FacebookのLibra Associationに暗号プライムブローカーのTagomiが参加

TechCrunchが入手した情報によると、Facebook(フェイスブック)が支援する暗号通貨のLibraを管理するLibra Associationの新たなメンバーに、2800万ドル(31億円)の資金を調達した暗号スタートアップのTagomiが加わるという。Tagomiの正式な参加表明は、米国時間2月28日、もしくは来週に予定されていた。

Tagomiは大規模なトレーダーやファンドが暗号通貨市場に簡単にアクセスできるプラットフォームを提供している。今回のニュースは、LibraがShopifyを追加した数日後に伝えられた。なお、昨年末にはVisaやPayPal、Stripeなどの主要パートナーが脱落している。

TechCrunchはLibra Associationに連絡を取り、Facebookのコミュニケーションチームから回答が得られると約束された。

Libraへの参加は、Tagomiが暗号通貨の開発に少なくとも1000万ドル(約11億円)ぶんの貢献をすることが期待されていることを意味し、Libra Reserveに預けられた投資額からの利息から、配当を得る資格がある。Tagomiはまた、Libraのブロックチェーンを経由するトランザクションを検証するノードも運営する。

Tagomiは、Union Square Venturesの元投資家でLibra AssociationのメンバーでもあるJennifer Campbell(ジェニファー・キャンベル)氏によって設立された。会社には5カ所のオフィスと、25人の従業員がいる。TagomiはLibra Associationの22番目のメンバーになることが同スタートアップの広報担当者からの情報で明らかになっている。この情報は、後に公開されるはずだったようだ。「TagomiはLibra Foundationに加入し、キャンベル氏が新しいメンバーになる」と、TagomiはTechCrunchにメールで回答した。同氏へのインタビューの後、この記事をアップデートする予定だ。

キャンベル氏とTagomiは、Libraの暗号化通貨の安全性を高め、国際法に準拠させるための、技術的および政策的なサポートをLibraに提供する。これはLibra Associationにとって、当初計画されていた2020年のローンチに向けて規制当局からゴーサインを得るために極めて重要なことだ。米国と欧州連合(EU)の政治家らは、資金洗浄を容易にしたり、プライバシーを侵害したり、国際金融システムを不安定にしたりする可能性があるとして、聴聞会や報道経由でLibraを激しく非難してきた。

Libra Associationの正会員は以下のとおりだ。

現在のメンバー

Calibra、Tagomi、Shopify、PayU、Farfetch、Lyft、Spotify、Uber、Illiad SA、Anchorage、Bison Trails、Coinbase、Xapo、Andreessen Horowitz、Union Square Ventures、Breakthrough Initiatives、Ribbit Capital、Thrive Capital、Creative Destruction Lab、Kiva、Mercy Corps、Women’s World Banking

過去のメンバー

Vodafone、Visa、Mastercard、Stripe、PayPal、Mercado Pago、Bookings Holdings、eBay

[原文へ]

(翻訳:塚本直樹 Twitter

eコマースプラットフォームShopifyがFacebookのデジタル通貨Libra運営団体に加盟

eBayやVisa、Stripe、その他の有名企業などはFacebook(フェイスブック)が主導するデジタル通貨Libra(リブラ)を見捨てたが、Libra運用団体は米国時間2月21日、Shopify(ショッピファイ)という新たな加盟社を得た。eコマースプラットフォームのShopifyはLibra Associationの会員になる。少なくとも1000万ドル(約11億円)を拠出し、Libra取引の結節点となる。

現在は国際規制当局の懸念がLibra展開を阻んでいるが、もしその懸念をLibraが和らげることができたら、Shopifyはクレジットカードの手数料を払うことなく決済を処理する手段を得ることになる。Libraでは手数料ゼロ、もしくはほぼゼロとなる見込みだ。Shopify、そしてShopifyのプラットフォームでオンラインショップを運営する100万もの業者は節約できることになるかもしれない。

ShopifyはLibra Associationへの加盟の理由として、業者の手数料抑制のサポートと発展途上国への商業機会の提供を挙げた。「世界の金融インフラの大半はインターネットコマースのスケールやニーズに対応するようにつくられていない」とShopifyはいう。以下に、発表の最も重要な箇所を掲載する。

我々のミッションはすべての人にとってコマースをより良いものにすることであり、そのためにお金や銀行業務がさらに良いものになる世界の一部として、コマースをいかに改善していくか考えることに多くの時間を費やしている。Libra Associationのメンバーとして、業者やあらゆる消費者にお金が回り、またサポートできるようにする決済ネットワークを構築するために社を挙げて取り組んでいる。我々のミッションはプラットフォームで100万を超える業者の起業家としての旅をサポートするというものだった。これは、透明性のある手数料や資本へのアクセス、業者の顧客データのセキュリティとプライバシーを確かなものにすることを意味する。世界中のさらに多くの起業家を力づけるインフラを構築したい。

Libra AssociationのメンバーとしてShopifyはバリデーションを行うオペレーターになり、Libra Association評議会の投票権を得る。そして少なくとも1000万ドル(約11億1600万円)の投資をするLibraが稼ぐ利子の配当金をもらうことができる。

Libra Associationは当局の調査を受けている最中の10月に、一連のメンバーがプロジェクトを見捨て、多くのeコマース専門の会社を失った。そこにはVisaやMastercardといった従来型の決済企業や、 StripeやPayPalなどのオンライン決済企業、eBayのようなマーケットプレイスが含まれる。こうした動きは、人々がデジタル通貨を使うのに十分な場所を確保するために、果たしてLibraが適したパートナーを得られるかという疑念を引き起こした。

Libraが安全であると当局に納得させようと、FacebookはFacebook PayやWhatsApp Payといった従来の銀行送金やクレジットカードに頼ってきた決済手段に取り組んできた。

ShopifyのCEO、Tobi Lutke(トビ・リュトケ)氏は「お金や銀行業務がさらに良いものになる世界の一部としてコマースをいかに改善していくか考えることに、Shopifyは多くの時間を費やしてきた。だからこそ我々はLibra Associationのメンバーになることを決めた」とツイートした。

「Shopify(ショップ含む)をLibra Associationに迎えられることを誇りに思う。おおよそ175カ国にまたがる100万超の事業者を抱える多国籍コマースプラットフォームとして、Shopifyは Libraプロジェクトに多大なる知見や専門性をもたらす」とLibra Associationの政策・広報責任者のDante Disparte(ダンテ・ディスパート)氏は書いている。「Shopifyは、安全で透明性のある、そして消費者フレンドリーなグローバル決済の実行に向けて取り組んでいるLibra Associationの積極的なグループに加わった」

直近の雇用もまた、2者をさらに結びつけた。Facebookの決済プラットフォームと宣伝チームを率いた前プロダクトマネジャーKaz Nejatian(カズ・ネジャティアン)氏は2019年9月にShopifyの副社長兼マネー担当GMになった。

発展途上国では時として確保するのが難しい従来型の銀行口座がなければ、eコマースショップの運営はかなり難しく、不可能かもしれない。Libraではそうした業者がかなりのクレジットカード手数料なしにすぐに決済できるLibra Walletを確保できる。理論的にはローカルの実在店舗やATMで、その地で流通している貨幣で現金を引き出すことができる。

Shopifyのクレジットカードリーダー

それらの一部が実現するにしても、Libra Associationはテロリストが資金を洗浄したり、人々のプライバシーを損なったり、グローバル金融システムにおいて国のパワーを弱めたりすることはない、と米政府やEUを納得させる必要がある。フランスのBruno Le Maire(ブリュノ・ル・メール)財務相は「国々の金融自主権は金の民営化という危機に直面している。我々は欧州でのLibraの開発を認めることはできない」と述べた。

Libraは当初、2020年の開始が予定されていた。

Libra Associationのメンバーは以下の通りだ。

現在:FacebookのCalibra、Shopify、PayU、Farfetch、Lyft、Spotify、Uber、Illiad SA、Anchorage、Bison Trails、Coinbase、Xapo、Andreessen Horowitz、Union Square Ventures、Breakthrough Initiatives、Ribbit Capital、Thrive Capital、Creative Destruction Lab、Kiva、Mercy Corps、Women’s World Banking

前メンバー:Vodafone、Visa、Mastercard、Stripe、PayPal、Mercado Pago、Bookings Holdings、eBay

[原文へ]

(翻訳:Mizoguchi

最近、暗号通貨疲れを感じる

暗号通貨に奇妙な事態が起きている。サトシ氏がBitcoin(ビットコイン)という福音を我々に授けて以後、この奇妙かつ刺激的な分野が、なんと言ったらいいかある種の懸念を抱かせるものになってきた。

もちろん暗号通貨の真の擁護者は「暗号通貨は大股で前進を続けている。メインストリームになるのは目前だ」と言うだろう。こういう主張はずいぶん前から繰り返されているので、そろそろ「本当にオオカミは来るのか」という疑問を抱いてもいい頃だと思う。

いや、落ち着いていただきたい。中国では習近平主席、米国ではFacebookのCEOがともにブロックチェーンの信奉者になったときにこんなことを言い出すのはタイミングがまずいかもしれない。

しかしもう少し詳しく観察してみれば、中国の暗号通貨は(もし実現するなら)国民を監視するパノプティコン(全展望監視システム)を目指していることがわかる。本来、暗号通貨というエコシステムは国家権力による追跡が難しいので、権力の分散化を図れる。中国が目指す暗号通貨システムは、共産党による中央集権的支配をさらに強化するツールにしようとするもので本来の目的とは正反対だ。

一方、FacebookのLibraはテクノロジー面では順調に進歩を続けている一方、有力パートナー多数を失い、敵は増えている。

暗号通貨コミュニティはDeFi、つまり非中央集権的金融(Decentralized Finance)というコンセプトに興奮している。簡単にいえば、暗号通貨を単に検閲に強い通貨から検閲に強い金融システムへと発展させようというものだ。例えばら分散的なピア・ツー・ピア・ローン、デリバティブやオプションでない実態のある投資やステーキングなどが挙げられる。

ステーキングは暗号通貨をロックすることにより発生した手数料の分配を受けることで、正確にいえばDeFiではないが、その一種とみなされることが多い。暗号通貨の世界ではこうしたDeFiが金融革命の主役となりいつかウォールストリートに取って代わるだろうと期待されている。しかし暗号通貨の外の世界では「針の頭で何人の天使が踊れるか」というスコラ哲学の議論のように思われている。つまり修道院の外では誰もそんな議論は気に留めていない。

さらに外の世界では暗号通貨コミュニティは金融工学のために本来のエンジニアリングを犠牲にしたという印象を受けている。「口座を持てない人々に金融サービスを」という当初の称賛すべき目的が忘れられ、「口座を持てない人々」とはそもそも無縁な「高度のテクノロジーを利用した金融サービス」が発明されている、というわけだ。残念ながらこういう見方が完全に見当外れだとは言い切れない。

もちろん本来のエンジニアリングにおいても進歩は見られる。ただしスピードは遅く、ほとんどの場合、外に出てこない。その代わりDeFiの世界では野次馬とソシオパスばかりが目につくことになる。

目に見える進歩もなくはない。ZCashは本来の暗号通貨テクノロジーのインフラでブレークスルーを達成している。Tezosは暗号通貨ガバナンスのアルゴリズムの改良で成果を挙げている。

アプリでいえば、Vault12にも興味がある。 これは「暗号通貨のパーソナル金庫」で、家族や親しい友だちとで作るネットワークに暗号通貨を保管することでセキュリティリスクに備えようというものだ。暗号通貨をコントロールする鍵を交換所その他のサードパーティにあずけてしまうのは金を銀行に預けるのとさして変わりない。

これに対してVault21ではカギを個人的に信頼できる人々に分散して預け、「シャミアの秘密分散法」と呼ばれるアルゴリズムで回復できるようにしておく。たとえば秘密鍵を10人で分散保有し、そのうちの7つの分散鍵を回収できれば秘密鍵が復元できるという仕組みだ。この方式はしばらく前からVitalik ButerinChristopher Allenなどのビジョナリーが「ソーシャル・リカバリー・システム」と呼んでいる。これがシリコンバレーのスタートアップらしいスマートなデザインのアプリで使えるようになったのは興味深い。

しかし現在進行中なのははるかに根本的な変化だ。これはブロックチェーンを利用したトランザクションを現在とはケタ違いに増やそうとする試みだ。例えば現在、規模として2位の暗号通貨であるEthereum(イーサリアム)はEthereum 2.0になるために完全な変貌を遂げた。Bitcoinはもっと保守的で安定しているものの、エコシステムにはまったく新しいLightning Networkが付加されている。正直、こうした動きに私は懸念を感じる。

【略】

懸念の理由の1つはセキュリティだ。LightningであれPlasmaであれ、ブロックチェーンを大規模にスケールさせようとする試みはブロックチェーンテクノロジーの根本的な部分を改変する。これによってセキュリティは従来の堅固で受動的なもの(ハッシュのチェック、巨大なコンピューティグパワーを必要とする台帳への取引の記錄など)からwatchtowersfraud proofsなどの能動的セキュリティが導入されている。このような変更は攻撃にさらされる側面を大きく増やすものというのが私の受ける印象だ。

これらの課題は解決途上にある。なるほど、暗号通貨バブルについてコミュニティの内側からと世間一般の認識のズレはかつてないほど大きくなっている。その間、
Tetherという黒い影がコミュニティの頭上に垂れ込めている。OK、疑いは状況証拠に過ぎず、そうした薄弱な根拠で高貴な目的を台なしにすべきではないのだろう。しかし状況証拠の数が多すぎる気がしないだろうか?

以前私は「暗号通貨コミュニティには詐欺や不祥事が続発し、怪しげな薬売りが万能薬を売ると称している。しかしこれらは個々のスタートアップには逆風であっても、全体としてみれば暗号通貨コミュニティの弱さでなく、強さから派生したものだと分かるかもしれない」と主張したことがある

しかし、暗号通貨はある時点でコミュニティを出て普通の人が使うようにならねばならない。それができなければ、所詮はカルトのまま消えていくことになる。そのティッピングポイントはいつ起きるのだろうか?というより、それは起きるのだろうか?その答えは、5年前と同様、はっきりと見えない。

原文へ

(翻訳:滑川海彦@Facebook

VisaやStripe、eBayなどのLibraメンバーが離反、Facebookがいまやるべきことは?

Visa、Stripe、eBayなどが、Facebook(Facebook)率いる暗号通貨Libra Association(Libra協会)から離脱したことにより戦略的コストが発生している。これらの企業は単に名簿から名前を消しただけではない。各社はLibraをより便利にし、広く普及させ、または評判を高めてくれるはずだった。しかし今では、Libraのローンチや成長の障害になる恐れがある。

Libraとの関わりばかりでなく、その他の事業についても規制当局から取り調べを受けることを恐れて各社少なくとも今のところは手を引いた。この中のどの企業も、Libraの自社製品への統合を確約せず、後に統合する可能性があるとだけ話していた。だが、これらの企業の撤退により計画の未来には暗雲が立ち込め、Facebookは心変わりによるダメージを受け止める立場に残されることとなった。

ここに、Libra協会を離脱したメンバーが、もともと何をもたらすはずだったか、そしてその離脱によってどんな困難が生じるかを列記する。さらに離脱企業が増えれば、その都度報告する予定だ(更新:2019年10月14日、情報提供Bookings Holdings)。

Visa

もっとも広く受け入れられている決済手段のひとつであるVisaは、Libraをあらゆるものの支払いに使用できるようにしてくれることになっていた。金融業界でもっとも権威あるブランドでもあるため、この計画に多大な信用を与えてくれるはずだった。Visaの撤退で、Libraは単なる決済事業に割り込んできたハイテク企業とみなされるようになり、もしLibraに問題が起きれば、その素早い動きと破壊的なアプローチが金融業界に荒廃をもたらすという恐怖を振りまくことになる。さらに、Visaの撤退は、実店舗でのLibraの存在感をずっと薄くしてしまう恐れもある。価値が認められず、使い道も限られた暗号通貨など誰が使いたがるだろうか。

Mastercard

VisaとともにMastercardが加わったことで、既存の大手企業が最新テクノロジーを受け入れたという印象を与えてくれることになっていた。これが暗号通貨への恐怖心を和らげ、暗号通貨は今後は必須の存在になるという雰囲気を醸成するはずだった。 Mastercardはまた、Libraがいずれは支払いに使われるであろう場所の大きなネットワークを提供してくれるはずでもあっt。それが今は、MastercardとVisaは、その決済システムを時代遅れにし、ブロックチェーンにより取引手数料を廃止するというLibraに対して、共同して積極的に抵抗する立場となった。Libraの最大の同胞が、最大の敵になってしまったのだ。

PayPal

Facebookは規制当局に対して、LibraのウォレットはCalibraアプリとMessengerとWhatsAppへの統合だけではないと、PayPalを示唆して繰り返し伝えてきた。FacebookのLibra代表であるDavid Marcus(デイビッド・マーカス)氏は、自身が所有するCalibraを通じてソーシャルネットワークの強大な力をLibraに投入するのではないかと議会で尋ねられたときにこう答えていた。「PayPalなどの企業もあります。これらはもちろん、協力関係にありますが、競争相手でもあります」。

今やFacebookは、LibraのウォレットとしてCalibraもMessengerWhatsAppも信用できないという人たちに、それに代わる相応の決済方法を提示できなくなった。Libra協会はまた、Libraを受け入れていたPayPalのオンライン小売商の巨大なネットワークと、Venmoとの統合によるピアツーピア送金への参入も逃してしまった。PayPalは、主力となる一般大衆にオンライン決済の信頼性を確信させたサービスだ。それはFacebookがどうしても手に入れたかった種類の信頼だ。マーカスはPayPalの元社長であるにも関わらず、PayPalを引き留めることができなかった。そのことが、連帯関係の構築における協会の技量に不安を抱かせる結果となった。

Stripe

Stripeは、電子商取引業者の絶大な人気を誇り、そのためLibra協会の貴重なメンバーとなっていた。PayPalとともに、Stripeは中国以外での電子商取引の大きな部分の円滑化に貢献している。統合が簡単なため開発者から高い支持を受け、FacebookもLibraの上に位置するものと期待していた。Stripeの離脱により、Libra定着に寄与するはずだったフィンテック系スタートアップのエコシステムにつながる、決定的な意味を持つ橋が破壊されてしまった。これでLibra協会は、Stripeの助けなしに決済ウィジェットを一から自分で開発しなければならなくなった。それがローンチされたとしても、Libraの受け入れは遅れることになる。

これらの決済処理業者が逃げ出したのには、明らかな理由がある。Brian Schatz(ブライアン・シャーツ、民主党ハワイ州選出)とSherrod Brown(シェロッド・ブラウン、民主党オハイオ州選出)の両上院議員は先週、Visa、 Mastercard、Stripeの各CEOに書簡を送り「もしそれを受け入れるなら、貴社は規制当局からLibra関連事業のみならず、その他の決済事業についても高度な調査を受けることになる」と伝えたのが原因だ。

eBay

最も歴史ある電子商取引企業のひとつであるeBayは、Libraなら信用のない見知らぬ相手とでも、高価な仲介人を雇うことなく取引が行えるという信念を持っていた。同社には、西側諸国でAmazonと並ぶそのトップクラスのオンラインマーケットプレイスの運営にLibraを活用する可能性があった。eBayのような目的地を失えば、平均的なネチズンは、取引手数料を取らないLibraの可能性に接する機会から遠のくことになる。

Mercado Pago

Libra協会の中ではあまり名前が知られていない企業だが、Mercado Pagoは小売業者が支払いを電子メールまたは分割で受け取れるようにするサービスだ。金融機関と縁遠い人たち同士を結びつけるという考え方は、なぜLibraが必要かを説明するFacebookの売り文句の中核的なアイデアでもある。そのような人々に具体的にどのように貢献するかについて、Libra協会は詳細を語ってこなかったが、Mercado Pagoのようなパートナーに頼って後に説明がなされるはずだった。Mercado Pagoが離脱したことで、Libraは経済的に恵まれない人々の支援という大義を失い、単に金融業界の支配権が欲しいだけの存在と見られるようになってしまう。

Bookings Holdings

Booking.com、Kayak、Pricelineといったパートナーたちは、旅行の予約という大きな購買カテゴリーでの取引手数料の廃止をLibraで実現することになっていた。そこは、一度に数百から数千ドルの買い物がクレジットカードで行われる世界だ。そこでLibraは、Booking傘下の企業に競合他社よりも安い価格を提示できる強力な決済方法になるはずだった。eBayと並ぶ最も人気の高い大きなショッピングカートであるLibraの電子商取引パートナーが抜けてしまった。それにより、面倒でもLibraを採用すべき価値をユーザーに示すのが難しくなる。

残っているのは?

米国時間10月14日、Libra協会の残りのメンバーが最初の正式メンバーを決める目的で集合する。さらに、理事を選出し、計画を規定する憲章を立ち上げる。これが、上に示した企業の撤退を促した。これが、Libraとの深い関係を決定してしまう前に抜け出す最後のチャンスだったからだ。

上院銀行・住宅・都市問題委員会「Facebookが提唱するデジタル通貨およびデータ・プライバシーへの配慮に関する調査」公聴会で質問を待つFacebookのCalibraデジタル・ウォレット・サービス代表デイビッド・マーカス氏(写真:Bill Clark/CQ Roll Call)

残っているのは、ベンチャー投資企業、ライドシェア企業、非営利団体、暗号通貨企業だ。これらは、現状の決済処理事業とは、あまり深い関わりを持たない企業であるため失うものも少ない。ブロックチェーンに特化した企業は、Visaのような金融大手がLibraを承認してくれることに期待し、業界全体で正当化されることを望んでいた。

関連記事:Libraをドルに固定すれば規制当局は安心するとa16zが提案(未訳)


これらのパートナーたちは、Libraエコシステムの開発資金を提供し、日常の使用事例を重ね、発展途上国にそのシステムを普及させて、Libraと暗号通貨企業との同盟関係化を推し進めるだろう。経済を一方的に破壊する者と見られないようにするには、Facebookはこれらの企業をなんとしてもつなぎ止めておかなければならない。

Libraを実際にローンチさせるには、Facebookは大幅な譲歩と初期バージョンからの転換を余儀なくされる。さもなければ、もしこのまま規制当局との衝突を続けた場合、さらにメンバーが抜けていくことになる。Libra協会のメンバーであるAndreessen Horowitz(アンドレッセン・ホロウィッツ)が運営するベンチャーファンドのa16z Crypto(エイシックスティーンズィー・クリプト)のパートナーを務めるChris Dixon(クリス・ディクソン)氏が打ち出した選択肢は、Libraを国際通貨のバスケットにするのではなく、米ドル建てにするというものだ。これなら、Libraがドルと直接競合するという恐怖心を軽減できる。

Facebookは、その理想の暗号通貨を旅立たせることができないということがはっきりした。100件のスキャンダルに反撃されるのは有名税だ。今、Facebookが目指すべきは、水で薄めたバージョンのLibraをローンチして、それが本当に銀行口座を持てない人たちの助けになることを証明し、彼らの行いが善意によるものだと規制当局にわかってもらうことだ。

[原文]

(翻訳:金井哲夫)

Facebookが独自仮想通貨LibraのためにAIチャットボット開発のServicefriendを買収

Facebookは独自の仮想通貨であるLibra(リブラ)の2020年発行を目指し、Libraで使えるツールの整備を進めている。TechCrunchが確認したところによると、Facebookがその1つとしてServicefriend(サービスフレンド)を買収した。Servicefriendは顧客サービスチームを支援するボット(人工知能に基づくメッセージアプリのチャットクライアント)を開発するスタートアップだ。

Servicefriendが拠点を置くイスラエルで最初に報じられた。同社の株主の1人であるRoberto Singler(ロバート・シングラー)氏がイスラエルのウェブサイトThe Markerに示した。共同創業者の1人であるIdo Arad(イド・アラド)氏にTechCrunchが接触したところ、同氏がTechCrunchの質問をFacebookに送付した。Facebookは買収を認めたが、Appleがよく使うような詳細を特定できない声明になっている。

「我々は小規模なテクノロジー企業を買収することがある」とFacebookの広報担当者は述べた。

LinkedInを見ると、アラド氏と共同創業者のShahar Ben Ami(シャハール・ベン・アミ)氏、少なくとももう1人を含む数人が、Libra向けのデジタルウォレットを開発するためのFacebookの子会社であるCalibra(カリブラ)デジタルウォレットグループにいるようだ。今月Facebookで働き始めたということは、買収がここ数週間以内にクローズしたということだ。まだ数人がServicefriendに残っているようにみえるが、同様にFacebookに移った可能性がある。

Facebookは買収目的を明らかにしていない。すぐ思いつく領域は、開発中のCalibraデジタルウォレットのカスタマーサービスレイヤー用のボットだが、もっとありそうなのはボットのネットワーク構築だ。

Facebookの狙いは、CalibraでLibraの支払いと受け取りができる一連の金融サービスを構築することだ。連絡先への送金、請求書の支払い、Libraの補充、買い物などが考えられる。

こういったサービスのプロバイダーとしてFacebookは信頼できるのか。「人間」の出番はここにある。顧客がアクセスしやすい環境づくりも欠かせない。

「あなたのために我々はここにいる」とCalibraはウェルカムページで 、WhatsAppとMessengerによるユーザーへの24時間年中無休のサポートを約束している。

ServicefriendはFacebookのプラットフォームに関わってきた。具体的には、Messenger用に「ハイブリッド」ボットを構築した。企業がメッセージングプラットフォームでサービスを提供する際に、ボットが人間のチームを補完し、企業がサービスを拡大しやすくする。ServicefriendがフィリピンのGlobe Telecom向けに開発したMessengerボットでは、人間が使う時間を顧客とのセッション1000回あたり20時間未満に短縮した。

ボットはFacebookにとって比較的問題の多い分野だ。2015年にMというパーソナルアシスタントサービスを開始し、2016年にはMessengerでユーザーがサービスプロバイダーと話せるボットを大々的に発表した。フタを開けてみると何も約束通りに機能せず、今までで一番ひどいサービスもあった。

AlexaなどのAIベースのアシスタントは、コンピューターが会話を通じて人間に情報提供する方法として定着した。一方ボットは完全に人間に取って代わるのではなく、人間を補完するサービスとするほうが機能するというのが最近の見方だ。

Facebookの場合、Calibraのカスタマーサービスをよいものにすれば、信頼を得るだけでなく強固なものにできるはずだ(編集部注:Servicefriendが開発を進めるもう1つの分野は、カスタマーサービスをマーケティングチャネルとするサービス)。よいサービスにできなければ、顧客だけでなくLibraのパートナーや、場合によっては規制当局との間で問題が発生する可能性がある。

[原文へ]

(翻訳:Mizoguchi)

フェイスブックの国際デジタル通貨Libraはプライバシー対策が曖昧だと監視団体が警告

米国、欧州、アフリカ、オーストラリアから集まったプライバシー・コミッショナーたちは、計画中の暗号通貨プロジェクトLibraに組み込まれるデータ保護のための安全措置をFacebook(フェイスブック)が明確に示していないことを憂慮する共同声明文に署名した。

Facebookは、ブロックチェーン技術を利用した国際デジタル通貨を作るという大きな計画を6に公式発表した。これはFacebookを創設メンバーとするLibra Associationによって運営される。その他の創設メンバーには、Mastercard、PayPal、Uber、Lyft、eBayなど、決済や技術の巨大企業も含まれている。ベンチャー投資企業には、Andreessen Horowitz、Thrive Capital、Union Square Venturesなどが名を連ね、Kiva、Mercy Corpsといった非営利団体も参加している。

同時にFacebookは、この事業を執り行う子会社Calibraの新設も発表した。この会社は、メッセージアプリのMessengerとWhatsAppに来年組み込まれることを想定したスタンドアローンのウォレット・アプリを提供するなど、Libraネットワークのための金融サービスの開発を行うという。しかし、独自のウォレットを埋め込むつもりでいる同族のソーシャルプラットフォームの支配的地位を思うと、「オープンな」デジタル通貨ネットワークと表現されているものを、それが一気に独占してしまうのではないかとの懸念が浮かび上がる。

Calibraを大きく持ち上げた公式ブログ記事では、Facebookは、世界220億人以上のユーザーにそのウォレットを推奨できる能力を使って、どれだけの市場支配力を手にするかについて明言を避けている。だが、プライバシーに関しては、たしかに触れていた。こう書かれている。「私たちは、お客様のプライバシーを守る手順も踏んでいきます」。その根拠は、「アカウント情報と金融データは、Facebookにも第三者にも、お客様の同意なくして」渡すことはないという主張だ。

ただし、「限られた状況」においてはユーザーのデータを渡すこともあると同じ段落に書かれているように、例外を認める場合もある。それは、「お客様の安全確保のための必要性、法律の遵守、Calibraを利用される方への基本的な機能の提供を熟慮」した状況だとブログ記事には書かれている(顧客への誓約を記したCalibra Customer Commitmentには、「詐欺や犯罪行為の防止」などの具体例に加え、もう少し詳しい説明がある)。

これらはすべて、表面的には十分に安心できる説明かも知れないが、Facebookは、ユーザーの「安全」を守るために必要だとする曖昧な見解を、たとえばFacebookユーザーでないユーザーを主要なインターネット空間全域にわたってFacebookユーザーでないユーザーを主要なインターネット空間全域にわたってトラッキングするための正当化の隠れ蓑として利用している。

企業が何かをやるやらないと主張するときは、ほんの小さな部分に悪魔が宿っているものだ。

だからこそ、プライバシーとデータ保護へのLibraの取り組みに関する詳細が示されないことに、世界の監視のプロたちは疑念を抱いているのだ。

「世界中の無数の人々のプライバシーの強化を連帯して担う、データ保護とプライバシーの施行当局からなる国際的なコミュニティの代表者として、私たちは結集し、デジタル通貨Libraとそのインフラがもたらすプライバシーへのリスクに関する共通の懸念を表明します」と彼らは書いている。「その他の行政機関、民主的な政治家もこの計画に懸念を表明しています。Facebook社が関与しており、同社が数億人にものぼるユーザーから幅広い分野のデータを収集していることを考慮すると、そのリスクは金融上のプライバシーの問題に留まらず、さらなる懸念が浮上します。データ保護を担当する行政機関は、他の規制当局と密接に連携していきます」。

この声明文に署名したコミッショナーには、米連邦取引委員会(FTC)のロヒト・チョプラ(Rohit Chopra)氏も含まれている。先月、FTCで行われた採決で、Facebookの50億ドルでの和解命令案が賛成3反対2で可決されたが、そのとき反対票を投じた一人だ。

さらに世界の対象地域では、Libraをプライバシー関連の法律や人々の期待に添わせるにあたり、次の人たちがFacebookの透明性に対して懸念を表明している。カナダのプライバシーコミッショナーのDaniel Therrien(ダニエル・セリアン)氏、欧州連合データ保護監督官Giovanni Buttarelli(ジョバンニ・バタレリ)氏、英国情報コミッショナーのElizabeth Denham(エリザベス・デナム)氏、アルバニア情報およびデータ保護コミッショナーのBesnik Dervishi(ベスニク・デルビシ)氏、ブルキナファソ情報技術および市民の自由のための委員会委員長のMarguerite Ouedraogo Bonane(マグリート・ウートラウゴ・ブナン)氏、オーストラリア情報およびプライバシー・コミッショナーのAngelene Falk(アンジェリーン・ファルク)氏。

共同声明の中で、彼らは「Libraネットワークのグローバルなプライバシーに期待すること」として、次のように書いている。

今日のデジタル時代においては、組織は透明性を保ち、個人情報の取り扱いに責任を負うことがきわめて重要です。適切なプライバシーの管理とプライバシーバイデザインは、イノベーションとデータ保護を実現する鍵であり、そらは互いに排斥し合うものではりません。今日までに、FacebookとCalibraは、プライバシーに関する公式声明を公表しましたが、個人情報の厳重な管理と保護に用いられる情報の取り扱い方法に関しては、明確に述べてはいません。さらに、LibraとCalibraを性急に実施しようとする現在の計画を見るにつけ、私たちはいまだ詳細情報が提示されないことに驚き、不安を募らせています。

Libra Associationの創設メンバーとしてFacebook社が参加しているため、これは世界中の消費者の間に急速に普及する可能性があり、それにはデータ保護の法律が施行されていない国々の人たちも含まれます。ひとたびLibra Networkが稼働し始めれば、それは即座に無数の人々の個人情報の管理者となります。金融情報を含む膨大な個人情報と暗号通貨が組み合わされば、Libra Networkの構造や、データ共有に関する取り決めのプライバシー上の心配は増幅します。

彼らがLibra Networkに提示した質問のリストを下に転載する。「提案やサービスの内容に進展があったとき」に各機関が質問を追加することになっているため、彼らはこれを「すべてではない」と記している。

ユーザーのデータが何に使われるのか、その使われ方をユーザーはどこまで管理できるかを明らかにすることが、彼らが答として求めている詳細情報に含まれている。

また、ユーザーのプライバシー保護の力を弱め侵害するようなダークパターンが使われる危険性が、別の懸念として示されている。

コミッショナーたちは、ユーザーの個人情報の共有について、どのタイプのデータが共有されるのか、どのような非特定化技術が使われるのかを明確にすることも求めている。非特定化技術に関しては、たとえば、売買された匿名の個人情報から、わずか一握りのデータ点を使ってクレジットカードの利用者の再特定が可能になることを実証する研究が数年前から公表されている。

以下が、Libra Networkに送られた全質問のリストだ。

1. 国際的なデータ保護とプライバシーの施行機関が、Libra Networkはネットワークユーザーの個人情報を守る頑強な手段を持っていると確信できるようになるには、どうしたらよいか?特にLibra Networkは、参加者が以下のことを求めてきたときにどう対処するか?

a.個人情報がどのように使われるかに関する明確な情報(プロファイリングとアルゴリズムの使い方、Libra Networkのメンバーと第三者との間で共有される個人情報を含む)を、その件に特定された納得の上での同意をユーザーが適宜できるよう提示してほしい。

b.個人情報を第三者へ提供するよう促す、またはプライバシー保護を弱体化するナッジやダークパターンを使用しない、プライバシーを守るためのデフォルト設定がほしい。

c.プライバシー管理のための設定を目立たせ、簡単にできるようにしてほしい。

d.製品またはサービスに必要となる最低限の個人情報だけを、使用目的を明示した上で収集・処理をしてほしい。また処理の合法性を確保してほしい。

e.すべての個人情報を適切に保護してほしい。

f.アカウントの削除や要求を誠実に適時引き受けることを含む、プライバシーの権利を行使するための簡単な手段を人々に与えてほしい。

2. Libra Networkは、インフラ開発の際にプライバシーバイデザインの原理をどのように組み込むのか?

3. Libra Associationは、どのようにしてLibra Network内のすべてのデータ処理を確実に特定し、それぞれのデータ処理の規定に従わせるのか?

4. Libra Networkは、データ保護の影響調査をどのように実行するつもりなのか。そしてLibra Networkは、その調査をどのようにして確実に継続的に実施するのか?

5. Libra Networkは、データ保護とプライバシーに関する方針、基準、管理を、すべての対象地域で、どのようにしてLibra Networkの運用全体に一貫して適用させるのか?

6. Libra Networkのメンバー同士でデータを共有する場合、

aどのようなデータ要素が含まれるのか?

b.どの程度まで非特定化され、どのような手法で非特定化されるのか?

c.誰のデータが共有されたかを法的な強制力のある契約上の手段の使用を含め、データが再特定化されないことをLibra Networkはどのように保証するのか?

私たちはFacebookにコメントを求めている。

[原文へ]

(翻訳:金井哲夫)

Facebookが直接答えるLibraの税金と詐欺対策の仕組み

Facebook(フェイスブック)は、Libra(リブラ)が合法であることを示す新たな情報をTechCrunchに提供した。トランプ大統領がLibraは「違法な活動」を助長する可能性があると指摘したことを受けたもの。FacebookとLibra Associationの幹部は、Libraでは売上税と、キャピタルゲインに対する税金を負担することになると主張している。Facebookが一般のコンビニエンスストアや両替所とも協議して、Libraを一般の通貨と交換する際に、資金洗浄を防ぐためのチェックが可能となるよう、検討していることも明らかにした。またQRコードによって、個人がLibraを購入したり、売却したりもできるようにするという。

Facebookの広報担当者は、トランプ氏のツイートに直接反応するつもりはないと述べたが、Libra Associationは消費者とやりとりしたり、銀行として機能することはないとしている。また、Libraは既存の金融システムを補完するものになるはずだと付け加えた。

トランプ氏は、以下のようにツイートした。「規制されていない暗号資産は、麻薬取引やその他の違法行為など、非合法な活動を助長する可能性がある。したがって、FacebookのLibraという『仮想通貨』が、地位や信頼を築くとも考えにくい。もしFacebookや他の企業が銀行になりたいのであれば、銀行の設立許可を取得して、国内外の他の銀行と同じように、すべての銀行規制の対象とならなければならない」。

Libraの仕組みを理解するための入門資料としては、TechCrunchのビデオを観るか、以前に掲載した「Facebook announces Libra cryptocurrency: All you need to know」の記事をお読みいただきたい。

今回の広範囲に渡ったインタビューの中で、Libra Associationの政策責任者であるDante Disparte氏、Facebookのブロックチェーン担当の主任エコノミストChristian Catalini氏、およびFacebookのブロックチェーンプロジェクトの子会社Calibra(キャリブラ)の副社長、Kevin Weil(ケヴィン・ワイル)氏が、Libraの規制に関する質問に答えてくれた。それによって分かったのは以下の通り(明瞭さのために答えを短縮した場合もあるが、編集は加えていない)。

もし米国での規制によってFacebookのCalibra Walletが禁止された場合でも、どこか他の国で公開するということはあるのか?

ワイル氏:私たちは、スマホさえあれば利用でき、誰にとっても安い手数料で、かなり広範囲からアクセスできる金融エコシステムを構築することが、人々にとって有益だと信じています。そして、そのシステムを世界中の、できるだけ多くの人に届けたいのです。しかし、保管ウォレットとしての規制があり、それに準拠することになるので、認可が得られる市場でのみ営業することになります。

それでも、できるだけ多くの市場で営業したいと考えています。そのために、実際に製品として公開するかなり前に発表したのです。規制当局との交渉には長くかかりますから。人々が安全に利用できるものにするために努力していること、そしてどこでもわずかな手数料で利用できる金融サービスの登場によって、各国の人々に価値がもたらされることを理解してもらうため、私たちは規制当局との話し合いを続けています。

TechCrunch:でも、もし米国で禁止されたらどうなりますか?

ワイル氏:それについて包括的な答えを出すのは気が引けます。しかし、一般的に言って、Libraは人々にとって有益だと信じているので、できるだけ広範囲で使えるようにしたいと考えています。もし米国が禁止することになれば、他の国の規制当局も懸念を抱かざるを得ないと思っています。これを実現するために、私たちが渡らなければならない橋だと考えています。しかし、これまでのところ、規制当局とは率直でオープン、かつ誠実な議論ができています。そして間違いなく来週には、Davidの証言があります。私としては、Libraが禁止されてしまうようなことにはならないことを願っています。なぜならLibraは多くの人にとって、多くのメリットをもたらすことができると考えているからです。

TechCrunchの分析:米国下院の小委員会は、規制当局が慎重に検討して行動を起こすことができるようになるまで、LibraとCalibraの開発を中止するよう要請する書簡を、すでにFacebookに送付している。Facebookは、米国がLibraやCalibraを禁止するようなことになれば、他の主要な市場でも、ドミノ倒しのように同様の動きが広がると懸念しており、そうなれば公開を正当化するのは難しいと考えているようだ。そのため、米国時間7月16日と17日に行われるLibraについての議会公聴会の成り行きが、FacebookのCalibraの責任者であるDavid Marcus(デヴィッド・マーカス)氏にかけるプレッシャーは、かなり大きなものとなる。

ユーザー個人は、どのようにしてLibraに入金したり、逆に引き出したりするのか?

すでに分かっているのは、CalibraというFacebook独自のLibra用ウォレットがあり、MessengerとWhatsAppに組み込まれる。さらに専用の独立したアプリも用意されること。そこでは、接続された銀行口座と政府発行のIDを持っている人は、KYC(Know Your Customer=顧客確認)による不正取引と資金洗浄を防止するためのチェックを受け、Libraを売買できる。しかしLibraの最終的な目標は、銀行口座を持たない人々を、最新の金融システムに取り込むことなのだ。それをどうやって実現するのだろうか?

ワイル氏:Libraはオープンなエコシステムなので、両替業者や起業家は、Libra Associationの関係者や同協会のメンバーから許可を得たりすることなく、現金の出し入れをサポートする業務を始めることができます。ただ始めさえすればよいのです。今日、新興市場には、LocalBitcoins.comのように、暗号通貨を現金に、またはその逆に交換する相手をマッチングするサービスがいろいろありますが、そうしたサービスはLibraにも登場すると思います。

2番目に、地元の両替商、コンビニエンスストア、あるいは入出金を扱う他の業者と協力することで、Calibraとのやり取りを容易にして、促進することができます。Calibraアプリや、Messenger、WhatsAppを使った交換の方法は簡単です。現金を出し入れしたい場合、まずその付近で交換可能な場所を示す地図をポップアップ表示させます。その中から、近くのものを選択し、金額を設定すると、QRコードが表示されます。後はそれを提示するだけで、取引することができるのです。

そうした協力関係にある業者のほとんどは、Libraの扱いを広範囲に拡めてくれるものと期待しています。そうした取引が実際に始まれば、Calibraだけでなく、Libraを扱うすべてのウォレット、エコシステム全体に利益をもたらすでしょう。

TechCrunch:Western Union、MoneyGram、Walgreens、CVS、7-Elevenといったコンビニエンスストアの運営会社や、両替業者との取引を開拓しているのでしょうか?すでに交渉を始めているのですか?

ワイル氏:個別の取引についてはコメントを控えますが、考えていらっしゃるようないろいろな人たちと話をしています。なんと言っても、Libraと各国の通貨の間で自由に交換できることは、初期の普及と有用性を推進する上で非常に重要だからです。銀行預金との間なら、話は簡単です。私たちが本当にLibraを使ってほしいのは、銀行預金ではなく現金でやりとりしたい人たちですが、そうした人にとっても手続きが簡単になるよう、懸命に取り組んでいるのです。

TechCrunchの分析:Calibraは、こうしたアプローチによって、複雑で誤りの発生しやすい人手によるKYCや、直接現金を支出するプロセスの大部分を避けることができる。責任と負担を外部の業者に丸投げにできるからだ。

Libraは、IDや銀行口座を持たないユーザーにも対応しながら、どうやって詐欺や資金洗浄を防ぐことができるのか?

ワイル氏:IDを持っていなくても、非常に重要な集団に属する人がいます。たとえば、難民キャンプの人たちがそうです。私たちはLibraを、そうした人たちにも役立つものにしたいのです。Libraのエコシステムに参加したいと考えている人にとって、Calibraが唯一の選択肢ではない、ということは重要ですが、これがその理由の1つです。そうしたものには、各国、各所の業者によって運営されるものもあるでしょう。そうした業者は顧客と個別に面接してサービスを提供したり、KYCを実行することもあります。そうしたことを、私たちがすることはないでしょう。私たちは唯一のウォレットになるつもりはありませんし、そうなりたいとも思っていないのです。

これは、当初から複数のNGOがLibra Associationのメンバーになっていた理由の1つです。というのも、私たちは身元確認のプロセスを収益化することを推奨したいと考えているからです。そのためには、政府が発行した認証情報を利用する場合も多いのですが、身元確認や認証のために新たなタイプの情報を使うことも想定しています。このプロセスが、いわゆる最後の1マイルの問題を解決することを願っています。

非保管ウォレットの場合、ユーザーは誰も信用していません。規制当局が対応してきた方法ですが、話し合いを続けているうちに、どんどん進展しています。暗号通貨の世界に入ったり、そこから出たりすることは規制の対象となり、そうした業者は顧客と直接やりとりします。そのため、ユーザーをKYCする義務があります。私たちの場合は、保管ウォレットになります。KYCも行います。BitcoinやEthereumのエコシステムには、複数のウォレットがあります。それらはユーザーと直接の関係を持たない非保管ウォレットです。彼らは、どうにかしてBitcoinを手に入れなければなりません。通常は、交換によるものです。またそのプロセスの一環としてKYCの確認を受けています。

多くの新興市場には、LocalBitcoins.comがあります。そこでは、どのような市場であっても対面して現金をBitcoinに交換してくれる代理店や仲介業者を見つけることができます。そして彼らは、全員に対して確実にKYCを実行するようにし始めたところだと思いますが、本人と対面して確認しています。そして今やっているのとは違う方法が、いくらでも考えられるはずです。それを実現するための方法はたくさんあると思います。そしてLibraはオープンなエコシステムなので、それに関して何かしらの新規事業を起こす余地は十分にあるでしょう。

政府発行のIDを持っていても、今日の金融エコシステムから、十分な恩恵を受けることができないでいる人は非常に多いのです。そのため、全員にKYCプロセスによる確認を要求するとしても、現在の金融エコシステムではカバーできない多くの人にサービスを提供できるはずです。私たちは、KYCできない人たちをサポートする方法を見つけたいと考えています。そこで重要なのは、Calibraが他のウォレットと完全に相互運用できるようになるということです。そこには、ローカルな市場にいる人たちも含みます。その方が各自のニーズにうまくマッチするからです。

TechCrunch:その相互運用性を利用して、非保管ウォレットを持っている人がLibraを受け取り、それをCalibraウォレットのユーザーに送った場合、それはKYCを通っていないユーザーからCalibraにLibraが送金されたということになるのではないでしょうか。それによって資金洗浄ができるのではないのでしょうか?

ワイル氏:それは話し合いが進むにつれて持ち上がってきた、規制の対象となる検討項目の1つです。トラベルルールと呼ばれているものがあります。一定の金額を超える送金の場合には、送り手と受け手の両方が誰なのかを明らかにしなければならないというものです。送金者が保管ウォレットを利用している場合には、当然明らかになるわけです。規制は徐々に厳しくなりつつありますが、規制の内容が固まれば、もちろんそれに確実に準拠するつもりです。

TechCrunchの分析:Calibraは、最良のアプローチを手探りで探すような規制ではなく、厳密に遵守することができるような規制を求めているようだ。しかし、非保管ウォレットと保管ウォレットとの間の送金、あるいは対面での現金化などについて、具体的な規則がいつ制定されるのかが明確になっていないことを考えると、FacebookとCalibraは独自の強固なプロトコルを確立する必要があるのではないだろうか。さもなくば、トランプ大統領が言う「違法行為」を許したとして罪に問われる可能性がある。

Libraは、どのように課税されるのか?

LibraのDante Disparte(ダンテ・ディスパート)氏:デジタル資産への課税は、地方レベルおよび司法レベルの両方で、現在設計中となっています。私たちの世界観では、どんな形のお金でも、どんな形の支払いや銀行業務でも、税制度を遵守するという責務は、個人のユーザー、そして消費者について回るものです。そしてここにも広く同じことが当てはまるでしょう。

私たちは、Libraブロックチェーン上で何らかのソリューションを開発している多くのウォレットや金融サービスの提供者が、今よりもはるかに簡単に使えるツールを提供してくれることに期待しています。デジタル資産や暗号通貨に関する税金を計算して申告できるようなツールです。今から、Libraが市場に登場するまでには、まだかなりの時間があります。そのときまでには、サービスの提供者の間で、司法レベルでのより厳密な取り決めができるでしょう。

TechCrunchの分析:やはりここでも、Facebook、Calibra、Libra Associationは、納税に対するすべての責任を負うことを避けたいと望んでいる。取引の際にVisaカードで支払おうが、銀行の小切手を使おうが、あなた自身が率先して税金を支払わなければならないのだから、Libraについても税金を払うのはあなた自身だ、というのが彼らの考え方なのだ。

TechCrunch:米国では、政府がLibraの取引に課税するように要求するのは理にかなっていると思いますか?

ディスパート氏:デジタル資産に対する税務上の取扱いは、世界中のどこを見ても、広く完全に明確にされているわけではありません。このプロジェクトと、それを取り巻くエコシステムが、その部分を明確にするのに役立つことを、私たちも願っています。

税務当局は、Libraからは消費レベル、および家計レベルで恩恵を受けますが、一部の暗号通貨には、実際に現金化するまでは税の支払いを回避しているものもあります。しかし、その性格、投機性の低さ、その設計からすれば、伝統的な通貨に対するものと同じような、軽微な課税措置を適用すべきだと考えています。

FacebookのChristian Catalini(クリスティアン・カタリーニ)氏:暗号通貨は、今でも売却時の損益に基づいて、毎回課税されています。Libraは交換のための媒体として設計されているため、そうした利益や損失は、身近な通貨に比べてかなり小さいものになる傾向があります。売上税は、Libraに対しても、現在クレジットカードで支払う場合とまったく同じように課税されるはずです。

公開時に現在の規制のままだとすると、Calibraウォレットは米国のユーザーのすべての購入と売却を追跡しなければならないでしょう。そしてその差額は、申告時に報告しなければなりません。BitcoinのCoinbaseアカウントを持っている人が今日していることと同じように、損失を取り扱うことができます。米ドルに対比して考えると、それが非常に小さな損益だとしても。

私が思うに、売上税については、今日のいろいろなデジタルの支払いとまったく同じように適用されるでしょう。違いはないはずです。Libraを使って商品やサービスを購入すれば、別の支払い方法を選択した場合と同じように、売上税を支払うことになります。今日と同じように、購入の合計金額に対する比率で、売上税がかかるのです。

ディスパート氏:おそらく、世界中で税金というものがどのように機能しているかを把握する最良の方法は、それを決めるのがLibraでも、Calibraでも、Facebookでも、それ以外の会社でもない、ということを理解することでしょう。それは規制当局と官庁に委ねられているのです。

TechCrunch:Calibraでは、売上税の扱いについては、すでに計画を立てているのでしょうか?

ワイル氏:それについても、ちょうど今、規制のエコシステムの中で、かなり急激に進展している部分です。今まさに進行中の議論なのです。私たちは、規則当局が必要だと指摘することは、何でもするつもりです。

TechCrunchの分析:こうして私たちは、今回のインタビューから確かな答えを得ることができた。Facebook、Calibra、Libra Associationが考える税金に対する適切なアプローチとは、まずLibraの取引には国の伝統的な売上税が適用されること、そしてウォレットに保管しているLibraにも、Libraのステーブルコインとしての米ドルに対する価値に応じて課税されなければならない、というものだ。ちなみにLibraステーブルコインの価格は、複数の国際通貨のバスケットに連動する。

もしLibra Associationが、すべてのウォレットと取引に関して、こうしたルールの適用を推奨し、Calibraがその際の税金を簡単に処理する機能を意識して開発されるなら、政府は少なくとも、Libraは税金を回避する手段であると難癖をつけることはできないし、誰もが公平に支払を分担することになるだろう。

原文へ

(翻訳:Fumihiko Shibata)

脅しに出たFacebook、我々がやらなければ中国に乗っ取られる

Facebookは、中国が権威主義的な社会的価値観を輸出するという懸念を、事業の分割や抑制を求める圧力への反論の材料にし始めた。Facebookの幹部たちは口々に、もし米政府が企業規模の制限、企業買収の妨害、暗号通貨の禁止などに出れば、そうした制約のない中国企業が海外で勝利し、巨大な力と膨大なデータを中国政府にもたらすようになると主張している。CEOのマーク・ザッカーバーグ氏、COOのシェリル・サンドバーグ(Sheryl Sandberg)氏、コミュニケーション担当副社長のニック・クレッグ(Nick Clegg)氏はみな、この立場を表明している。

この論点は、米国時間7月16日と17日の米議会によるLibra(Facebookが主導し2020年前半に運用開始を目指しているデジタル通貨)に関する公聴会で改めて具体的に語られた。Facebookのブロックチェーンを扱う子会社Calibraのデイビッド・マーカス(David Marcus)氏は、米下院金融サービス委員会のために用意した意見書で、こう述べている。

「米国は、デジタル通貨と支払いの分野ではイノベーションを主導できず、他国がそれを行うようになると私は考えています。もし行動を起こせなければ、たちまち、まったく価値観が異なる別の者にデジタル通貨を支配されるようになるでしょう」。

2019年7月16日、ワシントンD.C.の連邦議会で開かれた上院銀行住宅都市委員会公聴会で証言するFacebookのCalibra代表デイビッド・マーカス氏。同委員会は「Facebookが提案するデジタル通貨とデータプライバシーに対する考察」に関する公聴会を開いた(写真: Alex Wong/Getty Images)

マーカス氏は、昨日開かれた上院銀行小委員会でも、こう話している。「このまま動かずにいれば、10年15年後、世界の半分はブロックチェーン技術に依存した社会となったときに、我々の国家安全保障の手段が及ばない事態になりかねません」。

この議論は、下院が検討している「巨大ハイテク企業の金融業参入を禁止する」法律に対抗するものだ。ロイターの報道によれば、この法案は、Facebookなどの年間収益が250億ドル(約2兆7000億円)を超える企業は「デジタル資産の設立、維持管理、運用を行うべきではない。これらは交換媒介物、勘定単位、価値の保存など同様の機能に広く使われることを想定している」とのことだ。

Facebookは、暗号通貨は避けて通れないとのメッセージを伝えようとしている。Libraの禁止は、良心を欠くいい加減な企業にこの技術を支配させるチャンスを与えるだけかも知れない。しかし、Facebookのこの主張は、暗号通貨のためだけではない。

関連記事:Libra上院公聴会まとめ(未訳)


この考えは、ちょうど1年前、ザッカーバーグ氏がRecorde誌のカーラ・スウィッシャー(Kara Swicher)氏のインタビューに応えたときに固まった。「この質問は政策的な観点からのものだと思います。つまり、米企業を世界に輸出したいか?」。

「私たちはこの国で育ち、ここでとても大切に感じている多くの価値観を共有していると思います。そうすることは、安全保障の面でも価値観の観点からしても、総じてとてもいいことだと思います。なぜなら、それとまったく異なるのが、率直に言って、中国企業だからです。もし私たちが、『オーケー、ボクたちは国家として、それらの企業の羽根を切って、他の場所での活動を難しくするよに決めよう。そこでは小さくなるからね』というスタンスを受け入れたとしましょう。すると、たくさんの企業が私たちがやている仕事に参入を望むようになり、またそれが可能になります」。

それはとくに中国企業のことを指しているのかと質問すると、ザッカーバーグ氏はこう強調した。

「そう。それに、彼らの価値観は我々のものとは違います。選挙妨害やテロリズムのことを政府が把握したとしても、中国企業は我々ほど協力的にはならず、その国の利益のために力を貸すなんてことは、絶対にないと思います」。

2018年4月10日、ワシントンD.C.キャピトルヒルにあるハート上院オフィスビルで開かれた上院司法および商業の合同委員会で証言するFacebook共同創設者、会長、CEOのマーク・ザッカーバーグ氏。ザッカーバーグ氏(33歳)は、8700万人のFacebookユーザーの個人情報がイギリスの政治コンサルティング企業Cambridge Analyticaに渡った事件とトランプ氏の選挙キャンペーンとの関係が報道された後に証言を求められた

今年の4月、ザッカーバーグ氏は、人権に関する実績に乏しい国々でのデータローカライゼーション規制にFacebookが反対する理由を述べた際に、さらに一歩踏み込んでいる。彼は、外国にデータが保管されることの危険性を説いている。規制当局がFacebookの活動や、各地でのイノベーションの発生を阻止すれば、まさにそれが起きる。哲学者ユヴァル・ハラリ氏に、ザッカーバーグ氏はこう話した。

「将来を考えるとき、非常に不安になることに、私が示してきた価値観(インターネットとデータに関するもの)が、すべての国に共通する価値観ではないという問題があります。どこかのとても権威主義的な国で、ヨーロッパやその他の多くの地域で用いられている規制の枠組みからかけ離れたデータ政策が話題になり導入される。GDPRのような、人々の自由や権利を尊重する規制を各国が受け入れる、という形とは違うものとしてすぐに思い浮かぶのが、現在広まりつつある権威主義的なモデル、つまり各国が全員のデータをその国のデータセンターで管理するという方法です。もし私が政府の人間で、そこへ軍隊を送り込めば、監視や軍事のための欲しいデータにいくらでもアクセスできてしまうのです。

それは非常に暗い未来です。インターネットサービスを構築する人間として、または単に世界の市民として、進んで欲しくない方向です。もし、政府があなたのデータにアクセスできるようになれば、あなたが何者かを特定し、あなたとあなたの家族を捕らえ、傷つけ、本当に深い身体的危害を与えることが可能になります」。

Facebookがこのほど雇い入れたコミュニケーション部門の責任者ニック・クレッグ氏は、1月、記者団に対してこう話した

「これらはもちろん、道理に適った質問ですが、驚くほどの頭脳と、私たちが大西洋を挟んで要求しているプライバシーやデータ保護に関する法律や規制の制約を受けずに大規模にデータを処理できる能力を合体させた中国については、あまり語られていません。(そしてそのデータは)論議を呼んでいる中国政府の社会信用システムのような、さらに陰湿な監視に悪用されます」。

Facebookの共同創設者クリス・ヒューズ(Chris Hughes)氏の、Facebookは分割させるべきという主張に対して、クレッグ氏は5月にこう書いている。「Faebookは分割してはいけない。しかし、責任は果たさなければいけない。インターネットの世界で私たちが直面している難題を心配するのなら、成功している米企業を解体するのではなく、インターネットの権利に関するルールに従うことを考えるべきだ」。

その翌月ベルリンでのスピーチの中で、彼はこう力説した。

「もし、私たちヨーロッパと米国がホワイトノイズを切って協力を始めなければ、インターネットがもはやユニバーサルな空間ではなく、それぞれの国が独自のルールと権威主義的な体制で、市民の自由を制限する一方で吸い上げた市民のデータの貯蔵庫が立ち並ぶ世界となったとき、私たちは夢遊病者のように、そこをさまようことになります。私たち西側諸国が、ただちに、徹底的にこの問題に取り組まなければ、その答は、我々の手から離れてしまいます。地球上の私たちの側に共通のルールを作れば、それが好例となり、残りの世界も追従します」。

COOのシェリル・サンドバーグ氏は、5月に行われたCNBCのインタビューで、かなり直接的にこの問題点を突いている。

「分割は可能ですし、他のハイテク企業も分割できるでしょうが、人々が心配している根底の問題は解決されません。人々がハイテク企業の規模と権力を心配する一方で、米国では中国企業の規模と権力、そして中国企業は今後も分割されないことを知り、心配が持ち上がっています」。

2018年9月5日、ワシントンD.C.米連邦議会で開かれた外国による影響工作におけるソーシャルメディア・プラットフォームの使用に関する公聴会で証言するFacebook最高執行責任者シェリル・サンドバーグ氏。TwitterのCEOジャック・ドーシー氏とFacebookのCOOシェリル・サンドバーグ氏は、外国の工作員が、どのように彼らのプラットフォームを使い、世論に影響を与え操ろうとしているかという質問に晒された(写真:Drew Angerer/Getty Images)

脅しの戦法

事実、中国は個人の自由とプライバシーに関して、米国とは異なる価値観を持っている。そしてそう、Facebookを分割すれば、WhatsAppなどの製品が弱体化し、中国の巨大ハイテク企業TencentのWeChatなどの急速な増殖を招くだろう。

しかし、Facebookの問題を回避できたとしても、オープンで公正なインターネットにもたらされる中国の影響がなくなるわけではない。この問題を「規制強化は中国に利する」という枠にはめれば、誤った二元論を生む。ザッカーバーグ氏がウェブを通して自由を輸出しようと真剣に政府と協力する意志があれば、もっと建設的なアプローチが考えられる。さらに、適切な規制がない中で犯された過ちにより積み重ねられたFacebookへの不信感が、米国的な理想が米企業によって広められるという認識を、間違いなく大きく傷つけたということもある。

Facebookの分割は、特にそれが今後の不正を防ぐための理路整然とした理由ではなく、Facebookの不正行為に基づいて行われるなら、答えにはならないだろう。結局のところ有効なアプローチは、大規模に、または急速に成長するソーシャルネットワークの今後の買収を止めること、本当の意味でのデータのポータビリティーを保証させ、競合他社に乗り換える自由を現在のユーザーに与えること、プライバシーに関するポリシーの適切な監視を行うこと、そして、Libraの運用開始を、ユーザーを混乱させないよう、テロリストに悪用されないよう、世界経済を危機に陥れないよう、いろいろな段階でのテストを重ねる間、遅らせることだ。

脅しの戦法は、Facebook自身がそれを恐れていることの証でもある。長年、安全戦略で成長を続けてきた結果、ついにそこへ辿り着いてしまったのかも知れない。米連邦取引委員会による50億ドル(約5400億円)の制裁金が課されても、1四半期の収益がそれを超える企業にとっては、ちょっと手首を叩かれた程度のことでも、分割となればダメージは大きい。恐怖を振りまくことより、悪用を防ぐことに集中して規制当局と誠意をもって協力することが、Facebookの利益になる。中国の脅威を持ち出し、政府当局者の不安を煽るのが、政治的にはうまいやり方であって、もしかしたら有効なのかも知れない。しかし、それは間違っている。

[原文へ]

(翻訳:金井哲夫)

FacebookはLibraのプライバシー保護監督を依頼したと証言した規制機関に連絡していなかった(CNBC報道)

CNBCの報道によると、Facebook幹部のDavid Marcus氏が上院銀行委員会で同社の暗号通貨のデータ保護を監督すると証言したSwiss Federal Data Protection and Information Commissioner(FDPIC、スイス連邦データおよび情報保護委員会)は、同委員会に監督を依頼しているとされるFacebookから未だ何も聞いていない。

CNBCに寄せられた声明の中でFDPICの広報責任者、Hugo Wyler氏は次のように述べた。

Facebookの新会社Calibraの責任者であるDavid Marcus氏が、Libraのデータ保護を当委員会が監督する旨の発言をしたと聞いている。今日に至るまで委員会はLibra関係者から連絡を受けていない。われわれはしかるべき時が来たらFacebookあるいはその代理人から具体的な情報が提供されることを期待している。そうなって初めて、われわれは委員会の法律顧問および監督責任者としての任務を遂行することができる。いずれにせよ、われわれは公開討論における同プロジェクトの進展を見守っていく」

Facebookによる国の通貨政策を回避しようとしている行為は、すでに米国をはじめ世界の立法者たちから批判を浴びている。

「暗号通貨を作る計画を発表したFacebookは、同社のユーザーたちの生活に対して、歯止めのない侵入を続けている。同社が過去に起こしてきた問題を踏まえ、私はFacebookに対して、議会および規制当局が諸問題を調査し行動を起こすまで、暗号追加の開発を一時停止するよう要求する」と、下院金融サービス委員会委員長のMaxine Waters議員がFacebookの暗号通貨発表当日の声明で語った。

FRBのJerome Powell(ジェローム・パウエル)議長もFacebookとその暗号通貨計画に苦言を呈した。「Libraはプライバシー、マネーロンダリング、消費者保護、金融安定性などに多くの深刻な問題を引き起こす」と先週Powell氏は語った。

日頃は民間企業の自由競争的アプローチを擁護しているSteven Mnuchin(スティーブン・ムニューチン)財務長官でさえ、Libraに関してPowell氏と同様の懸念を表明している。

「ビットコインをはじめとする暗号通貨は、サイバー犯罪、脱税、脅迫、ランサムウェア、違法薬物、人身売買など数十億ドル規模の違法行為に悪用されている」とMnuchin氏は昨日(米国時間7/15)の記者会見で述べた。

[原文へ]

(翻訳:Nob Takahashi / facebook

Libraはスイスの規制下に入るとFacebookが米国議会で証言予定

ブロックチェーンを扱うFacebookの子会社Calibraの代表のDavid Marcus(デヴィッド・マーカス)氏は、米国時間7月16日、17日に予定されている米国連邦議会での証言に先立ち、その内容を公開した。これによると、Libra Associationは、本社を置くスイスの政府による規制下に入るとのことだ。それまでの間は、Libra AssociationとFacebookのCalibra Walletは米国の税制、反資金洗浄規制、不正防止に関する法律に準拠するという。

「Libra Associationは、認可を受け、規制に従い、監督当局による監視の下に置かれることを期待しています。Libra Associationはジュネーブに本社があるため、スイス連邦金融市場監督機構(FINMA)の監督下に置かれることになります」とマーカス氏は記している。「私たちはFINMAと予備会談を行いました。そして、Libra Associationのための適正な規制の枠組みの中で彼らと関わっていくことになります。またLibra Associationは、FinCEN(米国財務省の金融犯罪捜査網)に金融業者として登録する意向があります」

関連記事:Facebookは暗号通貨Libraを発表:知っておくべきこと(未訳)

米国の資金洗浄対策(AML)や顧客確認(KYC)の法律にLibraがどう準拠するかについては、マーカス氏はこう説明している。「Libra Associationも、規制当局、中央銀行、議員と同じように、資金洗浄やテロへの資金供与などをなくすための努力を行っています」。さらにマーカス氏はこう話す。「またLibra Associationは、AMLおよび銀行秘密法を尊重し、その政策と手続き、その他の国際的な安全保障上の法律を守り、テロリズムへの資金供与と戦います。Libraネットワークで金融サービスを提供したいと考える人たちにも、それに準拠してもらいます」

彼は、犯罪者は法の取り締まりを避けるために現金で取り引きを行うため、「Libraは、摘発と法の執行を後退させるどころか、強化します」と主張している。「不正行為が横行する紙幣取り引きのネットワークから、デジタルネットワークへの移行を促進します。そこでは、適正な顧客確認(KYC)の実行による出入り口の管理が機能し、法執行機関や規制当局にはオンチェーン取り引きの独自の分析を可能にする手段が与えられます。したがって、金融犯罪の監視と取り締まりの効力は増大します」

Facebook自身については、マーカス氏はこう書いている。「Calibraウォレットは、 米外国資産管理局(OFAC)が定めたAMLおよびCFT(テロ資金供与対策)プログラムのためのFinCENの規則に従っています。同様に、Calibraも銀行秘密法を遵守し、世界で採用されているKYCおよびAML、CFTの手法を採り入れます」

こうした答えは、金融法にうるさい人たちをなだめる役に立つかも知れないが、私は、議会からもっと主観的な質問がなされることを期待している。ケンブリッジ・アナリティカ事件のような、プライバシー上の約束を破ったりフェイクニュースを流すといった10年間にわたり不祥事を続けてきたFacebookを信頼できるかどうかだ。

そのため私は、Facebookがコミュニケーションの形を変革したとするマーカス氏の以下の声明で、その変革によって社会が混乱したと怒る議員たちと仲良くやれるようになるとは思えない。「私たちは、数十億の人々のための無料で無制限のコミュニケーションを数多く民主化してきました。同じことがデジタル通貨と金融サービスにも起きるよう、支援したいと思っています。しかし、ひとつだけ重要な違いがあります。私たちは、私たちが育ててきたネットワークと通貨の支配権を放棄します」。議会は「民主化」を「混乱」と解釈するだろう。だから、それがお金の世界でそれが起きることを、快く思わない。

FacebookとCalibraは、銀行口座を持たず、銀行や送金業者から多大な手数料を搾取されている貧困家庭を救済するという前向きな意図があるのかも知れない。しかし、Facebookは純粋な利他主義で動いているわけでもない。Facebookは大きく3つの方法でLibraから利益を得ることにしているが、それはマーカス氏の証言には示されていない。

  1. Facebookは、従来の通貨による、Libraの担保として保有するLibra準備金から得られた利益の一部を受け取る。Libraの人気が高まれば、数十億ドル単位にまで膨れ上がる。
  2. Libraを使えば簡単に安価にネット決済ができるため、マーケティング予算はFacebookやGoogleなどのチャンネルに効率的に変換されるようになり、インターネットでの商取引が増大し、Facebookの広告の売り上げも伸びる。
  3. Calibraを通して新しい金融サービスを販売する。可能性としては、Facebookデータを統合すればローンやクレジットを格安に利用できるサービスをユーザーに提供することで、債務不履行が減少し、他のプレイヤーよりも多くのマージンをFacebookが獲得できるようになる。

現実には、フォトシェアリングなどよりずっと大きな賭になる。規制当局の認可にも、適正で詳しい検査が必要になる。FacebookがLibraの所有権からいかに遠ざかろうとしても、それを立ち上げ、育ててきたFacebookが、今も引き続きプロジェクトを主導している。もし議会が、「大きいことは悪いこと」であり、LibraがFacebookをさらに肥大化させるとすでに信じ込んでいたのなら、FacebookとLibraを切り離して、その暗号通貨の利点とリスクを認識することは難しくなる。

マーカス氏の証言の全文は以下のとおり。

Libraの仕組みに関する詳しい解説は、下の記事をお読みいただきたい。

関連記事:Facebookは暗号通貨Libraを発表:知っておくべきこと(未訳)


[原文へ]

(翻訳:金井哲夫)

FacebookのLibraは「大きくて悪い」電子マネーなのか?

Libraに関しては書くべきことが山ほどある。それに、すでに書かれている記事で的外れなものも山ほどある。それはたぶん、私が思うに、ほとんどの批評家が発展途上国で長時間過ごした経験を持たないからだ。途上国は、明らかにそのターゲット市場だ。まずは、Libraのプロモーション動画を見て欲しい。

Libraには、この世の終わりのような反応が見受けられる。新たなディストピアを招くとの警鐘だ。その論理はこうだ。1)Libraはたちまち世界を席巻する。2)LibraはFacebookが発行している。3)Facebookは悪い。4)世界の終わりだ! その最初の仮説に、私は面食らった。裕福な欧米の人間は、すでにたくさんの決済システムが使える状態にある。それらは、取り消し可能な取り引き、競争可能な取り引き、マイレージ制度、信用枠が使えるなど、Libraよりもずっと優位な存在だ。

私は、Libraに関する技術的、法的、政治的、そして高度な分析結果を数多く見てきた。その多くは価値のある内容だったが、今のところ、実際にターゲットとされる利用者のことは、ほとんど語られていない。つまり、Libraの白書が言うところの銀行口座を持たない人たちだ。しかしどうも、Libraが目新しく、興味をそそられ、重要に感じる人たちとは、カテゴリーが少し違うようだ。しかし、誰もこのことを語ろうとしない。これほど多岐にわたって、しかも深く追求できる議論の宝庫であるにも関わらず、実際の利用者について触れられないというのは奇妙だ。

白書では、「銀行口座を持たない人」は17億人と推定されている。しかしこの数字は……、怪しい。このデータは、世界銀行のグローバル・フィンデックス・データベース2017から引用している。「それなら、信頼できる最新のデータなのだろう」と思われるかも知れない。たしかにそうだ。しかし、この同じ白書に、2104年から2017年の間に「銀行口座を開設」した人の数は5億5100人とも書かれている。Libraが運用を開始するときまでに「17億人の銀行口座を持たない人」は半減する計算になる。それは銀行のお陰ではなく、電子マネーのプロバイダーのお陰だ。

東アフリカで電子マネーM-Pesaが誕生したのをきっかけに、電子マネーは広く世界に普及した。西アフリカのOrange Money、インドネシアのOvo、インドのPaytm、そしてもちろん中国のWeChatとAlipayと、スマホの中のお金は、発展途上国ではもはや新しいものではない。

こう聞くと、裕福な国々と同じように、地元の言語を話し、市場をよく理解し、広く流通している競争相手が大挙してLibraを待ち構えているように思われるだろうが、それは違う。Libraの利点は、端的に言えば、現地通貨ではなく、国際通貨だといということだ。それには、優位な点もあり、またアキレス腱もある。しかもその市場は、厳密に言えば銀行口座を持たない人たちではない。電子マネーの口座は持っていたとしても、国際通貨にアクセスできない人たちだ。

なぜ、そのアクセスが必要なのか? 裕福な国で暮らす家族が途上国に送金するというのは日常的なことだが、その額は全体で年間5000億ドル(約53兆5000億円)にのぼる。その大部分が、ウエスタンユニオンなどの、遅くて手数料の高い業者を通じて行われている。それに従い、Libraの白書でも、問題提起の章で「送金」を大きく取り上げている。

しかし、両替に関しては論拠に欠ける記述がわずかにあるだけだ。なぜそれが問題なのか? なぜなら、送金はじつに大きな市場でありながら、以前の記事で述べたとおり「たしかに、5000FaceCoinをガーナの家族に0.1パーセントの手数料で送れるのは有り難い。しかし、その後ガーナの家族は、両替所でなんとかそれをクレジットに変換しなければならない。その作業は、今これを書いている時点で、時間がかかり、大変に面倒で、ユーザーに優しくなく、しかも通常の送金方法よりも高くつくことが非常に多い」からだ。

「現地がLibraを受け入れたら、問題ないんじゃないの?」と思うだろう。しかし、a)途上国の地元産業に新しい決済方法を受け入れさせるのは大変に難しく、b)地元の税金を払うために、結局、彼らも両替手数料を支払わなければならなくなる(Libraでの納税を可能にして、Libraを国の通貨にするよう政府に提言する楽天的な人が現れる前に、ひとつ忠告しておく。政府は、マネーサプライの権限を手放すようなことは、決してしたがらない)。

したがって、真に大規模な受け入れを実現するには、とくに産業と金融機関の取り引きにおいて、両替の制度が鍵になる。送金の分野では、普段から利用者のための通貨の両替サービスで大変な競争が繰り広げられている。Facebookは、それとなく市場に依存して、競争力の高い、流動的で、効果的で、効率的で、広く名が通った、Libraとそれが流通しているすべての国の現地通貨の両替を行おうとしているように見える。たぶん。しかし、それは高望みだ。

だが、個人や家族といった小さなスケールなら、Libraはずっと有効だろう。LibraはM-Pesaに取って代わるものではないし、それを狙ってはいないだろう。むしろLibraは、ケニヤ・シリングに対する米ドルのような関係の電子マネーになろうとしている。Libraは、国際的な準備通貨になれる可能性がある。おそらくそれは金融機関向けではなく、個人向けだ。そのレベルなら、両替もそれほど重要でなくなる。

米ドルは、少額であっても世界中のほぼ全域で使えて、送金もできる。貧困な国々では、そのほとんどで、米ドルが事実上の影の通貨となっている(私は、タクシーの運転手たちが20ドル札にやたらと詳しい地域に行ったことがある。20ドル紙幣には、種類によって偽造しやすいものと、しにくいものがあるからだそうだ)。さらに、米ドルは強い通貨だという理由だけで、現地通貨とは異なり、貯め込まれることがある。ベネズエラ、ジンバブエ、それにアルゼンチンなどを見ればわかるだろう。

Libraも、同じようになると私は期待している。個人は両替所に口座を開く必要がなく、LocalBitcoinsと同じようなスタイルで、Libraを現地の両替所に送るだけで済む。両替所は、Libraを受け取ると、相応の現地通貨を送り返す。願わくば、安い手数料で。

もしそれが実現すれば、そしてFacebookの圧倒的なサイズと浸透力で、そのようなサービスがほぼ世界全域で使えるようになれば、たとえLibraが裕福な国々で、また業界や金融機関で人気を得られなかったとしても、世界中の個人や家族が、受け取り、貯蓄し、使い、国際的に強い通貨に素早く(願わくば)ウェスタンユニオンなどより劇的に安い手数料で両替できる初めての通貨となるだろう。分散型の暗号通貨のような乱高下も、使用の制限も、ユーザーをないがしろにするようなこともない。これは大変なことだ。とってもいいことだ。

決して保証はできない。Libraには、まだ不確かな点が数多く残されている。アイデンティティ問題という非常に固い殻を砕く必要があるかも知れない。さらに、Facebookの技術力はさておき、これは、政治家や規制当局(そしてジャーナリズムも)目の敵にしているFacebookが発行する電子マネーだ。少なくともこれは、最初から彼らに対する反撃であり、それが多くの人々に、Libraの裏にある本当の狙いは何なのかと疑いを抱かせることにもなる。

だが、そこにある本当に大切なものも、一括りにして投げ捨てるのはよくない。もしLibraが、ある程度の規模でなんとか成功したなら、それは世界の大勢の人たちとって、生活と切り離せない非常に重要なものとなる。油断は禁物だ。プライバシーについては気を配るべきだ。適格な疑問を持とう。これは分散型のソリューションではなく、今後も決してそうはならないことを忘れてはいけない。私の立場は、みなさんと同じだ。私自身、Facebookに厳しい批評家との評価をいただいている。

みなさんが、憤慨と批判に走りたくなるのは無理もない。しかし、世界でもっとも貧しく弱い立場にある無数の人たちに大きな恩恵がもたらされる可能性は、どうか無視しないで欲しい。あなたは、分散型の、認証が必要ない、検閲を受け付けない形式のほうが好ましいとお考えだろうか? 私もだ! もし、Libraのように実用間近で、そうした電子マネーをご存知なら、教えて欲しい。

[原文へ]

(翻訳:金井哲夫)

FacebookのLibraは暗号通貨よりむしろ信用紙幣、金融当局はシャドーバンク化を強く警戒

米国時間6月18日、Facebookは新しい暗号通貨システム、Libraと運営母体となるNPO、Libra Associationの設立を発表した。Libraのホワイトペーパーは他の暗号通貨ビジネスにも大きな反響を呼んでいる。ただし率直に表現すれば、LibraはBitcoinより銀行に近い。

メンバー限定のブロックチェーン

Libraはビザンチン・フォールト・トレランント性を組み込んでおり、マークルツリーによるハッシュ化を用いて取引記録の縮約を行うなど通常のBlockchainテクノロジーをベースとしている。

しかしBitcoinやEthereumなど現在ポピュラーな暗号通貨とは異なり、誰もが自宅で採掘のためのノードを動かすことができなるわけではない。Libra Association の正式メンバーだけがノードを持てる。現在ノード運営能力をもつメンバーは Vodafone、Mastercard、Visa、Stripe、Uber、Spotifyなど28社に限られている。

Libraは一見するとブロックチェーンだが本当に分散化されたブロックチェーンではない。取引内容を記録したレッジャーにアクセスできるのもLibra Associationの正式メンバーに限られる。Facebookないし運営協会のメンバーが公衆向けAPIを作れば別だが、 今のところLibraはオープンなプロダクトではない。

もちろん、Facebookはこの点を認識しており、5年以内に「誰もがノードを運営できるようにする」計画だと述べている。(略)

リセラーは事前認証が必要

Libraは安定した価値を提供するステーブルコインの一種だ。Libraは他種類の法定通貨や債権のバスケットとリンクしている。このためLibra Associationのメンバーが採掘ノードを稼働させて新たなLibraを創造する場合、非常に複雑な処理と監視が必要だ。また売却や保管は通貨や債権を金融機関が処理する方式に準ずる。

これと同様、ユーザーがLibraを米ドルと交換したい場合、Libra Associationは法定通貨の場合と同様売り注文を出さねばならない。

このため、Libraの売買にはLibra Associationに事前に認証されていなければならない。このためLibraのエコシステムにとってLibra Associationは運用の中心をなす規制団体となる。

これは暗号通貨の分散性の理想には反するものだ。消費者がLibraを利用して支払いを行いたいという場合、中小の金融機関は運営協会が認証したリセラーに仲介を以来する以外ない。Libra Associationはデジタルマネーに関するVISAやMastercardのような存在になる。

ただしUSDCなど他のステーブルコインも基本的に同様の考え方で運用されている。例えば、USDCを支払いサービスに利用したならまずCENTREコンソーシアムのメンバー資格を取得しなければならない。(略)

シャドー・バンキング

フランスのブルノ・ル・メール経済財務大臣が Europe 1のインタビューに答えて「Libraは(強制通用力を持った)法定通貨には絶対になり得ない」と強い口調で語った理由はここにある。 もちろんインフレ率の高い国ではステーブルコインであるLibraはヒットする可能がある。こうした場合、消費者だけでなく企業も取引に利用するようになるかもしれない。

しかし現在法定通貨を発行し、金融政策の舵取りをしている各国中央銀行はIMF(International Monetary Funds)のメンバーであり、営利企業の連合とは目的、性格が大きく異なる。

現在のLibra Associationのメンバーを考えれば。Libraが法定通貨に準ずる存在になる可能性はある。ベネズエラ、アルゼンチン、トルコ、南アフリカなど高インフレ率に悩まされている国で特にそうだ。しかしLibra Associationのメンバーは営利企業であり、金融政策の適切化を目的としていない。

EUは長年単一市場を目指してきたが、各国の予算、税制、金融政策に関して一致できたことは一度もない。同様に中国もシャドーバンキングの急激な拡大に伴い、金融におけるシステミックリスクに直面している。

Lbraは新たな巨大シャドーバンキングになる可能性があるため、各国政府は厳重な監視の必要性を感じている。民間企業の集合体であるLibra Associationはビジネス上の理由から一夜にして方針を変えかねない。例えば、Libraの価値を担保している信用紙幣と債権のバスケットからある国の信用紙幣を外す決定をするかもしれない。もし債権の売出しを始めたらどんな影響があるだろう?

要約すれば、Libra Associationが今後運営しようとしているのは準信用紙幣だ。すまり各国の金融当局とさまざまな面で激しい摩擦を予期しなければならない。安全なデジタルマネーを供給するというテクノロジー面だけでなく、いかにして金融政策との調和を図りながら組織を運営するかも困難な課題となるだろう。

画像:Getty Images

原文へ

(翻訳:滑川海彦@Facebook

【以上】

Facebookの新暗号通貨プラットフォーム「Libra」を解剖する

米国時間6月18日、Facebookは独自の暗号通貨、Libraを発表した。プロジェクトの内容はTechCrunchの今月始めの予測とほぼ一致していた。LibraはFacebookが構築しようとしている新しい金融システムの一環となるものだ。

Libraを利用したウォレット・サービスのためにCalibraという子会社も設立された。またMastercard、PayPal、Visa、Uber、Andreessen Horowitz、Creative Destruction Labなど有力企業が提携先となっている。

FacebookのLibraイニシアティブは革新的、野心的である一方で大きなリスクもはらんでいる。実はLibraには先行する試みがあり、これと比較することがFacebookのビジョンを理解するために役立つとおもう。

ここで考えているのは英国ロンドン発のモバイルチャットサービスのKikと、そのソーシャルネットワークを利用した仮想通貨のkikkinだ。KinについてTechCrunchの読者に一番よく知られているのは、SEC(米証券取引委員会)に訴追を受けていることだろう。SECはKikが2017に実施したICO(暗号通貨による資金調達)を違法としている。KikはこのICOで1億ドルを調達したが、公衆からの資金調達に必要な認可をSECから得ていなかった。

KikのCEOであるTed Livingston(テッド・リビングストン)氏によれば「Kikが暗号通貨は通貨の一種でありSECの管轄外と考えているのに対し、SECは管轄内の証券の一種と考えていることによる」のが根本的な対立点だという。両者の主張の法的当否は別として(仮に通貨だとしてもKikには法定通貨を発行する権限がないのは明らかだ)、KinはFacebookが独自の暗号通貨を作った背景、仕組み、将来構想を理解するために役立つ。

Creative Destruction Labのイベントで先週、リビングストン氏は「我々には資金が必要だった」と語った。Kinはこの極めて差し迫った問題に対する回答だった。Kikではいくつか異なったマネタイズを試してきた。ひとつはCardsモデルで、これはモバイルメッセージアプリ内にHTML5で書かれたツールやゲームが利用できるエコシステムだ。これは中国のWeChatモデルに近い。

Kikは英国発のメッセージアプリとして大成功した(ただし子供を狙う犯罪者に愛用されているという指摘もあった)とはいえ、規模はFacebookとはかけ離れている。そのためFacebookのように安定した広告収入を得ることはできなかった。 LivingstonのCEOの回想によれば、2011年にKik はBitcoin(ビットコイン)を知り、「これが我々が探していたビジネスモデルかもしれない」と考えたのだという。

リビングストン氏は「ユーザーのコミュニティに自然な形で簡単、迅速に価値を交換できるため暗号通貨はKinのプラットフォームにとって大きな意味があると気づいた」と語った。Kinのコミュニティはクッキングなどメンバーの得意分野の知識を交換する場になっていたので、支払い手段として暗号通貨は適していた。

KikにとってカギとなったのはKinを利用することがユーザーにもデベロッパーにも利益となるようなモデルを構築できるかどうかだった。Kikやデベロッパーには当然ながらkinの普及を図る動機があったが、ユーザーがKinを利用したくなる動機とは別のものだった。リビングストン氏よれば、暗号通貨でサービス提供者とユーザーとの利益を調整するのは広告モデルのビジネスとは決定的に違うという。このため両者のインセンティブがまったく噛み合わないケースが出てくるのはわれわれもたびたび見てきた。

SECによる訴追も含めKinの将来については不確定な要素が多いが、上で述べた問題はすべてLibraにも当てはまる。両者の違いは規模だ。Facebookは成熟した大企業であり、それ自身の巨大な経済圏を持っている。Kikは暗号通貨を資金調達手段として利用した。これはすぐにも資金が必要だったからだ(そこでICOに飛びついた)。

Kikにはビッグネーム企業多数をプラットフォームに参加させ、自力で市場の構造そのものを変えるような力はなかった。見切り発車してコミュニティーに活用されることをデモし、投資家やパートナーが後から参加してくることに望みをつないだ。、

これに対し、FacebookはKikが持っていなかったものをすべて持っている。企業規模と市場支配力はプロジェクトのスタート当初から大企業をパートナーとして参加させるのに十分であり、背に腹は代えられない資金調達の必要にも迫られていない。もしプロジェクトが失敗しても機会損失というコスト生じるだけだ。また今後も相当期間、広告ビジネスからの安定した収入が見込める。

しかし根本的なレベルではFacebookとKikの暗号通貨プロジェクトは極めて似ている。 暗号通貨による決済プラットフォームは広告モデル以上にユーザーに利益をもたらし長期にわたって維持可能なビジネスモデルとなるという認識だ。

現在のところFacebookのLibraは広告ビジネスに対するリスクヘッジという意味が強い。これがFacebookの生き残りをかけたコミットメントに変わるときに真価が問われることになるのだろう。

原文へ

(翻訳:滑川海彦@Facebook

Facebookの独自仮想通貨でユーザー間の送金や購入代金の支払いが可能に

Facebookは、Libraというコードネームで呼ばれる仮想通貨の詳細を発表する準備をようやく整えたようだ。同社の仮想通貨の概要を説明するホワイトペーパーが、今のところこの6月18日に発表される予定となっている。複数の投資家が、Facebookからこの日付を明かされた、と主張する、ある情報筋からもたらされた話だ。

一方、Facebookの北ヨーロッパを担当する金融サービスおよびペイメントパートナーシップ部門長のLaura McCracken氏も、ドイツの雑誌、WirtschaftsWocheのSebastian Kirsch氏に、ホワイトペーパーが6月18日に発表されるはずであると明かしている。また、その仮想通貨は、たとえば米ドルのような単一の通貨に連動するのではなく、通貨バスケット制を採用して、 価値の変動を防ぐことになるという。Kirsch氏は「私は、火曜日にアムステルダムで開催されたMoney 2020 EuropeでLauraに会いました」と、私に明かした。それは彼女が、同僚のFacebookのペイメント担当役員のPaulette Rowe氏の講演を聴いた後のことだった。「彼女によれば、彼女はDavid Marcus氏が率いる『Facebookブロックチェーン』チームの活動には関与していない、ということでした。彼女は私に、詳しいことは6月18日にホワイトペーパーが公開されるまで待つように言ったのです」。彼女は彼に、その発表の日付が、すでに公になっているはずだと伝えたのだが、実はそうではなかった。

そして米国時間の6月5日、TechCrunchは6月18日に関するニュースの差し止めを、Facebookのブロックチェーンチーム担当の、あるコミュニケーション部門長から要求された。とはいえ、The InformationのAlex Heath氏とJon Victor氏も、すでに米国時間の6月5日、Facebookの仮想通貨プロジェクトが今月後半に発表されると報じている。

Facebookは、同社の仮想通貨プロジェクトに関するニュースについてのコメントを控えている。パートナーとなる企業や政府とのゴタゴタが生じた場合には、発表の日時が変更される可能性は常にある。ある情報筋によれば、Facebookは2020年に正式に仮想通貨の扱いを開始することを目標にしているという。

それをLibraと呼ぶのか、何と呼ぶのかは別として、これはFacebookにとって、商取引と支払い機能の新時代の幕開けとなるだろう。たとえば、友人同士で、無料、または安い手数料での支払いが可能となったり、海外に出稼ぎに出ている労働者が稼いだお金を家族に送金したりするのにも使えるだろう。一般の送金サービスは手数料が高過ぎるので、これは歓迎されるはず。

Facebookの仮想通貨を利用すれば、クレジットカードの取引手数料を回避できるので、従来からある電子商取引にとっても、安価な支払い方法を確保できることになる。さらに、気に入ったニュース記事に対して支払う少額取引や、コンテンツのクリエーターへのチップの支払いなどを促進する可能性もある。またFacebook自身にとっては、誰が何を購入しているか、あるいはどのブランドが人気なのか、といった情報が得られるので、広告の計測やランク付け、コアビジネスを増強するためのターゲティングにも有効だ。

Facebookの仮想通貨の仕組み

Facebookのブロックチェーンプロジェクトについて現在分かっているのは以下の通り。

名前:Facebookは、この仮想通貨の正式名として、Libraというコードネームをそのまま使う可能性がある。以前にBBCが主張したGlobalCoinという名前にはならないだろうと、The Informationはレポートしている。ロイター通信によれば、FacebookはスイスでLibra Networksという名前の金融サービス会社を登記したという。Libra(てんびん座)という名前はLIBORをもじったものかもしれない。それは、London Inter-bank Offered Rate(ロンドン銀行間出し手金利)の略で、銀行間での借入の基準金利として使われるもの。LIBORが銀行向けなら、Libraは一般市民向けというわけだ。

トークン:Facebookの仮想通貨は、ステーブルコインになるはず。一定の価値を維持するように設計されたトークンで、支払いまたは交渉の過程で価格が変動することによる話の食い違い、やっかいな問題の発生を防ぐ。Facebookは、仮想通貨の価値を安定させるための担保として、複数の国際不換通貨を含む10億ドル規模の通貨バスケットと、低リスクの債権を創出するための資金の拠出について、すでにいくつかの金融機関と交渉していると、The Informationは報じている。Facebookは、ステーブルコイン公開の事前承認を得るため、多くの国々との交渉も進めているという。

TechCrunch Disrupt 2016で講演するFacebookのブロックチェーンチームの責任者、David Marcus氏(左)。

使い方:Facebookの仮想通貨は、MessengerやWhatsAppといったFacebookの製品を介して、無料で転送可能となる。Facebookは、その通貨による支払いを受け付けるよう、業者と協力して作業を進めていてる。サインアップボーナスを提供する可能性もある。The Informationによれば、Facebookは、ATMのような物理的な装置も導入したいと考えている。ユーザーは、それを使って仮想通貨を通常の貨幣と交換することができる。

チーム:Facebookのブロックチェーンプロジェクトは、PayPalの元社長で、現在はFacebookのMessenger担当副社長David Marcus氏が率いている。そのチームには、Instagramの製品担当副社長だったKevin Weil氏や、Facebookの元財務部門の責任者、Sunita Parasuraman氏も参加している。The Informationによれば、このParasuraman氏が、仮想通貨の財務を監督するという。さらに、Facebook社内のさまざまな部門から抜擢された多くの優秀なエンジニアが参加しているということだ。このチームは、機密保持のため、他の従業員の立ち入りを禁止したFacebookの本社の専用エリアで仕事をしてきた。とはいえ、立ち上げにはあちこちとのパートナーシップが必要なこともあって、少なからぬ情報がリークされてきた。

ガバナンス:Facebookは、その仮想通貨を監督するための独立した財団法人を設立することを協議していると、The Informationは報じている。その仮想通貨を使った取引を認証可能なノードを運用する企業に対しては、1000万ドル(約10億8500万円)を拠出するようFacebookは求めている。その支払いと引き換えに、その通貨のガバナンスに対する発言権が得られる。そうしたノードの運用者は、財務的な利益が得られる可能性もある。このプロジェクトのガバナンスについて、一定レベルの分権化を実現することで、Facebookが世界の通貨に対して強大な力を獲得することによって規制の対象となるのを防ぐことができるかもしれない。

原文へ

(翻訳:Fumihiko Shibata)