Momentus、水噴射ロケットをマイクロ衛星でテストへ――ロシア生まれの連続起業家、新テクノロジー開発

Y Combinatorが支援するロケット・テクノロジーのスタートアップ、 Momentusのファウンダー、Mikhail Kokoricの野心は単に月に到達する以上のものだ。Kokoricはロシア生まれで同国を代表する大学の一つ、ノボシビルスク大を卒業した物理学者であり、ソ連崩壊語は連続起業家として資産を築いた。

Momentusのテクノロジーの核心は、ロケットの推進物質として高価な化学薬品ではなく、水を利用する点にある。

画像提供:Momentus

Kokoricによれば水の利用にはいくつもの利点があるという。まず、水は宇宙空間で豊富に入手可能な物質であり、水を噴射薬として利用することは地球外の低重力環境では極めて効果的になる。「化学推進薬で何かを月に送り込むことを考えてみよう。化学推進薬は強力な推進力を得るには適切な方法だ。しかし宇宙船がひとたび地球の重力井戸の外に出れば水のほうがはるかに効果的な推進薬となる」とKokoricは言う。

Phase 4のような会社はマイクロ衛星を定位置に誘導するためにキセノンのような希ガスをイオン化して推進力とする方法を用いている。Kokoricによれば、こうした方法ははるかにコストがかかりであり速度も得られないという。「イオン化推進は静止衛星を定位置に配置するために用いられるが、数ヶ月の時間を要する。水噴射なら半分の時間ですむ」という。

「われわれのテクノロジーを用いれば10トンの衛星を静止軌道にずっと早く送り込むことができる」とKokoricは述べた。

Momentusはすでにドイツを本拠とする衛星打ち上げサービス、ECM Spaceと契約を結んでおり、2019年初頭にマイクロ衛星にこの推進装置を搭載して初のテストを行う計画だ。

最初のロケットはZealと呼ばれ、最高出力30ワットのインパルス・ロケットで持続時間は150秒から180秒が予定されている。

Kororichはロシアで連続起業家として成功を収めていたが、「2011年に私はいわゆる中年の危機に襲われた。そこで私は(長年の関心の的だった)宇宙企業の創立に転じた」という。【略】

Utilisは衛星写真の解析により地下の漏水を探知する

クリミア併合以後のロシアと西側の関係の緊張の高まりに伴い、スタートアップの運営にも多大の影響が出たため、Kokoricはサンフランシスコに移ってアメリカで民間宇宙企業を創立することにした。【略】

それでもKokorichの抗議が功を奏し〔西側の対ロ経済制裁にも関わらず〕、Momentusはロシアにおけるパートナーとの関係をある程度維持することに成功している。
ロシアからの投資はOden Holdings Ltdを通じて行われている。同社に対しKokoricはロシア国外で創立した初の民間宇宙企業、,カナダに本拠を置くHelios Wireを通じて持ち分を所有している。Heliosはブロックチェーン・テクノロジーによってデータを暗号化し、安全な衛星通信のよるIoTの実現を目指している。

Kokoricがアメリカに移ってから2番目に起業した宇宙企業はAstra Digitalという衛星通信サービス会社だった。そして現在のMomentusでKokoricはロケット推進という宇宙ハードウェア技術の革新に挑んでいる。「移動のコストが低下するにつれて新たなビジネスモデルが多数生まれている。Momentusの推進テクノロジーは宇宙旅行のコストをさらに大きく削減する。これにより小惑星における採鉱事業や月の利用などに可能性が広がるはずだ」という。

Momentusのチームの目標は静止衛星の誘導にとどまらず、ビジョンははるかその先に広がっている。

Momentusでは水噴射ロケットのテクノロジーは月往復あるいは他の惑星への往復の基礎を築くはずだと考えている。

〔日本版〕記事には水を「燃料」と呼ぶなどいくつか不正確な表現があり、Koloric自身が投稿して疑問に答えている。Zealはプラズマ推進ではなく、水を推進物質に利用する電気抵抗加熱によるサーマル・スラスターであり、衛星を静止軌道の所定の位置に安定させることを目標としているため、ISP(比推力)はさほど大きい必要はないという。ただしMomentusが開発中のArdoride、Fervoride(一番下のイラスト)はプラズマ推進であり、比推力1000秒以上が実現できると書いている。別のコメントはFervorideのパワーソースは太陽光発電だろうとしている。また水を推進物質に利用する最大のメリットは地表から大重量の推進薬を軌道上に運び上げる必要がなく、月その他低重力の環境で調達できることだと推定している。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

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TechCrunch Japan

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