NFT(非代替性トークン)をフェミニストのために使うバンドPussy Riotが「サイファーパンク」の力を示す

最近では、誰も彼もが非代替性トークン(NFT)を販売しているように思われるが、 Pussy Riot(プッシー・ライオット)の創設メンバーであるNadezhda Tolokonnikova(ナジェージダ・トロコンニコワ)氏は、ハイプ・サイクルを超えた戦略を立てている数少ない人物の1人だ。

「私はその前から仮想通貨を使っていました」と、トロコンニコワ氏はTechCrunchに語り、プッシー・ライオットのメンバーが2015年頃からブロックチェーン技術に興味を持っていたことに言及した。「マーシャ(プッシー・ライオット創設者の1人であるMasha Alyokhina[マーシャ・アルヨキナ])は銀行口座の問題を抱えていました。彼女が銀行口座を開設する度に、政府はその口座を閉鎖してしまうのです。それは彼女がお金の一部を抗議活動に使っていたからです。今、彼女は自分のクレジットカードすら持つことができません」。

トロコンニコワ氏は2021年3月、グループの最新シングル「Panic Attack(パニック・アタック)」のために制作されたミュージックビデオを4部に分けたNFTを公開し、数千万円相当の資金を集めている。彼女によると、これらの利益は東欧にある社会的規範に違反した女性のための秘密のシェルターに寄付されるとのこと。

「この領域の女性は、いまだにモノとして扱われています。汚名の烙印を押されているのです。彼女たちの多くは同性愛者であったり、見知らぬ人に微笑むようなことをして、家族全員の恥とされています。もし、このシェルターの場所を公表したら、見つけて破壊しようとする人が出てくるでしょう」と、トロコンニコワ氏はいう。「活動家として、どの政府にもコントロールされていないツールを見るのはとてもエキサイティングなことです」。

今回のNFTの取り組みを、2021年5月にリリースが予定されているプッシー・ライオット初のスタジオアルバム「Rage(レイジ)」の宣伝と片づけることは簡単かもしれない。さらに、プッシー・ライオットが使用しているNFTプラットフォーム「Foundation(ファンデーション)」は、プッシー・ライオットを検閲したり、購入者がNFTを閲覧や取引することを困難にする可能性がある。暗号資産作品とそれに対応する仮想通貨の収益は、民間企業のプラットフォームではなく、クリエイターの個人的なウォレットに保持されている場合にのみ、検閲に耐えることができる。

一方、トロコンニコワ氏は「この技術への関心は長く続いている」と述べ、性差別的な権力構造を覆すために暗号ツールを活用する方法をすでに模索していると語る。プッシー・ライオットは、活動家に仮想通貨を寄付するだけでなく、フェミニストアーティストのEthereum(イーサリアム)取引手数料を負担するNFT奨学金プログラムを後援している。

「今のところ、活動家や政治的な芸術作品のためだけに使っています」と、彼女はいう。「プッシー・ライオットのコミュニティを教育するようなことにも使っています。私たちはNFTをより低価格で利用できるようにする方法を検討しています」。

アラバマ州バーミンガムでパフォーマンスを行うプッシー・ライオットのナジェージダ・トロコンニコワ氏(画像クレジット:David A. Smith/Getty Images)

その一方でプッシー・ライオットは、障害を持つ人々のためのアバンギャルドなファッションで知られるViktoria Modesta(ヴィクトリア・モデスタ)氏など、他のNFTアーティストとのコラボレーションも進めている。トロコンニコワ氏の視点によると、NFTは女性アーティストが伝統的なアートの世界から認知されるための方法を提供するという。プッシー・ライオットはパフォーマンスアートやデジタルアートを中心に活動していたため、従来のギャラリーやコレクターが彼女の作品を真剣に見ることはほとんどなかった。しかし今では、暗号化された作品によって、美術館ギャラリーが注目している。

「これは多くのアーティストにとって、キャリアの中で初めて、アーティストとして認識されるようになるという画期的な出来事です」と、トロコンニコワ氏は語っている。「以前は、プッシー・ライオットの一員として、講演料やイベントなどによる収益を、パフォーマンスアートの資金に充てていました。私はアートに対して直接お金をもらったことはありません。今はNFTの活動に集中し、真剣に取り組んでいます」。

NFTブームでブレイクしたスターの多くは、Beeple(ビープル)として知られるMike Winkelmann(マイク・ウィンケルマン)氏やTrevor Jones(トレヴァー・ジョーンズ)氏のように、従来の実績や長年のプロとしての経験を持つ白人男性だが、トロコンニコワ氏のような女性は、暗号資産のエコシステムで急成長しているセグメントだ。仮想通貨取引所の調査によると、集計されたユーザーのうち女性が占める割合は、地域によっておよそ15%から50%となっている。Metapurse(メタパース)やShe256Meta Gamma Delta(メタ・ガンマ・デルタ)などの組織も、女性のためのメンターシップや資金提供の機会を提供している。

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「Metapurseはすでにこのような活動を行っていますが、私たちは自分たちの小さな一歩を踏み出して、より多くの女性やクィアのアーティストをこのスペースに呼び込みたいと思っています」と、トロコンニコワ氏は言い、次のように締め括った。「それはクリエイターズマーケットというビジネスにすばらしいツールが提供されているということだと私は思います。これはアートのためだけではありません。クリエイターの力を高めてくれます」。

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カテゴリー:ブロックチェーン
タグ:NFTロシア暗号資産

画像クレジット:Pussy Riot and AR creator Asad J. Malik

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(文:Leigh Cuen、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

投稿者:

TechCrunch Japan

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