Nayuta、ビットコインで安全な即時決済を実現する技術を開発

福岡市のスタートアップNayutaは、ビットコインの最新技術マイクロペイメントチャネルなどを活用し、安全かつ瞬時に送金を完了する技術を開発した(発表資料)。現時点ではPoC(Proof-of-Concept)の段階だが「今後、半年〜1年をかけて商用サービスへの適用を狙っていく」(Nayuta代表取締役の栗元憲一氏)とのことだ。詳しくは後述するが、ビットコインの使い方を決定的に変えてしまうほどのインパクトを持った技術といえる。

以下のビデオには、スマートフォンでNFC端末にタッチしてビットコインを即時に送金するデモンストレーションが記録されている。お馴染みのボードコンピュータRaspberry PiにNFCのボードをつなげてスマートフォンと連携させている。

 

このビデオだけだとFeliCaで動く電子マネーとの違いが分かりにくいかもしれないが、重要な点は仮想通貨ビットコインを使いながら即時決済を可能にしているところだ。通常のビットコイン送金では1ブロック分の確認に約10分を要し、念を入れる場合には6ブロック分の確認を実施するため約1時間かそれ以上の時間がかかる。少額決済を前提に0確認で即時にビットコイン決済をするサービスもあるがリスクが伴う(リスクは決済事業者が負う形となる)。マイクロペイメントチャネルは安全性を保ちつつ即時に決済でき、ビットコインの使い方を大きく変える。また、ビットコインのプロトコルを使う各種技術(OpenAssetプロトコルなど)にも適用可能だ。

リアルタイムで安全なマイクロペイメント、C向けにもIoT向けにも可能性あり

今回の技術のインパクトには、次の2つの側面がある。

(1)ビットコインの使い勝手が大きく変わる。例えば、ビデオに記録されているデモのイメージのように、スマートフォンをNFC搭載端末にタッチしてビットコイン建てで即時決済するような使い方も可能となる。
(2) マイクロペイメントの実現。取引手数料が非常に小さく、しかもビットコインのブロックチェーンの混雑に影響されず少額で高頻度の取引が可能になる。

前者のビットコインの使い勝手の変化だが、同社の技術に基づきコンシューマ向けの決済サービス、ウォレットアプリなどを整備すれば、コンシューマユーザーから見たビットコインのイメージががらりと変わるだろう。

一方、後者のマイクロペイメントは従来の決済サービスでは不可能だったサービスを実現可能にする。例えば、IoTやM2M分野で「デバイスに非常に少額の利用料を頻繁に送ってなんらかのサービスを動かす」といった使い方が可能となる。書籍の1ページをめくるごとに都度決済するようなサービスも実現可能だ。

Nayuta代表取締役の栗元氏は「ブロックチェーンはIoT向けには使えないと判断していた時期もあったが、2年半ほど前にマイクロペイメントチャンネルを知った。リアルタイム性、安全性、少額の手数料、高頻度な取引をすべて実現できる。これならIoT分野でも道が開けると考え、今まで取り組んできた」と話す。

 

d16959-5-887791-0同社が作り上げた仕組みを実現する上で重要な技術は2つある。ビットコインのブロックチェーンの外側(オフチェーン)で取引を行うマイクロペイメントチャネル(Micropayment channel)と、取引の安全性を担保するための技術Hashed Timelock contracts(HTLc)だ(下の図を参照)。いずれもビットコインの開発者コミュニティの間で議論が進んでいた技術である。この技術に基づき、Nayutaはハブとクライアントのソフトウェアの独自実装を作り上げた。デモでは、Raspberry Pi上でクライアントを動かし、ハブはクラウドサービスMicrosoft Azureで動かしている。
d16959-5-669370-1

ところで、ビットコインに詳しい読者なら「最近実装が登場したLightning Networkとはどういう関係なのか?」と思われるかもしれない。Lightning Networkは、マイクロペイメントチャネルとHTLcの技術を使う点では共通してるが、それに加えて複数のノードを経由するマルチホップのルーティングを可能とする。Lightning Networkを、ビットコインのネットワークが混雑して単位時間あたり処理能力が上限に近づいている問題(スケーラビリティ問題)の解決策と見る向きもある。道路が混雑しているならバイパスを作ればいい、という訳だ。

今回Nayutaが実装した技術はマルチホップではなく1個のハブに経路が集中する形なので、Lightning Networkに比べると簡易型の技術といえる。Lightning Networkとほぼ同時期に実装が登場したということは、同社の取り組みの先進性を示しているといっていい。なお、Nayutaでは、今回の技術をLightning Networkにも対応させるかどうかについては「検討中」としている。

なお今回のデモンストレーションの動作環境はビットコインのTestnetを使っている。現時点のビットコインのネットワークでは、今回の技術の動作に必要となる新仕様SegWitがまだ有効になっていないためだ。Lightning Networkの動作にもSegWitは必要となる。SegWitの実装は完成しておりマイナーによる投票で95%以上の支持を得れば有効になるのだが、記事執筆時点では得票率23.3%と今ひとつ。SegWitや、それにより可能となるマイクロペイメントチャネル、Lightning Networkはビットコインの価値を高める技術なので経済合理性で考えるなら採用した方がいいはずだが、政治的な理由で合意が進んでいない。別の言い方をすると、政治的な問題が解決すればビットコインは大きく変わる。

Nayutaでは、今後は処理性能の高速化、セキュリティの監査、UIまで含めたシステム構築など商用サービスへ向けた取り組みを続けていく予定だ。日本のスタートアップがビットコインの使い方を大きく変えるコードを書いたこと、それも世界的に見て早い段階で書いたことは、注目に値すると思う。

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。