くすれば、宇宙へ行けるのではないかと思いついたのだ。

「筒と発射体を用意する。先端を尖らせて、筒には天然ガスと空気を詰める」とRussellは説明してくれた。「それは、サーファーが波に乗るように、衝撃波に乗るんです」

彼らは、もっと手早く、安く、ずっと効率的に宇宙に物資を打ち上げることができると信じている。しかしそれには、プロセスを根底から考え直さなければならない。SpaceXの再利用型の第一段ロケットが宇宙飛行の潮流を変えたのに対して、HyperSciencesの技術は新発見に過ぎない。ただ、彼らの展望、つまり推進力としての超音速技術をスケールアップさせれば、宇宙に物資を送るという複雑で危険性の高いビジネスに応用できる。

超音速推進システムは、発射体を少なくとも音の5倍の速度で打ち上げることができる。つまりそれはマッハ5以上のスピードであり、1秒で1マイル(約1.6キロメートル)以上進むことができる。現在話題になっている超音速技術のほとんどは、防衛技術に関するものだ。高度なミサイル防衛システムもかいくぐったり、迎撃される間もなく目標を攻撃できる高速なミサイルなどだ。しかし、航空宇宙と地熱は、また別の興味深い大きな分野でもある。

昨年12月、ワシントンポスト紙が伝えたところによると、現在、ロケット推進式の兵器から超音速兵器へ移行する計画は、防衛政策において優先順位が「第一位、第二位、第三位」だという。米国防総省の2019年度予算のうち20億ドル(約2220億円)が超音速計画に割り当てられていて、それはほぼ3年連続で前年比を上回っている。「政府が欲しいと言ったときにその技術を開発し始めるのでは遅すぎます」とKaminski。「後追いになってしまいます」

そうしたチャンスはあるものの、HyperSciencesは兵器の世界への参入を熱望しているわけではない。「私たちはプラットフォーム型超音速企業です。兵器開発業者ではありません」とHyperSciencesのメンバーはTechCrunchに話してくれた。「武器商人になるつもりはありません。HyperSciencesは、世界をより良くすることに専念しているのです」

そのためHyperSciencesは、武器以外の超音速利用に針路を向けている。同社は、同社が利用しているラム加速技術の応用では先駆者であり、そこで発明された技術の独占権を持つワシントン大学の研究所室に資金援助をしている。

Shellから10億ドル(約1110億円)の出資を受けた地熱事業で、HyperSciencesは、彼らが呼ぶところの「Common Engine」(共通エンジン)を開発できた。地熱が溜まっている深度まで穴を掘ることができ、星に向けて物資を打ち上げることもできる超音速プラットフォームだ。「HyperSciencesとは、まずは地球を本当に理解することなのです」と、掘削から学んだ教訓を飛行計画に応用できる相互互換システムのひとつの利点を指して、Russellは言った。

「私たちのHyperDrone技術は、NASAの新しい吸気式超音速エンジンのテストや、世界の各地を1時間から2時間で結ぶ次世代の超音速または極超音速飛行機を開発したい航空機メーカーの役に立ちます」とHyperSciencesのメンバーは説明してくれた。「現在は、実験のためだけに大型飛行機にロケットを載せる必要があります。私たちは、地上に設置した管の先でそれが行えます」

買収に興味を示しているとの噂もあるHyperSciencesだが、今のところは堅実で実践的な航空宇宙業界ではまずあり得ない、通常とは違う風変わりなクラウドファンディング・モデルを追求している。同社は現在、SeedInvestのキャンペーン中で、適格投資家以外の小規模な投資家による最低1000ドルからというじつに少額な投資を、夢の実現のために募っている。この記事を書いている時点では、2000人近くの比較的小規模な投資家から500万ドル(約5億5500万円)が集まっていた。

「SpaceXのシードラウンドは、大手のベンチャー投資企業から受けています」とRussellは言う。「どこから入れるでしょう? 巨大な業界です。普通なら一般人は絶対に投資に参加できません」

Russellは、HyperSciencesの事業を柔軟な形にしておきたいと考えている。そして、ベンチャー投資家に頼れば、会社の目標を絞るように強要されるに違いないと恐れている。Shellとの関係はあるものの、その石油とエネルギーの巨大企業は彼らの株式は一切持っていないと、HyperSciencesは即座に答えてくれた。業界固有の契約の間を渡り歩きながら、クラウドファンディングで資金を得て、HyperSciencesはそのプラットフォームを並行して適用させる道を追求し続けたいと願っているのだ。

「宇宙飛行の次なるアーキテクチャーでは、全般的に超音速を使うことになります」とRussellは話す。「私たちはまさに、宇宙飛行の流れを変えるアイデアから、これをスタートさせました。ロケットの第一段と、できれば第二段を省略し、すべてのエネルギーを地上に置く……間違いなく宇宙飛行の流れが変わります」

[原文]
(翻訳:金井哲夫)

投稿者:

TechCrunch Japan

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