ONI Tsukkomi(鬼ツッコミ)は、Webサービスへの本音ツッコミを集めて改善するツール

電話番号にハイフンを入れるなって言っただろ! 入力やり直ーし。エラーメッセージA8602!

というJRの新幹線チケット購入サイトのようなイケてないWebサイトは論外だとしても、Webサイトを使っていて、「これはないんじゃない?」とか「もっとこうしてほしいな」と思わず突っ込みたくなることは良くある。「商品の金額表示が税込みかどうか分からないよ」とか、「何で検索ボックスがこんなに発見しづらいところにあるんだ?」とか、「ボタンをクリックしようとしたら、上からメニューがぬっと出てログアウトしちゃったよ、これ、どうすんの?」とか、「毎回この機能は探さないとたどり着けないのでトップメニューに出しておいてほしい」みたいな話だ。

画面の前でユーザーが小声でつぶやいていそうな声を吸い上げられたら、その声を全部聞いてみたい――。Webディレクターならそう思う人も少なくないのではないだろうか。

今日1月13日にサービス・ローンチしたばかりの「ONI Tsukkomi」(鬼ツッコミ)は、Webサイトに対するユーザーのツッコミを集められるツールだ。ユーザーはブラウザの画面上に直接付箋紙を貼り付けるようにコメントを残せる。Webサイト運営者やディレクター、開発者側は、この付箋をグループ別に分類してまとめたり、CSVやタスク管理ツール(現在はBacklogに対応)にエクスポートすることができる。つまり、「ユーザーからの意見収集→分類→対応・非対応の判断→タスクとして担当者に振り分け」という流れ全体を自動化しているのがONI Tsukkomiだ。

社内レビューと、外部のユーザーテストの2つの用途

ONI Tsukkomiをローンチしたリンクライブ創業者の澤村大輔氏によれば、ユーザーのツッコミ(声)は2種類が想定できるそうだ。1つはWebサイトがターゲットとしている一般ユーザー。もう1つは、社内外の関係者やエキスパートから集める改善ポイントやリクエストの声だ。

ONI Tsukkomiでは大手調査会社と提携していて100万人規模のモニターから性別や年齢、居住地域など条件別で絞り込んでツッコミを回収できる。こうしたユーザーテストは一般に「知り合いに声をかけて、使ってもらったりするんですが、ターゲット層も絞らないといけないし、これが手間。ITリテラシーはどうか、ユーザーの居住地によっては地理的な問題もある。時間も労力もかかる。特にスタートアップだと、やることが山のようにあるので、なかなか労力を使ってできない」と澤村氏。

一方、ONI Tsukkomiは社内関係者や知人・友人からの意見集約ツールとしても使える。ツッコミ用URLを発行し、それをメールで送るだけで回収をスタートできる。企業内での新規サービスを開発する場合、関係部署や役員への社内向け説明と意見集約に付随した業務が多く発生するが、ONI Tsukkomiはここらへんを効率化するツールと見ることもできる。ONI Tsukkomiに集約したツッコミをPowerPoint形式としてレポートを自動生成する機能があるのも、こうした理由からだ。澤村氏は大手ネット企業を含む約20社にベータ版を見せて回ったそうだが、そのときの反応として社内向けに今すぐにでも使いたいという声があったというのも頷ける。

ONI Tsukkomiはフリーミアムで、ツッコミ20個まで、分析者アカウント3つまでの場合は無料。これを超える場合はツッコミ容量に応じて月額9800円から。ツッコミを募る一般ユーザーまで含めてONI Tsukkomiに依頼する場合は、10人で4万2000円からという。

いまの時代のトレンドだと、「ユーザーの声を聞くなんて素人。各種KPIを見たり、ヒートマップを見たりしてサイト改善やCVR改善をする方法はいくらでもある」という意見もあるだろう。最近だとKAIZEN PlatformのA/Bテストや、USERDIVEの動画分析といった高度な解析ツールも出てきている。

これに対してリンクライブの澤村氏は、定量分析でトレンドは分かっても、取るべき対策が見えてこないもどかしさがあると指摘する。自らECサイトを立ち上げて運用していたときの経験から、「CVRが上がらない。でも、何がおかしいんだっけというのが作っている側でも分からない」ということを肌で感じたそうだ。少し意外に思えるのは、澤村氏らがリサーチした範囲では国内外ともに競合サービスが見当たらないこと。データ分析手法が発達して、取れるデータの種類や量が多くなったことから、いまの時代は定量分析側に振れすぎているのではないか、というのが澤村氏の見立てだ。また、「エキスパートな人ほど声なんかいらないというタイプが多い。自分たちで気付いて提示することが大事と言います。だから、こういう方々はONI Tsukkomiを見て、社内のエキスパートから声を集めたいという風に言いますね」という。ただ、ONI Tsukkomiは目的特化ツールとして実装の完成度は高いが、もし社内向け便利ツールにとどまるなら、市場規模的には定量分析によるマーケティング・オートメーションほど大きくないのかもしれない。

澤村氏は1986年生まれの29歳。早稲田大学法学部を卒業後に「3年で辞めて起業する」と周囲に公言して野村総合研究所に経営コンサルとして就職。人事担当者も含めて周囲には「起業したいと言う人は多いけど、実際にするヒトはいない」と本気にしてもらえなかったそうだが、本当に3年で退社。コンサルではなく自分で事業をやりたいという思いから、男性ファッションECサイトを立ち上げて、これを売却。2014年4月にリンクライブを設立したというのが経緯だそうだ。現在はコンサルティングの受託で、共同創業したエンジニアと2人分の食い扶持を稼ぎつつ、「果たして、本当にONI Tsukkomiにニーズがあるだろうか?」というのを確かめるべくプロダクト作りをしているそうだ。このため、モバイル向けとネイティブアプリ向けSDKは後回しにして、最も画面が複雑でツッコミがいのあるPC向けサイトのプロダクトをローンチしたいう。「モバイルなら2倍の料金でも払う」という声もあったそうだが、今はニーズがあるかどうかを見る段階という。

ちなみに、「野村総研退職後にECサイト立ち上げて売却」と聞くと、小さな成功という風に思えるが、本人いわく、多くの反省とともに学びが多かった体験だそう。既存ファッションECサイトがあまりにもファッション好きに向けて作られていることに疑問を覚えて、特別ファッションに興味がない男性ユーザーを想定して作り、それなりにユーザーもついたそうだが、途中でエンジニアに逃げられるという苦い経験も。この反省から、現在はコンサル案件を受託して共同創業者としてエンジニアと二人三脚で走りだしているそうだ。

そうそう、「鬼ツッコミ」という名称について。ツッコミたい読者が多いだろうから聞いてみた。

「いや、ダサいですよね(笑) ドメインとか」と澤村氏も笑うが、モチロンこれは色々考えた末に付けた名前だそうだ。海外展開よりも、まず日本でニーズをつかみたいのが1つ。それから、「少なくとも日本で展開することを考えると、圧倒的に分かっていただける名前」であることも理由。「鬼ツッコミという名前は1度聞いたら皆さん忘れません。“ツッコミ”という用語も全く自然にお使いいただけるんです」だそうだ。


投稿者:

TechCrunch Japan

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