Telepathyの井口尊仁CEOが語るウェアラブル革命、TechCrunch Tokyoで登壇へ

11月12日に迫ったTechCrunch Tokyo 2013で、また1つセッション登壇者が確定したのでお知らせしたい。以前、TechCrunch Japanでも記事にしたことがあるTelepathyの井口尊仁氏と、Telepathyに投資したFirsthand Capital Managementの最高投資責任者であるKevin Landis氏だ(関連記事:「日本発Google Glass対抗「Telepathy One」が約5億円を調達して目指すものとは?」)。

TechCrunchの読者であれば、すでにご存じと思うが、井口氏は現在、シリコンバレーを拠点にウェアラブルコンピュータのベンチャー「Telepathy」を創業して頭部に着けるウェアラブルデバイスの「Telepathy One」の開発を進めている中心人物だ。Telepathy Oneの出荷は2014年中となっていて、まだもう少し先の話にはなりそうだけれども、ここで改めて井口氏の話を聞ければと思う。

Telepathy Oneはスタイリッシュなデバイスだ。細く滑らかな曲線でできたフォルム、美しい輝きの金属光沢と、ウェアラブルコンピュータの中でも、ひときわファッション性を意識したものと言える。一方、あの細さで十分な強度を出すためには素材として例えばチタンでも使うしかなく、1500ドル程度と言われるGoogle Glassより安いプロダクトの開発ができるのか? と、量産化の実現性について疑問の声も聞こえてくる。

エコシステム創出も課題だ。Google Glassは基本的にAndroidだから、開発者の巻き込みやエコシステム醸成の道筋が見えやすい。これに対して独自OSで、どうエコシステムを作っていくのか? という課題にTelepahty Oneは答えなければならない。現在3世代目を製作中というプロトタイプ製品にしても、まだ一般へのお披露目ができていない。

こうした課題がある一方で、井口氏が語るビジョンは傾聴に値すると感じるのは私だけだろうか。例えば、何のためにウェアラブルコンピュータを身に着けるのかということに井口氏ほどハッキリとした回答を用意している人はいない。

スマフォが普及すればするほどハッキリしてきたのは、人々が写真を撮るのは「体験の共有」のためだったということだ。人々は1日に150回もポケットやカバンのデバイスに手を伸ばすという調査がある。そして、1枚の写真を共有するために必要なステップ数は平均10クリック。こうした煩雑なステップをいかに減らし、体験を共有できるウェアラブルコンピュータを作っていくのか。それがTelepathy Oneのカギだという。身に着けたまま、ほとんど準備なく、自然な形で「見ているもの」を遠く離れた誰かと共有でき、その場で生の反応を受け取れるのだとしたら、新たなコミュニケーションのあり方を提示できる可能性がありそうだ。

日本にいると分かりづらいが、日々シリコンバレーを歩いていると、Google Glassをかけた人々がそこらを歩いていると井口氏は言う。PebbleGalaxy Gearをはじめとするスマートウォッチも次々と登場している。NikeのFuelBandのようなヘルス系でもウェアラブルコンピュータは多数登場している。Google Glassのソフトウェアを専門に開発するスタートアップが登場したりもしている。スマートデバイスの「次」となる、まだ見ぬウェアラブルコンピュータの実現と、そのプラットフォームの覇権を競ってシリコンバレーが走り出しているのは間違いない。

ウェアラブルコンピュータとは何なのか、どういう変化が起ころうとしているのか? この問いに答えを出す試みとして1冊の本が話題になっている。シャワールームでGoogle Glassをかけて裸で叫んでいる中年男、そんな写真でも有名になった技術エバンジェリストのロバート・スコーブル氏は最近、シェル・イズリアル氏と共著で「コンテクストの時代」(Age of Context: Mobile, Sensors, Data and the Future of Privacy)という本を上梓した。9月に出して1カ月で150近いコメントがAmazonに投稿されていて、非常によく読まれている様子がうかがえる。スコーブル氏によれば、ソーシャルにせよ、センサーデバイスにせよ、ウェアラブルコンピュータにせよ、ビッグデータにせよ、これらのトレンドが指し示しているのは、「コンテクスト」に反応するコンピューティング時代の幕開けなのだという。自分(コンピュータあるいはユーザー)の置かれた状況を理解し、適切に情報を提示したり処理したりする、現在より格段にパーソナル度の高いパーソナルコンピュータだ。こうした文脈で捉えてみても、ウェアラブルコンピュータ時代の到来は必然のようにも思われる。

もちろん未来なんて分からない。Google Glassだって、アップルが1993年に出したNewtonのように「登場の早すぎたデバイス」に終わる可能性もある(Newtonの完成形がiPhoneなのだと私は思う)。しかし、もしGoogle Glassがエコシステムを今まさに作りつつあるのだとすると、またしてもモバイル・デバイス普及期と同じことが起こるのではないか。つまり、iOSやAndroid OSというプラットフォームが、台湾や韓国といった多くのデバイスメーカーやアプリベンダを巻き込んで黒船のように日本市場にやって来て、瞬く間に日本のケータイ産業が壊滅したのと同じ歴史が繰り返される。Google Glassが1年あるいは2年後にやってきたときには、もはや日本メーカーはカスタマイズ程度しかできなくなっているのではないか?

井口氏は、私にはクレイジーな起業家にも見える。「Google対抗」というのは、われわれメディアが勝手に言っているだけだが、事実上そういう構図があるのは間違いない。Googleに対抗するのが可能だと考えるのはクレイジーだ。しかし、ウェアラブルコンピュータ時代に日本メーカーが全敗する未来を、まるで見てきたかのように「その歴史を書き換えたい」と語る井口氏の言葉に、私は賛同せざるを得ない。大きなビジョンのもとに無理に思える課題にチャレンジする。井口氏のように、世界市場を前提としたアニマルスピリッツの欠如こそが、日本という国がIT業界でプレゼンスを持てなくなった原因の1つではなかったのかと思うのだ。それが井口尊仁氏にお話し頂きたいと考えた理由だ。

Kevin Landis氏

2020年の東京オリンピックで2013年を振り返ってみれば、「何故みんなデバイスを振り回していたのだろうか?」とか、「何故いつもうつむいて画面ばかり見ていたのだろうか?」という風になっているかもしれないではないか。こうした未来を見つめて雄弁に語れる人物として井口尊仁氏以上に適任の人がいるだろうか?

……、と、ちょっとアツくなってしまったが、井口氏とともに登壇いただけるKevin Landis氏は、1998年からシリコンバレーで活躍する投資家で、CNBCやBloombergといったテレビ番組におけるテック関連株のコメンテーターとしても知られている。シリコンバレーにおけるウェアラブルの盛り上がりについても冷静なコメントが頂けるものと思う。

TechCrunch Tokyo 2013は11月11日、12日と、いよいよ間近に迫ってきた。早割チケット(通常1万5000円のところ1万円)の締め切りは今週の30日木曜日となっている。まだ確定していないセッションもいくらか残っているが(タイムテーブルはこちら)、参加を検討いただけていた方は、ぜひ木曜日18時までにチケットをご購入いただければと思う。

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投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。