Matterが誰もオススメに追いついていない現在に合わせたリーディングアプリの構築に向けて7.9億円調達

現在のインターネット用に高品質のリーディングアプリを構築することを目的とするスタートアップMatterが、非公開ベータテストの段階を終えて、GV(前Google Ventures)主導で実施された700万ドル(約7億9000万円)のシリーズAラウンドのクローズを発表した。Instapaper(インスタペーパー)やPocket(ポケット)といった記事を保存しておいて後で読むというテクノロジーは、現在のオンラインリーディングのやり方(例えばニュースレター、他のアプリのパーソナライズされた推薦記事、ソーシャルプラットフォームでの同僚からの推薦などを利用するリーディング)に追いついていない。Matterはその領域に参入するものだ。人々はリーディング素材を単にテキストとして読みたいわけではない。記事を音声で聞いたり、重要カ所を強調したり、読書仲間と議論したいと思っている。

こうした現在のリーディングアプリに対する不満を解消するため、Matterの共同創業者 Ben Springwater(ベン・スプリングウォーター)氏とRobert Mackenzie(ロバート・マッケンジー)氏(両氏はNextdoor在籍中に出会った)オンラインリーディングのための新しいツールの構築に取り組むことにした。

「オンラインリーディングはこうしたさまざまな問題点やユーザーの不満を抱えていましたし、メディアエコシステムは変化していました。ニュースレター、個人クリエーター、代替メディアが台頭してくると同時に、eリーディングに対する改善の可能性も取り沙汰されるようになりました。オンラインリーディング素材は画面に表示された単語の羅列ではありますが、さまざまな機能をオーバーレイしてもっといろいろなことができます」とスプリングウォーター氏は説明する。「より良いリーディング製品を開発する絶好のチャンスがやってきていることは明らかでした」。

2人の共同創業者は、エンジェルラウンドで資金を調達した後、2020年初めにMatterの開発を開始した。その後、スタートアップアクセラレーターY Combinatorの2020年夏のバッチに参加する。

Matterの当初の目的の1つは、何を読むかについてより良い意思決定ができるよう支援することだった。

最近は、新しいヘッドライン、ツイッターやその他のソーシャルアプリ、受信箱に届くニュースレターなど、実にさまざまな場所で読み物を見つけることができる。だが、Matterのいう「レコメンデーション(推薦)」グラフ(最善の読み物がフィルタリングおよびキュレートされて前面に表示される)と呼ばれるものを作成するアプリはない。

Matterが目指しているのは、次のようなことだ。アプリのホームページに、ツイッター上の「パブリックシンカー(Public Thinkers)」グループ(興味深いニュースやリンクを共有していることが多い)によって推薦された一連の記事の推薦コンテンツが表示される。Matterのチームが彼らのツイートに掲載された推薦記事をさらにキュレートして、アプリで共有する最善の記事を手作業で選択する。Matterのユーザーは、自身の推薦コンテンツをアプリにフィードすることもできる。ユーザーからの推薦コンテンツはアプリのチームによってキュレートされ、その一部がホームページに掲載される。

画像クレジット:Matter(ホームページから)

他の「後で読む」アプリ(PocketやInstapaperで提供されているものなど)と同様、MatterのユーザーもChrome拡張機能をインストールすることでアプリ内にリーディングリストを構築できる。あるいは、モバイルアプリ内に直接レコメンデーションを作成することもできる。ユーザーのリーディングリストはデフォルトではプライベート(非公開)になっているが、Matterのコミュニティに公開する記事をリストから選択することもできる。

この共有機能により、Matterはソーシャルネットワークに近い感じになる。つまり、ユーザーは記事を強調したことを非公開のままにしておくのではなく、記事を強調した上で共有できる。

「これは自分の読んでいるものをブロードキャストする方法の軽量版のようなものです」と強調機能についてスプリングウォーター氏は説明する。

Matterで誰かをフォローすると、その人と同じ記事を読むとき、その人が強調したカ所と注釈を付けたカ所が記事上にそのまま表示される。これは、デジタルパブリッシングプラットフォームMediumがそのウェブサイトとアプリで提供している機能に似ている。ただし、Matterでは、共有されているすべての読み物でこのオプションを利用できる。こうした強調カ所はユーザーのプロフィールにも保存されるため、自分がフォローしている人のサイトにアクセスして、その人が注釈を付けたり共有しているカ所を確認できる。

画像クレジット:Matter(ユーザーの非公開キュー)

Matterのユーザーは、Twitterなどのソーシャルネットワークに似たモデルで、他の人をフォローできる。これにより「この人の提案は気に入ることが多い」という人の共有を追跡できる。この機能は最近サービスを終了したNuzzelを思い起こさせる(Nuzzelは、ツイッターが2021年前半Scrollを買収したときいっしょに買収された)。Nuzzelには、ツイッターベースのリーディング推薦を行うためにちょっとした専用のフォロー機能が用意されていた。ツイッターに完全に依存しているわけではないが、他の人およびその人の読んでいるものや共有しているものをフォローするというMatterの考え方はNuzzelのフォロー機能と感覚が似ているような気がする。

また、コメント機能を使用すると、共有されている記事について議論できるが、ここでどの程度活発な議論が行われるかは、フォローしている相手によって異なる可能性がある。非公開ベータ期間中にモデレーションが問題になったことはなかったが、今後Matterの利用者がより広範に拡大していくにつれ、モデレーション機能に対応していく必要が出てくるだろう。

このアプリはオンラインリーディングおよび既存のリーディングアプリが抱える多くの問題点にも対応している。

例えばMatterを使えば、ニュースレターを2通りの方法で取得できる。メールが転送されるようにフィルターを設定する方法とMatter専用の特別なメールアドレスを使用する方法だ。

これにより、個々の記事を音声として聞くことができる。しかも、現在入手可能なリーディングアプリのロボットのような音声よりもはるかに聞きやすい音声だ。リーディング素材の収集場所であるTwitter、Notion、Readwiseといった他のアカウントと同期することもできる。また、ニュースサイトやニュースレターを有料定期購読している場合は、有料購読者限定コンテンツ全体を表示および保存できる。さらには、忙しくて記事を読む時間がないときには「スタッフのお勧め」で一週間の総まとめを読むこともできる。

画像クレジット:Matter(音声を聴く)

Matterは今後、サービスのパーソナライズを強化を進めていく予定だ。これには、共有されている記事のトピックを把握するためバックエンドで動作するセマンティックテクノロジーに投資するといったことも含まれる。ただし、具体的な導入方法については検討中だ。

「パーソナライゼーションの強化といっても限度はあります。ユーザーが何に関心を持っているのかを絞り込む一方で、ユーザーがシグナルを送って示唆している『読みたい記事』についても考慮して、目新しさとセレンディピティ(偶然の出会い)的な要素も十分に取り込むようにする必要があるからです」とスプリングウォーター氏は説明する。「人の関心は変わります。常にそこに正確に焦点を合わせ続けることは絶対にできません」。

Matterは非公開ベータ期間を終えると、誰でもApp Storeからダウンロードできるようになる。

M.G. Siegler(M.G.シーグラー)氏主導のGVからの投資の他にも、Outliers(アウトライナー)、Shrug(シュラッグ)、James Beshara(ジェイムス・ベシャラ)、Calvin French-Owen(カルビンフレンチオーウェン)など、多くのエンジェル投資家がMatterに投資している。また、200万ドル(約2億2600万円)のシードラウンドにはStripe(ストライプ)の共同創業者兼CEOのPatrick Collison(パトリック・コリソン)氏、前Stripeプロダクトマネージャーで現在は投資家のLachy Groom(ランシー・グルーム)氏、Eventbrite(イーブンブライト)の共同創業者Kevin Hartz(ケビン・ハーツ)氏とJulia Hartz(ジュリア・ハーツ)氏が参加した。

MatterはシリーズAラウンドで調達した資金を、経験の蓄積と成長、エンジニアとデザイナーの雇用、ウエブクライアントとAndroidクライアントの開発に充てる予定だ。

「第一世代の『後で読む』サービスはすばらしいものでした。多分、私自身、このサービスを誰よりも多用したと思います。ですが、こうした初期のサービスは古い時期に作られたものです」とシーグラー氏は今回のGVの投資の背景について話してくれた。「私たちは今、さまざまな方法で、さまざまなデバイスを使ってコンテンツを読んでいます。ですから、それに合わせた新しい専用のサービスを基礎から構築し直す必要がありました」。

「それに加えて、今はかつてないほどリーディングコンテツが豊富にあり、大半のコンテンツは以前に比べて質も大きく向上しています。ですが、そうしたコンテンツを見つけて提供する効率的な方法が必要です。これがMatterの最初の前提でした。ベンとロブがこのサービスをゼロから構想し、チームが成長を続ける中、現在の堅牢なアプリが構築されるまでの経緯をずっと見てきましたが、それはすばらしい仕事でした。ですから、私たちはチャンスに飛び付き、彼らが今のままのペースで成長を続けられるよう資金を提供したのです。Matterが一般ユーザーにどのように受け入れられ、より多くのスタッフの力でこのサービスがどのように成長していくのか、本当に楽しみです」と同氏は付け加えた。

MatterのiOSアプリは現在は無料だが、将来は、サブスクリプションモデルによって収益化を図る予定だ。Matterアプリは公開ベータの段階に入っており、招待を受けなくても実際に使ってみることができる。

画像クレジット:Matter

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(文:Sarah Perez、翻訳:Dragonfly)

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TechCrunch Japan

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