Oculus買収の動機を探る―Facebookが買ったのは来るべきバーチャル世界だ

Facebookが拡張現実のハードウェア・メーカー、Oculus VRを買収するという意外な展開に驚きの声が上がっている。Oculusがこれほど早い時期に買収されたことに対する嫉妬の混じった反感から、Facebookがバーチャル・リアリティーを使っていったい何をするつもりなのかという不機嫌なコメントまで反応はさまざまだ。

しかし最初に確認しておかねばならないが、Facebookのニュースフィードがバーチャル空間に展開されるなどというのはあまりに近視眼的な考えだ。誰かがニュースフィードをOculusで表示する仕組みを作るかもしれないが、そんなことはFacebookのビジョンとは無関係だ。Facebookの最終目的はゲームへの利用ですらない。もちろんOculusをめぐる当初の動きはゲームが中心となるだろう。Oculusがゲームへの応用を考えないとしたらその方がおかしい。

しかし、いかに巨大な市場であるにせよ、ゲームは最終目的ではない。Oculus Riftを中心としたプラットフォームを作ろうとしているのだというのは正しいが、それでもビジョンの半分にすぎない。

Facebookが最初にスタートした当時、現在のコンピューティング環境はまだその片鱗すら見せていなかった。当時のFacebookのコンピューティング環境とはデスクトップ上のウェブ世界であり、Facebookはその世界でいかようにも自由に振る舞うことができた。

そこにモバイル化の波が押し寄せ、大混乱が始まった。当初Facebookは対応にもたついたものの、大慌てでiOS版、Android版の開発にとりかかり、数年でかなり良いものを作ることに成功した。しかしモバイル化の地殻変動に対応するにはスマートフォンやタブレット使いやすいアプリを作るだけでは十分ではないことが明らかとなってきた。この地殻変動を起こしているのはインターネットの巨人―Apple、Microsoft、Amazon、Google―であって、その中にはFacbookは入っていなかった。

Facebookがインターネットのメジャー・プレイヤーでありたいならば(マーク・ザッカーバーグはもちろんそう望んでいるだろう)、Facebookに欠けているのはユーザーに直接つながるチャンネルだった。

AppleにはiOS、GoogleにはAndroid、Amazonには独自にカスタマイズしたAndroidであるFireOS、MicrosoftにはWindowsPhoneがある。

だがFacebookには? 

世界最大のソーシャルネットワークであり、世界でもっとも価値のある会社の一つであるFacebookが、その10億人のユーザーと会話するために他人の支配するチャンネルを使わねばならない。

タッチ・インターフェイスをメインとするモバイル環境はすでに成熟段階を迎えているので、後発プレイヤーがまったく新たなOSを作って割り込む余地はほとんどない(Samsungのように巧みに抜け穴を通ってAndroidを改造する余地は残っているにせよ)。

Facebookはモバイル世界によく順応して、十分な利益を上げている。しかしOculusを20億ドルで買収した真の動機は、没入的ゲームでもなければ友だちとバーチャル空間でチャットできるようにすることでもない。

Facebookのビジョンは、ハードウェア、OS、インターフェイスを総合したFacebook独自の次世代チャンネルの確立にある。

多くの専門家が予測するとおり、拡張現実は次世代のマン・マシン・インターフェイスの中核となるだろう。そして今度はFacebookはそこから閉めだされることはない。Facebookはいわばこの世界への「早期特別入場券」を入手したことになる。バーチャル・リアリティー・コンピューティングの波が押し寄せたとき、Facebookはその先頭に立っていたいのだ。

私の推測では、Facebookはモバイル、デスクトップを含めてすべての既存OSと互換性のあるバーチャル・リアリティー・チャンネルを作り上げるつもりだろう。どの既存OSからでもFacebookのVR世界にアクセスできるようになれば、逆に既存OSの重要性は薄れる。

人々がデスクトップを使う時間よりモバイルを使う時間の方が多くなったことにわれわれは驚いているが、Facebookは人々が現実の現実で過ごす時間より拡張現実で過ごす時間の方が長くなる時代に備えている。

最新のOculus Riftヘッドセットはモバイル・デバイスで使われているのとほぼ同様のハードウェアに大型のバーチャル・ディスプレイを組み合わせている。これほど高機能のハードウェアがこれほど小型化、軽量化されるとはわずか10年前には想像すら不可能だった。ではネットワークに接続したVRディスプレイが10年後にどれほど進歩を遂げているか考えてみるとよい。またクラウド・コンピューティングの発達も目覚ましいものがある。これらが結びついたとき、インターネットのユーザー体験は根本的に変わるはずだ。

われわれが仕事、交友、余暇の大きな部分をバーチャル世界で過ごすようになったらどうなるだろう? そんな生活は想像できない、いや、まっぴらだと感じる人も多いだろう。しかしこれは空想ではない。大いに有り得る未来なのだ。もちろん数年で実現はしないだろう。何十年も続く変化かもしれない。しかしそういう長期的なビジョンこそGoogleにGlassを作らせ、不老不死を研究させているものだ。Oculus買収はザッカーバーグもそうした遠大なビジョンに賭けるリーダーの一人であることを示したといえるだろう。

コンピューティングの次の革命が、ヘッドセットをかけたり外したりすることによってバーチャル世界に自由に出入りすることを可能にするものであるなら、Facebookは安い買い物をしたことになる。

画像: Shutterstock graphic

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(翻訳:滑川海彦 Facebook Google+


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TechCrunch Japan

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