Instagramで変わるソーシャルメディアのビジネス利用と「俺通信」な20代のコミュニケーション

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編集部注:この記事はカイユリコ氏による寄稿である。同氏は東南アジア向けアパレルコマース事業ANELAでCEOを務めた後、現在はFacebookグループの「Instagramマーケティング勉強会」を主催して情報交換をしつつ、自らInstagramマーケティングプラットフォームの「PONY」を開発している。本稿ではそんなカイ氏にInstagramのビジネス活用、そしてInstagramのメインユーザー層のオンラインコミュニケーションについて語ってもらった。

2010年にサービスを開始し、2012年にはFacebookが買収した写真・動画共有SNSの「Instagram(インスタグラム)」。今では全世界で何百万というブランドがこのサービスにアカウントを持ち、自社の商品に関わる情報を発信している。

広告ビジネスも好調だ。同社が2月に発表したところによると、グローバルで月間20万社がInstagramに広告を出稿しているという。これはTwitterの月間13万社を軽く超える数字だ。

この勢いは海外だけの話ではない。日本国内でもすでにMAU1200万人を突破。ビジネスユーザーは1万社を超えた。筆者らが運営しているInstagramマーケティング勉強会というFacebookグループは2015年1月末に運用をスタートしたが、すでに1500人近くが参加しており、Instagramのビジネス活用に注目する人が急増していることを感じる。

なぜInstagramへの注目が高まっているか? 一番大きな理由は、そのインタラクション(投稿を見たユーザーによるいいね!やコメント、シェアなどの行動)の多さである。米hootsuiteの調査データによれば、フォロワーに対するインタラクションはInstagramが4.21%であるのに対して、Facebookは0.07%、Twitterに至っては0.03%。つまり約60〜120倍の数字を出しているのだという。ファッションやフードなど、写真との相性が良い“インスタグッド”な業界の投稿であれば、より高い数字になっているのだという。例えばニューヨーク・コレクション(New York Fashion Week)においては、期間中に獲得した1300万件のインタラクション(いいね、コメント、シェア)のうち97%はInstagramで、残りはFacebookが2%、Twitterが1%という結果が出ている。

インタラクションの高さは、Instagram経由でのアプリダウンロードやメディア訪問などのエンゲージメントにも繋がっている。親会社であるFacebookはInstagram広告の最適化を今後重視していくとしている。

Instagramをプロモーションに活用する2つの方法

では企業はInstagramをどのようにプロモーションに利用するのか?それは

  1. 自社アカウントを育てる(ルーティン型)
  2. インフルエンサーに依頼する(スポット型)

大きくこの二択しかない。もっと簡単に言えば、「自分で発信する」か「他者に発信してもらう」かである。それぞれの手法についてもう少し詳しく紹介する。

  1. 自社アカウントを育てる(ルーティン型)

Instagramを通じてファンとの関係を築き、継続的に運用するための基盤作りを目的にしている場合、企業のアカウントでは良い写真や動画を投稿することに注力するだろう。また、ハッシュタグを利用した写真コンテストなどを開催したりもする。

このように自社アカウントを販売・PRチャネルとして機能させるには、コンバージョン目標とエンゲージメントレートから逆算したフォロワー数(あるいは投稿が拡散した際の閲覧者数)が必要である。もちろん時間や運用する人のセンスが問われるが、ファンと継続的に関係を保つ上で有効な手法である。

こういった「ルーティン型」の運用を支援する国内のサービスの代表格は以下の通り。筆者も現在Instagram向けのマーケティングツールPONYのベータ版をローンチしたばかりだ。

マーケティングツール(無料):PONY

マーケティングツール(有料):Aista (notari)、 Social Insight (ユーザーローカル)、 hashlikes (ナナメウエ)

運用/キャンペーン代行:sharecoto(シェアコト)、monipla(アライドアーキテクツ)

  1. インフルエンサーを巻き込む(スポット型)

これも最終的に自社アカウントの育成に繋がるケースもあるが、基本的にはスポット的にキャンペーンを盛り上げたり話題を作ったりすることを目的としており、そのために有名人やフォロワーの多いユーザーに対して投稿やプロジェクト単位で広告を依頼するやり方である。国内のおもな関連サービスとしては以下がある。

インフルエンサーへの発注プラットフォーム:Instagrammer.jp(3MINUTE)、 Tagpic(タグピク)、Life-Instagrammer Network(トレンダーズ)、コムニコインスタグラマーズネットワーク(コムニコ)

1、2の施策ともに、どちらか一方のみ行うのが良いというわけではない。戦略と予算に応じて効率的に運用を行わなければユーザーを囲い込めない。前者はセンスと時間、後者はお金が必要である。

Instagramはプロモーションだけのチャネルか

前述のとおりで、そのエンゲージメントの高さからInstagramアカウントを運用してプロモーションに活用するという動きは多い。だがInstagramの底力はプロモーションだけではないと筆者は考えている。

あくまでファッション業界を中心とした動きではあるのだが、「インスタグラムは顧客との最初の接点として、製品がベストセラーになるかどうかを判断するのに使っている」という企業が増えているのだ。

例えばオンライン小売のエバーレーン(Everlane)は、2016年1月、Instagramで非公開のアカウント(@EverlaneStudio)を開設し、つながりの深い顧客で構成された一種のフォーカスグループをInstagram上に作り、新しい製品のデザインなどについて議論に関わってもらった。

オンラインファッション誌「フーホワットウェア(WhoWhatWear)」は2016年、米量販店のターゲット(Target)と協力して、はじめてのリテールブランドを立ち上げた。その際、彼ら短い動画を撮影し「@whowhatwear」のアカウントから160万人のフォロワーたちに、「クローゼットのなかにない服は何か」と尋ねた。 そのフィードバックから、若い女性にはファッショナブルで手ごろな値段のビジネスウェアの種類が少ないことを突き止め、その後の商品開発に生かしている。

ファッション業界をはじめとして、いくつかの業界において、顧客はすでにInstagram上に存在しており、コミュニケーションをとれる状態なのだ。上のように潜在的な顧客のニーズを聞いたり、商品デザインや画像のA/Bテストを行ったり、より良いものを作り伝えるためにもInstagramは使われている。

今後の国内Instagramマーケティングの動き

今後Instagramは、アートだけの世界ではなくなっていく。より多くの広告が入り、アルゴリズムによって表示順序が変わり、フォローしている人からは広告としての投稿が流れてくる。

ここで予測できることは2つある。ひとつは——もはや発生していることだが——InstagrammerがYoutuberのような「仕事」にもなるということ。たとえば海外だと、sponstaのような企業とInstagrammerのマッチングサイトがある。ここにはセレブリティだけでなく、数千人のフォロワーがいる一般人が登録しており、様々な広告案件を請け負っている。

また海外セレブリティについては、Instagramの投稿広告が高額で発注されている状況だ。ケンダル・ジェンナーカーラ・デルヴィーニュらのトップモデルのソーシャル上での一投稿の価値は約1530万円〜3700万円、カーリー・クロスミランダ・カーらの投稿は、約300万円〜615万円ほどの価値があることが判明した

国内においても、上記インスタグラマーネットワークではこうした投稿広告の発注が行われている。TechCrunch JapanでインスタグラマーであるGENKINGの記事が話題になったのも記憶に新しい。今後はセレブリティや著名人だけでなく数千、数万程度の一般ユーザーに対しても広がっていくだろう。

もうひとつは、Instagramの写真データとしての活用だ。

Instagram、あるいはInstagram APIを使うサードパーティが、写真という大量のデータの機械学習によって振り分けて最適化していく(これは写真・動画投稿SNSとしてユーザビリティを改善するだけでなく、ECサイトやメディアにおいてCVRの高い写真・動画素材としての活用かもしれない)ことが考えられる。FacebookはF8において、今後10年間で注力することのひとつにAI活用を挙げたが、もしかしたらこれにも関わってくる動きになるのではないか。

リテラシーの高い学生のコミュニケーションは“俺通信”が中心に

最後に、Instagramのメインユーザーでもある20歳前後の大学生たちに聞いた話を紹介したい。もちろんITリテラシーの高い人物が中心なので、これが「ごく一般的な大学生のリアル」とは言えない。しかしながら、10〜20代のコミュニケーションの質が変わり始めていることを感じられる体験だった。

これまでコミュニケーションアプリといえば、日本ならLINE、グローバルで見ればWhatsAppやViberなど、メッセージやスタンプを「送る」「受け取る」ことでやりとりをする、文字通り「コミュニケーションをとる」ためのアプリだった。

そのため、自分がメッセージを送ったときには相手からの返信を期待する。返信がなければ「既読スルー」に悩み、極端なところでは仲間内で作ったLINEのグループから外される「LINEいじめ」といわれるような現象が生まれるなど、コミュニケーションをとることの煩わしさも目立つようになった。

しかし筆者が話を聞いた学生のコミュニケーションは、その煩わしさからも解消されているというのだ。つまり、彼らのコミュニケーションは、もはや相手からの積極的なインタラクションすら期待していないというのだ。

彼らはFacebookやLINEで相手に連絡する手段は確保しつつも、日常ではInstagramやSnapChat、MSQRD(マスカレード)でただ自分の日常をアップデートするだけ。恋人でもない人やさほど興味のない相手が自分の報告を逐一メッセンジャーなどで送ってくることを「俺通信」と呼ぶことがあるそうだが、そんな俺通信と呼べるような発信こそがコミュニケーションの主軸になっているのだ。

俺通信を主軸にしたコミュニケーションとは具体的にはどんなものか? まず彼らは食事会や合コンで知り合った異性に対してLINEのID交換を求めるのではなく、Instagramのアカウントを教えあう。直接コミュニケーションを取るのではなく、Instagram上でお互いの発信する内容を見て人となりを知り、趣味を知り、話のネタを見つけて、仲良くなれるかを探る。そして 仲良くなれそうだと判断した時に初めてLINEやFacebookのアカウントを交換する。ここでやっと連絡手段を確保し、距離を縮めていくのだという。

そして何度か話したり、共通の友人が多いことが分かったりすると、今度はSnapChatアカウントを教え合うのだという。SnapChatのStory(Facebookのウォールのように、時系列で投稿を閲覧できる機能)で、近況をテキストやスタンプとともに投稿し、特定の友人とだけ共有したい話があるときだけ、直接メッセージを送り合う。

SnapChatやInstagramは、基本的に自分が送って相手が返信する、というコミュニケーションは求められていない。既読スルーもなければ、送受信の頻度も割合も気にかけなくて良い。全員が好きなタイミングで「俺通信」を送り、興味がある時にだけ連絡をする。それは「返信」ではなく「連絡」くらいの感覚だ。ITリテラシーの高い大学生にとっては、自分との関係を”推し量る”程度の距離感が心地いいようだ。

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。