RNA配列決定に革新をもたらすバイオテックのAmaryllis

amaryllis-nucleics4

遺伝情報を読み取り記録することは、世界中のどのバイオテック企業においてもその根幹をなす技術だ。よって、その技術が改善すれば、その産業そのものがアップグレードするといってもいいだろう。Amaryllis NucleicsはRNAから遺伝子を転写する技術を飛躍的に向上させることでバイオテック産業の技術革新を目指している。

ところで、今回の話を始める前に断っておかなければならないことは、この話は普通Disruptのステージで披露されるような、所謂テクノロジーとして定義されるものの範疇には入らないということだ。同社の商売道具は試薬とピペットであり、プログラミングと製品を扱っているわけではない。しかし誰かがバイオそのものをバイオテックに注入する必要があり、馴染みのある半導体チップとソフトウェアの場合と同様に、バイオテックを支える分子機構そのものをアップデートすることは大変重要なことなのだ。

Amaryllisを創設したのは二人のPhDを持つ科学者Brad TownsleyとMike Covingtonで、この分野で何年も研究をする間、RNAから遺伝情報を得るのにかかる時間と費用に常に不満を持っていた。もし、高校の生物で習ったことがうろ覚えになっているのなら、RNAというのは細胞のデータ格納所(DNA)と生産施設(リボソーム)を媒介するものだ。

「我々がUCデービスにいた時、RNAシーケンスを大量にこなしていました。あまりに多かったので全部やり切るだけのお金がなかったし、しかも時間がかかりすぎました」と、Covingtonは言った。「だから、我々は結局RNAを機械で読めるようにする新しいプロトコールを作ってしまったのです。そうしたら、そのプロトコールはこれまでのキットより安くて速くなっただけでなく、ずっと正確に読めるようになったのです」

もし、研究者が不満を溜めることで科学が進歩するなら、科学はとっくの昔に進歩しているだろう。しかし現実はそんなに甘くない。幸い、多くの興味深い発見があったおかげでこの新しいテクニックが見つかったが、それは多かれ少なかれかれ偶然の賜物だ。

彼らは既存のRNAシーケンスのプロトコールを整備しているうちに、奇妙なデータに気づいた。「Mikeは情報科学のバックグランドを持っていたので、その現象の背後にあるメカニズムに探りを入れることが出来たのです。その現象の最適化を繰り返すうちに大変うまく動くものを見つけることができました」と、Townsleyは言った。

ここで言っているのは、ちょっとした効率アップといったものではなく、他のテクニックと比べて半分から10分の1のレベルでの時間の短縮と、同規模のコストの削減だ。

こんないいテクニックを自分たちだけのものにしておくのは勿体ない、と彼らは考えた。

disrupt_sf16_amaryllis-2771

「始めたきっかけは、単に作業を簡単にしたかっただけなんです」と、Covingtonは言った。「会社を興そうとは考えもしませんでした」

「実際のところ、最初は全く自己の利益は眼中になかったのですが、そのうち、これは良い機会かもしれないと思いついたのです」と、Townsleyは付け加えた。「しかし、実際に自分で商品化することは、発見を世に出す上で最良の方法でもあるのです。新しいテクノロジーは、たとえ良いものでもその多くは大学の技術移転部門で朽ち果てています。その技術を活用してもらうには、誰かがあなたの持つまさにその技術を探しており、その人がたまたまその技術がリストされたカタログを眺めていることを願うしかないからです」

  1. amaryllis-nucleics5.jpg

  2. amaryllis-nucleics4.jpg

  3. amaryllis-nucleics3.jpg

  4. amaryllis-nucleics2.jpg

  5. amaryllis-nucleics1.jpg

  6. amaryllis-nucleics.jpg

  7. disrupt_sf16_amaryllis-2771.jpg

  8. disrupt_sf16_amaryllis-2774.jpg

彼らはIndieBioアクセラレーターに参加し少しばかりの資金を得た。その資金と新規の「物質の組成」のカテゴリーの特許により、彼らは発明をキット化し、研究者や大学、民間企業に発送することができた。キットの説明書通りにするだけでRNAの転写は粛々と進み、他のキットよりも速く正確に結果が得られる。

Amaryllisでは仕事の受託も行っているが、得られるデータ量は膨大で、何百ギガにも及ぶため、データファイルをホストするよりデータドライブを直接発送する方が便利なことがしばしばだ。このサービス自体がスケーラブルでないのは彼らも認めるところだが、顧客との関係を築く役には立ちそうだ。もし常連の顧客が何人かできれば、評判も加速的に広まるだろう。

disrupt_sf16_amaryllis-2768

キットの販売と自ら行う受託サービスにより、Amaryllisは現在の生産レベルのみでも月10万ドル余りのビジネスを行っている。しかし、ほとんどアカデミアのバックグラウンドしかないたった2人だけの従業員が仕事に当たっており、同社は会社としては極めて初期の段階にある。実際、Covingtonがウェブ・アプリのセットアップをしたものの、サービス全体をカバーするには程遠い状況である。

最終的には、彼らはこのキット販売をそれ自体で持続的なビジネスにしたいと考えており、その製造を完全に外部に委託するつもりだ。現在、セールス、マーケティング、サポートやその他作業をしてくれる人がいないので、彼らにはまずスタッフが必要だ。

「ロボットはあるのですが」と、Townsleyは言った。「そして、ここはUCバークレーに近いので、インターンの配属を数人分申請してきました」

究極的には資金が必要になるということを彼らは認めた。

「資金調達を考えています、もし一緒に働いてくれるスタッフを直ちに雇わなければ成長はとても遅いものとなるでしょう。10人分の仕事をたった2人でこなしているのが現状です。我々に関しては、キットのことはすべて忘れて新しい製品の開発に集中する方が理にかなっているでしょう」と、Covingtonは言った。「何人かテクニシャンを雇い入れてセールス専門の人員を雇用することでビジネスの規模を大きくしたいですね」

Amaryllisは会社としては最初期の段階にあるが、その製品は既存の物を超越している。バイオテック企業で何10億もの資金と収益を集めるとすれば、それは人気商品であり、その開発に偶然の発見が絡むとなれば、これは極めて稀なケースだ。今から1年後に彼ら自らが、ピペット片手に実験していることはないだろう。

 

[原文へ]

(翻訳:Tsubouchi)

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。