Uberのソフトウェアエンジニアとしてギグワーカーに企業にとって都合のいいルールを押しつける住民投票事項22に反対する

私はUber(ウーバー)のソフトウェアエンジニアを2年続けてきたが、同時に配車サービスのドライバーもしていた。大学時代は定期的にLyft(リフト)のドライバーを務め、生業はUberのAndroid用アプリのプログラマーだが、今でもギグエコノミーの実態を知るために、自転車を漕いでそれらのアプリベースの企業で配達の仕事をしている。

そうした経験から、私はギグエコノミーの決定的な要素に気がついた。それは、Uberが成り立つのは安くて速いからというものだ。車を呼べば数分で到着するため、私たちは支配者になった気分で、一時的な満足感に浸れる。ボタンをワンクリックで、友だちの家や食品スーパーや空港へ行ける世界で一番便利なものだ。

だがこれは、無数のドライバーたちがプライベートな時間までも車の中で過ごしながら客待ちをしているからこそ実現できるものであり、まったく割りに合わないことが次第に明らかになってきた。ドライバーたちは、無償奉仕でそのサービスを補完しているのだ。

儲けのない仕事を強いられているようなものだと気づいた私は、雇い主に対して声を上げることにした。Uberに加わる前も、ディズニーランドのカスタマーサービスからピザの宅配まで、割りに合わない低賃金の仕事をしてきた。Uberは、カリフォルニア州のProposition22(ギグワーカーを保護するカリフォルニア議会法案5条に例外を設け、アプリベースの契約ドライバーを個人事業主扱いにして福利厚生の対象から外せるようにする提案の住民投票事項、Prop22)に資金援助をしている大手企業数社の1つだ。Uberはこのキャンペーンに、これまで4750万ドル(約50億円)を献金している。職場の管理職たちは、Prop22の承認は会社の利益にとって非常に重要だと私たちに訴える。だが、会社の利益が私の投票行動を左右することはないし、そうあるべきでもない。

Uberは、Prop22はドライバーにとって有利なものだと主張するが、それはUberが企業としてドライバーを大切に扱うか否かにかかっている。Uberのエンジニアとしての私の経験からすれば、そうなる見込みは非常に薄い。パンデミックが始まった当初、私たちはUberが一斉レイオフを計画していることを知った。数週間、私たちは仕事と健康保険を確保できるかどうかもわからず、無為に過ごさなければならなかった。

結局、Uberはパンデミックの最中に3500人を解雇した。それも3分間のZoomコールによる通達でだ。私たちの大半にとってこれは、クビにする人数のノルマをいいつけられた管理職が、適当に自己判断で人を選んだように感じられた。何の保証もなくドライバーを解雇するUberのやり方と矛盾しない。頑固なまでに従業員の面倒を見ないその企業文化は、エンジニアにまで及んでいる。私たちも使い捨てのリソースなのだと気づかされた。

ソフトウェアエンジニアとして、私はドライバーとはずいぶん違う経験をUberでしている。社員として分類された私は医療、退職金制度、制限付き株式報酬、有給休暇、病欠の権利といった福利厚生を付与された。Uberのドライバーには、このような福利厚生はない。なぜならUberは、彼らを個人事業主として不当に分類しているからだ。2020年1月1日から、ギグドライバーは社員に分類すべきだと法律に明記された。しかしUberはこの法律に従わず、自分たちに都合のよいルールを規定したいがためにProp22の承認を求めている。

Uberのドライバーは、全員がパートタイムだと誤解している人がいる。定年後のドライブを楽しんでいる人や、私のように大学の授業が終わってから数時間を仕事に当てている人もいるだろうが、Uberの事業を支えているのはフルタイムのドライバーたちだ。5月に発表されたサンフランシスコ市による調査(カリフォルニア大学サンタクルーズ校ニュースセンター記事)では、同市のギグドライバーの71%が少なくとも週30時間働いていることがわかった。客を運んでいるドライバーの大半は、彼らだ。カリフォルニア州は、少なくとも週30時間働いている従業員全員に福利厚生を付与するよう、雇用主に法的義務を負わせているため、71%の日勤ドライバーは、現在、州が定めた福利厚生の付与が拒否されているかたちになる。

Lyftで働いた経験がなければ、雇用主の主張を額面通りに受け取っていただろう。これは決して、業界がダメになるという話ではない。ビジネスモデルは、どの企業も同じだからだ。つまり、利益追及のためのコスト削減に手段を選ばない。私は幸いにも、Gig Workers Rising(ギグ・ワーカーズ・ライジング)という人権団体を運営するUberの素晴らしいドライバーたちに出会えた。サンフランシスコの生活費が高いことは周知の事実だ。彼らは、最低賃金を下回る報酬で働くこともある。車の中で寝泊まりしているドライバー(The Guardian記事)も知っている。1回医者にかかるだけで経済的に立ち行かなくなる人(Twitter投稿)や、命に関わる薬すら買えずにいる人(Twitter投稿)もいる。それを回避できる道はない。そんな彼らの権利を否定するために、企業はProp22に数百万ドル(数億円)も費やされている。

テック業界で働く人たち、そして広く世間一般の人たちに私が訴えたいのは、住民投票の提案事項について、自分でよく調べてみて欲しいということだ。会社にとって最良の道であるから賛成票を入れるようにと雇い主にいわれたら、その雇用主の利益は、あなたの利益とまたは社会の利益と一致していないかもしれないと疑って欲しい。

Uber、Lyft、DoorDashなどのギグエコノミー企業で働く人たちには、あなたが作るものを毎日使っているドライバーたちのことを、よく知って欲しい。みなさんの労働から巨万の富を得ている企業幹部とは違い、ドライバーたちとは非常に多くの共通点がある。

2020年11月、私たちは他の従業員たちの側に立ってProp22に反対するか、あるいは企業幹部や億万長者たちに寄り添って賛成票を投じるかの選択を迫られる。

労働者の側に立って、Prop22に反対しよう。

【編集部注】筆者のKurt Nelson(カート・ネルソン)はサンフランシスコを拠点に活動するUnberのモバイルエンジニア。この記事は同氏の個人的見解です。

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(翻訳:金井哲夫)

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