Nvidia、時価総額半減で厳しい局面に――暗号通貨、ライバル、中国、いずれも逆風

Nvidiaの株価は上場以来の最高値を付けた後、数週間後に最安値に転落した。

これほど短い期間に時価総額の半分近くを失うというのは容易ならざる事態だ。テクノロジー分野では瞬きするくらいのあいだに鉄壁とみえたビジネスが消え失せるという例の一つをNvidiaは実証した形だ。Nvidiaはチップ・メーカーとして確固たる地位を確立するためにビジネスのコアとなるプロダクトを拡大する長期計画を実行に移してきたが、ここに来て強烈な逆風に苦しめられている。

振り返ってみると、NvidiaはまずGPU(グラフィカル・プロセス・ユニット)の有力メーカーだった。Nvidiaの優秀なGPUはゲームからCADまでさまざまな並列処理に用いられた。プロダクトは機能、信頼性ともに高く、NvidiaがGPUマーケットで大きなシェアを得ることを助けた。

しかし高度ななグラフィカル・レンダリングを必要とするマーケットは比較的小さく、ここ数年Nvidiaは新しい応用分野の開発に熱心だった。この分野には人工知能、機械学習、自動走行車、暗号通貨などが含まれていた。これらはすべて強力な並列処理を必要とし、Nvidiaの得意とする分野だった。

この戦略はおおむね成功した。ここ数年、Nvidiaのチップは暗号通貨スタートアップでひっぱりだことなり、世界的なチップの供給不足を引き起こし、 コアなゲーマーの間に不満が高まったほどだった。

これはNvidiaの収入を大きく押し上げた。 2013年の8-10月の四半期の収入が10.5億ドルだったのに対し、2年後の同期は2015年は13.1億ドルと伸びはゆっくりしていた。これは成熟した市場のトップメーカーの場合珍しいことではない。しかしNvidiaが精力的に新応用分野の開拓を始めると成長は一気に加速した。今年の直近の四半期の収入は32億ドルと2013年の3倍になっている。これにともなって株価も急伸した。

ところがNvidiaの新分野への進出は多方面で障害に突き当たっている。中でも最悪の影響を与えたのがここ数ヶ月の暗号通貨価格のクラッシュだ。これによって暗号通貨市場そのものから火が消えた。打撃を受けたのはNvidiaだけではない。暗号通貨のマイニング処理に最適化したチップを製造していたBitmain暗号通貨バブルの破裂でいきなり失速している。今週、同社はイスラエル・オフィスの閉鎖を発表した。

Nvidiaの今年の収入を見ればこの問題の影響は明らかだ。今年、収入はこの3期続けて31億ドルから32億ドルであり、ほとんどフラットだった。一部ではこの状態はクリプト二日酔いと呼んでいるらしい。しかし暗号通貨はNvidiaが対処を求められている問題の一つに過ぎない。

高度な並列処理を必要とする次世代コンピューティング分野でNvidiaはスタートアップも大企業も含まれる強力なライバルの出現に悩まされている。ライバルには本来Nvidiaのユーザーと目される企業も入っている。たとえば、Facebookは独自の並列処理チップを開発中だと報じられたAppleは何年も前からそうしているし、Googleもこの分野に参入した。Amazonも精力的だ。Nvidiaにもちろんライバルと戦うノウハウがあるが、ライバル各社はそれぞれの応用分野を熟知しており、きめて優秀なアプリケーションを開発できる。このマーケットでトップを維持するには非常に激しい競争に勝ち抜かねばならない。

新分野におけるアプリケーションの開発競争に加えて、地政学的緊張の高まりもNvidiaに打撃となっている。2週間前にDan StrumpfとWenxin FanがWall Street Journalに書いているとおり、Nvidiaは米中貿易摩擦の高まりに直接影響を受けている。

…Nvidiaの昨年の収入、97億ドルのうち20%は中国からのものだった。 Nvidiaのチップは急成長中の中国のAI産業における各種プロダクト〔を始め〕各種のプロダクトに組み込まれて利用されている。

Nvidiaは両大国の緊張の高まりは…中国がアメリカ製品に対する依存度を下げるために独自チップの開発に力を入れる結果となり…Nvidiaの長期計画にとってマイナスの要素となると懸念している。

暗号、ライバル、中国。この三重苦がこの半月でNvidiaの時価総額の半分を失わせた理由だ。中国問題については次に述べる。

山積する中国問題

ハロン湾(ベトナム) 撮影:Andrea Schaffer/Flickr (Creative Commons)

South China Mornng Postによれば、アメリカを中心とするインターネット企業に現地法人の設立を要求する新しい法律をベトナムが制定したため、Googleが対応を検討しているという。Googleはベトナムの新法に対応すべく現地オフィスを開設しようとしていると報じられていた。同様の問題は中国でも起きるはずだ。

昨日、GoogleのCEO、スンダル・ピチャイが「当面中国に再参入する計画はない」と議会で証言したことは興味深い。ベトナムは、他の多くの国と同様、国家主権が個人情報にも及ぶことを明確にした法律を制定した。これによれば、ベトナムで得られたデータはベトナム国内に保存される必要がある。Googleの手は縛られることになる。中国は当面の悪役だが、ローカル・データへのアクセスを制限しようとする保護主義的動きは中国だけに限られたものではない。

報道によれば、日本の携帯大手3社がHuaweiとZTEの製品を、通信設備から排除する方針を固めたという。これにHuaweiの副会長の逮捕というニュースが続いた。これで日本のキャリヤの中国企業の製品の排除の方針はますます固まったはずだ。 Huaweiの排除はもともとFive Eyesと呼ばれる情報交換協定に加盟している英語圏5ヵ国(アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド)が決定したものだが、日本はこれに加入していない。日本がHuawei、ZTEを排除することになれば、他のアジア諸国にも波及する可能性が出てくる。そうなれば影響は大きい。

一方、Baidu(百度)は中国を代表する検索エンジンを提供する企業だが、中国政府の監査により、他の80以上の中国企業と共に企業情報を偽っていたことが判明している。 これはBaiduにとって極めて思わしくないニュースであり、 ここ数日、株価は最低水準に落ちた。過去52週の最高値は284.22ドルだったものが、今日の寄り付きは180.50ドルだった。

情報を求む

パートナーのArmanと私は引き続きシリコンバレーのビジネスを取材している。過去数日、投資家やサプライチェーン関係者に取材した結果を上にまとめた。ただしNvidiaの状況は氷山の一角に過ぎない。さらなる情報や分析があれば、danny@techcrunch.comにご連絡いただきたい。

このコラムの執筆にあたってはニューヨークのArman Tabatabaiが協力した。

原文へ

滑川海彦@Facebook Google+

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。