Spotifyが音楽制作マーケットプレイスのSoundBetterを買収

米国時間9月12日Spotify(スポティファイ)は、レーベルに対してストリーミングロイヤリティを支払うことを前提にした自身のビジネスモデルを多様化するために、アーティストたち向けのサービス構築を行うための新たな一歩を踏み出した。アーティスト、プロデューサー、そしてミュージシャンを特定のプロジェクトでつないだり、音楽の提供とライセンシングを橋渡ししたりすることを助ける、音楽制作マーケットプレイスであるSoundBetter(サウンドベター)を買収したのだ。

SoundBetterは約18万人の登録ユーザーを抱えており、これまでにミュージシャンやプロデューサーたちに1900万ドル(約20億円)以上の支払いを行ってきた。その平均値は現在毎月平均100万ドル(約1億800万円)である。同社はプラットフォームを通して行われるそれぞれの取引から、手数料を徴収している(徴収率は非公開)。

買収の金銭的条件は明らかにされていない。つまりそれは、2億3200万人のユーザーを抱え、そのうちSpotify Premium購読者が1億100万人もいる、240億ドル(約2兆6000億円)規模のストリーミング大手にとって、大きな金額ではないだろうということを意味している。ニューヨークに拠点を置くSoundBetterは、500 Startups、Foundry Group、Eric Ries、そしてAOL傘下でNautilusと呼ばれていた頃のVerizon Venturesといった投資家たちから資金を調達していた(情報開示、TechCrunchはVerizon Mediaの一部である)。金額は非公開となっている。Drummond Roadなどからの転換社債を使ったその最後の資金調達は2015年に遡る。

SoundBetterはこの買収によって閉鎖されることはない。広報担当者はTechCrunchに対して、Spotifyと同様にビジネスを続けることを認めた。そしてスタートアップは、現在SoundBetterのサービスとSpotify for Artists(現在ミュージシャンやその他へSpotifyトラックの分析データやマーケティングを助けるその他のサービスを提供している)の統合に取り組んでいる。

SoundBetterは、2012年に現在はCEOを務めるShachar Gilad(シャチャー・ギラッド)氏)とCTOを務めるItamar Yunger(イタマル・ユンガー)氏によって創業され、現在2つの主要なサービスを運営している。その主な事業は、ミュージシャンが音楽トラックを仕上げるために、歌手、サウンドエンジニア、プロデューサー、その他の音楽およびオーディオの専門家を探すためのオンライン市場だ。音楽に特化したFiverrまたはBehanceを想像してみてほしい。同社は今年6月には、Tracksと呼ばれる新しいマーケットプレイスを立ち上げている。これは完成した音楽をライセンスしたい人のためのマーケットプレイスで、ここにはEpidemic Sound(エピデミックサウンド)のような競合相手がいる(Epidemic Soundは今年の始めに3億7000万ドルの評価額の下に資金調達を行っている)。

興味深いことに、かつてSpotifyは自身で直接音楽配給を行うプラットフォームを立ち上げようとしたことがある。その中にはミュージシャンがクロスプラットフォームでアップロードが可能な音楽配信サービスDistroKidへの投資も含まれている。しかしそうした試みはベータ版を脱することはなく、この7月には閉鎖された。SoundBetterへの道を開くために、この閉鎖が行われた可能性があるため、この決定は今ではより意味が理解できる。

実際、Spotifyにとってこの取引は、同社が音楽エコシステムのアーティストやその他の人々のために、より多くの裏方サービスに投資し続けるというメッセージなのだ。これを行う理由は、いくつか存在する。

まず、ミュージシャンたち自身の財政的苦境がある。彼らはSpotifyから得られる収入が少ないことを、長い間嘆いてきたので、追加のお金を稼げる、または少なくとも自分の仕事をより効率的に行えるような追加のサービス提供することは、両者の関係をただ良くするだけだ。

第2に、Spotify自身にとっての、Spotifyのストリーミングビジネスの基本に関わる問題である。同社は、その創業以来、権利者に対して130億ユーロ(約1兆5000億円)以上の支払いを行っていると語っている。各ストリーム毎に支払いが行われていて、常にレーベルとの間で再交渉が行われているが、それでも基本的なビジネスモデルでは依然として損失を出しているのである(とはいえ損失は縮小しているように見える)。

第3に、多様化はビジネス全体に対するストリーミング側の圧力をある程度取り除くのに役立つ。収益性は脇に置いたとしても、先の四半期でSpotifyはサブスクリプションの成長目標を達成できなかったことに対する批判に晒されたのだ(そして株価も下落した)。

「クリエイター向けのツールを構築する際には、彼らが成長するために必要なリソースを提供したいと考えています。SoundBetterも同じビジョンを持っています」と声明で語るのは、Spotifyのクリエイターで、製品担当VPのBeckwith Kloss(ベックウィズ・クロス)氏だ。「私たちは、SoundBetterを通じてクリエイターの皆さんが、インストゥルメンタリストからソングライター、プロデューサーに至るまでの、トッププロフェッショナルのネットワークを活用して、トラックを完成させることができるメリットを得られることだけでなく、収入を生み出せることも楽しみにしています」。

Spotifyはここ数年に渡って、同社のプラットフォームを音楽ストリーミングを超えて活用できる資産のリストを増やしている。最近ではナレーションコンテンツへの注目が高まっていることを受けて、SoundTrap(2017年にSpotifyが買収)を介したクラウドベースのスタジオサービスを提供したり、Anchor(昨年買収)によるポッドキャストプラットフォームを提供したりしている。

しかし、音楽は変わらずプラットフォームの心臓であり、有料ストリーミングサービスは物理的な音楽ビジネスを犠牲にしながら成長を続けている。そのため、Spotifyはそのビジネス分野も強化し続けている。とりわけAppleのような競合他社が、従来のレーベルを迂回するために、アーティスト向けの独自のサービスを構築し続けていることも、そうする理由だ。

SoundBetterは、比較的小規模なビジネスとはいえ、ビッグネームをかなり抱えた、まずまずのビジネスを行っている。同社は「カニエ・ウエストのプロデューサー、フーバスタンクのドラマー、ジャミロクワイのギタリスト、ビヨンセのソングライター、ジョー・コッカーのベーシスト、ハービー・ハンコックのエンジニア、モリッシーのギタリスト、ザ・キラーズのミキシングエンジニア、ジョージ・マイケルのマスタリングエンジニア」たちがサービスを使用していると表明している。買収によってその規模は大きく伸びるだろう。Spotify for Artistsは現在、40万人の登録ユーザーを獲得しているが、デジタル音楽配信の基盤としてのプラットフォームを使い、SoundBetterが構築したようなものを含む適切なサービスの組み合わせれば、そのユーザー数がはるかに大きくなることをSpotifyは期待している。

「SoundBetterは、世界の176か国と1万4000の都市にまたがるメンバーコミュニティとともに、世界中で音楽およびオーディオ制作の専門家を探せる、最も包括的なグローバル市場を提供しています」とSoundBetterの共同創業者でCEOであるシャチャー・ギラッド氏は語る。「私たちは、Spotifyのグローバルな規模、リソース、ビジョンを活用してネットワークを拡大し、あらゆるレベルのアーティストの皆さんにさらなる経済的チャンスをもたらすことを楽しみにしています」。

画像クレジット: stockcam (opens in a new window) / Getty Images

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(翻訳:sako)

投稿者:

TechCrunch Japan

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