VC投資モデルは「起業」とは違う―、500 Startupsが神戸でアクセラレーターを実施

神戸市が500 Startupsをシリコンバレーから誘致してアクセラレーションプログラムを実施する。「500 Startups Kobe Pre-Accelerator」(以下、500 Kobeと略す)は、8月1日から9月9日にかけて行われる6週間にわたる起業家や起業家候補向けのプログラムだ。このプログラムを担当する500 StartupsパートナーのZafer Yonis氏が来日していたので狙いを聞いた。Yonis氏は中東のヨルダンからシリコンバレーに移住した「外国人」の連続起業家だ。だから日本の置かれた状況や、日本とシリコンバレーの違いといったことを、われわれ日本人とは違ったアングルから捉えているようだ。

photo04a

神戸市医療・新産業本部新産業創造担当課長の多名部重則氏(左)と、500 StartupsパートナーのZafer Younis氏(右)

シリコンバレーから招聘したメンターが講義とメンタリング

神戸のプログラムの概要は以下の通りだ。

500 Startupsについては説明不要だろうか。シリコンバレーを拠点に世界50カ国、1500社以上を支援する世界で最もアクティブなシード投資ファンドとして知られている。直近でIPOが話題となったTwilioは500 Startupsの投資先の1つだ。日本国内では500 Startups Japanとして2015年9月から活動投資開始していることはTechCrunch Japanでもお伝えしてきているとおりだ。

500 Kobeは、お盆の2週間をのぞく実質4週間のプログラムだ。週のうち2日は講義を行い、そのほかの3日は課題解決やメンタリングなどを予定している。500 Startupsからは共同創業者でパートナーのDave McClure(デイブ・マクルーア)氏やChristine Tsai(クリスティン・ツァイ)氏をはじめ、Zafer Younis (ザファー・ユニス)氏など4人のパートナーもやってくる。シリコンバレーから合計20人のスタッフがやってきて、どの時点でも3人以上が常駐することになる。最終日の9月9日には投資家やVC、銀行などを呼んで神戸でデモ・デイも開催する。

参加資格はシード期にある起業家または起業家候補だ。参加は国内だけでなく海外からも受け付ける。すでに製品やサービスを持っているチームを募集している。15〜20チームの枠に対して、6月18日時点で約130チームから応募があるという。約7割が日本、3割が海外からの応募だ。申し込みは7月1日まで(まだ間に合う!)。

500kobe

4月に突如500 Startupsの誘致を神戸市が発表したときには、少なからず日本のスタートアップ業界関係者は驚いたと思う。なぜまた神戸? と、思った人も少なくないだろう。関係者らによれば、500 Startupsが神戸市を選んだというよりも、神戸市担当者がシリコンバレーに乗り込んで500 Startupsを説得したところから今回の話は始まったようだ。ただ、神戸市側からラブコールを送ったとはいえ500 Startupsは「神戸が適切」と考えたという。Zafer氏は、こう語る。

「神戸市はとてもオープンです。今回のようなプログラムで(神戸や日本以外の)海外の起業家たちを受け入れるのは、とても良いことです。具体的な国や都市の名称を挙げるのは避けますが、受け入れる起業家を自分たちの国・地域に限定するというのは自治体にとってありがちなことなんです」

地域活性化が目的だから、アクセラレータープログラムもその地域の人々や企業が活躍するべきだ。そう考える自治体が少なくない。しかし、スタートアップのハブとなっている都市の多くは、シリコンバレーはもちろんのこと、ロンドンや上海など外部から多くの移民や外国人を受け入れることで多様性と活力を得ているのが現実だ。神戸は長らく日本の玄関口として栄えた港町だから、そうした歴史も影響しているのだろう。Zafer氏は神戸にきて大学キャンパスを歩いていてアフリカやアラブの学生がいることに驚いたという。

日本のスタートアップのチームに欠けているもの

Zafer氏が神戸に来て驚いたのは国籍の多様性だけではない。日本のハードウェアスタートアップのレベルの高さにも驚いたという。

「これまで、すでに20人ほど創業者やスタートアップチームに会い、日本にはチャンスがあるなと感じました。特に技術的に進んでいることに驚きました」

「私が会った日本のスタートアップで良いと思ったのは、例えば……、チーム名は忘れましたが、ボールがダンスするものです。もう1つは耳の中を見ることができるデバイスでした。どちらもきちんと動いていて、デモが完成していました」

「2つともビジネス面の判断は保留します。市場があるかというと分かりません。でも、プロタイプを作りきれるのは素晴らしいことです。日本市場にエンジニアや人材が足りてないとは思いません。プロトタイプを完成させられるだけのエンジニアや才能ある人たちは、少し基本的なビジネスを教わりさえすれば、次のプロダクトはスタートアップ企業として実行可能なものになるのではないかと思います」

シリコンバレーではピッチがうまい一方、ハードウェアスタータアップでまともにMVPが動いていないチームも珍しくない。日本はちょうど逆だという。

「日本の起業家にスキルが欠けているとは言いません。ただ、十分に洗練されていない、あるいは系統だっていないのです。シリコンバレーではリーンキャンバスやユニットエコノミーといったスタートアップの方法論があります。シリコンバレーの起業家は、ピッチもとてもうまい。こうした基本的な知識を日本に持ち込もうというのが今回のプログラムの狙いです」

「いろんな国の起業家が政府関連のプログラムなどシリコンバレーにやって来ています。だけど、言葉の違いや時差になれる前には滞在期間が終わってしまう。ピッチのやり方やリーンについて学ぶためにシリコンバレーに来る必要はありません。先に学んでから来ればいいのです。今回のプログラムは、その準備になるものなんです」

VC投資が可能なモデルは「起業」とは違う

Zafer氏は自らの体験から、シリコンバレーの起業・VC投資モデルは、他の地域では誤解されているという。

photo03a「私は中東で2つの会社を創業して、ヨルダンのVCから投資を受けたこともあります。2年かけてプロダクトを作り、成功もしました。それで7年前にシリコンバレーに来てVCまわりをしました。ところがシリコンバレーのVCたちは『何しに来たの』というわけです。相手にしてもらえない。利益も出ているし、成長もしていて、追加で資金が必要だというのに、です」

「その時は、私にはノーと言われる意味が分かりませんでしたが、3年、4年たって後から気づいたのはモデルが違うということです」

「シリコンバレー以外のどこの国も同じ混乱があるんですが、会社を作ることと、VCによる投資モデルが適用可能な企業(VC fundable companies)を作ることは違います。コンフォートゾーンを抜けてリスクを取り、利益を作って会社を経営する。そういう人は、すべて起業家です。VCから投資を受けてスケールさせる会社を経営する人たちだけが起業家だというつもりはありません。そんなこと言うのは何様だという話ですよね。すべての創業者がVC投資を受ける必要はないんです」

「ただ、かつて私がそうだったように、たとえ50%の時間をVCからの資金調達に使っているような起業家ですら、このVCモデルを理解していないことがあります。時間を無駄にしているのです」

「これは中東でもヨーロッパでも同じで、2つのモデルを混同しています。例えば、シリコンバレーのVCは『ユニットエコノミーが成立している限り、目先の利益なんて気にするな』と言います。逆に順調に小さな黒字で成長する企業には興味がない。インターネットビジネスをやるテック産業はモデルが違うのです。われわれの役割は、起業家にVCモデルを教えることです。繰り返しますが、VCモデルだけが起業と言ってるわけではないですよ」

中東出身の起業家としてシリコンバレーで活躍するZafer氏の目には、シリコンバレーとその他の地域には、いくつか大きな違いがあると映っているそうだ。

1つはシリコンバレーの投資家の多くが起業家だったこと。それから競争が激しいために決断スピードが圧倒的に速いこと。そしてエコシステムの成熟度。特に、VCから得られるフィードバックの質と量は重要だという。

「フィードバックを与えることで起業家を救うことができます。シリコンバレーの投資家のところに行ってノーと言われるときに受け取るフィードバック、つまり赤信号は重要です。フィードバックは、その産業について知識がある人じゃないとできません。500 Startupsでは1600のスタートアップの起業家に繋いでフィードバックができるというのが強みで、そうしたフィードバックループが機能しているのがシリコンバレーの強さの背後にあります。各国にそれぞれVCはあるでしょう。でもシリコンバレーのVCのようなフィードバックは得られません。こうしたものはコピーが難しいのです。メンターは作れませんからね。実際にやってみて学ばないといけないので時間がかかります」

IT系スタートアップ起業家は日本でも3世代目、4世代目となりつつあるし、エグジットした起業家や連続起業家が増えている。起業家に伴走することで多方面の業界知識に精通したハンズオン型VCも増えている。こうした人々がノウハウや経営のイロハを後続の起業家にメンタリングするサイクルが、東京では回り始めている。そういう意味では「シリコンバレーにしかない」というZafer氏の言い分は言いすぎかもしれない。一方でリーンキャンバスやユニットエコノミーといった共通言語でアイデアの妥当性を語り、トラクションを明示する文化は、まだまだ浸透していない。TechCrunch Japanにいてシリコンバレーと日本の両方を見ているぼくは、そう思う。

回り始めた起業家・VCエコシステムのサイクルを絶やさず、まだまだ学ぶべきことはシリコンバレーから学ぶという意味で、夏に500 Startupsが神戸に来るのは日本のスタートアップエコシステムには意義のあることだと思う。

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。