Super Mario Runを試してみたーー任天堂アメリカの社長に聞くマリオのモバイル展開

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マリオは35年の間、スポットライトが当たる場所で、多くを成し遂げてきた。彼は配管工であり、兵士、医師、バスケやテニスのレフリーをこなし、野球もカーレースもする。おもちゃを作り、ビール醸造で働いたこともある。彼は、任天堂のすべてのコンソールを経験し、競合他社の台頭と衰退を見てきた。

しかし、テレビゲームの王国で最も輝かしい経歴を持つにも関わらず、彼がiOSに登場するまでの道のりはスムーズなものではなかった。ここ10年の間、任天堂は自社にとってモバイル進出は正しい道ではなく、今後も選ばない道だと明言してきた。

この見解を表明している文言を見つけるのにそう時間はかからない。2011年の記事には、その見解を的確に表す言葉がある。

ハードウェア開発チームを社内に持っているのは大きな強みです。経営陣の仕事は、その強みを生かすことです。スマホ向けにゲームをリリースした時点から収益が得られるという意味で、それは正しい判断と言えるかもしれません。しかし、私の責任は短期的な利益を得るのではなく、任天堂の中長期に及ぶ競争力をつけることです。

しかし業界も人々の購買習慣も変わり、会社は生き抜くためにも、それに沿うよう変わる必要がある。任天堂にとってそれはどのようにモバイルゲームを攻略するかを再検討することだった。

「全体のビジネスのミッション、そしてそれを突き動かす重要戦略を最構築しました」とNintendo of Americaで社長を務めるReggie Fils-Aiméは最新作のローンチ前にTechCrunchのインタビューに応じた。「私たちのミッションは、知的資産を通じて人々を笑顔にすることです」。

任天堂は、プラットフォームとゲームとの固い絆のために貢献するという従来の立ち位置から遠ざかったわけではないが、モバイルがもたらす可能性は無視するには大きすぎたようだ。会計的な観点、新しい世代のユーザーにリーチするという観点、そして同社のビジネスにとって最も価値のある知的資産をまだ届けられていない地域に届けるという観点で言えることだ。

レベル1

不満から騒動になることはなかったし、任天堂が新興フォーマットに無鉄砲に参入したことに関して誰も責めることはできない。今年の3月、任天堂はMiitomoでモバイルに参入した。MiitomoはWiiに似たアバターを中心とするソーシャルネットワークのようなもので、同社のMy Nintendoプログラムと紐付いている。最初は人気を得たものの、数ヶ月後にはエンゲージメントが急落した。

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ようやくモバイルに登場した任天堂だったが、これは奇妙な判断だった。このアプリはゲームでもなく、任天堂の知的資産は何も生かされなかった。ゼルダもマリオも、サムスやピットさえいない。

そしてポケモンGOが登場した。Nianticが開発したこのアプリは社会現象を引き起こした。それは任天堂の良さとモバイルテクノロジーが完璧に融合したアプリだった。位置情報とカメラベースのAR技術を使い、他のプラットフォームでは絶対にできないゲームとなった。その過程で、1世代で数回しか起きないようなゲームイベントを作り出した。さらに、任天堂にとっては、同社の中でも価値の高い資産に再び人々の関心を集めることにもつながった。

「夏にポケモンGOをローンチして以来、Nintendo 3DSは前年比を超えて成長しました」とFils-Aiméは言う。「ポケモン サン・ムーンは前例のないローンチ実績です。何千万、何億のコンシューマーが私たちの知的資産とエンゲージする機会を持つことは、他のビジネスラインにも多大な影響をもたらすことを示唆しています。10年、15年前に私たちが描いていたものとは根本的に違う戦略と道筋を示します」。

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パワーアップ

次にSuper Mario Runが控えている。iOS限定で今月リリース予定だ。ポケモンよりもさらにわかり易い任天堂の資産がモバイルに到着する。

ゲームプレイはマリオゲームの強みを生かし、見覚えのある横スクロールの形式で進む。クリボーやはてなボックス、クッパの城にテレサなどスーパーマリオブラザーズでおなじみの要素もたくさん入っている。電車のつり革につかまりながらでも、ユーザーがポートレートモードで片手で遊べるよう、デザインを考えたゲームだ。

画面は自動で進み、マリオは画面と連動して走る。驚くことに、マリオは自動で敵を飛び越える。何十年もの間、マニュアルでノコノコを踏みつけていた経験があるなら、これは慣れるのに時間がかかるかもしれない。スキルを要するのは、穴を飛び越えたり、アイテムやコインを入手する時だ。ピンクの特別なコインを入手すると、同じレベルでも別の設定でゲームを楽しむことができる。

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「私たちの開発者は、それぞれの体験やゲームに合わせて開発に着手します」と Fils-Aiméは説明する。「Super Mario Runでは5歳から95歳まで、誰でも利用できるようにしたいと考えました。ユーザーは画面を指1本でタップするだけです。しかしゲームを進めたり、コインをすべて集めたり、自分の王国を作り上げたりするには多少ゲームをやりこむ必要があります」。

キノコ王国で少しでも遊んだことがあるなら、見慣れた土管のあるこの世界にすぐに馴染むことができるだろう。マリオの偉大なクリエイターである宮本茂氏が率いる任天堂の開発チームは、テクノロジーの強みを生かしつつ、恰幅の良い配管工に新しい命を吹き込み、誰もが聞いたことのあるゲーム音楽を磨き上げた。それらは24ワールドのどのレベルにも適用され、オリジナルを踏襲しつつも全く同じということではない。

「私たちが成し遂げたことの多くは宮本氏と彼のチームのおかげです」とFils-Aiméは続ける。「任天堂には多様なコントロールに合った、多様なゲームを開発してきた経験があります。オリジナルの十字キーからモーションコントローラーまで経験しています。今回、画面を本当に指1本でタッチするだけで、どのような楽しい体験を構築できるかを考えました」。

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走りながら

このゲームの魅力の大部分は、そのシンプルさにある。最近リリースしたニンテンドークラシックミニ(米国での名称は「NES Classic」)と同じように、最近の任天堂が持つ強みを出している。定番ゲームに新たなひねりを加えた製品だ。しかし、すでに見知った手法では、熱狂的でないゲーマーにとって10ドルという価格設定は受け入れがたいことかもしれない。

映画よりは安いかもしれないが、モバイルアプリの世界での10ドルは現実における100ドルの感覚だ。特に無料でダウンロード可能なポケモンGOの後となればなおさらだ。しかし、3レベル分の無料トライアルとゲームが繰り返し遊べる価値を考慮すれば、Fils-Aiméはこれは適切な価格と自信があるという。

「自宅で使うコンソールゲームにしろ、持ち歩けるゲームにしろ、どのゲームも適切な価格帯について検討しています」と彼は説明する。「Super Mario Runの場合、24のワールド、3つの異なるモード、何回でもゲームが遊べてアメリカでは9.99ドルの価格です。大きな価値を提供していると思います。無料でゲームのサンプルを多く試したのなら、最終的にコンシューマーは適切に反応すると思います」。

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基本に戻る

Super Mario RunはポケモンGOほど革新的でiPhoneの強みを生かしているものではない。しかし、他のゲームシステムと比較すると弱点があるモバイルシステムで、カスタムコントロールや画面領域が少ない世界にマリオを送り込むことを任天堂はうまくやってのけている。

Flappy Birdのように、このゲームはタップという一つの反復的な動きだけで進めることができる。さらに、第一世代のプラットフォームより幅をもたせた動きができる。パルクール風に壁を伝って移動したり、取りづらい場所のコインを入手したり、窮地をすり抜けたりすることができる。

懐かしさという要素で、まずゲームを試してもらうところまでユーザー連れて行けることだろう。生産が需要に追いつけていないNES Classicの状況がそれを裏付けている。デモ版で私はレベル2までしか試せなかったが、アプリの魅力は明確だ。これまでのマリオゲーム同様、楽しさと難しさが合わさっている。

レベルの合間に美しいだけのワールド作りやゲームを異なる設定で遊べることが、任天堂の期待する結果をもたらすかはまだ分からない。しかし、24ワールド分のゲームがあれば、カジュアルなゲーマーをしばらく楽しませることができるだろう。それにFruit NinjaやAngry Birdsがこの分野ではクラシックゲームとして確立しているのなら、反復的なゲームにはそれなりの魅力があるということなのかもしれない。

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ゲームを進めていると、なぜ任天堂がモバイル版のマリオのゲームを展開することについて疑念を抱いていたのか分からなくなる。宮本氏と彼のトップクラスの開発者チームは1年ほどでこのゲームを作り上げた。任天堂が他社のハードウェアのためには開発しないと頑なに拒んでおらず、数年前からこの分野に飛び込んでいたのなら、今頃同社のモバイル部門がどうなっていたかは想像するに難くない。 Fils-Aiméはモバイルに進出すると決めた時、疑念はなかったという。

「このビジネスの可能性が任天堂の広いビジネススキームにどのようにあてはまるかを深く検討すること。それがとても重要でした」と彼は説明する。「どのように手がけるか、そして他のすべてのビジネスにどう影響するかを検討しました。任天堂では何年も前から、こういったコンテンツを制作することは可能と伝えてきました。しかし、私たちの知的資産を広げるための大きなエコシステムに対し、これがどのようにあてはまるかを考えることが私たちにとって重要だったのです。私たちはそのためのアプローチを見つけることができたと考えています」。

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(翻訳:Nozomi Okuma /Website

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。