MessageBirdからカスタマーサービス市場を一変させるInbox.aiが登場

アムステルダムに本社を置くクラウド型のコミュニケーション・プラットフォームを運営するMessageBird(メッセージバード)は米国時間3月10日、またしても新製品を発表した。今度は、3500億ドル(約37兆円)規模のカスタマーサービス市場に狙いを定めている。なお同社は、米国のAccel(アクセル)、欧州のAtomico(アトミコ)の支援を受けている

Inbox.ai(インボックス・エーアイ)と名付けられた新製品は、Slackの社外コミュニケーション版ともいえるプロダクトだ。大半の機能が無料で使え、顧客が選んだほぼすべてのメッセージアプリで企業と連絡が取り合える。対応するアプリは、WhatsApp、SMS、Voice、Messenger、Instagram、WeChat、Apple Business Chat、RCS、Line、Telegramとなっている。顧客が普段から「最初に使う」デジタルメッセージで対応できるというのがウリだ。メッセージの内容については、ローンチの時点ですでに、テキスト、画像、動画、位置情報など数多くのコンテンツに対応している。

そして恐らく最も重要と思われるのが、顧客が使ったメッセージアプリとは関係なく、受信したメッセージと客との会話がひとつのスレッドに表示されるため、チケット管理やカスタマーサポート担当者たちとの連携が簡単にできる点だ。インテリジェントな機能も搭載されている。AIがキーワードを分析し、客のニーズの予測して適切な返答のリストを示すなどだ。サポート担当者は、言葉をドラッグ&ドロップして自動応答用のメッセージを組み立てられるほか、顧客満足度調査やメッセージのルーティングルールを決めたりもできる。

もともと開発者を主なターゲットとしていた企業だけに、Inbox.aiはウェブフックを利用してさまざまなサードパーティー製ツールと統合できる。また、Shopify、Slack、Salesforce、Jiraなど数多くのアプリへの対応も最初から組み込まれている。これには、Inbox.aiで作られたコンテンツを、企業がさまざまな通信、セールス、その他の業務に使用しているソフトウェアと同期させる能力も含まれている。多少時間が掛かったとしても、Inbox.aiが万能のツールとなる企業もあるだろう。

MessageBirdの創設者でCEOのRobert Vis(ロバート・ビス)氏は、私とのビデオ通話でInbox.aiのデモを個人的に見せてくれた。その中で、新たに導入した企業の従業員だけでなく、客の側もいかに早く使い方を習得できるかがわかった。彼は私に、ある会社のサポート電話の番号をWhatsAppで送るよう指示した。すると即座にソフトウェアの画面に私のメッセージが表示されるのが見えた。私は自分の訴えを補う写真を送ることができ、その返答としてリッチメディアが送られてきた。

この新製品の推進力になったのは、ビス氏自身が募らせた一般企業の顧客サポートに対する「現在では、何時間も電話を保留にして待たされたり、電子メールの返事が来るのに24時間もかかるなんてことは、もはや受け入れられない」という不満だ。

彼は、その場でさっと計算してこう指摘した。35歳の時点で彼はすでに電話を保留したまま人生のうちの2週間を過ごしたことになるという。彼はまた、Inbox.aiでは、一貫性のないサポートの問題も解決したいと話していた。別のサポート担当者や他の部門に電話を回されたときに、もう一度同じ説明を繰り返さなければならないといった、よくある問題だ。

「MessageBirdの観点から、私たちはこうしたAPIを開発し、人々はすでにそうしたエクスペリエンスを構築できる手段を得ました。それなのに、こんな世界で暮らしている必要がありますか?」とビス氏は、つい最近携帯電話会社で経験した嫌な思いを振り返り大げさに訴えた。「メッセージを送れば問題が簡単に解決される世界に私は暮らしたい。電子メールで連絡してきて、その上でこちらから電話を掛けなければならないなんて、ごめんです」と続ける。

そうしたわけで、開発者にフックを提供して、インフラを構築するという重労働よりも、MessageBirdは、一般ユーザーに向き合う初めての製品に賭けることにしたのだ。取締役会の中には眉をひそめる者もいたと彼は話していた。

それを実現するために、MessageBirdの担当チームは12カ月でInbox.aiを完成させ、続けて、顧客、サポート担当者、管理者を対象に幅広い調査を実施した。ローンチまでには、このソフトウェアはテストを終えており、すでに欧州のHelloFreshとDeliveroo、アジアのZilingo、中南米のJoin BuggyとTix Telecom in Latin Americaで使われている。

「信頼できる唯一の情報源」を作ろうという試みは数多くあったにも関わらず、なぜ今まで誰もこの問題に取り組まなかったのかを尋ねると、ビス氏は「みんながその話をしていたが、誰もやらなかった」と答えた。その理由は、関連し合う3つの難しい問題を理解しなければならないからだ。

第一は、多種多様なあらゆるコミュニケーションチャンネルからデータを取り込まなければならないことだ。これは、MessageBirdの以前のソフトウェアが解決している。第二は「エクスペリエンス世代」。画像、動画、位置情報、トラッキングコード、割り引きといった充実した内容のエクスペリエンスを、サポート担当者が簡単に提供できるようにすることだ。ほとんどの企業は、これを可能にする開発資源を持ち合わせていないとビス氏は指摘する。そして第三がUIだ。サポート担当者がすべてのチャンネルにわたって境目なく、最初にどのチャンネルから送られてきたかを意識せずに、コミュニケーションをとり、チケット管理を行えるようにしなければならない。

「これは新しいカテゴリーだと思います。これは、物事が収斂する場所だと思います」とMessageBirdのCEOは話す。「たくさんのツールと競合しますが、私たちはそのどれでもありません。私たちは、5年後にすべてのツールがどうなっているかを考えた結果なのです」と語る。

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(翻訳:金井哲夫)

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TechCrunch Japan

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