just.me: もう巨大サーバ(Facebook, Twitter, …)は要らない, 個人がノードであるSNSは健康的

Just.me logo

本誌TechCrunchの協同ファウンダでインキュベータArchimedes LabsのパートナーでもあるKeith Teareのプロジェクトjust.me(“私だけ”)が、そのiOS用アプリのベータをローンチした。Androidアプリも今四半期内に出るという。just.meは前にも記事にしたことがあるが、それはTeareが、昨年のスタートアップの祭典South by Southwestで予告的な紹介をしたときだ。それ以降ずっとステルスモードだったが、今日はiOSアプリが少数のベータテスターたちの手に渡った。App Storeでの一般公開は、一か月後を予定している。

just.meとは何か?

それは、メールとMMSとSMSをリプレースするメッセージングアプリだ。メッセージのブロードキャストもできるからTwitterに似た面もあるが、文字数の制限はなくマルチメディアも使える。また、Evernote的に、ユーザ個人のジャーナルがクラウドに保存される。単一のインタフェイスから、1)共有、2)公開、3)プライベート、計三種類のコミュニケーションができる。プライベートの場合は、その相手先を適宜選べる(自分だけに送ることも可能…後述)。

インタフェイスには三つのタブがあって(下図)、いちばん左の’only me’はメッセージをクラウド上の自分用のプライベートの保存場所に送る。真ん中の ’shared’タブはメールやSMSのようにグループに対するメッセージのスレッドを作る。右端の’public’は、メッセージをクラウド上のパブリックの場所に送る…そこはTwitterに似ていて、ユーザのプロフィールがあり、フォローする/されるの関係があり、Facebook的に[いいね!]をしたり、コメントもできる。しかも、さらに、公開メッセージはjust.meの中でTwitterやFacebookにも送れる。

Just.me

just.meのメッセージは、一つのインタフェイスからマルチメディア(テキスト、写真、ビデオ、オーディオ)で送れる。マルチメディアによる短編みたいなものを作って、相手に再生させることもできる。一つのメッセージの中にいろんな成分を入れられることはGoogle Waveを思い出させるが、Teareはこの比較を拒絶する。今は亡きWaveは、“複雑すぎるし、あまりにもギーク向けだった”、と彼は言う。just.meに近いのは、むしろ、モバイルのFacebookだ、と。

要するにjust.meは、マルチメディアのメッセージを、メールのような一対一や一対特定多数から、Twitterのようなブロードキャストまで、いろんな段階のコミュニケーションモードで…しかもジャーナリング機能付きで…送受でき、しかもそれらを、たった一つのシンプルなインタフェイスからできる、というのが売りだ。つまりジャーナルアプリとメールクライアントとソーシャルネットワークを一つにしたようなもの。

統一的モバイルメッセージングvs.Web 2.0の壁

Teareが言いたいのは、“いろんなことをするのに、いろんなアプリケーションを使い分けなければならないのは、かったるいではないか”、ということだ。“just.meなら、たった一つのアプリのたった一つのインタフェイスから、メッセージング、パブリシング、そしてプライベートなジャーナリングを使い分けられる。しかもジャーナリングは、ユーザが意識しなくても自動的に行われる”。

just.me

“Facebookが最初からモバイルアプリで、アドレス帳を軸にすると決めていたら、just.meととてもよく似たものになっただろう”、と彼は言う。しかし、“今のFacebookで、友だちとの共有や、自分だけ用に保存、一般公開、などはすべてできるけど、そのためには相当苦労しなければならない。それが簡単にできる設計に、なっていないから。just.meは、Facebookと違って分散型のアーキテクチャだから、各機能の使い方が単純だ”。

ただしjust.meのそれぞれ独立した機能は、お互いを横断することができない。たとえば、公開メッセージへのリプライをプライベートにやる(あるいはその逆)ことを、メッセージを単純にコピーして即座にすることはできない。グループスレッドは、スレッドを創始した人が参加者を選べるが、スレッドを別のコミュニケーションモードに転送することはできない。Teareの説では、メッセージの作成者の意図がパブリックなら、それが途中どこかでプライベートにされるのはまずい、ということだ。

2008年にTeareは、“ポストPC時代のソーシャルネットワーク”を構想し、それが次第に進化してjust.meになった。今ではそれは、“高機能・多機能なメッセージングアプリ”だ。でも、スマートフォンが大衆的に普及したときには、巨大ソーシャルネットワークの壁の中よりは、こういうオープンでピアツーピアな相互メッセージングの方が、理にかなっている。Teareに言わせると、こういうメッセージングのアーキテクチャなら、何兆ものメッセージが複数のスマートフォン間を行き来する。個別のソーシャルネットワークの壁の中では、それは無理だろう。すなわち、これまでのスタンドアロンのソーシャルネットワークには未来がないが、just.meみたいなものには、大きな未来がある。

彼の思想は、要するに、誰もが自分のスマートフォンを使って分散ネットワークを簡単に構築できる時代においては、これまでの中央集権型のソーシャルネットワークは不要になる、ということである。しかもこの分散ネットワークは、eメールやそのアドレス帳をはじめ、従来からある個人プライバシーの仕組みに依存するので、巨大サーバ上のソーシャルネットワークよりもプライバシー保護が優れている。自分の個人情報が、どっか知らないところのセントラルリポジトリにある、という不安な状態はない(Teareは以前、Web 2.0はアドレス帳を盗む、という批判記事を書いたことがある)。ただしjust.meにも、システムがユーザのメールのアドレス帳や電話帳の情報を暗号化して保存し、その中の誰かがjust.meに参加したらユーザにお知らせする、という機能はある〔これはオプトアウトできるのか?〕。

justme-public

基本的にメッセージングだから、just.meは閉鎖的な会員制ではない。会員登録をしていない人でも、コンテンツは完全に可視だ。メールやテキストのリンクからjust.meのクラウドへ行くと、コンテンツをHTML5のフォームで見られる。ただし、just.meの全機能を使うためには会員登録が必要だ。たとえば、ぶらりと訪れただけの人は、メッセージへのリプライはできない。

ライバルPathとの違い

ソーシャルネットワークのBMWを自称するPath(Facebookは大衆的アメ車の代表Chevyだそうだ)と、どう違うのか。Teareは、Pathではあらかじめ決まった人たちのグループと共有できるだけだが、just.meではプライベート、グループ、パブリック(一般公開)と共有の3モードがあり、またその方式もジャーナリング、メール、ブロードキャストと複数種類ある。共有対象グループも、一つの特定の友だちグループだけではなく、共有の目的に合わせた指定ができる。

“単一の目的なら、Pathは良くデザインされたアプリだ。一つの特定のグループだけ、何もかもそのグループの全員と共有する、それならPathでよい。Pathは、デザインがすばらしい。しかしjust.meは、良かれ悪しかれ、全然違う”、とTeareは言う。“just.meは、単なる共有アプリではなく、メッセージングのアプリケーションだ”。

“もう一つの違いは、プライバシーやユーザ制御の点で重要と思うが、just.meではユーザが自分のスマートフォンのアドレスブックをもとに自分で共有対象を決められる。Pathの場合はそのサーバ上の中央集権的なクラウド上にアドレス帳がある。その点では、FacebookやGoogle+のような古いタイプのソーシャルネットワークと同じだ”。

Google+でも、ユーザが自分のコンタクトのいろんなグループ分けができる(Circle機能)。それにより、コンテンツごとに共有対象を変えられる。また一般公開の共有も可能だ。しかしTeareが言うには、just.meでは事前にCircleみたいなものを定義しておく必要がまったくない。アプリがユーザが過去に共有したグループ(誰々と共有したか)を記憶しているので、その記憶を再利用することも可能だ。使えば使うほど、アプリが記憶するグループの数も増える。

売上もあります

Just.meは2011年に270万ドルのシリーズA資金を獲得した。VCからの150万ドルの借り入れも合わせると、今お金には困っていないから新資金調達の予定もない。しかし潤沢とは言っても、Pathなどに比べるとささやかなものだ。just.meへの投資家はKhosla Ventures、SV Angel、Google Ventures、True Ventures、Betaworks、CrunchFund(TechCrunchのファウンダが経営, 今の親会社AOLが出資)、それにDon Dodge、Michael Parekhなどの個人だ。

just.meは、ユーザが自分のメッセージを保存するクラウドストレージも含めて無料になる予定だが、今後は企業利用を有料にする。個人は今後も無料を貫きたい、とTeareは言う。彼のヴィジョンでは、just.meは企業が接触をオプトインした消費者とコミュニケーションするための、最適のサービスである。

企業アカウントを有料にし、またjust.meのパブリッククラウドには宣伝的コンテンツもあってよい、とする。そういう有料化ポストは、レイアウトなどでそれとはっきり分かるようにする。それが、一応のビジネスモデルだ。その企業やブランドのファンは、そのアカウントをアドレス帳に載せることによって、バーゲンなどの案内を受け取れるようになる。企業側はそういう消費者ユーザのコンタクト情報を入手しないから、スパムのおそれはないし、また商業メッセージを受け取る設定を、いつでも自由にoffにできる。

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“広告とビジネスモデルに関しては、うち独自の態度で臨む。うちの信念としては、モバイルは、消費者へのターゲット広告によって有意義なメッセージを伝えることのできるプラットホームではない”。むしろTeareによると、モバイルをマネタイズするためには、“消費者とベンダとのあいだの関係を構築する以外の方法はありえない”。消費者側が全権を持つことによって、自分が好きなブランドとのコミュニケーションへオプトインするのだ。

“just.meは、関係を宣言する場としてすばらしい。ユーザ自身が自分の(自機上の)アドレス帳を操作することによって、その宣言ができる。これについては、特許を申請中だ。それはブランドにとって、この人にはメッセージを送ってよいという許可になる。メッセージは、売り出しでもクーポンでも宣伝でも、単なるお知らせでも、適切なものなら何でもよい”。

just.meのルック&フィールを作ったのは、デザイン担当のAlex Komarovだ。チームの総勢は14名、うち9名が技術者だ。彼らの担当分けは、iOS、Android、Web、そしてミドルウェアとバックエンド。4名がユーザインタフェイスとデザイン担当だ。メディアストレージにはAmazon S3を、メタデータにはAmazon DynamoDBを利用している。だから、インフラのスケーラビリティは完璧、とTeareは言う。

just.meのiOSアプリは10の言語を同時に立ち上げる: 英語、日本語、中国語、韓国語、フランス語、ドイツ語、スペイン語、ポルトガル語、イタリア語、ロシア語。“これで十分”と言えるまで、今後も新しい言語を順次加えていく。最終目的は、グローバルなユーザベースの構築だ。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。