Microsoft、過去最大の組織再編―セクショナリズムを一掃し、ハードウェアとクラウド・サービスに集中へ

今日(米国時間7/11)、Microsoftは過去最大の組織再編を実施した。CEOのスティーブ・バルマーが発表した人事異動では、事業部門の長が全員、新しい職に就くこととなった。また相当の規模の研究組織のトップもOS、エンタテインメント、モバイル事業の強化のためにそれらの部門に異動を命じられた。

Windows Phone事業部の責任、テリー・マイヤーソンはOS部門の長に異動。Windows部門の共同責任者で次期CEOの有力候補と目されるジュリー・ラーソン-グリーンはエンタテインメント事業部へ、Bing始め各種オンライン・サービスの担当だったチー・ルーはアプリケーションとサービス・エンジニアリング担当にそれぞれ異動となった。

これほどの大規模な組織再編はMicrosoftの歴史上かつて例がないものの、意外ではない。

バルマーがOSの天才でSurfaceの開発を成功させたスティーブ・シノフスキーを切ったことは、近く大きな動きがありそうだと予想させた。シノフスキーはWindows事業部に絶対的に君臨しており、他の事業部との合併を拒否したのだという。シノフスキーの辞職後、バルマーは「全社的意思統一と事業部間の協力が必要とされている」という長文のメモを社内に回した。

Microsoftでチーフ・ソフトウェア・アーキテクトを務めたレイ・オジーは在職当時、プロダクトを統合するアプローチを強く主張したがバルマーはWindows部門の独立を主張するシノフスキーにに軍配を上げた、オジーは世界はポストPC時代に向かっていると考え、クラウド・サービスを主唱、Microsoftの主要なクラウド・サービス、Windows Azureの開発を強力に推進した。AzureはポストPC時代のMicrosoftの生き残りのカギを握る存在になっている。今や主要な対立は「パソコン対それ以外」ではなく「パソコン対クラウド」になっている。

MicrosoftはモバイルではAppleとSamsungに脅かされ、クラウド・アプリとOSではGoogleの後塵を拝している。今回の組織再編は、エンタテインメント分野などでの今までの強みを生かしながらクラウド分野での競争力を抜本的に強化する必要があることを認識したものだろう。またユーザーのオンライン化が進むにつれてMS Officeの売上が減少する可能性に対処しなければならない。

Microsoftはこうした主要な事業部門に惜しみなく人材を投入することとした。たとえば研究部門の責任者、Rick Rashidは古巣のOS部門に戻され、Windowsのイノベーションの推進を求められている。

Microsoftは近年、多くの戦略的分野でライバルに水をあけられてきたが、やっと巻き返しに出ることになったもようだ。モバイル戦略の失敗からiOSとAndroidの独走を許し、Windows 8の人気もいま一つ盛り上がらない。コンピューティング環境がデスクトップからモバイルにますます移行していくトレンドを考えると、Microsoftの将来にとってはWindows OSよりむしろWindows Phoneのほうが影響が大きいかもしれない。ところがIDCの統計によると、今年の第1四半期のスマートフォン市場におけるシェアはAndroidが75%、iOSが17.3%であるのに対してWindows Phoneは3.2%と一桁台に留まった。

MicrosoftのOSのモバイル化はそれでなくても遅れて2010年になってWindows Phone 7として登場したが、2012年の秋にはカーネルを一新してWindowsPhone 8としたため、初期のユーザーはアップデートできないプラットフォームに取り残される破目になった。

こうした過去の混乱をふまえてバルマーは社内向けメモで「われわれは事業部の寄せ集めであってはならない。われわれはワン・カンパニーの元に結集しなければならない」と檄を飛ばした。

バルマーはこれに続けて「一連のデバイスのファミリー、サービスのファミリーを構築する戦略が求められている。…ゲームから業務までユーザーの一日の生活をすべてまかなえるような決定的に有効なデバイス・ファミリーの提供に成功したテクノロジー企業はまだどこにも存在しない。ここにはソフトウェア、ハードウェア、サービスのすべてにわたって膨大なイノベーションの余地とチャンスがある」と述べている。

バルマーが特に名指したデバイスの「ファミリー」は、「スマートフォン、タブレット、パソコン、〔タブレットとクラムシェルの双方に使えるウルトラブック〕2-in-1、テレビのセットトップボックス」などだ。このうちではMicrosoftはSurfaceタブレットの開発には成功しているものの、スマートフォンではOEM(主としてNokia)に頼っている。Surface同様にスマートフォンを始めとするデバイスを独自に開発、販売する必要性がますます高まっている。

ここでMicrosoftの新組織とその責任者をリストアップしておこう。

  • Terry Myers:すべてのデバイスのOS
  • Qi-Lu:アプリケーションとサービス
  • Julie Larson-Green:Xboxをはじめとするコンシューマ・デバイス
  • Satya Nadella:クラウド・サービス
  • Kirill Tatarinov:ダイナミクス、新テクノロジー
  • Eric Rudder:調査研究
  • Tami Reller:マーケティング
  • COO:Kevin Turner
  • Tony Bates:事業開発(M&A)

Microsoftは企業内官僚制と事業部間のライバル意識の強さで有名だ。バルマーは「ワン・マイクロソフト」を合言葉にこの長年の欠陥の一掃についに乗り出したようだ。「ワン・マイクロソフト」はこれまでのような単なるスローガンから組織再編の原理に高められることになった。今日の発表はおそらく第一歩であり、ここ数ヶ月さらに改革が続くものと思われる。

[原文へ]

(翻訳:滑川海彦 Facebook Google+


投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。