LINEチャットでレストラン予約の「ビスポ!」にLINE、本田圭佑氏らが出資

LINEチャットで、さまざまなモノやコトを相談したり、予約したりできる時代。旅行恋愛相談など、TechCrunch Japanでもいくつかサービスを紹介してきているが、8月28日にリリースされた「ビスポ!」は飲食店予約をLINEチャットでできるサービスだ。

ここで「あれ、そういうの既になかったっけ?」と思った方は、なかなか鋭い。実は2015年にLINEがRettyとの提携で「LINE グルメ予約」というお店探しと予約ができるサービスを提供していたのだが、2017年3月にサービスを終了している。

また、飲食店探しをユーザー同士が人力で助け合うサービスとして2015年3月に始まった「ペコッター」も、現在はグルメコンシェルジュサービスとして予約代行をメインのサービスとして運営。iPhoneアプリのほかにLINEボット版を提供している。

こうした飲食×チャットの世界に新たに加わったビスポ!は、一見すると、ほかのチャットボットと同じように「LINEで友だちになって希望条件をチャットすると、店を提案してくれて、最終的には予約もできる」というサービスだ。

運営会社Bespo(ビスポ)代表取締役CEOの高岳史典氏は「ビスポ!は、飲食業の課題に飲食店サイドに立って解決するサービスだ」と、その特徴を説明する。

飲食店業界に入って知った課題

高岳氏は、新卒で日本興業銀行に入行、P&Gでマーケティングを担当した後、コンサルティング会社を経て、いわゆる「ライブドア事件」により一度は解体されようとしていたライブドアに参画し、再編やNHN Japan(現在のLINE)との統合に関わった。ライブドアに参加した経緯や現LINE CEOの出澤剛氏との出会いを本人が綴ったテキストを読んだ方もいるかもしれない。

その後、2013年に飲食業界で起業し、ラムチョップとワインの店「ULTRA CHOP」を経営。5年間で4店舗を展開するに至る。

実は高岳氏は2016年9月に、いわゆる「食べログスコアリセット事件」の発端となる下記ツイートを発信している。新聞や週刊誌などでも話題になったので、ご記憶の方もいるだろう。

ちなみにその後、食べログ運営のカカクコムは「有料集客サービスを利用しているかどうかが点数に影響することは一切ない」とアナウンス。店舗のサービス利用状況や検索結果での優先表示と、点数の更新との間には関連はない(偶然タイミングが重なっただけ)と説明している。

ともあれ、こうして自らが飲食店を経営し、業界向けサービスを見ていく中で課題を感じたという高岳氏。いま提供されているサービスには「飲食店サイドに立ったものは、なかなかない。飲食店を課金対象にしか見ていないサービスが多い」と述べる。そこで「課題を解消することで、日本の飲食店をもっと豊かにしたい」と考え、2018年1月に設立したのがBespoだ。

高岳氏が考える、飲食業界の課題は3つある。直前キャンセル、集客、人材確保だ。

直前キャンセルについては、Bespo設立前の2017年、飲食店経営をしながらマーケティングやITに関するアドバイザーをしていた高岳氏が、ダイナースクラブ、LINE、ポケットコンシェルジュの3者を連携させた「ごひいき予約」サービスをプロデュースしている。

ごひいき予約は、「何カ月も先まで予約が取れない」ような人気店でありがちな、「当日急にキャンセルせざるを得なくなった」席をダイナースクラブが買い取り、LINEの公式アカウント経由で会員に告知、即時転売するというもの。転売後の予約・決済をポケットコンシェルジュのシステムが担当する。

そして今回リリースされたビスポ!が取り組むのは、集客の課題だ。有名店でも人気店でもない、ほとんどの飲食店では、集客ができないことは、キャンセルよりさらに大きな問題となる。

「例えば評判のお寿司屋さんのNo.2が独立して、店を持ったとする。いい素材を確かな腕で出していれば、最初は前の店の常連さんが様子を見に来てくれたりするからよいけれども、ちょっと駅から遠い、といった場合、せっかくよいネタを仕入れていても、ずうっとお客さんを待っていなければならない、なんてことになりかねない。では『食べログ』や『ホットペッパー』に“課金”して検索順位の上位掲載を狙えばよいのか?というと、そういうことでもない」(高岳氏)

トレタとの連携で空席のみをリアルタイムにレコメンド

ではビスポ!は具体的にどうやって、集客の課題を解決しようとしているのか。

ユーザーにとっては、ビスポ!は検索をせずにLINEチャットで店を見つけて、予約までできるサービスだ。LINE公式アカウントの「ビスポ!(@bespo)」と友だちになって、利用を開始する。

メニューの「かんたん予約」では、チャットボットのガイドに合わせて希望日時、人数、予算、ジャンル、場所などを選べば、希望日時に席が空いている店が候補としてリアルタイムで表示されるので、好きな店を選んで予約ができる。

また「わがまま予約」では、かんたん予約の条件に加えて「アレルギー対応メニューを用意してほしい」「デザートプレートを誕生日用にデコレーションしてほしい」といったリクエストが可能だ。利用できるのは1人当たりの予算が5000円以上から。わがまま予約の場合は、条件に対応できる店があれば、早ければ30分程度で、遅くとも24時間以内に順次返信をくれるので、その中から好きな店を選んで予約することになる。

飲食店側も予約管理はアプリで行う。予約の状況の確認や、わがまま予約の場合に返信して予約を待つかどうかの判断、ユーザーへのお礼メッセージ送信が可能。また、ビスポ!を利用する店舗間で見られる、ユーザー評価とコメントも入力することができる。

肝となるのは「予約台帳と連携しているので、条件の中で、空席のある飲食店のみが自動的にレコメンドされる」という点だ。

「既存モデルの予約サービスでは、店は空席、つまり“在庫”を予約サービス側に預けている状態になる。お客さんにとっては“金曜夜7時”といった在庫が人気なわけだが、そうした在庫が予約サービス上で前日までにはけなかったとしたらどうするか? 実は店は予約サービスから在庫を引き取って『当日予約は電話で』といった形で予約を受けるようにしているんです」(高岳氏)

ビスポ!はトレタの予約台帳と連携することで、リアルタイムでの空席マッチングを可能にしている。「予約の取りっぱぐれがなくなるので、店としては安心できる」と高岳氏は話す。

わがまま予約の場合でも、空席がなければ店に通知は来ず、空きがあるときだけリクエストが通知される。返信するか、スキップするかは店が選べるようになっていて、返信した場合には、ユーザーが店を選択するまでは席が仮予約の状態になる。

「店は、例えば夕方の早い時間帯なら『お客さんを入れたいので、多少のわがままには応えよう』となるが、必ず満席になると分かっている曜日・時間帯で、安めの予算で面倒なリクエストが届いた場合には、スキップすることもできる。いわばリバースオークションのようなスタイル」(高岳氏)

飲食代金の支払いは原則として店舗で行うが、わがまま予約については「訪日外国人客も支払いやすいように」ということで、事前に設定した予算をLINE Payで支払うこともできるよう、年内には機能を実装する予定だという。

高岳氏は「かんたん予約とわがまま予約のどちらが好まれるかは分からないが、まずは両方実装してみて、いろいろと改善していこうと思っている」という。わがまま予約のフリーワードについては、自然言語解析などを使って、より適切なマッチングに結び付けることも検討しているそうだ。

ビスポ!の利用料は、ユーザー側は無料。飲食店側は、初期費用や月額費用は不要で、かんたん予約なら、予約が成立して来店した人数1人あたり300円、わがまま予約の場合は、予約が成立した時点での予算総額の6%を手数料として支払う(来店してからの追加注文には料金がかからない)。ただし、トレタを導入していない飲食店の場合は、予約・顧客台帳の利用料として月額1万2000円が必要となる。

「競合サービスでは、月額の掲載料が店にとっては負担になる。また掲載料に対してどれだけ集客できたのかがつかめず、費用対効果が分からない。ビスポ!は送客した分だけ費用が発生するので、費用対効果が明確だ」(高岳氏)

テクノロジーをふんだんに使って飲食業の課題を解決したい

Bespoではサービスのリリースと同時に、LINE子会社のLINE Venturesとプロサッカー選手・本田圭佑氏の個人ファンドKSK Angel Fund、および複数の個人投資家などから資金調達を実施したことも明らかにしている。調達金額は非公開だが、関係者の話や登記情報などから総額1億円前後とみられる。

チャット画面はLINE、空席データ連携についてはトレタの全面協力により構築したというビスポ!。サービスリリースにあたって、同社にはLINE取締役CSMO/LINE Venture代表取締役の舛田淳氏がアドバイザーとして就任している。

ローンチ時点で、港区、中央区を中心とした約50店舗が参加するというビスポ!は今後、今年中に参加店舗数1000店舗、ユーザー数10万人を目指す。また、2020年には1万店舗、100万人の利用を、国内のみの展開で達成したいとしており、このほかにもインバウンドユーザーによる利用者増をもくろんでいるそうだ。

Bespo(ビスポ)代表取締役CEOの高岳史典氏

高岳氏はそもそも飲食業界で起業した理由をこう語っている。「人と向き合う仕事がしたかった。多くても1日に数十人ぐらいを相手にする仕事、例えばネイルサロンでも美容院でもよかったけれども、たまたまラムチョップと出会って、飲食店で起業することになった。それが今につながっている」

また、飲食業界へ入った当初と今との違いについて「5年前だったらトレタもなかったし、もっと前はLINEもなかった」と高岳氏は言い、「今、このタイミングだからこそ、テクノロジーでできる課題解決はいろいろある。そしてそれは飲食店をやって、1日10人と向き合っていたから見えたこと。そこから1000店舗へサービスを広げれば数万人、1万店舗なら数十万人のユーザーとつながる」と述べている。

「テクノロジーをふんだんに使って、しかしテクノロジーありきではなく課題ベースで解決していきたい」という高岳氏。「今あるコンシェルジュ的なサービスは人力に頼るところが大きく、それは時間も労力もコストがもかかる。完全にテクノロジーで解決する方向で、課題をクリアしていきたい」と話している。

飲食店の経営も、これからも続けていくそうだ。そして「そのときどきで、できる技術を使って課題解決していく」と高岳氏は言う。まだ手を付けていない課題の「人材確保」についても、「解決の糸口となる技術は見つけている」と高岳氏は述べ、「数年内の近いうちに、人材の課題も解決する新サービスを提供するつもりだ」と話していた。

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。