Instagramの共同ファウンダーがFacebookを去った理由――ファミリー企業運営の舵取りは難しい

 

マーク・ザッカーバーグはFacebookが世界最大のソーシャルメディアに成長した後すぐに、ユーザーは決して均一ではないし、Facebookのみによって世界一の座を永久に保持できるわけではないと気づいたようだ。そこで有力なライバイルを片っ端から買収してFacebookグループに加えるという戦略が生まれた。この「グループ戦略」はどちらにとってもメリットのあるウィン-ウィンとなるはずだった。

しかし今週、Instagramの共同ファウンダー、ケビン・シストロムとマイク・クリーガーは唐突に Facebookを離れた。これにより買収した企業を以前のまま独立に運営させるというある種の放任主義が結局は機能しないことがはっきりした。

大型買収がスムーズに進むことはめったにない。つまりInstagramを2012年に $10億ドルで買収した後、シストロムとクリーガーを6年間もグループ内に留めることができたのはFacebookの功績といわねばならない。

テクノロジー企業の買収に関していえば、6年というのは永遠に近い長い期間だが、一方で買収後もグループの枠内でスタートアップを成長させていくというFacebookのビジョンに照らせば短すぎる。

Facebookファミリー

スタートアップとエンタープライズという2つの世界の「いいとこどり」のアプローチが目指したのはこういうことだ。つまり、スタートアップがFacebookファミリーに加わっていれば自由な経営が許されると同時に、潤沢な資金に加えてエンジニアリングやマーケティングその他の経営リソースも確保されるはずだった。

WhatsAppの場合、 共同ファウンダーのJan Koum は4年、Brian Actonは3年半でFacebookを去っている。WatsAppを190億ドルで買収したのは2014年だったが、その後のVRのOculusを買収でも共同ファウンダーのPalmer Luckyを政治的紛争で、Brendan Iribe(人事刷新)でそれぞれ失っている。現在はGoogle出身で元Xiaomiのバイスプレジデント、Hugo BarraがFacebookのVR担当バイスプレジデントだ。

通常のテクノロジー買収なら6年といわず3年でも買収先スタートアップのファウンダーを引き止めておければ十分な成功だ。しかし多くのファウンダーは連続起業家であり、たとえ買収によって一生困らないほどの大金持ちになっても起業を止めることはない。何かを作ること、それを完全に自由に運営すること、急成長させることにはなんともいえないスリルがあるという。しかしこうしたことは買収後はすっかり変わってしまう。スタートアップのファウンダーは完全なボスだ。大企業の社員からファウンダーになるのも心構えの大きな変化を必要とするが、その逆となるとさらに難しい。買収されたスタートアップが親会社の成長戦略の重要な柱を担う場合はなおさらだ。

Facebookはグループ企業の自治を約束してこの衝撃を緩和しようとした。

事実2人の共同ファウンダーは大きな裁量権を維持し、シストロムはInstagramの顔の役割を果たしてきた。情報によれば、シストロムはすべての広告を自分で承認していたという。この点はFacebookの取締役に就任したKoumの場合も同様で、Koumは WhatsAppの買収を「提携」と呼んでいた。ファウンダーたちは Facebookの買収後も会社の運営権の掌握を強く求めていた。

WhatsAppのファウンダー、Jan Koumは買収後、Facebookの取締役会に加わったものの、巨大企業の管理圧力には勝てなかったと言われる

運営の独立vsFacebookの利害

しかし「経営の独立」は結局機能しなかった。

WhatsAppとInstagramの4人のファウンダーたちはやはりスタートアップを彼らのビジョンに沿って成長させようとし、その点を原因としてすべてFacebookを去ることとなった。【略】

InstagramでもWhatsApp同様、シストロムとクリーガーはFacebookの経営陣と対立することになった。TechCrunchのJosh Constine記者の詳しいリポートによれば、Facebookはスタートアップの「独立性を弱めようとした」という。これが共同ファウンダーの不満を呼び、最終的には唐突な辞職を招いた。

シストロムの辞職にあたっての短いメモはこの点をぶっきらぼうに強調したものとなっている。こうした離職声明にはザッカーバーグとシェリル・サンドバーグを始めとするFacebookのトップへの感謝の言葉が置かれるものだが見当たらない。その代わりシストロムは「クリーガーと私は好奇心と創造性を再び発揮して新しいプロダクトを作ろうと考えている」と述べている。

Facebookによる2012年の買収後もシストロムはInstagramの顔を務めてきた

全体としてみればFacebookはファミリー企業の独立性の維持に努力してきたほうだろう。しかし4人のファウンダーが去ったことでも分かるように優秀な起業家は檻に入れておくことも手なづけることもできないものだ。しかし数十億ドルの買収ともなれば支払った側はそれに見合うだけ長く人材を引き止めておきたいと考える。Facebookは少しルールを曲げてもスタートアップの独立性を尊重し、ファウンダーの引き止めを図った。しかし永久に重力に逆らっていることはできなかった。

ファウンダーを失ったといってもFacebookはInstagramの買収で空前の成功を収めている。 Instagramのユーザーは買収時点で3000万人程度だったが、今や10億人だ。WhatsAppも買収時の4億5000万人から15億人へと3倍以上に成長した。

今後の見通しにあたって重要な点はFacebookの生え抜きチームはファウンダーが去った後のファミリー企業を以前同様に成長させていけるかどうかだろう。ファウンダーが去ったことによる才能の空白もさることながら、企業文化が変化すれば大きな打撃になりかねない。買収した企業はあくまでFacebook本体とは異なる存在だとユーザーが認識させておく必要があるからだ。そもそもFacebookがこうしたスタートアップを買収したのはその点が狙いだった。ソーシャルネットワークをとFacebookがイコールになってはならない。そうなればユーザーは飽きてしまうだろう。

画像: Saul Loeb / AFP / Getty Images

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滑川海彦@Facebook Google+

投稿者:

TechCrunch Japan

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