TC Sessions: AR/VR 変貌する業界内部の様子を聞く

先週、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の伝統あるロイスホールにて、TechCrunch主催の1日限りのイベント『TC Sessions: AR/VR』が開催された。急激に変化し熱気に溢れる業界と、それを支える人たちの現状を知ろうと、業界のベテランから学生までが一同に介した。Disney、Snap、Oculusを始めとする企業が登壇し、座談会に参加し、最新技術を披露した。参加できなかった方は、これを読んで、私たちが学んだことを知って欲しい。登壇者の話は、リンクを開くと動画で聞くことができる。

口火を切ったのはWalt Disney ImagineeringのJon Snoddy。ご想像のとおり、この会社は「エクスペリエンス」のために大きな投資をしている。だが彼は、VR(仮想現実)もAR(拡張現実)も、まだゴールデンタイムに進出する準備が整っていないと警告している。「まだそこまで到達していないと感じています。素晴らしいものだとはわかっています。とても面白いものだとも思っています。しかし、今後どうなってゆくのか、それが響いてこないのです」

次に登場したのはSnapのEitan Pilipskiだ。Snapchatでは、自分たちが何を作るべきかを決めるよりも、ARの創造性はクリエイターに任せたいと考えている。人々が日常的に装着してもよいと思えるARヘッドセットの完成には、まだあと数年かかる。それでもSnapは、AIを使った新しいフェイスフィルターとVRエクスペリエンスの試作を行っていると話した。

次に、私がスタートアップの一団を引き連れて登壇した。それぞれ方向性は異なるが、ホログラムや投影など、ビジネスとして成立する新しいディスプレイの形を追求しているという点で共通している。VNTANAのAshley CrowderとLooking GlassのShawn Frayneは、彼らが需要を見込んだ技術の開発方法を説明した。それは、簡単にリアルに3D映像を映し出すホログラム・ディスプレイだ。LightformのBrett Jonesは、現実世界を取り込んで拡張し、孤立した形ではなく共有できるエクスペリエンスについて語った。

ちなみに、Frayneのホログラム・デスクトップ・ディスプレイはロビーに展示されていた。とても素晴らしいものだった。大きなアクリルの箱の中に、キャラクターや風景が映し出される仕組みを覗こうと、三重四重に人垣ができていた。

BaoBab StudiosのMaureen Fanは、娯楽に焦点を絞ったVR企業の経費節約の重要性について語っていた。彼女の新作フィルム『Crow』のプレビューを見せながら、Fanは、物語を新しい方式で見せるためには、ゲームと映画の要素を創造的に融合させるなど、メディアを模索する必要があると話した。

次は投資家によるパネルディスカッションだ。登壇したのはNiko Bonatsos(General Catalyst)、Jacob Mullins(Shasta Ventures)、Catherine Ulrich(FirstMark Capital)、そしてStephanie Zhan(Sequoia)という面々。活発な討論の中で、彼らに共通していた意見は、Fanが言ったとおり、今はスタートアップが節約をする時代だというものだった。ベンチャー投資家の金を湯水のように使う企業によって競争が薄められてしまった。自力で効率的に運営されている企業が、頭角を現すという。

Oculusは、VRに関してはゲーム以外のエクスペリエンスには興味がないようだ。Oculusのエグゼクティブ・プロデューサーYelena Rachitskyは、座談会の中で詳しく説明してくれたた、彼らは、VRでユーザーがより深く世界と関われるようにするハードウエアに大変に注目しているという。Oculus Questのような新しいハードウエアは、360度VRビデオを遥かに超える能力をユーザーに与えるとのことだ。

Oculusが出てくれば、その親会社も黙ってはいられない。FacebookのFicus Kirkpatrickは、叩き台として利用できる使用事例に独立系の開発者を導くための、ARエクスペリエンスの典型となる「灯台」を作るべきだと考えている。創造的なエクスペリエンスとは別に、ARの発達は遅い。それは、スマートフォンを、長時間、手で持っているのが辛いからだ。Facebookはそこも考えていて、独自のARヘッドセットの開発に、すでに投資を行っている。

6d.aiのMatt Miesnieksは、同社のAR開発プラットフォームを一般公開したことを伝え、共同開発と大勢の人たちのためのオープンなARマッピング・プラットフォームとツールキットを作るという事例を示した。

Magic LeapやHoloLensなどのARヘッドセットがスポットライトを浴びることが多いが、ほとんどの人がARを最初に体験するのはスマートフォンだ。Parham Aarabi(ModiFace)、Kirin Sinha(Illumix)、Allison Wood(Camera IQ)はみな、ヘッドセットが進化したスタンドアローンの機器が普及して、この技術が主流になるのは3年から5年先だと考えている。彼らはまた、数々の技術や革新的なアイデアは数多くあっても、ARのためのキラーアプリがないという点でも同意している。

Derek Belch(STRIVR)、Clorama Dorvilias(DebiasVR)、Morgan Mercer(Vantage Point)は、VRの商業と工業での応用の可能性に着目している。一般消費者向けの技術を業務用グレードに引き上げるには、業務でのVR利用という大きな決断が必要になると彼らは結論付けた(StarVRなどの企業は業務用専門に的を絞っているが、それが成功するかどうかは未確定だ)。

FacebookがVR番組を提供する中、小さなVRスタートアップは、どうしたらソーシャルメディアに食い込むことができるのだろう。TheWaveVR、Mindshow、SVRFのCEOたちは、ユーザー同士が関わり合うことができ、いろいろな方法で人々をひとつにまとめるエクスペリエンスを作ることが鍵になると、口を揃えて言っていた。

休憩のあと、VRボクシングゲーム『Creed: Rise to Glory』のデモが披露された。これを開発したSurviosの共同創設者Alex SilkinとJames Iliffによる対決だ。その後、彼らは私と、ソーシャルおよびマルチプレイヤーVRの難しさと可能性について話し合った。 どれほど親近感のあるエクスペリエンスを作れるか、開発者は、プレイヤーの孤立や不正使用が起きないように、どう予防措置を取るべきかといった内容だ。

誕生したばかりの業界では、アーリーステージの投資が成功の鍵となる。だがその点では、VRは減速気味だ。BetaworksのPeter RojasとAnorakのGreg Castleは、彼らの投資戦略について詳しく話してくれた。また彼らは、技術業界の最大手企業がそこへ資金を投入し続けていることから、ARの分野に成功が期待できると教えてくれた。

UCLAは、AndersonのJay Tuckerと共に司会を務め、Mariana Acuna(Opaque Studios)とGuy Primus(Virtual Reality Company)を交えて、VRでの物語の表現はまだまだ初期段階にあるが、この模索と実験の時期は大いに励みになり、経験を積むことができると話し合った。映画はNetflixやMarvelで始まったわけではない。映画館や短編無声映画から始まったのだ。VRも同じ道を辿ることになる。

しかし、史上もっとも高い人気を獲得したARゲームの開発者のいないAR/VRカンファレンスというのは、どうなんだろう。Nianticはすでに『Pokémon GO』を超える成功を目指す大きな計画を立てている。『Harry Potter: Wizards Unite』の開発に深く関わった同社は、独自の最新AR技術を使った開発プラットフォームを作っている。今回の座談会で、AR開発責任者のRoss Finmanは、将来のAR世代のプライバシーと、この分野ではAppleが挑戦者側になっていることなどを話していた。

それが今回のイベントの締めくくりとなった。TechCrunchのFlickrページに、もっと別の写真がある(あなたも写っているかもしれない)。スポンサー、UCLAの寛大なるホストのみなさん、やる気に満ちて面白い話を聞かせてくれた登壇者のみなさん、そしてなにより観客のみなさんに感謝する。また会いましょう。

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(翻訳:金井哲夫)

投稿者:

TechCrunch Japan

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