JapanTaxiとフリークアウトが進める“新世代タクシー広告”「Tokyo Prime」が全国展開、決済機能付き新端末も

2018年に入ってから、国内タクシー業界の競争が激化している。

日本交通の子会社で、国内ではトップシェアを誇るタクシー配車アプリ「全国タクシー」運営元のJapanTaxiが2月にトヨタから75億円未来創生ファンドから10.5億円の資金調達を実施。タクシー向けのコネクティッド端末や配車支援システムの共同開発など、今後のチャレンジを明らかにした。

競合他社も黙ってはいない。中国を中心に配車アプリを展開する滴滴出行(DiDi)はソフトバンクとの協業を発表。Uberも第一交通と提携の協議を進めているし、ソニーがタクシー会社6社と組んでAIを使った配車サービスに取り組むことも明らかになった。

ユーザーにとってみれば、健全な競争によって少しでも日本のタクシーが使いやすくなることを期待したいところであろう。

利便性という観点では、配車だけではなく車内の設備やサービスも含めた「乗車中の体験」も重要だ。この「タクシーの乗車体験の向上」というチャレンジに、タブレット端末と広告という観点から取り組んでいる企業がある。JapanTaxiとフリークアウト・ホールディングスの合弁会社として2016年に設立されたIRISだ。

同社が展開するのはタクシー搭載のデジタルサイネージ「Tokyo Prime」。これまで都心を走る日本交通のタクシー4500台に端末を設置、動画広告を配信してきたが、2018年6月より日本交通以外の車両も対象に全国展開を開始する。

2020年までに5万台のネットワークを目指す

IRISが手がけるTokyo Primeについては、会社設立時にTechCrunch Japanでも詳しく紹介している。従来は「コンプレックス商材」が多かったタクシー広告。その概念を変え、都心でタクシーを利用する高所得者層をターゲットにした「プレミアム動画広告」を2016年にスタートした。

同社取締役COOの飽浦尚氏によると、立ち上げ当時は従来のイメージもあって顧客の開拓に苦労したそう。流れが変わったのは、トヨタが父の日キャンペーン(「Loving Eyes – Toyota Safety Sense」はSNSでも話題となった)の広告を出向したタイミングだ。これをきっかけに大手企業からの引き合いも増加。2017年9月以降は満稿状態が続き、10~12月の販売額は前年比で14.4倍に成長しているという。

「最初は(車内の広告について)邪魔くさいだけでは?という意見も周りからはあった。ただ実際にやってみると反響が大きく、ユーザーにもきちんと見てもらえるという手応えを感じている」(飽浦氏)

すでに述べたように、IRISでは6月から「日本交通のタクシー」「都内」という枠を超えて、Tokyo Primeの全国展開を始める。3月9日の時点で7都道府県、約1.5万台のタクシーへ端末の導入予定があり、2020年末までに合計5万台のネットワークを目指すという。

飽浦氏の話では、全国展開を通じて実現できることが大きく2つあるそうだ。1つは広告の観点で、(広告主にとって)リーチできる層が全国に広がるということ。もう1つは(ユーザーにとって)地方のタクシーの利便性向上だ。

Tokyo Primeでは主にナショナルクライアントの利用を見込んでいるため、全国規模で商品展開をしたい広告主にとってはより魅力的な広告商材になりえる。これはシンプルな話かもしれない。

一方で、地方のタクシーがより使いやすくなるという点についてはどういうことか。「(IRISの端末を導入することで)広告を流すだけではなく、アプリを通じた決済にも対応できる。決済端末として期待してもらっている側面も強い」(飽浦氏)

同社の端末を導入すると全国タクシーアプリ内の「JapanTaxi Wallet」機能だけでなく、スマホ決済サービス「Origami Pay」や「Alipay」からQRコードを用いてスムーズに代金を支払えるようになる。

開発中の新端末スクリーンの右側がカードリーダー

地方のタクシーに乗った際に、クレジットカードで支払いができなくて焦った経験のある人もいるかもしれない。対応できた方がいいことはわかっていても、決済端末の価格や決済手数料がネックとなって、地方にはカード決済を導入していないタクシー会社も多いという。

IRISの場合は端末の初期費用を抑えることに加えて、広告収益の一部をタクシー会社に分配(レベニューシェア)している点が特徴。まだ先の話にはなるかもしれないが、今後広告収益が増えれば「その収益で(端末導入費や決済手数料といった)コストを相殺できるようになるところまで目指したい」(飽浦氏)そうだ。

なお端末に関しては、これまで外部(レノボ)から調達していたものの、今後はオリジナルの新端末に変更。全国に展開していく予定だという。新端末はスクリーンの横にカードリーダーを搭載。クレジットカード決済やICカード決済にも対応する。また同時に、バッテリーを排除して車両から給電する。実はタクシーの車内というのは意外とハードな環境だ。毎日20時間ほど振動し、季節によっては温度上昇も大きい。これに耐えられる設計になっているという。

「決済機と戦うつもりはなく、新しい乗車体験を提供して、タクシーの全国の利用を変えていきたい。タクシー会社はこれまで決済費も通信費も手数料も、すべて『支払う側』だったが、広告での収入も得ることができる。さらに決済も、乗務員はタブレットで作業を見ているだけでいい。実は乗務員の高齢化は課題。日本交通では新卒を採用しているが、東京以外では厳しいところもある。機械に慣れていない乗務員が(新しい決済手段を)覚えるのも課題になっている」(IRIS代表取締役社長であり、JapanTaxiの取締役CMOでもある金高恩氏)

タクシー広告をデジタル広告に近づける

IRISでは全国展開に加えて、新たに2つの取り組みを始める。1つ目はGoogleが提供する「DoubleClick Bid Manager」から動画広告の買付をできるようにすること。つまり屋外・交通領域のタクシー広告をデジタル広告のようにオンライン上で買付、効果検証できるようにすることだ。

従来の屋外・交通広告では「表示回数やリーチ人数、購入人数などをログベースで計測できない」「データを活用した広告の出しわけや絞り込みができない」といった点が課題となってきた。

「たとえばFB広告と比べてどちらが良かったのかなど、デジタル広告と横並びで比較することができなかった。つまりROIがわかりづらく『(タクシー広告は)結局効果があったのか?』と言われる部分があった。(今回の取り組みにより)段階的にではあるが、デジタル広告のいいところを屋外広告にも取り入れられるようになる」(飽浦氏)

大手ブランドが最初の広告主としてすでに掲載を開始していて、今後本格的に拡大していく方針だ。

日経電子版の記事配信も

またもう1つの取り組みとして、4月2日よりTokyo Prime内で「日本経済新聞電子版」の新着記事をリアルタイムに近い状態で配信する。これは「タクシーの乗車体験を向上させたい」という同社の目的を考えると、もっともわかりやすい取り組みかもしれない。

現在Tokyo Primeではのべリーチ人数が月間で300万人を超えるが、その半数以上は都内勤務のビジネスパーソン。日経新聞を普段チェックしている人も多いだろうから相性はいいはずだ。

日経電子版がデジタル・サイネージに記事を提供するのは本件が初めてとのこと。Tokyo Prime内で配信される日経電子版の新着記事への広告掲載も4月2日週より開始するという。

全国展開、オンライン上での広告買付と効果測定、日経電子版記事の提供——。これらの取り組みを通じてIRISが目指すのは「タクシーの乗車体験を全国規模で変えていく」(金氏)こと。

加えて、日本語、英語、中国語、韓国語の4言語への対応や、音声、パネルタップ操作による翻訳通訳機能なども予定中。こちらは都内を拠点にする日本交通のタクシー100〜200台でテストを行うという。

「タクシー業界としてもこれまで乗車体験の向上にはずっと取り組んできたが、もっと改善できる部分もある。毎回の決済を楽にしたり役に立つコンテンツを届けたり、タブレットは(ユーザーの)乗車体験を良くすることに活用できる。普段からタクシーを利用する国内のユーザーだけでなく、これから増えるインバウンドのユーザーにもいい体験を提供できるように取り組んでいきたい」(金氏)

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。