SEC、Theranosを「巧妙大規模な詐欺」として告発――エリザベス・ホームズは制裁受諾

SEC〔証券取引委員会〕は一時シリコンバレーの期待の星だったバイオテックのスタートアップTheranosにおける不正を長期間捜査していたが、このほどファウンダーのエリザベス・ホームズ、元プレジデントのラメシュ・サニー・バルワ二を大規模な詐欺を実行したとして正式に告発した。

SECの告発内容は、この2人が7億ドルを投資家から騙し取ったというのものだ。SECは2人が「数年にわたって同社のテクノロジー、ビジネス、財務実績に関して誇張ないし虚偽の発表を行うという巧妙な手口により」詐欺行為を働いたとしている。

SECによればTheranos とホームズは訴追事実について認否を明らかにしないものの、SECの課す制裁に同意して和解したという。

ホームズは50万ドルの制裁金の支払、上場企業の取締役ないし幹部への就任の10年間禁止、詐欺によって得た1890万株のTheranosへの返還、また同社のクラスB普通株をクラスA普通株に転換することにより同社の支配権を解消することに同意した。

SECはBalwaniについては連邦地方裁判所で訴追するという。

Theranosに最初に疑惑が浮上したのは2015年10月に、ウォールストリート・ジャーナルの記者でピューリッツァー賞を2回受賞しているJohn Carreyrouが驚くべき調査報道記事を発表したのがきっかけだった。当時Theraonosは90億ドルという途方もない会社評価額を得ていたが、WSJの記事は、数滴の血液で広汎な検査ができる画期的テクノロジーを開発したという同社の主張は著しく誇張されていると指摘していた。

元社員がCarreyrou記者に述べたところによれば、 Theranosが実際にラボで顧客の血液検査に利用していたのは、自社開発のものではなく、Siemensのような会社から購入した通常の医療検査用機材だったという。当時Theranosの代理人を務めていた著名な弁護士のDavid BoiesはWSJの取材に対して自社開発の検査機械を全面的に利用してはいないことを認め、移行は(時間がかかる)「旅路」だと述べた。

Theranosの社員は自社開発の検査機材の正確性について「強い疑い」を抱いていたと記事は指摘している。

しかし検査結果は何がなんでも正しくなければならなかった。最初期のTheranosの取締役だったタイラー・シュルツ(元アメリカ国務長官のジョージ・シュルツの孫)によれば、Theranos開発の機器はたびたび不正確な結果を出し、同社の社内の品質管理基準さえ満たしていなかったにもかかわらず、当時の社長、バルワニは顧客の血液検査を続けるよう社員に圧力をかけたという。

懸念を抱いたシュルツはニューヨーク州公衆医療組織に接触し、Theranosは有効性テストの過程で不正な操作を行っていると通報した。

Theranoに対する内部告発はシュルツに不利益をもたらした。シュルツが後にWSJに述べたところによれば、私立探偵に尾行されただけでなく、祖父のジョージ・シュルツとの関係もこじれ、弁護士を介してしか連絡ができないような状態になったという。しかしタイラー・シュルツの主張は連邦保健社会福祉省のメディケア・メディケイド・サービス・センターによって事実であると立証された。この結果、ホームズは昨年、血液検査業務に就くことを2年間禁じられた。Theranosの血液検査ラボは調査の結果、所定の基準を満たしていないことが判明し、すべて閉鎖された。

今回の決定はこうした一連の出来事を原因としている。SECはTheranos、ホームズ、バルワニは「投資家に対するプレゼンテーション、プロダクトのデモ、メディアに対する発表において無数の虚偽ないし誤解を招く主張を行い」、投資家を欺いたとしている。

Theranosのプレス窓口は今朝は取材を受け入れていないが、先ほど発表を行った。同社はこれまでいわゆるminiLabの販売に力を入れてきた。このデバイスは一滴の血液で多数の検査ができるというもので、昨年12月にFortress Investment Group(SoftBankの子会社)から1億ドルの借り入れを行っている。

SECと和解したとするTheranosの声明は控えめに行っても大胆なもので、「この問題に関して決着を付けられたことを欣快とする。今後はわれわれのテクノロジーのさらなる進歩を期待している」と述べている。

一方、元プレジデント、バルワニの弁護士は、別途メディア向け声明を発表し、TheranosにおけるBalwaniの役割を擁護し、SECの捜査は「不当なものだ」とした。

この声明で、バルワニのTheranosへの関与は「顕著な財政的リスク」の下になされたものであり、「同社から財政的利益を得たことは全くない」、逆に「個人的資産から数百万ドルを投資している」とした。これは「幹部として会社への異例の貢献だ」という。

〔日本版〕 SECの発表でサンフランシスコ支局長Jina Choiは「Theranos問題はシリコンバレーにとって重要な教訓だ。あるビジネスにおける革命とディスラプトを求めるイノベーターは、自分のテクノロジーが、将来こうなるだろうという希望ではなく、現在何ができるのかについて投資家に真実を告げねばならない」と述べている。

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

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TechCrunch Japan

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