TikTokの未来を知る、TikTokが米国市場でも伸びている理由(その3)

【編集部注】本稿は米国スタートアップやテクノロジー、ビジネスに関する話題を解説するポッドキャスト「Off Topic」がnoteに投稿した記事を、内容別に3つの記事に分割・転載したものだ。第1部第2部も併せてチェックしてほしい。

TikTokの次の動きは?

TikTokの未来を知るには、Douyinの機能を見るのが一番いい。クリエイター向けのアプリなので、TikTokは今後クリエイターのマネタイズに注力すると思われる。米国ではまだベータ版だが、今後リリースされる機能は動画内のEC機能。DouyinではAlibabaのTaobaoと連携して動画ショッピングが可能になっている。

米国ではFacebookがShopifyと最近Shopsをローンチ。ByteDanceはこれを見てもしかしたら米国ではローンチ日を早めるかもしれない。最近では寄付用のステッカーをリリースしたが、これで少しずつユーザーにアプリ内で決済することや、クリエイターに投げ銭する行為を慣れさせることを目指している。投げ銭はライブ配信でよく見かけるが、ByteDanceもTikTok内でライブ配信を始めている。

TikTokはインフルエンサーマーケティングの価値を理解しているので、去年あたりからCreator Marketplaceをリリース。

まだベータ版だが、今のところSquareなどが使って自社プロダクトをプロモーションしているらしい。今後はセルフサーブの広告管理ツールを出すらしい。これをリリースすると、ByteDanceは唯一の中国含め全世界の広告セルフサーブプラットフォームとなる。

今後はブランドやクリエイターにAIで作られたコンテンツやエフェクトのレコメンドをするかもしれない。もしくはARフィルターを第三者が開発できるようにオープン化する可能性もある。最終的にはクリエイター向けの動画、音楽、EC、ポッドキャスト、解析、フィンテックなど、クロスプロダクトツールが出来上がるかもしれない。

TikTokを活用した新プロダクトのローンチ

ByteDanceは間違いなくTikTokのユーザー、コンテンツ、そしてAIアルゴリズムを活用して新しいプロダクトをリリースする。彼らの採用スピードを見るとそれが明らかだ。

ユーザーと直接関係性を作り、そのネットワークを活用して新しいプロダクト、もしくはよりハイマージンなプロダクトを売り込む。これは特に新しい施策ではない。SNSですとFacebookがInstagramとFacebook Messengerで同じようなことをやっていた。過去記事でも話したが、ディスニーもDisney+の大赤字事業を活用してクルーズ船やディズニーランドへの年間パスを売り込もうとしているのと同じ。

TikTokはデータ収集ツールや広告のマネタイズプラットフォームだけではなく、トップオブファネル、いわゆるユーザーにリーチして他のプロダクトを売り込めるプラットフォームとしても認識しなければいけない。実際に中国ではTikTok内でByteDanceの新しいメッセージアプリのDuoshanをプッシュしてた。

これからTikTokが出しそうなプロダクトを以下まとめた。

ロングフォーム動画

2019年中旬ぐらいからDouyinは15分動画のアップロードを数名のクリエイターにテストし始めた。ByteDanceは過去にVineのクリエイターが後々YouTubeへ移行したことを知っているので、それを避けるためにロングフォーム動画も試しているはず。

ByteDanceはNetflixの類似プロダクトであるXigua Videoを中国で運用している。現在は5500万DAUで、1日の平均試聴時間は70分。

Netflixは一部データを活用してユーザーが何を見たいかを分析して映画やテレビ番組を制作しているため、TikTokも同じことをやり始めてもおかしくない。最近だとXigua自体がBBCやPBS、そして子供番組の出版社などからコンテンツを獲得し始めている。そして直近では元Disney+のトップであるKevin Mayer(ケヴィン・メイヤー)氏をTikTokの新しいCEOとして採用。メイヤー氏はDisney+を1年もたたずに5000万ユーザーまで伸ばし、過去だとMarvel、Lucasfilm、Pixar、21st Century Fox、Club Penguin、Maker Studiosなどの買収を担当した。ByteDanceがこの領域に入るのはほぼ間違いないはず。

映画や著名IPの獲得もそうだが、TikTokはもしかしたら次世代メディアやZ世代に流行っているBratやCrypt TVの買収に取り掛かるのが面白いかもしれない。そしてTikTok自体がインハウスのスタジオを作ってクリエイターと一緒に番組を作ることはやってもおかしくない。個人的にはこれはQuibiが本来やるべきことだと思っている。

音楽ストリーミング

実はByteDanceはインド、インドネシア、ブラジルで自社ストリーミングアプリのRessoを既にリリースしている。TikTokとSpotifyのUIを組み合わせたものとなる。こちらもTikTokと同様、コメント、制作、コンテンツ共有を強調していて、直接TikTokに投稿できるようにしている。そして歌詞を他社プラットフォームより強調しているのがポイント。TikTokはミーム・曲の文化をユーザーの頭の中に叩き込みたいので、音楽からミームを作るために歌詞からインスピレーションを与えるために歌詞を前に出している。

引用:Routenote

TikTokはさらにユーザーから好きな音楽のデータを取得できるし、さらにTikTokでよく聞く音楽をRessoに誘導させることもできる。今後は中国でも流行っているカラオケ・ライブ配信アプリなどもTikTok内に入れたりして、Spotify、Apple、WeSing、Kugouなどの競合と対抗する可能性もある。
今後TikTokが音楽のレーベル会社を作ってもおかしくない。

ゲーム

ByteDanceはゲーム市場に入り込むことについてはかなり発言している。ここ数年にかけて数社のベーム開発会社を買収していて、ByteDanceのゲーム部門は1000人以上の従業員がいる。中国の旧正月時期の人気ゲームの3つがByteDanceからのゲームだった。そして3月に日本でも「ヒーローズコンバット」をローンチして1週間ほどアプリストアで1位だった。

ユーザーをソーシャル領域で囲い込んでゲームを売り込む戦略はTencentと非常に似ている。ByteDanceとしてはToutiao上のユーザーの多くがゲームをプレーしているのが分かっている。中国で最もスマホゲームの広告費を使う会社トップ100のうち、63社は広告予算の半分以上はToutiao上で使っている。こうなるとByteDanceは将来アプリ内課金、アプリ内広告、そしてセルフサーブ広告ネットワークを全部自社で保有するかもしれない。

フィンテック

中国ではスーパーアプリが流行っている中、その中でもフィンテックが最もマネタイズできるポイントだと思っている。中国ではないが過去だとスーパーアプリを目指しているGrabのCFOもGrabのフィンテック事業は本業である配車サービスの20倍の市場だと発言している。ByteDanceも同じく、個人・法人ローン、保険、ウェルス・マネジメント商品を2,00万人のユーザーに提供している。今後も決済やスマホのウォレットを提供してもおかしくはない。


教育

この領域はByteDanceのかなり重要なプライオリティになっている。今年だけで教育関連で1万人採用すると発言している。実際に何をするかは噂にしか出てないが、学校用のハードウェア、AI家庭教師、家庭教師ポータル、そして有料授業などの話が出ている。過去には中国の学生と海外の英語を教える先生をマッチングするサービスのGogokidをリリースしているが、トラクションがあまり伸びてなかった。初期従業員で元ToutiaoトップのChen Lin(チェン・リン)氏は次の1億人DAUのプロダクトを探すことを命じられていて、それが教育かメッセージにあると言われている。

メッセージ

Tencentは競合プロダクトをWeChatや自社のAndroidアプリストアのYingYongBaoをブロックすることが有名。ByteDanceのSnapchat類似プロダクトのDuoshanも初月で500万ダウンロード達成したときにブロックされた。ByteDanceはDuoshan以外に今年新しくリリースしたFlipchatなどでメッセージ領域に入れるかを試している。

引用:Techcrunch

最近だと米国のTikTokではアプリ内で他のユーザーにメッセージするように勧められていて、Douyinでは知らない人と一緒にゲームをプレーする機能も作っているので、メッセージはかなり興味があるように見える。

ニュースフィード

ByteDanceはニュースフィード系のプロダクトをこれからも試してFacebookやTwitterにプレッシャーを与えにいくと思われる。Toutiaoもそうだが、それ以外にはTopBuzz、News Republic、インドネシアのBaBe、インドではHeloなど。さらにインドではDaily Huntに投資して、2016年にはRedditを買収しようとしていた。キャッシュもかなり持っているので、今後はMusical.lyと似た形で買収からのユーザー獲得戦略に入るかもしれない。

エンタープライズ/B2Bソフトウェア
2019年にByteDanceはSaaSプロダクトのFeishuをローンチした。Feishuチームは1700人いて、Slack、Microsoft Teams、Google Suiteの競合プロダクトである。メール、チャット、ビデオ会議、カレンダー、クラウドで資料のストレージなどの機能が含まれている。

ByteDanceはFeishuを最初は社内用に使っていた。ByteDanceは珍しく中国市場ではなく、米国、ヨーロッパ、日本を初期マーケットとして挙げている。プロダクトの優位性はユーザーが読みやすいように自動翻訳、他国との時差調整を簡単にできる仕組み、そして立替申請を簡単にできるようにしているとのこと。

その他
ByteDanceはインドと米国でデータセンターを2019年から運用始めている。これは自社プロダクトようかもしれないが、もしかしたらクラウドホスティングサービスのリリースを考えているかもしれない。クラウドサービスとSaaSソフトウェアだと完全Microsoftの領域に入ってくる。そしてさらにライブ配信、検索、EC、電子書籍なども考えられる。検索を作ればGoogleのように検索とYouTubeのループを作れる。さらに2019年には中国で安いAndroidスマホをリリースした。これは「ByteDance OS」を作ろうとしているかもしれない。過去にはFacebookなども試して失敗した。

結論

ByteDanceはGoogle、Facebook、Instagram、Snapなどの競合に最もなり得るサービスかもしれない。過去にはあり得なかった中国と米国・世界の市場を取りに行けて、デジタル広告でマネタイズできている。しかもいまだにTikTokからちゃんとマネタイズが出来ていないのに140億〜200億ドルの売上を保てている、非常にパワフルな会社である。

この会社を作り上げられたのは創業者が考えたソーシャルグラフが必要ない、SNS、コンテンツ・広告アルゴリズム、そしてTikTokにおいては画期的なUI。このループは今のところ、ほとんどの会社は止められなさそうだ。そして裏側ではどんどんプロフィールデータ、ソーシャルグラフ、興味グラフ、コンテンツグラフをデバイスIDごとにデータ収集している。このエンジン、グロースサイクルを聞くと恐怖感しか思い浮かばない。

もちろんTikTokの人気度が下がってダメになるかもしれない。ByteDanceのほかのプロダクトもまったく上手くいかないかもしれない。ただ、万が一TikTokがダメになっても、TikTokで育った世代が期待する編集方法、ストーリーの伝え方を見るべき。ジャンプ、ワイプ、音楽を利用したトランジションが今までの動画とは圧倒的に速い。間違いなくTikTokの影響で今の若手層のコンテンツ・エンタメに対しての価値観、期待値が変わった。この次世代ユーザーが次の消費者になると考えると、今のうちにTikTokに入り、何に引き寄せられているかを調べるべきであると思っている。いまだとTikTokは、Z世代のプラットフォームだけではなくミレニアル世代にも入っている。この層に何かしらのプロダクトやサービスを売り込みたい人にとって、TikTokを見なければいけないプラットフォームになっている。

引用記事
The Rise of TikTok and Understanding Its Parent Company, ByteDance(Turner Blog)
Old Town Road: The Best Entertainment Case Study of 2019(Medium)
Here Are The Songs That Went Totally Viral On TikTok In 2019(BuzzFeed News)
TikTok’s Underappreciated Wins (from a former Yik Yak employee(Zack Hargettブログ)
The 10 Ways TikTok Will Change Social Product Design(The Information)
TikTok Top 100: Celebrating the videos and creative community that made TikTok so lovable in 2019
(TikTok)
Songs Are Becoming Hits on TikTok Before They’re Even Released(Rolling Stone)
Why Fintech May Be the Future of Ridehailing for Grab, Uber(Fortune)
TikTok owner ByteDance scores video game hit in Japan, sharpening rivalry with Tencent(South China Morning Post)
ByteDance’s move into gaming is already paying off(Abacus)
四处挖人,字节跳动横扫教育圈(36Kr)
・Bytedance tiktok Douyin viamakershort video china regulation cyberspace administrationBytedance launches consumer lending app on Android(TechNode)
TikTok owner ByteDance scores video game hit in Japan, sharpening rivalry with Tencent(South China Morning Post)
TikTok Owner’s Plan: Be More Than Just TikTok(The Wall Street Journal)
Introducing TikTok Donation Stickers with British Red Cross and Help Musicians(TikTok)
China’s Bytedance is buying Musical.ly in a deal worth $800M-$1B(TechCrunch)
The popular Musical.ly app has been rebranded as TikTokThe Verge)
China’s $11 Billion News Aggregator Jinri Toutiao Is No Fake(Forbes)
Chamath Palihapitiya – how we put Facebook on the path to 1 billion users(YouTube)
Memers are Taking Over TikTok(The NewYork Times)
Inside the New York City Bodegas Going Viral on TikTok(The NewYork Times)
The Original Renegade(The NewYork Times)・The owner of TikTok is reportedly in talks with major record labels to launch a music streaming service(Business Insider)
TikTok’s Videos Are Goofy. Its Strategy to Dominate Social Media Is Serious(The Wall Street Journal)
TikTok Owner’s Value Exceeds $100 Billion in Private Markets(Bloomberg)
Musical.ly’s Alex Zhu on Igniting Viral Growth and Building a User Community | #ProductSF 2016(YouTube)

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。