LINEを活用した歯科矯正サービス「DPEARL」が歯科医による遠隔コンサルサービスを開始

「歯並びをきれいにする歯科矯正は、審美的に意味があるだけでなく、健康にとっても重要な領域です」

LINEで予約して始めるマウスピース型歯科矯正サービス「DPEARL(ディパール)」を提供するフィルダクト代表取締役の金子奏絵氏は、そう切り出した。欧米では歯並びをきれいに保つことは、ずっと以前から意識されているが、日本では「歯並びを治したいが、なかなか踏み出せない」という人が多いという。

「日本で歯並びがよくない人は全体の64%。そのうちの9割が未治療者で、人口の約58%が歯並びの改善が必要なのに、できていない。矯正に踏み出せない理由としては、費用の高さ、矯正期間の長さ、ワイヤー型の矯正器具を使ったときの見た目が大きい。(従来のワイヤー型での)一般的な歯科矯正の費用は相場が100万円。期間は2〜3年で確かに潜在ニーズに応えられていないのが現状だ」(金子氏)

金子氏は東京医科歯科大学歯学部口腔保健学科の出身で、歯科技工士免許を持つ人物だ。「旧態依然とした歯科業界を変えたい」と同大学大学院医歯学総合研究科在学中に起業。歯科矯正を「安い」「スピーディー」「万全のサポート」を備えたサービスでアップデートしようとDPEARLを企画・開発した。

テクノロジー活用で歯科矯正を低コスト・短期間化、モチベーション維持も

DPEARLでは、CADや3Dプリンターといったテクノロジーを活用して、これまで歯科医師がワイヤーの屈曲を行い、時間をかけて行ってきた矯正の時間とコストを削減。低コストで、しかも目立ちにくい透明なマウスピースを装着しての矯正を可能としている。

またユーザーからDPEARLが直接費用を預かり、歯科医師や歯科技工士に支払うD2Cモデルを採用。これにより、ユーザー・歯科医師・歯科技工士のそれぞれにとって適正なプライシングを実現し、「平均20万〜40万円の価格で矯正が行える」(金子氏)という。

DPEARLの利用フローは以下の通りだ。まず、DPEARLのLINEアカウントを友だち登録し、初診を予約。提携クリニックへ行き、マウスピースによる矯正が可能かどうかを歯科医が初診時に診断した上で、歯型を取る。その後、歯科技工士がデジタルシミュレーションを製作。約2週間で専用のマウスピースが作られて届くので、そこから装着・矯正が始まる。

マウスピース型の歯科矯正のメリットには、目立ちにくいということのほか、いつでも取り外しができるという点もある。このため、矯正中の歯みがきなどの手入れはしやすいのだが、これは実はデメリットにもなり得るのだという。マウスピース矯正では、1日18〜20時間の装着時間が必要だが、これを守れないと矯正期間が長期化することになりかねない。

DPEARLはLINEを活用することで、装着中のユーザーのモチベーションをサポートするサービスも提供。矯正の進捗状況がグラフで一目で分かるほか、シミュレーション動画もLINEで確認でき、提携ドクターによる定期的なコメント送信や歯科衛生士などによる質問への対応も行われる。

歯科サブスクなども構想、矯正を予防歯科の入口に

2019年3月からDPEARLのビジネスモデルを検証してきたという金子氏。2019年11月には先行受付を開始し、今年3月から正式にリリースした。都市部だけではなく、クリニックの少ない地方からの登録も進んでいるとのこと。売上などのめども立ち、ビジネスが成り立つとの判断から、現在はブランディングとオペレーション構築を進めているところで、今後スケール拡大を図るという。

「DPEARLは、歯科矯正をもっと身近に感じてもらうためのきっかけを与え、LINEを使ったサポートにより、効果も上げるという役割を担うブランド。今回、新型コロナウイルス感染拡大のこともあり、新たに遠隔で、歯科医が歯並びのコンサルティングを行うサービスを開始した」(金子氏)

4月8日にフィルダクトが提供を開始した「DPEARL Home Dental」は、今までは最初のチェックからクリニックに足を運ぶ必要があったところを、家にいながらにして歯並びの状態を知ることができるというものだ。DPEARL Home DentalのLINEアカウントを友だち登録し、スマホで撮影した歯並びの写真をアップロードすると、歯科医師がそれを見て歯並びの問題点を指摘し、DPEARLでの矯正期間や費用の目安を教えてくれる。確かに、オンライン越しに概算が見積もれるなら、歯科矯正へのハードルを下げるには十分役立ちそうだ。利用は無料で、先着1000名が対象となる。

このサービスは、米国で提供されている歯科矯正サービス「SmileDirectClub」や「Candid」のように、歯型を取るキットが送られてきて歯科矯正が全てオンラインで完結するというものではないので、最終的には対面での診察や歯型取りが必要だ。キットでの歯型取りについて金子氏は、今のところ「精度が確実でないため、正しい矯正につながらず、時間や費用がかえってかかる可能性があり、DPEARLでは採用しない」と回答している。

金子氏は「海外で提供されているサービスのモデルでは、歯科矯正器具を販売することに主軸があり、クロスセルでほかのものも販売するようなものが多い。だが我々は『歯科矯正を予防歯科の入口』と捉えている」と述べている。

「日本の歯科は、ずっと治療が主流で成り立ってきた。近年は悪くなってから受診するのではなく、予防を強化したいというトレンドはあるが、なかなか進んでいないところもある。この流れを、審美やコンプレックスを切り口として仕掛けるのはピッタリだと考えた。矯正に取り組む患者さんは歯に対する意識が高くなるので、定期的なクリーニングを勧めれば定期来院にもつながりやすい」(金子氏)

金子氏は「フィルダクトはマウスピース矯正にとどまらず、古い歯科業界に風穴を通し、インフラを整えていくような企業となることを目指している」として、DPEARLについて「歯科のサブスクリプションなど、プラットフォームへの移行も構想としてある。歯科矯正サービスは歯科予防産業の入口として捉えている」と話している。

今後「3Dと予防歯科、テクノロジーと予防歯科の切り口で、D2Cブランドで多くの人を引きつけられるようなサービスを考えている」という金子氏。「口腔の健康と糖尿病や脳梗塞、高血圧など、全身の健康は密接に関連している。口腔をよくすることは全身の健康につながる。歯科受診がステータスに感じられるようなサービスを提供していきたい」と語った。

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TechCrunch Japan

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