インドネシアの零細ショップ向け簿記アプリ「BukuWarung」

インドネシアには、約6000万人の「マイクロマーチャント」がいる。彼らは食品やその他の生活必需品を販売する零細商店の店主であり、顧客と親しい関係にあることが多い。彼らはよく顧客にツケ払いを認めるが、財務追跡の多くは依然としてペンと紙の台帳で行われている。BukuWarung(ブクワルン)の共同創設者Chinmay Chauhan(チンマイ・チョウハン)氏とAbhinay Peddisetty(アブヒナリ・ペディセッティ)氏はこのプロセスをインドネシアの小規模な企業向けにデザインされた財務プラットフォームでデジタル化したいと考えている。彼らの目標は、簿記ツールから始め、運転資本へのアクセスなどへサービスを拡大していくことだ。

BukuWarungは現在、Y Combinatorのスタートアップ・アクセラレータ・プログラムに参加している。またBukuWarungは、East Ventures(イーストベンチャーズ)、AC Ventures(ACベンチャーズ)、Golden Gate Ventures(ゴールデンゲートベンチャーズ)、Tanglin Ventures(タングリンベンチャーズ)、Samporna(サンポルナ)、ならびにGrab(グラブ)、Gojek(ゴジェック)、Flipkart(フリップカート)、PayPal(ペイパル)、Xendit(エクセンディット)、Rapyd(ラピッド)、Alterra(アルテラ)、ZEN Rooms(ZENルームズ)、およびその他の企業の戦略的エンジェル投資家からシード資金を調達している

チョウハン氏とペディセッティ氏は、シンガポールに拠点を置くピアツーピアのマーケットプレイスであるCarousell(カルーセル)で働いているときに知り合った。ここで彼らは販売者向けの収益化製品を開発していた。チョウハン氏はさらに、東南アジアにおける配車サービスとオンデマンドデリバリーの最大手Grabで、商店主向け製品開発にも取り組んでいた。しかし、BukuWarungを思い付いた背景には本人たちが育った環境も関係している。チョウハン氏とペディセッティ氏の家族はどちらもご近所向けの小規模商店を経営しているのだ。

「GrabやCarousellで商店主向けの収益化製品を開発していた経験から、どうやればいいのかはよくわかっています。またインドネシアには大きなポテンシャルがあるのもわかっています。6000万人の商店主がオンラインを利用しデジタル化を遂げるのを支援することができるのです。マクロレベルで見ると、これは大きなビジネスチャンスであり、また個人レベルでも、何百万という商店主に影響を与えられるという可能性を感じています」とチョウハン氏は語っている。

紙での簿記の場合、財務追跡に手間がかかるだけでなく、顧客のツケがどれくらいあるのかがわかりづらい。チョウハン氏とペディセッティ氏はTechCrunchに対し、彼らの目標は、KhataBookやOKCrediがインドで行っているのと同様のことをインドネシアで行い、彼らの会社を財務サービスも扱う会社に拡張することだと述べた。

BukuWarungは昨年サービスを開始して以来、インドネシアの750の市町村で60万人の商店主が契約しており、現在月平均ユーザーは20万人に上る。チョウハン氏とペディセッティ氏は、インドネシアの6000万人に上る零細・中小規模の商店主たちにサービスを利用してもらうことが目標だと言う。彼らはすでにインドネシア初のクレジット追跡アプリの1つであるLunasbos(ルナスボス)を買収している。

Image Credits: BukuWarung

BukuWarungのサービス開始準備を進める中で、2人はインドネシアを旅しておおよそ400人の商店主と、簿記、クレジット追跡、会計の問題点について話し合った。このときの商店主たちとの会話から、2人はまずは簿記アプリに焦点を当てることにし、簿記アプリサービスを10ヶ月前に開始した。

4月から6月にかけてインドネシアでは部分的なロックダウンが行われたが、BukuWarungのユーザーの大部分は食料品など生活必需品を扱う商店主であるため、アプリは成長を続けている。小さな都市や村では、人々のキャッシュフローが非常にタイトで、またその多くは月々の定期収入を持たないため、商店主はよく顧客にツケ払いを認める。チョウハン氏は「みなツケで売り買いしているということを、私たちは調査で突き止めました」と述べている。

そこへ来て、多くの商店主は顧客と親しい関係にあるという地域的特色がある。

チョウハン氏によると「これは地域によって異なるのですが、商店主はご近所のたくさんの人々のことを昔から知っていて、通常、500インドネシアルピーから最大約100万インドネシアルピー(約7500円)を貸し付けています」ということだ。しかし、顧客の自宅を回って支払いを求める回収時期になると、多くの商店主はためらいを感じるのだという。

「私たちが開発したアプリを使用すれば、彼らは顧客を探したり電話をしたりしなくてもすみます。アプリが顧客に自動的に貸付回収通知を送るからです。この『ソフトなメッセージ』のおかげで、ためらいを感じることなく、商店主として確実に顧客に通知を届けることができるのです」と同氏は付け加えている。

商店主たちと話すうちに、BukuWarungの創設者は、多くの商店主が従量課金制のデータプランとローエンドのスマートフォンを使用していることにも気付いた。そのためユーザーがいつでもそれぞれの記録にアクセスしアップデートできるよう、アプリは可能な限り軽量で、オフラインでも機能する必要があった。アプリの開発においてデータと容量をできるだけ少なくすることに重点を置いた結果、他の簿記アプリとの差別化を図ることができ、このことがインドネシアで契約数とユーザー数を維持することに役立っていると2人は述べている。

チョウハン氏とペディセッティ氏は、ユーザーがデジタルウォレットやファイナンスなどのオンライン決済システムへアクセスできるよう、同社の成長に合わせ金融テクノロジー企業と提携するつもりであると語った。

Y CombinatorのパートナーであるGustaf Alströmer(グスターヴ・アルストレーマー)氏は、TechCrunchへの声明で「新興経済圏向けのデジタルインフラストラクチャ開発は、特にCOVID後の世界においては大きなビジネスチャンスとなります。BukuWarungはこの課題に取り組むことができるチームであると信じています。私たちはインドでのKhatabookやOkCreditの取り組みを見てきましたが、BukuWarungが同様に成長し、インドネシアにおいて零細企業に力を与えることになると考えています」と述べている。

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カテゴリー:ソフトウェア

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TechCrunch Japan

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