IBMが量子コンピューティングを誰もが実験できるクラウドサービスとして提供

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量子コンピューティングはまだきわめて初期の研究段階だが、IBMは量子コンピューターをクラウドサービスとして研究者たちに利用させることにより、関連分野の進歩を加速したいと望んでいる。大胆で意欲的な考えだがしかしそれは、量子コンピューティングによる計算処理を理解しようとする試行の、まだごく小さな一歩にすぎない。

関心のある人びとは、IBMがIBM Quantum Experienceと呼ぶ5キュービット(qubit)の量子コンピューターにアクセスできる。実際のハードウェアは、ニューヨーク州のIBM Research Lab(IBM研究所)にある。IBMは関心者たちに、プログラミングインタフェイスと、実験的なプログラムを実際に量子コンピューターの上で動かす機会を提供する。

重要な課題のひとつは、量子コンピューターが莫大な冷却システムを必要とすることだ。ハードウェアの外部の空間よりも低温でなければならない場合もある(冷房ではなく冷却が必要)。さらにまた、それらは多くの情報を維持するが、それらのどれもが、必ずしも静的ではない。それらの情報をすべて、意味ある分析ができるまでの間、可利用に維持することは、たいへんな仕事だ。こういった課題は、鉛筆の先端に卵を均衡状態で乗せることに似ており、それが落ちたら落ちた理由を究明しなければならない。IBM ResearchのExperimental Quantum Computing Group(実験的量子コンピューティンググループ)のマネージャーJerry Chowは、そう説明する。

IBMがこのプロジェクトのために作ったプログラミング言語は、まるで音楽の作曲用の言語のようだ(下図)。プログラマーは量子オブジェクトを“何かに”ドラッグすることによって、プログラムを書く。

IBM Quantum Computing programming dashboard

写真提供: IBM

 

Pund-IT, Inc.の主席アナリストCharles Kingによると、量子コンピューターと従来のコンピューターでは、本質的な違いが二つある。

Kingはこう説明する: “ひとつには、従来のコンピューターが二進数の原理に基づいて設計されている(そこでは半導体のゲートの開閉がon/offないし0/1を表す)のに対し、量子システムは“キュービット”を利用する。その状態は、onまたはoffまたはon-off両様であり、そのようなシステムは量子力学の現象を利用してデータに対するファンクションを実行する。その現象とは、重ね合わせや絡み合い(エンタングルメント)などだ。

IBMが作った量子チップは、5キュービットで動作する。Chowの予測では、今日の最速のスーパーコンピューターの能力を超えるためには、50から100キュービットぐらいで動くマシンが必要だ。それは遠い先の話だが、スタート地点としてはしかし現状で十分だ。

シリコンチップ上のデジタルコンピューターにはMoore’s Law(ムーアの法則)というものがあったが、量子コンピュータの進歩に関してはそんな単純な法則がない。IBMはまだシリコンを使っているが、もっと確実性のある利用のためには、超えなければならない大きなハードルが二つある。まず第一に、コンピューターを作ること。第二に、それをどうやってプログラミングするかだ。IDCで高性能コンピューティングを担当しているEarl Josephが、そう説明してくれた。

“今回の実験は多くの人びとに、量子コンピューターのプログラミングのやり方を学び始める機会を与える。それによって、この新しいタイプの技術を利用する道が、開けていくだろう”、とJosephは述べる。

彼によると、ほかでもこのような実験が行われている。“NASA Ames(NASAのエイムズ研究センター)とGoogleは今、とてもおもしろいことに取り組んでいる。大きなホームランは、もっと汎用的で大規模な量子コンピュータから生まれるだろう。それは進化に似た過程であり、ほぼ数年間隔で、徐々により多くのアプリケーションが稼働し始めるだろう”。

IBMが今回のツールを提供することによって、量子コンピューティングに関する関心と理解が広まり、個人の関心者たちや諸機関、研究者たちなどのコミュニティが作られ、彼らの協働の中で未来のコンピューターに関する知識が進んでいくことを、期待したい。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))

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TechCrunch Japan

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