Wordで作った契約書のバージョン管理を自動化する「Hubble」が1.5億円を調達

契約書を中心とした法務書類のバージョン管理サービス「Hubble(ハブル)」を展開するHubbleは8月19日、複数のVCやエンジェル投資家などから総額で1.5億円の資金調達を実施したことを明らかにした。

同社では2019年1月よりHubbleの本格販売をスタートし、現在は三井不動産を含むエンタープライズ企業を始め、ITベンチャーやスタートアップ、弁護士事務所にサービスを提供。今後は社外のユーザーとドキュメントを共有できる機能の開発も予定していて、調達した資金で組織体制の強化やプロダクトのアップデートに取り組む計画だ。

なお今回Hubbleに出資した投資家陣は以下の通り。同社では昨年にも既存株主のANRIなどより数千万円の資金調達を実施している。

  • Archetype Ventures
  • DNX Ventures
  • マネーフォワード
  • ベンチャーユナイテッド
  • 三菱UFJキャピタル
  • 国内外のエンジェル投資家数名

Wordで作った法務書類を一箇所に集約、履歴管理も自動化

Hubbleは企業の法務担当者を始め、事業部のメンバーや弁護士事務所のスタッフが法務書類を作成する際に直面するバージョン管理(履歴管理)やコミュニケーションの課題を解決するSaaSだ。

具体的には「Wordで作成した契約書のドキュメントが複数存在し、どれが最新版かわからない」「契約書に関するコミュニケーションがメールやチャットツールに散らばってしまっている」といったような問題を解消する。

昨年7月の先行リリース時にも紹介したように、作成したファイルの履歴を自動的に整理・管理してくれることと、その情報に関連するやりとりをサービス上に集約してくれることが大きな特徴だ。

ファイルがアップデートされた際の変更点(差分)も自動で抽出されるので、変更点をたどったり過去のバージョンに立ち戻ることも簡単。もともと「GitHubのような仕組みがあれば契約書のバージョン管理が簡単になるのではないか」という思想から生まれたプロダクトでもあるため、ブランチなど同サービスからヒントを得た概念や機能も盛り込まれている。

使い方はシンプルだ。従来はメールを使って「ダウンロード→内容の更新→最新のファイルを添付」という流れで何往復も共有し合っていたWordファイルを、Hubble上に一度アップロードするだけ。あとはファイルを保存すれば自動で履歴が管理されるとともに、最新版がサービス上に保存されていく。

ここまでの説明で「Googleドキュメントと何が違うの?」と思われるかもしれないが、ポイントは「これまでのワークフローを崩さず、クラウドの恩恵を受けられる」点にある。

特に契約書のような法務書類は今でもWordで作成されるのが一般的。そのためHubbleでもこの文化を崩さず、ユーザーが書類を作成・編集する際はいつも通りWordを使う。ただし保存ボタンを押せばHubble上に履歴が自動で蓄積されていくので、やり方を大きく変えずにバージョン管理の悩みを解消できるわけだ。

「新しい作業や努力をしなくても『これまで通りWordで書類を作っているだけで差分が自動でトラッキングされること』はどの顧客からも好評。Word文化を残したまま使えるというのは初期から大事にしてきた考え方だ」(HubbleでCEOを務める早川晋平氏)

Hubbleでは各バージョンに対する担当者のコメントも集約されるため、修正した意図やこれまでの経過を把握するために過去のメール・チャットを検索する作業も不要。一方で閲覧権限の範囲は細かく調整できるので「法務部が検討したプロセスやコメントが表示されない形で事業部のメンバーに共有したい」といった現場のニーズにも対応する。

従来のワークフローで自社のリーガルDBを構築

Hubbleにはこれまで時間のかかっていた業務を効率化するだけでなく、情報を残していくことで自社のリーガルデータベースを自動的に構築していく効果もある。

要は従来であれば特定の担当者のみに帰属しがちだった知見や情報が社内に集まり、受け継がれていくということだ。

「『契約締結に至るプロセスや意思決定の意図』が集約されたデータベースは会社の大きな資産。担当者が変わったり、新入社員が入社してきた時もここにアクセスすれば今までの知見を活かせる。情報が蓄積されていけば会社のリーガルリテラシーを一段上げることにも繋がる」(HubbleのCLOで弁護士でもある酒井智也氏)

時代の流れ的にも人材の流動性が高くなり、リモートワークなど新しい働き方を取り入れる企業も増えつつある。そういった背景もあり法務書類やそれに関する情報を特定の担当者ではなく、クラウド上で1箇所に蓄積しておきたいというニーズ自体も高まっているそうだ。

酒井氏によるとこの傾向は企業に限らず、弁護士事務所でも同様とのこと。「弁護士事務所こそ優秀な弁護士の考え方が社内に残っていく効果は大きい。今は弁護士業界も競争が激しくなったことで『チームとしてどう戦っていくのか』という考え方が広がり、複数人で情報を共有する文化ができ始めている」(酒井氏)

Hubbleは2019年1月に本格販売を始めてから業界や企業規模問わず導入が進んでいるが、特に大企業や弁護士事務所からの反応が良いそう。当初想定していた契約書の管理だけでなく、最近では就業規則のほかIR用の資料や株主総会用の書類など、利用される書類の幅も広がってきているようだ。

利用者も法務担当者のみならず事業部メンバーへと拡大していることに伴い、幅広い場面で利用できるように8月からはスマホ版の提供も始めている。

リーガルテックの波に乗りさらなる事業拡大へ

これまで法務・法律の分野といえば比較的レガシーな領域で、セールスやHR、会計と比べてもテクノロジーの導入があまり進んでいなかった。ただ近年は「クラウドサイン」のようなプロダクトを代表に、日本国内でもリーガルテック周りのクラウドサービスが少しずつ浸透し始めている。

早川氏や酒井氏も、実際に法務部や弁護士事務所の担当者と接する中で「業界全体のITリテラシーがどんどん高くなってきていることを実感するようになった」という。

「(周辺業界のIT化の流れも受けて)日本全体として法務も変わる必要があるという考えのもと、リーガルテックの活用などを軸とした議論が活発になってきた。現時点ではアーリーアダプター層だけかもしれないが、リーガルテックがあることを前提に自分たちの業務や働き方をアップデートしようという考え方も徐々に広まってきていて、業界内でも差が生まれ始めている」(酒井氏)

もちろんクラウド上で法務書類を扱うことや契約書の履歴を保存していくことに抵抗がある企業もまだまだ存在するだろうし、一般的に広く普及している段階とは言えない。

ただ「まずは書類の内容によって(従来の方法とHubbleを)使い分けていく形にはなるかもしれないが、今後リーガルテックが加速していく感覚やHubbleをより多くの企業に使ってもらえる手応えはある」というのが2人に共通する考え。今回の資金調達も組織体制を強化し、さらなる事業拡大を目指すためのものだ。

ターゲットユーザーが慣れ親しんだWord文化を残しつつ、現場の課題を解決できる仕組みを取り入れたのがHubbleのポイントだ

早川氏の話では新たな取り組みとして、今秋頃を目処に外部共有機能の提供とフリーミアムプランの追加を計画中とのこと。現在は月額数万円からの有料プランのみ提供しているが、「社外ユーザーは一定の機能を無料で利用可能」というようにフリーミアムプランと外部共有機能を組み合わせることで、社内だけでなく取引先など対外的な交渉にもHubbleを使える仕組みを整える。

「外部共有機能は多くの導入企業から要望があった機能でもあると同時に、ネットワーク効果を最大化しユーザーを拡大する仕掛けにもなる。契約書を敵対した関係性で作るのではなく、共同でドキュメントを作成するような感覚で作ってもらえるようにHubbleをもっと浸透させていきたい」(早川氏)

契約書のバージョン管理というニッチな領域に絞ったプロダクトはないものの、顧客のニーズによっては導入検討時にクラウドストレージサービスの「Box」や契約マネジメントサービスの「Holmes」と比較されることもあるそう。

他のサービスに比べるとHubbleは特化型で用途は限られるが、今の所はこれまで通り「(クラウドサインやDocuSignなど)API連携によって他の領域の優れたサービスとシームレスで繋げられるような環境を整えつつ、多機能化はせずニッチでも尖ったサービスを目指す」方針だ。

「何かに尖っていないと、使ってもらったお客さんに『このプロダクトは使いやすいから他の部署にも広めたい』とは思ってもらえない。自分たちの理想は全ての契約書がHubbleを使って交渉されて、履歴もきちんと管理されていくこと。それに向けてより尖ったプロダクトを作っていきたい」(早川氏)

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。