ICOファンドとは?――業界に先駆け1億ドルのファンドを設立したVCに聞いてみた

多くの投資家がイニシャルコインオファリング(ICO)に関する情報をかき集めている。テック業界で野火のように広がるこの資金調達方法に、さまざまな人が期待すると同時に、困惑や恐れを感じているのだ。

簡単に説明すると、ICOとは独自の仮想通貨の発行・販売を通じて、ユーザーから資金を集める資金調達方法だ。ユーザーは購入した通貨を将来的に販売元のスタートアップのサービスに使ったり、取引所で売却したりできる。

まだ規制環境が整っていないため、ほとんどのVCはICOへの参加に慎重な姿勢を示している。自分たちのビジネスが脅かされようとしているにもかかわらずだ(顧客が喜んで出資してくれるというのに、わざわざ投資家に株式を売り渡す人はいないだろう)。

しかし、サンフランシスコに拠点を置くあるVCはICO投資に積極的に取り組んでいる。そのVCの名はPantera Capital。以前Tiger Managementに在籍していたDan Moreheadが14年前に設立したこのVCは、ビットコインをはじめとする仮想通貨に特化したファンドを業界に先駆けて立ち上げたことでも知られている。

他社が手を出せないでいる領域に、Panteraがいち早く進出するというのは、もはや驚くべきことではない(彼らは現在1枚あたり約2500ドルの値がついているビットコインに1枚65ドルの頃から投資し始め、大きな成功をおさめた)。しかし、常に前のめりなPanteraとはいえ、今回のファンドのサイズ(今年の夏中に1億ドルの調達を予定しており、既に3500万ドルが集まった)は大きすぎるようにも感じられる。

新しいファンドの詳細を知るため、MoreheadとPanteraパートナーのPaul Veradittakit、そして最近チームに加わったJoey Krug(Augur共同ファウンダー)に話を聞いたので、以下にその様子をお伝えしたい。なお、Augurは分散型の未来予測プラットフォームで、ICOという言葉が知られるずっと前の2015年にICOで530万ドルを調達している。

昨年Thiel FellowにもノミネートされたKrugは、Panteraの新しい投資ビークルでMoreheadと共に共同チーフインベストメントオフィサーを務める予定だ。

TC:ICOの件数は今年一気に増え、特にここ数か月はかなり盛り上がっています。ICOに特化した新しいファンドの準備にはどのくらいの期間をかけましたか?

DM:ファンドの骨子をつくるのに数か月かかり、その一部としてJoeyをチームに迎えました。彼は私と一緒にファンドの運用を行い、Paulは資金調達を担当する予定です。

TC:投資家の顔ぶれはいかがでしょうか? 個人投資家と機関投資家だと、どちらの方が多いですか?

DM:大手の戦略投資家は1社のみですが、名前を伝えることはできません。残りは仮想通貨に手を出したいと考えている個人・機関投資家の両方ですね。

TC:機関投資家の中にはVCも含まれていますか?

PV:はい、含まれています。皮肉なことですが、多くのVCはファンドの規約のせいで仮想通貨へ直接投資できないことになっています。しかし、仮想通貨やICOについてもっと知るため、そして(この新しい資産に)実際に投資するために、ICOファンドに参加しているVCやベンチャーファンドはたくさんあります。

TC:AngelListはICOでの資金調達を考えているスタートアップのために、新たなプラットフォームを他社と共同でローンチしましたし、仮想通貨に投資しているファンドも存在します。ただ、これだけICOに特化したファンドというのは聞いたことがありません。そもそも似たようなファンドは存在するんですか? また、ファンドの仕組みについても教えてください。

DM:ICOに特化したファンドが他にもあるかどうかはよくわかりません。ファンドの仕組みについては、まず一般販売が始まる前にトークンを購入し、その後販売が始まってから再度追加でトークンを購入するようにしています。

PV:つまり私たちは、創業チームとホワイトペーパー(プロダクトの技術的な部分や、スタートアップが取り組もうとしている問題、その解決策などについて書かれた文書)しか揃っていないような企業のICOにできるだけ早い段階で関わることで、トークンを安く手に入れようとしているんです。逆に私たちはそのような企業に対して、マーケティングや人材採用、ビジネス開発などに関するコネクション作りの手助けをしています。

TC:今のところ規制当局はICOの動向を傍観しているようですが、そのうちこの分野にも規制がかかってくると思います。ICOで販売されるトークンは、発行主体の情報開示や事業者登録が必要な証券ではなく、サービスや製品のような存在として扱われていると理解していますが、もしこの考え方が変わった場合はどうしますか?

DM:トークンの性質はさまざまで、商品先物取引委員会(CFTC)や内国歳入庁(IRS)を含む世界中の規制団体が、既に仮想通貨に対する明確なスタンスを示しています。まだ判断を下せていない団体も存在しますが、仮想通貨の売買と同じように、既存のルールに当てはめられるのか、もしくは新たなルールを導入しなければいけないのか、ということを判断するのにはある程度の時間がかかると思います。

TC:これまでにICOファンドから投資したスタートアップの数はどのくらいですか? また、投資先を決める際の基準について教えてください。

DM:これまでの投資先はKik(ICOはこれから行われる予定)、OxFunFairOmiseCivicの5社です。Civicに関しては、以前からエクイティ投資も行っています。

JK:投資先を選ぶ基準のひとつとして、仮想通貨がサービスに欠かせないような仕組みになっているかという点を重視しています。サービスネットワークの中で使われているのがその通貨のみかどうかということです。

TC:トークンの保有割合ついては目標値を設けていますか?

DM:特に具体的な基準は設けておらず、それぞれのICOを個別にチェックしています。出来る限り保有割合を大きくしたいとは考えていますが、トークンの発行数にもよります。KikとFunFairに関しては、恐らく私たちが筆頭”トークン主”ですが、他の企業に関しては私たちより多くのトークンを購入した投資家がいます。

PV:現状、トークン市場の規模はおよそ40億ドルと言われています。Kikは従来の方法で十分な資金を調達しながらも、ビジネスモデル全体をトークンベースに変えようとしており、今は彼らにとって大きな転換期だと考えています。もしもKikの試みがうまくいけば、グロースステージにある企業でもトークンの導入が進んでいくでしょう。そして彼らがトークンを使って何億ドルという資金を調達し始めれば、市場規模は一気に拡大していくと思います。

TC:エグジットに関してですが、Panteraではまず一般販売前にトークンを購入し、スタートアップがIPOに向けてプロダクトを開発する手助けをしていくということでしたよね。最終的には最近増えてきている取引所で、値上がりしたトークンを売却するんですか?

DM:その通りです。現在(Panteraが利用する可能性のある)取引所はKrakenPoloniexBittrexを含めて10か所ほどですが、今後新たな取引所が設立され、取引価格が妥当であればそこもオプションに加えていく予定です。

TC:一度に大体どのくらいの数の企業に投資していますか?

DM:10〜20社です。

TC:何か特定のバックグラウンドを持つファウンダーに投資するようにしていますか? というのも、かなりの数の企業がトークンを導入しているため、その中から有望な企業を見つけるのは難しいですよね。

JK:私たちがこれまでに話をした何百という数の企業のうち、今は30社の動向を追っています。トークンベースのビジネスを行う上で、起業経験は必ずしも必要ではありません。起業経験があるというのは、何かしらのビジネスのやり方を知っているという意味では価値がありますが、私たちが投資しているようなビジネスでは、そこまで重要なことではないんです。

トークンベースのビジネスは、普通のビジネスとは大きく異なります。トークンは株式と違いコミュニティーが保有するものなので、意思決定やガバナンスのプロセスもかなり違うんです。

TC:学歴に関してはどうですか?

JK:全ての条件が同じであれば、恐らく大規模なオープンソースコミュニティの構築経験があるかというのが重要なポイントになると思います。

TC:いずれICOの規模が株式を対価とするベンチャー投資の規模を上回ると思いますか?

DM:長期的に見れば、VCが資金調達を仲介する必要がなくなる可能性はあると思います。ウェブブラウザを開発するBraveのICOでは、24秒で3500万ドルが集まりましたからね。

2017年第二四半期のブロックチェーン企業による資金調達の様子を見てみると、ICOへの投資総額(2億1000万ドル)がVCの投資総額(1億8000万ドル)を上回っていました。この傾向が今後強まると考えているからこそ、私たちはICOファンドを立ち上げたんです。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

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TechCrunch Japan

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